悪性腫瘍の側頭骨への転移浸潤については,ヒト側頭骨を用いて,浸潤様式,臨床症状との関係について報告されているが,動物モデルを用いた検討は皆無である.今回,実験的にラットのクモ膜下腔に腫瘍細胞を移植することにより,側頭骨浸潤モデルを開発し,このモデルを用いてクモ膜下腔より側頭骨,特に内耳への浸潤様式を詳細に検討した.
ラット胸線リンパ腫細胞を,経皮的にラットの大槽内に注人した.40匹に対して腫瘍細胞注入後1~8日目に断頭を行い,33匹はHeidenhain SuSa液にて生体灌流固定を行った佐,両側の側頭骨を一魂に採取し,同液にて固定し,型のごとく,脱水,脱灰しセロイジン包埋を行った.側頭骨を内耳道軸に対して水平に厚さ25μmで連続的に薄切,5枚毎にH-E染色を施行し,光学顕微鏡下に観察した.7匹は追加実験のためホルマリン固定後,パラフイン包埋し,厚さ6~8μmに薄切し,セロイジン標本と同様に観察した.
腫瘍細胞を大槽内に移植することにこより,クモ膜下腔の経路での側頭骨浸潤動
物モデルを作製し得た.クモ膜下腔における移植細胞の生着率は98%であり,移
植後の日数とクモ膜下腔の細胞増加は相関していた.
クモ膜下腔から内耳への浸潤は,ヒト側頭骨では内耳道経由のみであるが,ラットでは蝸牛小管と内耳道の2つが存在した.
内耳道からの蝸牛浸潤ではラセン孔列のバリヤーが存在したが,細胞増加に伴い,蝸牛ローゼンタール管から鼓室階に浸潤をきたした,しかし,コルチ器への浸潤は皆無で,細胞浸潤に対してhabenula perforataは強力なバリヤーとなると考えられた.
前庭•半規管浸潤では,篩状斑を越えるものは少数であり,篩状斑はラセン孔列以上に強力なバワヤーであると考えられた.
膜迷路への浸潤は認めず,クモ膜下腔からの浸潤経路は存在しないと考えられた.
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