日本耳鼻咽喉科学会会報
Online ISSN : 1883-0854
Print ISSN : 0030-6622
ISSN-L : 0030-6622
121 巻, 12 号
選択された号の論文の19件中1~19を表示しています
総説
  • 頭頸部外科医から見た頭頸部の魅力について
    吉本 世一
    2018 年 121 巻 12 号 p. 1449-1452
    発行日: 2018/12/20
    公開日: 2019/01/16
    ジャーナル フリー

     現在の医療分野は絶え間ない進歩により日進月歩の世界となった. 頭頸部癌における治療戦略においても, 近年ますます早い速度で技術革新による変化がもたらされている. その中で手術療法は長い歴史を持ち, 古くからさまざまな術式が開発されたが, 特に遊離皮弁による再建が導入された1980年代を経て, 1990年代までには拡大切除の手術手技が既に確立された. さらに近年のさまざまな手術器具の進歩は, 根治性を損なうことなく低侵襲化を可能にする方向に加速している. ただし手術療法が一定の成果を上げていくためには, 担当医がそれに相応しい技量を習得していなければならない. またその技量には手術手技だけではなく, 術前所見・画像診断・術式選択・同意説明・術後管理など, 周術期に必要なすべてが含まれる. 基本的手技の習得においては継続的な自己反復練習がある程度不可欠であるが, 新しい手術手技については幸い学会などのセミナーも多く開催され, また近年は教材となるビデオ画像が以前より容易に得られるようになった. 加えて多施設共同研究や専門医制度の普及により, 学閥や地域格差が薄れて, 術式が均てん化されてきたのも事実である. 症例の多い施設にある程度の期間在籍しないと得られない知識・技量もあるが, 頭頸部がん専門医の有機的な結合は若い世代への豊富な教育機会の提供に寄与していくと予想される. 癌治療がチーム医療の時代となって久しいが, 頭頸部外科医は頭頸部癌患者の治療の最初から最後までかかわる必要性があり, チームの中心とならねばならない. そのためには, 常に新しい手技を取り入れたり, 手術の長所・短所を冷静に分析して判断できたりするだけでなく, 癌治療にかかわるさまざまな専門分野の知識も併せ持つ必要がある. 過不足のない治療を個々の患者で成し遂げるのは決して容易ではないが, それら故に頭頸部にかかわる面白さがあると思われる.

  • 小川 恭生
    2018 年 121 巻 12 号 p. 1453-1457
    発行日: 2018/12/20
    公開日: 2019/01/16
    ジャーナル フリー

     めまいの診察で最も重要なことは中枢性めまい, 特に脳卒中など「危険なめまい」を鑑別することである. めまい診察において眼振・眼球運動検査は, 簡便に他覚的所見が得られる重要な検査である. 特にフレンツェル眼鏡, CCD カメラを用いた頭位・頭位変換検査は, 耳鼻咽喉科医以外で行うことはまれであり, 耳鼻咽喉科の専門性を発揮できる検査である. 眼振検査として ① 注視眼振検査, ② 頭位・頭位変換眼振検査をルーチンに行う. 中枢性めまいを疑う所見として, 注視眼振における注視方向性眼振, 垂直性眼振, 純回性眼振, 頭位・頭位変換眼振検査として垂直性眼振は見逃してはいけない所見である. 水平性眼振でも安易に内耳末梢性と判断することは危険である. そのほか Head impulse test, 視標追跡検査, 視運動性眼振はベッドサイド, 通常の耳鼻科診察ユニットで施行可能であり, 中枢性めまいの鑑別に有用である. また神経所見として起立可能であるか, 座位を保てるか確認することは重要である.

     中枢性めまいが疑われる場合, 可及的速やかに画像検査 (CT, MRI) を予定すべきである. 画像検査には, それぞれの特性があり, 偽陰性となる可能性を考慮し検査すべきである. 現在のめまい診療において中枢性めまいを鑑別するためには, 特に脳梗塞の診断には MRI が必要不可欠であり, 緊急の際, MRI を施行できる体制を整えておく必要がある.

     危険なめまいを見逃さないためには, めまい診察の際, 中枢性めまいを念頭に置き, 普段の日常診療からこまめに検査を行い, 異常所見のない正常症例を多く観察し, 眼振, 異常眼球運動に遭遇した際に, 鋭敏に異常を感知できるようトレーニングをしておくことが重要である. 頻度の高い良性発作性頭位めまい症 (benign paroxysmal positional vertigo; BPPV) を的確に診断, 治療することは危険なめまいの鑑別につながる.

  • 中島 寅彦
    2018 年 121 巻 12 号 p. 1458-1462
    発行日: 2018/12/20
    公開日: 2019/01/16
    ジャーナル フリー

     頭頸部癌に対する薬物治療は手術療法, 放射線療法とともに集学的治療の一環として行われてきたが, 近年その役割は大きくなってきた. その背景として従来の白金製剤, フッ化ピリミジン系薬剤に加えタキサン系抗癌剤が登場したこと, 分子標的薬の登場, 耳鼻咽喉科・頭頸部外科医の薬物療法に対する知識の普及や認識の変化, 各種支持療法の発達などがあると思われる.

     頭頸部癌に対する薬物療法は ① 放射線療法との併用 (化学放射線療法: Chemoradiotherapy: CRT), ② 導入化学療法 (喉頭温存目的), ③ 再発転移癌に対する全身療法として用いられる. 中でも, セツキシマブやニボルマブの登場により再発転移癌の治療に対する耳鼻咽喉科医の認識は大きく変わったといえる.

     薬物療法の進歩により, 頭頸部癌の治療選択肢は増加し, 薬物療法の適応決定や有害事象対応には多診療科, 多職種によるチーム医療が不可欠となった. 頭頸部癌診療に携わる耳鼻咽喉科・頭頸部外科医は日頃から薬物療法に関する知識を update し, 適正に提供していく必要がある.

  • 橋爪 祐二
    2018 年 121 巻 12 号 p. 1463-1467
    発行日: 2018/12/20
    公開日: 2019/01/16
    ジャーナル フリー

     口呼吸はうつ病, 認知症, 注意欠陥多動障害などの精神疾患の誘因になるといわれている.

     特に睡眠中の口呼吸はいびき症や閉塞性睡眠時無呼吸症 (OSAS) の原因となる. わが国における OSAS の治療が必要な重症患者数が300万人を超えていると推測されている. OSAS の原因は肥満がある. 肥満をもたらす原因としては, 食文化の変化もあるが, 日本人がほかの先進諸国に比べて, 睡眠時間が最も少ないことが挙げられる. また, 日本人の特有の顔貌も OSAS の原因の一つに挙げられる. OSAS は認知機能の低下をはじめとしたさまざまな精神障害を引き起こすことも知られている. 肥満を引き起こさないための睡眠時間の十分な確保が重要であると一般に周知していく必要がある.

  • ―めまい平衡医学分野―
    鈴木 衞
    2018 年 121 巻 12 号 p. 1468-1473
    発行日: 2018/12/20
    公開日: 2019/01/16
    ジャーナル フリー

     めまいを訴える患者は高齢社会を反映して増加の一途をたどっている. 体平衡には前庭系, 視覚情報, 深部知覚などが総合的に関与する. また, めまいは自己の感覚なので検査所見とは並行せず, 病態の把握も困難なことが多い. しかしながら研究の蓄積によって病態や治療に多くの新知見が得られている.

     眼振検査をはじめとする神経耳科的検査の多くは過去の基礎的研究の成果で, 診断に大きく貢献してきた. 温度刺激検査だけでなく, 簡便で特異度も高い head impulse test が一側半規管の検査法として開発された. 新しい耳石器機能検査法としては前庭誘発筋電位 (VEMP) 検査や自覚的垂直位が臨床応用され, 前庭神経の障害が詳しく区別されるようになった. 今後, 病態に応じた治療法の開発も期待される. 画像検査の進歩は著しく, 内リンパ水腫の診断や平衡中枢機能の解明が進んでいる. 遺伝学も平衡障害の診断や治療法開発に寄与していくと思われる.

     BPPV の治療は, Epley らによる病態特異的な理学療法の開発を契機に大きく進歩した. 最先端の治療としては薬物を内耳へ直接作用させる drug delivery system や再生医学的手法があり, 今後内耳疾患治療の主流になることが予想される. 手術療法では, 難治性 BPPV への半規管遮断術, メニエール病へのゲンタマイシン鼓室内注入などが詳しく検討されている. 平衡訓練やリハビリテーションでは, 聴覚, 振動覚, 舌知覚などほかの感覚を利用した感覚代行が試みられている. 適応の決定や治療効果の判定にこれまで開発された機能検査が画像検査とともに貢献することを望みたい. 高齢者の QOL 向上のため, 平衡医学の果たす役割は今後増していくものと思われる.

  • 讃岐 徹治
    2018 年 121 巻 12 号 p. 1474-1478
    発行日: 2018/12/20
    公開日: 2019/01/16
    ジャーナル フリー

     音声障害は, 正常な声帯振動が生成できなくなるために生じるが, その原因は多岐に渡り, またその背景には年齢, 性差, 職業などさまざまな因子が関連している. 音声障害は健康に影響を与えるのみでなく, 通院治療や仕事の欠勤等により収入にも影響を及ぼし, 社会的にも経済的損失を招く.

     運動麻痺を含めた器質的異常があれば器質性発声障害と診断し, 異常がなければ機能性発声障害と診断される. 機能性発声障害の本来の概念は, 発声障害を呈し器質的な異常がない疾患のことである. しかし総説等には過緊張性発声障害, 低緊張性発声障害, 変声障害, 心因性発声障害, 痙攣性発声障害, 音声振戦などの疾患が含まれている. 喉頭ファイバー検査上で器質的な異常がなく, かつ運動麻痺がない疾患群を臨床的な意味での機能性発声障害と呼ぶことが多く, それらの疾患について診療ポイントなどを述べる.

     機能性発声障害の多くは過緊張である. 発声時に仮声帯は中央に寄り, 喉頭蓋喉頭面と披裂部の距離が短縮する. 声は粗糙性かつ努力性嗄声になる. また声を出すのに疲れるという発声困難症状が出現する. 低緊張性発声障害は, 声帯の内転運動が弱く, 発声時に声門間隙が生じる.

     心因性発声障害は, 喉頭に器質的異常がなく, かつ患者が心因的問題を抱えていることが明らかな場合に, 心因性発声障害を疑い得るとされる.

     痙攣性発声障害は, 大脳基底核や神経系統に何らかの異常によって起こる神経難病疾患の一種と考えられており, 喉頭筋の痙攣様異常運動により発声中の声の詰まりや途切れ, 震えを来す原因不明の疾患であり, 内転型, 外転型ならびに混合型に分けられる.

     音声振戦症は, 喉頭をはじめとする発声器官の諸筋に起きる振戦, すなわち律動的な相反性反復運動に起因する音声の高さ, または強さの律動的な変動によって発症する.

原著
  • ―術前 CT 再構成画像の有用性―
    久満 美奈子, 大塚 雄一郎, 舩越 うらら, 嶋田 耿子, 花澤 豊行, 岡本 美孝, 堀越 琢郎
    2018 年 121 巻 12 号 p. 1479-1485
    発行日: 2018/12/20
    公開日: 2019/01/16
    ジャーナル フリー

     上顎洞腫瘍に対して行われる Endoscopic modified medial maxillectomy (以下 EMMM) は犬歯窩切開手術と異なり, 上顎洞前壁が温存され眼窩下神経や前上歯槽神経 (anterior superior alveolar nerve: 以下 ASAN) の損傷のリスクは低いとされる. われわれは, EMMM の手術中に ASAN 損傷を確認できた1例を経験した. ASAN は上顎洞前壁骨内の管腔・裂溝である canalis sinuosus (以下CS) を走行する. われわれは20例40側 (男性10例, 女性10例) の副鼻腔 CT 画像を 3D 医用画像処理ワークステーションを用いて再構成, 解析し CS の走行パターンと EMMM による ASAN 損傷リスクを検討した. CT で上顎骨内の CS の全長が確認可能な上顎骨は10側であった, その中には骨隔壁内に CS が存在する上顎骨が5側あった. 骨隔壁は手術で鉗除することが多く ASAN 損傷のハイリスク例と考えた. また, CS の一部が確認できない上顎骨は25側, CS が同定不能な上顎骨が5側であった. CS が一部でも確認できない30側では ASAN が上顎洞内に露出している可能性があり, 手術操作による ASAN 損傷の可能性を意識する必要があると考えた.

  • 田崎 彰久, 杉本 太郎, 角 卓郎, 清川 佑介, 野村 文敬, 有泉 陽介, 岸本 誠司, 朝蔭 孝宏
    2018 年 121 巻 12 号 p. 1486-1492
    発行日: 2018/12/20
    公開日: 2019/01/16
    ジャーナル フリー

     近年, Docetaxel (DTX), Cisplatin (CDDP), 5-FU を併用した TPF 療法が頭頸部癌に対し導入化学療法 (ICT) として幅広く行われてきている. しかし, TPF 療法を用いた化学放射線療法 (CCRT) においての検討は十分とは言い難い. 当科では ICT1 コース後に CCRT として2コース, 計3コースの TPF 療法を一連の治療として行い, 症例を蓄積してきた. この治療において Grade 3 以上の有害事象や忍容性, および治療効果について検討したため報告する.

     当科において2012年1月~2014年12月にかけ TPF-ICT およびその後に TPF-CCRT2 コース施行した局所進行頭頸部癌82症例を後方視的に検討した. 3年全生存率は70.7%, 局所制御生存率は64%, 無病生存率は62.8%と良好な結果が得られた. 好中球減少を68症例 (82.9%) に認め, 42症例 (51.2%) で発熱性好中球減少症 (FN) を発症していた. その一方で追跡期間は短いが晩期有害事象の頻度は低く, 治療完遂率は75.6%とほかの報告と同等であった.

     FN の発症頻度は高く, 顆粒球コロニー刺激因子の予防的投与の導入が望ましい. 標準的な CDDP 併用 CCRT と比較して晩期有害事象が低頻度であった. 有効性の高い治療ではあるが, 毒性の強いレジメンでもあるため, 厳重な管理が必要と考えた. 根治性が高く, 喉頭機能温存に優れる有望な治療法と考えられた.

  • 湯田 厚司, 小川 由起子, 荻原 仁美, 神前 英明, 清水 猛史
    2018 年 121 巻 12 号 p. 1493-1498
    発行日: 2018/12/20
    公開日: 2019/01/16
    ジャーナル フリー

     スギ花粉はトマトと共通抗原を有する. 口腔内に抗原投与する舌下免疫療法 (SLIT) ではトマト抗原陽性例への影響も考えられる. スギ花粉 SLIT 220例でトマト IgE 抗体 (s-IgE) 陽性例の1年目副反応を検討した. 107例の s-IgE 変化を2年間追跡した. 2例のトマト口腔アレルギー症候群 (OAS) の経過を観察した. 治療前トマト s-IgE でクラス2 (20例) と1 (18例) では, クラス0 (182例) と比べて副反応の増加がなかった. トマト s-IgE は治療前0.29±1.08, 1年後0.34±0.89, 2年後0.27±0.87UA/mL であった. 治療前クラス0 (92例) は1年後に10例でクラス1に, 4例でクラス2になった. クラス0でも55例中12例で検出閾値未満から検出可能になり, 37%に多少の変化を認めた. トマトとスギ s-IgE 変化は連動し, 交叉抗原の影響を示唆した. トマト OAS の2例は問題なく治療を継続できた. トマトアレルゲン陽性例でも安全に SLIT を行えた.

  • 籾山 直子, 江口 紘太郎, 杉本 太郎, 田宮 亜希子, 長島 弘明, 向井 昌功, 白倉 聡
    2018 年 121 巻 12 号 p. 1499-1505
    発行日: 2018/12/20
    公開日: 2019/01/16
    ジャーナル フリー

     放射線誘発下垂体機能低下症 (radiation-induced hypopituitarism: RIH) は頭蓋内への放射線療法の晩期障害として見られる合併症である. 近年, 癌患者の長期生存率が向上したことで, 上咽頭癌などの放射線療法後にも高頻度で RIH を発症することが報告され, 1990年代以降 RIH に関する海外文献は増加傾向にある. 今回われわれは, 上咽頭癌化学放射線同時療法から13年経過後に診断に至った RIH の一例を経験した. RIH は不可逆性かつ進行性に発症するため, 上咽頭癌放射線療法後の患者においては経年的な下垂体機能評価を長期間継続する必要がある.

  • 福田 裕次郎, 原 浩貴
    2018 年 121 巻 12 号 p. 1506-1510
    発行日: 2018/12/20
    公開日: 2019/01/16
    ジャーナル フリー

     ドーピングは, フェアプレーの精神に反するとして, 全世界, スポーツ界全体で禁止されている. 禁止物質や禁止方法は, 世界アンチ・ドーピング規程に定められているがその種類は多岐にわたるため, 治療目的で処方した感冒薬や花粉症治療薬, 漢方薬にも禁止物質が入っていることがある. 規定には禁止物質を処方した医師に対する処罰や制裁はないものの, 選手生命を左右する重大なことであることを, 医師は十分認識しておく必要がある. 利尿薬や β2 作用薬は常時禁止薬物であり, エフェドリンや糖質コルチコイドは競技会時のみ禁止薬物であるが, 耳鼻咽喉科領域における点耳や点鼻などの局所投与は全く問題ないことを知っておく.

スキルアップ講座
専門医通信
専門医講習会テキストシリーズ
ANL Secondary Publication
feedback
Top