成人の補聴器適応は, 難聴の評価に, 難聴者の生活環境, 社会活動など個人条件を加えて, 総合的に判断すべきであるが, 聴覚に関する患者背景は最も基本的な判断材料となる.
今回, 平成10年1月より平成12年3月までの2年2ヵ月間に, 名古屋大学附属病院耳鼻咽喉科補聴器外来を受診した5歳から89歳の200名を対象とした統計学的検討を行った. 4分法平均聴力レベルによる良聴耳聴力は, 補聴器装用群では50.6±16.8dB, 非装用群では44.5±15.9dBで統計学的有意差を認めた (t検定: p<0.05). 非良聴耳聴力と, 良い方の最高語音明瞭度は, 両群間に有意差は認められなかった.
良聴耳聴力別分布をみると, 補聴器外来受診者全体の28%が, 40dB未満の軽度難聴者で, 補聴器の装用率は60%であった. 軽度難聴は, 補聴器の部分的適応とされるが, 需要は決して少なくなく, 貸し出し試聴などの実生活での体験の重要性が確認された.
過去に補聴器使用歴のない補聴器未経験者について, 患者本人の装用意欲の影響を検討したところ, 最終的に補聴器を購入した群では, 本人に装用意欲があったのは76%, 購入しなかった群では58%で, 両者の間にはカイ2乗検定で有意差を認め, 本人の装用意欲が重要であった. また, 試聴期間に関する検討では, 最終調整に至るまでに, 複数回の受診が必要で, 12週間以上要した例もあった.
本研究対象症例の中には, 感音難聴の急性期治療後の症例をはじめ, 癒着性中耳炎, 鼓室硬化症, 気骨導差が少ない耳硬化症など伝音再建手術の適応と迷う症例などがあり, 大学病院補聴器外来の役割として, 難聴に対する治療とリハビリテーション両面への関与が必要と考えられた.
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