日本耳鼻咽喉科学会会報
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121 巻, 8 号
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総説
  • 嗅覚
    三輪 高喜
    2018 年 121 巻 8 号 p. 1043-1050
    発行日: 2018/08/20
    公開日: 2018/09/11
    ジャーナル フリー

     嗅覚もほかの感覚と同様, 加齢とともに低下する. 視覚ならびに聴覚と比べて嗅覚の低下は日常生活における支障度は高くはないものの, 生活上の支障にさらされる危険性をはらむとともに, 食と深くかかわる感覚であるために栄養や生活の潤い, 楽しみに影響を及ぼす. 嗅覚低下のリスクファクターとして, 加齢と男性であることがすべての調査で指摘されており, それ以外に鼻副鼻腔疾患の既往, 喫煙, 生活習慣病などが挙げられている. 加齢に伴う病理変化は, 末梢の嗅神経細胞から中枢の嗅覚野まですべての嗅覚経路で表れる. 加齢に伴う嗅覚低下における問題点は, ① 日常生活上の危険,支障を抱えること, ② 自身の嗅覚低下に気付いていないこと, ③ アルツハイマー病やパーキンソン病など神経変性疾患の前駆症状であることが挙げられる. 加齢に伴う嗅覚低下を改善することはできず, 眼鏡や補聴器のような補装具もないため予防が重要である. 予防としてはリスクファクターの回避に加えて, 適度な運動が効果を示すことが報告された. また, 近年, 欧州で行われている嗅覚刺激療法が嗅覚低下の予防に効果を示すかもしれないが, 今後の研究が待たれるところである. 耳鼻咽喉科医としては, 嗅覚低下を有する高齢者を診察する際には, まず, 鼻副鼻腔炎など原因となる疾患を鑑別した上で, 原因と思われる疾患が明らかでない場合は, 神経変性疾患の存在も考慮すべきである. また, 治らないとしても患者の抱える危険や日常生活の支障, 心理的な変化を理解する必要がある.

  • ―メニエール病の診断―
    曾根 三千彦
    2018 年 121 巻 8 号 p. 1051-1055
    発行日: 2018/08/20
    公開日: 2018/09/11
    ジャーナル フリー

     メニエール病の病態は内リンパ水腫とされている. 従来からメニエール病の診断は, 聴覚および前庭症状とそれに関する機能検査さらには内リンパ水腫推定検査によって行われてきた. 世界的には長年1995年の AAO-HNS 診断基準が用いられてきたが, 2015年バラニー学会主導で新たなメニエール病の診断基準が作成され, definite および probable Meniere's disease の2つが定義された. 本邦ではめまい平衡医学会の診断基準化委員会により診断基準2017年改定が公表され, メニエール病定型例のみならずメニエール病非定型例として蝸牛型と前庭型の診断基準も作成された. この診断基準の特徴として, 確実例に加えて検査所見として聴覚症状のある耳に造影 MRI で内リンパ水腫を認める症例は確定診断例と定義された. この診断基準に基づき, 今後新たな展開も期待されている.

  • ―メニエール病の治療―
    北原 糺
    2018 年 121 巻 8 号 p. 1056-1062
    発行日: 2018/08/20
    公開日: 2018/09/11
    ジャーナル フリー

     メニエール病診療ガイドラインにおける診断基準は, 回転性めまい発作に耳鳴, 難聴の増悪が随伴し, それらが発現, 消退を繰り返す, というように臨床症候を中心に定められている. 難聴は低音障害型の感音難聴から始まる. 進行すれば中高音域にも感音難聴が生じ, 全音域に増悪していく. めまい発作は自発性で, 10分以上数時間続く回転性を基本とするが, 浮動性の場合もある.

     メニエール病の側頭骨病理は内リンパ水腫である. 30~40歳代, やや女性に多く, ストレスや不規則な生活がメニエール病の発症と因果関係を持つとされている. しかしながら, ストレスと内リンパ水腫発生, メニエール病発症のメカニズムは未解明である. 両耳罹患率は10~40%, 罹病期間の遷延化によりその率は上昇する. 罹病期間の遷延化, 両耳罹患により, 神経症やうつ病の合併率も高まる. できる限り早期に適切な治療を見出すことが肝要である.

     メニエール病診療ガイドラインにおける治療アルゴリズムは, まず規則正しい生活指導, 水分摂取と有酸素運動の励行にはじまる. 指導が有効でない場合には, さらに利尿薬, 循環改善薬による内耳メインテナンスと抗めまい薬, 抗不安薬, 制吐薬による対症治療を手掛ける. 保存治療が無効であれば, 機を逸することなく外科治療を考慮する必要がある. 最近では, 外科治療を選択する前に, 鼓膜マッサージ器を用いた中耳加圧治療が提案されている.

原著
  • 玉江 昭裕, 角南 俊也, 野田 哲平, 岡部 翠, 西山 和郎, 山本 良太, 白土 秀樹, 安松 隆治
    2018 年 121 巻 8 号 p. 1063-1070
    発行日: 2018/08/20
    公開日: 2018/09/11
    ジャーナル フリー

     術前に造影 MRI を撮影し耳下腺の手術を施行した102例について, 造影 MRI による dynamic study および apparent diffusion coefficient (ADC 値) を含めた総合的な術前画像診断と, 穿刺吸引細胞診 (FNAC) による術前診断の比較を行うとともにその相乗効果について検討した. 多形腺腫の ADC 値はワルチン腫瘍の ADC 値と比較して有意に高値であった. また, 癌腫の ADC 値は多形腺腫よりも有意に低値で, ワルチン腫瘍よりも有意に高値であった. dynamic study の Time-signal intensity curve は Persistent pattern が23例, Wash-out pattern が38例, Plateau pattern が41例であった. 造影 MRI の放射線科レポートで組織型診断できた85例の正診率は82.3%で, 正診を得た70例は造影 MRI を撮影した症例の68.6%に相当した. 93例において FNAC が施行され, 組織型診断ができた症例は46例で正診率は84.7%であった. 正診を得た39例は FNAC を施行した症例の41.9%に相当した. MRI による術前画像診断と FNAC による術前診断とが一致していた症例は34例あり, 94.1%にあたる32例で病理組織診断とも一致した.

  • 戎本 浩史, 大上 研二, 槇 大輔, 酒井 昭博, 齋藤 弘亮, 金田 将治, 村上 知聡, 寺邑 尭信, 飯島 宏明, 飯田 正弘
    2018 年 121 巻 8 号 p. 1071-1078
    発行日: 2018/08/20
    公開日: 2018/09/11
    ジャーナル フリー

     咽喉頭癌に対して, 各種の経口的切除術が開発適応されてきており, 低侵襲治療として脚光を浴びている. 嚥下機能や発声機能は問題なく維持される印象であるが, 定量的に評価した報告はいまだ少なく, 扁桃癌経口的切除前後の患者 QOL と嚥下機能の前向き評価を行った.

     2009年から2016年までに当科で経口的切除を行った T1T2 扁桃癌初回治療例9例について, 術前, 術後3カ月, 術後6カ月の時点で EORTC QLQ C30 と EORTC QLQ H & N35 を用いた質問紙による QOL 評価ならびに嚥下内視鏡スコアを評価した. また, 術後6カ月時点での functional outcome swallowing scale (FOSS) を記録した.

     9例中8例が T2 病変で, 9例中7例に頸部リンパ節転移を伴っていた. 頸部リンパ節転移陽性例には頸部郭清術が併施された. 質問紙による QOL 評価では, 術後にスコアが悪化した項目はなかった. 嚥下機能, 発声機能を含め, QOL は良好に維持された.

     嚥下内視鏡スコアは1例のみ術後6カ月時点で4点だったが, 全例で常食の摂取が可能であった. 術後6カ月時点での FOSS は1例のみ stage I で, 残りの8例は stage 0 だった.

     扁桃癌経口的切除後の患者 QOL と嚥下機能は良好に維持された. 経口的切除術は患者の QOL 維持, 嚥下機能温存に貢献すると考えられた.

  • 高松 俊輔, 南 和彦, 菅澤 正
    2018 年 121 巻 8 号 p. 1079-1087
    発行日: 2018/08/20
    公開日: 2018/09/11
    ジャーナル フリー

     目的: 高齢頭頸部がん患者は暦年齢だけで画一的に治療方針を決定することは難しく, 個々の背景を踏まえた上で余命も考慮しながら治療法を決定する必要がある. 当科で経験した症例に臨床的検討を加え, 高齢頭頸部がん患者における治療方針決定の基本姿勢について検討した.

     方法: 2007年4月の当院開設以来2014年12月31日までの7年9カ月に埼玉医科大学国際医療センター頭頸部腫瘍科・耳鼻咽喉科で一次治療を行った75歳以上の頭頸部がん348例について検討した.

     結果: 平均年齢は81.7歳 (75~106歳), 男性221例, 女性127例であった. 原発巣は口腔癌と喉頭癌が多く, 甲状腺癌, 口腔癌, 悪性黒色腫では女性の割合がほかの原発巣と比較して高かった. 266例 (76.4%) で何らかの併存疾患を有しており, 高血圧, 心機能障害, 脳血管障害, 糖尿病, 認知症の順に多かった. 根治治療を施行したのは238例 (68.4%) で, そのうち根治切除術を174例で施行したが, 81例は緩和治療であった. 根治治療群の疾患特異的5年生存率は77.2%であった.

     結論: 高齢頭頸部がん患者はさまざまな身体的・精神的状態と社会的背景をかかえており, 個々の症例に応じた治療方針の決定が必要である. 高齢者であっても根治治療が可能な症例では非高齢者と遜色のない治療成績であり, 全身状態が良好であれば再建手術であっても安全に施行可能と考えられる.

  • 黒子 光貴, 上羽 瑠美, 後藤 多嘉緒, 佐藤 拓, 二藤 隆春, 山岨 達也
    2018 年 121 巻 8 号 p. 1088-1095
    発行日: 2018/08/20
    公開日: 2018/09/11
    ジャーナル フリー

     肥満症例に対する気管切開では術野の確保が困難な場合や, 術後のカニューレ管理に難渋する場合が多い. 今回, 当院で輪状軟骨開窓術を施行した症例をもとに, 肥満症例に対する本術式の有用性を明らかにすることを目的に, 検討を行った. 対象は, 当院で輪状軟骨開窓術を行った BMI 25 以上の肥満症例6例 (男性2例, 女性4例, 28~82歳, BMI 38.6±11.8) とした. 患者背景, 出血量, 合併症や開窓部閉鎖の可否などに関して, 診療録から後方視的に調査した. さらに CT にて皮膚輪状軟骨間距離を計測し BMI との関連について検証した. 6例全例に糖尿病が併存し, 4例に喉頭低位を認めた. 出血量は少量で, 4例にラセン入りカニューレを使用した. 合併症は皮下気腫と創部離開を1例ずつに認めたが, 重篤な合併症は生じず, 2例で開窓部閉鎖が可能であった. また, 皮膚輪状軟骨間距離と BMI との間に高い相関関係を認めた. 以上から, 輪状軟骨開窓術は肥満症例に対しても合併症が少なく有用であった. また, BMI から皮膚輪状軟骨間距離が推測可能であり, 肥満症例の治療に応用できると考えられた.

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