ヒト側頭骨連続切片標本の中で,鼓膜正常例である395耳を用いて,乳突蜂巣の発育程度別に中耳腔内の炎症所見の分布について観察を行い,次の結果を得た.
1. 慢性期中耳炎症所見検出率は乳突蜂巣発育不良群では17.6%と少なかったが,乳突蜂巣発育良好群では34.3%と高率に認められた.すなわち,鼓膜所見が正常でも中耳炎の既往を有した乳突蜂巣発育良好例では発育不良例よりも中耳腔内に炎症の残存している確率の高いことが今回の結果から明らかとなった.この残存している炎症が臨床的に重症な耳性合併症を起こす可能性があるため,日常診療において,中耳炎の既往のある乳突蜂巣発育良好の症例では,鼓膜が正常化し,中耳炎が消失したと考えられても,炎症が残存している可能性を考え,十分な治療と経過観察が必要であると思われた.
2. 中耳炎症所見部位別検出率は乳突蜂巣発育不良群では部位によって違いはなかったが,乳突蜂巣発育良好群では乳突蜂巣下部,正円窓窩,鼓室洞などで炎症所見検出率が高かった.日常診療において中耳炎の既往のある乳突蜂鎚発育良好例では,中耳炎が消失したと考えられても,乳突蜂巣下部,正円窓窩,鼓室洞に炎症が残存しており,炎症がない部分とある部分が混在しており,逆に,中耳炎の既往のある乳突蜂巣発育不良例では,鼓膜が正常化した場合,中耳腔内の炎症所見は改善しているか,もしくは中耳腔全体に炎症が残存しているかどちらかであることが分かった.
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