日本耳鼻咽喉科学会会報
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122 巻, 12 号
選択された号の論文の18件中1~18を表示しています
総説
  • 宮崎 総一郎, 北村 拓朗, 野田 明子
    原稿種別: 総説
    2019 年 122 巻 12 号 p. 1475-1480
    発行日: 2019/12/20
    公開日: 2020/01/09
    ジャーナル フリー

     24時間社会の今, 人々の生活スタイルは夜型化し睡眠時間は確実に減少している. 短い睡眠時間でも日常生活に問題なければよいが, 実際には睡眠不足によりもたらされる影響は, 肥満, 高血圧, 糖尿病, 心血管病, 精神疾患等多岐にわたり, 看過できるものではない. 睡眠は「疲れたから眠る」といった, 消極的・受動的な生理機能ではなく, もっと積極的かつ能動的であり,「明日によりよく活動するため」に脳神経回路の再構築 (記憶向上), メンテナンス (脳内老廃物の除去) を果たしている.

     睡眠不足や質の悪い睡眠は認知症の促進因子となり, 逆に, 質の良い睡眠は抑制因子となることが近年明らかにされてきている. また, 耳鼻科医が関与することの多い閉塞性睡眠時無呼吸は間歇的な低酸素や高二酸化炭素血症, および頻回な覚醒反応により, 肥満・高血圧・糖尿病・脂質代謝異常症などの生活習慣病と深く関連していることが報告されている. さらに最近の研究で, 認知症発症に対して睡眠時無呼吸が影響を及ぼしていることがいくつかの大規模研究によって示されている.

     今後, 睡眠の観点からも認知症予防に取り組むことが必要であり, 特に30代から50代までの若い世代の睡眠不足や睡眠障害,睡眠時無呼吸に対する早期診断, また若年者からの睡眠教育が第1次予防として重要であると考える.

  • 高野 賢一
    原稿種別: 総説
    2019 年 122 巻 12 号 p. 1481-1484
    発行日: 2019/12/20
    公開日: 2020/01/09
    ジャーナル フリー

     近年, IoT (Internet of Things), 人工知能 (AI) などを中心とする第4次産業革命ともいわれる時代に突入し, 通信機器や通信技術の進歩も目覚ましい. 医療分野でもさまざまな IT (Information Technology) が導入されているが, そのひとつとして遠隔医療が注目されている. 遠隔医療によって, 患者のアクセスビリティの向上, 地域による医療資源差の解消, 勤労世代の労働時間確保などの諸問題を解決できる可能性がある手段の1つとして期待されている. 2018年4月には, 診療報酬改訂によってオンライン診療料・オンライン医学管理料・オンライン在宅管理料が新設され, 同時に遠隔モニタリング加算も認められた. 現時点ではオンライン診療料が算定できる対象疾患が限られている点や, オンライン診療を行うために必要な情報通信システムを提供する民間企業への使用料などを考慮すると, 医療機関側にとってはむしろ費用面で負担となることも少なくない. 一方で, 患者志向医療であることから, すでに実地臨床ではアレルギー性鼻炎, めまい症, 睡眠時無呼吸症候群などの患者を対象に導入されつつある. 当科では, 人工内耳装用者を対象に遠隔マッピング, 遠隔言語訓練を開始している. 患者は地元の中核病院またはクリニックを受診し, 大学病院とオンラインで結びマップ調整を行っている. 言語訓練では自宅と結び, インターネットを介して訓練を行っている. 広大な北海道では専門医療機関へのアクセスがしばしば問題となり, この遠隔医療によって患者の高い満足度が得られている. 新たな医療インフラとなることが予想される遠隔医療は, 現時点では法整備や診療報酬などの課題が残されているものの, 耳鼻咽喉科領域も含めて, 患者志向医療として今後ますます発展していくものと思われる.

  • 讃岐 徹治
    原稿種別: 総説
    2019 年 122 巻 12 号 p. 1485-1489
    発行日: 2019/12/20
    公開日: 2020/01/09
    ジャーナル フリー

     喉頭枠組み手術は, 声帯に直接, 手術侵襲を与えるのではなく, 喉頭枠組軟骨の形態や位置を変えることにより, 間接的に声帯の緊張や, 長さ, 位置を変える音声外科手術であり, 局所麻酔下で行うときは手術中音声をモニターしながら音声の調整が可能という利点がある.

     喉頭枠組み手術の適応疾患で多いものは片側声帯麻痺である. 術式として麻痺側声帯を正中移動させる甲状軟骨形成術Ⅰ型 (以下, Ⅰ型) と麻痺側声帯を発声時の位置へ内転させる披裂軟骨内転術 (以下, 内転術), あるいは両者の併用が行われることが多い.

     Ⅰ型は, 患側甲状軟骨の声帯レベルに窓を作成し声帯を内方に押し込み固定する術式であり, 局所麻酔下で手術が可能なため音声改善を術中に確認できる.

     内転術は, 発声時の声門後部間隙や声帯レベル差が大きい症例が適応となり, 麻痺側声帯を発声時の生理的な位置に内転させる術式であるが, 披裂軟骨筋突起に直接糸をかける必要があるため, 頸部郭清術などで頸部に瘢痕がある症例や甲状軟骨が大きい成人男性では難易度が高い.

     高度嗄声を伴う片側声帯麻痺に対して, 内転術単独や内転術に加えてⅠ型や脂肪注入術などの注入術を併用することが多い. しかしこれらの手術では術後音声の改善を認めるが, 正常声まで回復しないことがある. 正常声まで回復させるには, 麻痺側声帯を正中位に移動させるのみではなく, 神経再建による甲状披裂筋の筋緊張獲得と筋萎縮の回復が必要であり, 甲状披裂筋の神経再支配を目指した手術として神経筋弁移植術がある.

     本稿ではⅠ型においては声帯のレベルの決め方, 窓のデザイン, 窓の切開さらに声帯正中移動と音声の調節について, 内転術においては筋突起の探し方と筋突起への糸のかけ方について, さらに神経筋弁移植術においては神経刺激装置を用いた最適な筋弁の作成方法と手術顕微鏡を用いた移植時のポイントを詳細に解説した.

  • 鈴木 幹男
    原稿種別: 総説
    2019 年 122 巻 12 号 p. 1490-1496
    発行日: 2019/12/20
    公開日: 2020/01/09
    ジャーナル フリー

     頸部腫瘤は先天性, 炎症性, 良性腫瘍, 悪性腫瘍など多くの病態を含んでいる. また発生部位, 発症年齢に特徴的な腫瘤も多い. このような頸部腫瘤の診察に当たって最も重要なことは, 悪性腫瘍を見逃さず, 先入観に固執することなく理学所見・検査にて診断, 治療することである. 本総説では陥りやすいピットフォールとして, 耳下腺腫瘍の良悪性鑑別・悪性転化, 類似した理学所見を呈するものとして耳下腺内顔面神経鞘腫, 側頸部腫瘤,特殊疾患としてリンパ節結核を取り上げ, 自験例を交え概説した.

  • 内藤 健晴
    原稿種別: 総説
    2019 年 122 巻 12 号 p. 1497-1501
    発行日: 2019/12/20
    公開日: 2020/01/09
    ジャーナル フリー

     最近, この領域における最大のトピックスは, 日本呼吸器学会より出された「咳嗽・喀痰の診療ガイドライン2019」の長引く咳の鑑別診断フローチャート (成人および小児) の中に「喉頭アレルギー (慢性)」が掲載されたことである. 昨今, 耳鼻咽喉科医も成人の慢性咳嗽患者の診療に携わる機会が多くなってきている背景から, 喉頭アレルギー, 後鼻漏, 胃食道逆流などわれわれの領域に関連する原因を中心に慢性咳嗽疾患の病態, 治療および診療上の注意点について概説する.

  • 鈴木 雅明
    原稿種別: 総説
    2019 年 122 巻 12 号 p. 1502-1507
    発行日: 2019/12/20
    公開日: 2020/01/09
    ジャーナル フリー

     睡眠呼吸障害 (SDB) の診断は, 睡眠検査によってなされ, 終夜睡眠ポリグラフ (PSG) 検査が成人および小児においてゴールドスタンダードとされる. 睡眠検査結果を見る際, 無呼吸低呼吸指数 (AHI) 値などのパラメータが並ぶサマリーシートのみでなく, 代表的な5分間生波形画面, およびトレンドグラム (ヒプノグラム) にて呼吸イベント (無呼吸, 低呼吸, いびき), 酸素飽和度, および睡眠 (覚醒反応, 睡眠段階) の様子を確認し, 患者にも説明するようにしたい. 実地臨床現場にて SDB が疑われる全例に対して PSG を行うのは現実的ではなく, 携帯型装置 (OCST) が多く使用されている. 携帯型装置を使用する際, “基準値以上であるという確定診断はカットオフ値を高くすれば可能である一方, 基準値未満であるという除外診断はカットオフ値を低くしても難しい” という特性があることを理解する必要がある. そのほかの口腔・咽頭視診, 内視鏡検査, 画像検査等の諸検査は補助的診断となる. この中で個々の症例の睡眠中の実際の咽頭虚脱のしやすさ, その様子を直接見ることができるという点で, 薬物睡眠下内視鏡検査 (DISE) が有益で優れる. 今後, 舌下神経刺激治療 (HNS) が広まるにつれ, 耳鼻咽喉科医がさらに本検査に取り組んでいく必要が出てくると思われる.

     SDB 診療は他診療科との連携の上で行われ, 耳鼻咽喉科専門医も PSG に関する知識を深めるべきと考える. 同時に, 口腔・咽頭視診, 内視鏡検査, 画像検査, 鼻腔通気度検査等の大切さを他診療科に理解していただくよう, 連携を深めていくことが重要である.

  • 細谷 誠, 藤岡 正人
    原稿種別: 総説
    2019 年 122 巻 12 号 p. 1508-1515
    発行日: 2019/12/20
    公開日: 2020/01/09
    ジャーナル フリー

     感音難聴に対する治療法の開発は, 診断学の向上に比べて進捗が乏しい. その一つの原因は生検による患者内耳細胞の直接の観察が解剖学的に困難なことにある. これまでに代替手法として細胞株やモデル動物を用いた研究が展開され, 有用な情報をもたらしてきたものの, いまなお未解明な科学的課題も多数残されている.

     近年, 既存の手法で克服できなかった科学的課題に対し, ヒト細胞および組織の代替となる新しい研究ツールとして, ヒト iPS 細胞を用いた検討が医学のさまざまな分野で展開されている. 山中らによって2006年にマウスで最初に報告された iPS 細胞だが, 続く2007年にはヒト iPS 細胞の樹立方法が報告され, 約十年の間にその応用方法は飛躍的な発展を遂げている. 本細胞は体内のありとあらゆる細胞に分化誘導可能という特徴を持つ. この性質を利用することによって, 体外で目的の細胞を作成し, 細胞移植治療や病態研究, さらには創薬研究への応用が可能である. 国内においても, すでに網膜や脳に対する移植が臨床研究レベルで行われているほか, 複数の疾患において iPS 細胞を用いて発見された治療薬候補の臨床検討が開始されている.

     ヒト iPS 細胞を用いた研究は, 内耳疾患研究および治療法開発にも応用が可能である. ほかの臓器と同様に, 本細胞からの体外での内耳細胞誘導が可能であり, 誘導されたヒト iPS 細胞由来内耳細胞を用いた研究が展開できる. 内耳研究においてもこれまでに, ① 細胞治療への応用, ② 内耳病態生理研究への応用, ③ 創薬研究への応用, がなされており, そのほかにも老化研究や遺伝子治療法の開発への貢献などさまざまな可能性が期待されている. 本稿では, ヒト iPS 細胞の内耳研究への応用および iPS 細胞創薬の展望を概説するとともに, 最新の試みを紹介する.

原著
  • 湯田 厚司, 小川 由起子, 神前 英明, 新井 宏幸, 清水 猛史
    原稿種別: 原著
    2019 年 122 巻 12 号 p. 1516-1521
    発行日: 2019/12/20
    公開日: 2020/01/09
    ジャーナル フリー

     ダニアレルゲンによる通年性アレルギー性鼻炎に舌下免疫療法が開始された. 治療1年目の臨床効果について検討した. 当院でダニ舌下免疫療法をミティキュア® ダニ舌下錠で開始し, 2018年末までに1年以上の経過を観察し得た64例 (男性38, 女性26, 12~53歳, 平均20.5±10.8歳) を検討した. 日本アレルギー性鼻炎標準 QOL 調査票 (JRQLQ No.1) を用いて, 鼻症状とフェイススケールを治療前, 6カ月後と1年後に調査した. また, 毎回の受診時に副反応も聴取した. スコアの変化 (平均±標準偏差) を治療前→6カ月後→1年後の順で記載すると, くしゃみ1.3±1.1→0.8±0.9→0.7±0.7, 水っぱな1.6±1.2→0.8±0.9→0.7±0.6, 鼻づまり1.6±1.2→1.0±1.1→0.8±0.8, フェイススケール1.7±0.9→1.2±0.9→1.1±0.8で, 治療により有意に改善した. 1年後の重症度改善は, 改善26例 (40.6%), 軽度改善26例 (40.6%), 不変12例 (18.8%), 悪化0例であった. 副反応は42例 (65.6%) にあり, すべての副反応は処置不要であった. ダニ舌下免疫療法は, 治療6カ月後と1年後に有意に鼻症状を改善した.

  • 西村 忠己, 細井 裕司, 森本 千裕, 赤坂 咲恵, 岡安 唯, 山下 哲範, 山中 敏彰, 北原 糺
    原稿種別: 原著
    2019 年 122 巻 12 号 p. 1522-1527
    発行日: 2019/12/20
    公開日: 2020/01/09
    ジャーナル フリー

     軟骨伝導補聴器は耳軟骨の振動を介して音を伝える軟骨伝導を用いた新しい種類の補聴器で2017年11月に発売となった. 既存の補聴器で対応が難しい外耳道閉鎖症などの症例に対しても非常に効果があり, 補聴手段の新しい選択肢になる. 取扱医療機関は増加しているが全国的な認知度は必ずしも高くはない. 全国の難聴者がその恩恵を受けることができるように普及を進めていくため, 当院にフィッティング希望で2019年2月までに受診した59例の難聴者が, どこで軟骨伝導補聴器の情報を知り受診に至ったかについて調査した. 当院外来通院中の6例を除き, 受診契機となった情報源 (受診契機) が判別できたのは45例であった. 受診契機は医師, メディア (インターネット・TV), 患者会, 家族・友人, 学校の先生, 補聴器販売店に分類し3カ月ごとの経時的な変化を調べた. また病態別に3群に分類し経時的な変化についても評価した. その結果全体では患者会が最も多く約3分の1を占めていた. 経時的な変化では販売開始当初の1年間は医師の例は少なかったが, 直近の3カ月では大幅に増加していた. 補聴器販売店は販売開始当初半年間だけであった. 今回の結果から医療機関での認知度は上昇傾向にあると思われた. 補聴器販売店に対しては再度情報を提供する必要があると思われた. 成人の症例が少なく, 成人の外耳道閉鎖症例に対するアプローチが今後の課題であると考えられた.

  • 井上 なつき, 浅香 大也, 横井 佑一郎, 青木 由香, 両角 尚子, 坂口 雄介, 久保田 俊輝, 穐山 直太郎, 吉川 衛
    原稿種別: 原著
    2019 年 122 巻 12 号 p. 1528-1535
    発行日: 2019/12/20
    公開日: 2020/01/09
    ジャーナル フリー

     アレルギー性真菌性鼻副鼻腔炎 (allergic fungal rhinosinusitis; AFRS) は, 吸入した真菌が副鼻腔に定着したのちに非浸潤性に増殖し, 真菌に対するⅠ型・Ⅲ型アレルギー反応や T 細胞応答などにより病態が形成されると考えられている. 今回われわれは, 当院で内視鏡下鼻内副鼻腔手術 (endoscopic sinus surgery; ESS) を施行した834例のうち, AFRS と確定診断した9例に対し, 後方視的観察研究を行った.

     AFRS の原因真菌の特定には培養検査が必要だが, 過去の報告では真菌が検出されない症例が多いと言われている. しかし当院では, 好酸球性ムチンをポテトデキストロース寒天 (potato dextrose agar; PDA) 培地やサブローデキストロース寒天 (sabouraud dextrose agar; SDA) 斜面培地で培養することで, 9例のうち6例から Schizophyllum commune (S. commune: スエヒロタケ) を検出した.

     AFRS に対する治療として, ESS による好酸球性ムチンの除去と, 副鼻腔の単洞化を行い, 術後にステロイドの経口投与と, 鼻洗浄および鼻噴霧用ステロイド (intranasal corticosteroid; INCS) による局所の病態の制御を行った. 9例のうち2例で再発を認めたが, 短期間のステロイドの経口投与で改善したため, 再手術は行わなかった.

     AFRS の予後評価については, 過去の報告と同様, 総 IgE 値や原因真菌の特異的 IgE 値の変動が術後経過に一致した. これまで, S. commune に対する特異的 IgE 値の推移を検討した報告はないが, 病態の評価に有用と考えた. また今回の経験から, S. commune による AFRS は潜在的に数多く存在する可能性が示唆された.

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