日本耳鼻咽喉科学会会報
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73 巻, 9 号
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  • 立木 孝, 二井 一成
    1970 年 73 巻 9 号 p. 1415-1420
    発行日: 1970/09/20
    公開日: 2010/10/22
    ジャーナル フリー
    肉芽性鼓膜炎 (Myringitis granulosa) の10例を報告し, その病態及び治療法を述べ, 更にその本態に関する著者の意見を述べた.
    (1) 肉芽性鼓膜炎とは, 鼓膜の表層に限局して生じた肉芽であり, その肉芽が感染して膿性分泌物を長期にわたって排出する病態である.
    (2) 診断は鼓膜所見と, 難聴の無いこと及び乳様蜂窩の発育抑制のないことの3点による.
    (3) 治療は手術顕微鏡下に, 鼓膜を穿孔することなく肉芽のみを除去し, 消炎及び抗菌につとめることによって容易に治癒する.
    (4) 本症の本態は, 何らかの原因によって表皮が剥離し, その後に肉芽が発生して表皮化が妨たげられると同時に, その肉芽が感染を起して慢性化したものと推察した.
    (5) 同様の病態は骨部外耳道の皮膚層にも起り得る. その際は肉芽性外耳 (道) 炎 (Otitis externa granulosa) と呼ばれる.
  • 森田 勝三
    1970 年 73 巻 9 号 p. 1421-1453
    発行日: 1970/09/20
    公開日: 2010/10/22
    ジャーナル フリー
    内耳末梢血行の改善が各種内耳性難聴の治療に際し最も基本的な方針としてとり上げられるべきことは衆目の認めるところであるが, これの基本的資料となる内耳末梢血流についての十分な生理学的知見はなお得られていない現状である. この様な現況下において, その発生起源が蝸牛血管帯毛細血行にあることが定説化したEndolymphatic Potential (EP) を内耳末梢血管系における血流変化を代表する示標に用い, 各種条件負荷時におけるEPの動態観察を基にして夫々の条件が血管帯毛細血管系に及ぼす影響を追究すると共に帰納的に蝸牛末梢血管系における自律神経支配機構についての資料をも得んとするのが本研究の主目的である. 然しEPは所謂steady DC potentialとして極めて安定した電位である故にそのstatic levelのみの変化分の上で本研究における検討事項としての強大音負荷及び各種の自律神経毒投与等が蝸牛末梢血管系に及ぼす影響を正確に評価することは極めて困難である. 従って本研究では先ずasphyxic anoxiaによりEPをshiftさせその時のEP動態上で上記の各種条件の負荷影響を精確に観察し, その影響が何に由来するかについて追究した.
    EPはすべて実験動物であるモルモットの各廻転中央階にspiral ligament, stria vascularis経由で刺入した微小電極により誘導し, asphyxic anoxiaの負荷は動物不動化のための筋弛緩剤前処置の関係上使用した人工呼吸器を停止せしめることによりこれを行った.
    asphyxic anoxiaによるEP動態上に認められる強大音負荷影響としては負荷音圧が一定度以上でありさえすればEPの誘導部位や周波数に関係なく必発にみられる特異なバターンを示し, 一側耳の負荷によってもその影響は両側性に出現することが確認された. 即ちこのEP動態上にみられる強大音負荷影響としての特異な変動バターンは蝸牛基底膜の偏位のような機械的な変化に直接由来するものでないことが明らかとなり, 而も自律神経毒投与との組み合はせ実験からEP動態上におけるこの強大音の影響が血管帯毛細血管系における交感神経緊張に基因する血流量変化を示すものであることが確実となった.
    更に各種自律神経毒投与影響の分析結果として, 蝸牛血管帯毛細血管系における自律神経支配としてこれらの血管系が交感神経作働型であり副交感神経作働型ではないことが判明し, しかもその血管系の変動を決定しているadrenergic mechanismを主宰するものは狭義でのadrenergic fiberではなくacetylcholineをtransmitterとして節後線維末端に貯蔵されるnor-adrenalinを駆出するcholinergicfiberであるとの結論を得た.
  • 村上 嘉彦
    1970 年 73 巻 9 号 p. 1454-1464_3
    発行日: 1970/09/20
    公開日: 2010/10/22
    ジャーナル フリー
    〔目的・方法〕 教室の石井は, 1000-2000Hzの純音を比較的弱い負荷条件で負荷したモルモットにおける形態学的な初発変化は, 各純音による基底膜の最大振巾部位付近にある最外側の外有毛細胞の聴毛に現われる配列異常であると述べ, しかもこのような変化はある程度可逆的であると記載しているが, 著者はまずこのような聴毛の配列の乱れがどのような音響負荷条件から初発するかを明らかにすべく, またモルモット以外の動物にも現われるかどうかをも確認すべく実験を行なうとともに, さらには4000Hz以上の高周波音を負荷した場合のそれぞれの純音の感受部位の聴毛の態度についても検索を行なつたところ, きわめて興味ある成績がえられたので報告する.
    実験材料にはモルモットとネコが用いられ, 目的によって各種の純音を与えられた動物は, 生体灌流によるGlutaraldehyde液の前固定の後, OsO4液で後固定された. それぞれのラセン器はsurface specimenとしてその聴毛所見を観察するとともに, 蓋膜の網状膜面も同時に観察した. 観察はすべて位相差顕微鏡を用いて行なった.
    〔結果〕 (1) 音響負荷の影響として, ラセン器有毛細胞に初発する形態的変化は聴毛の配列異常であり, 負荷音1000, 2000Hzでは, 音圧90dB, 5分間の負荷条件で最外側の外有毛細胞聴毛に初発し, この際の聴毛の軽微な変化はW字型に拡がる聴毛の両脚端に現われる. このような変化は, 24時間を経過すると認められなくなるが, 音響負荷条件を増大させるとやがて聴毛の配列の乱れは強くなり, ついには網状膜上に不規則に倒れるようになる. このような聴毛の強い配列の乱れは24時間を経過しても回復せず, 条件によっては第2列目の外有毛細胞にも波及する.
    (2) 音響負荷によるこの聴毛の配列異常は, モルモットのみならずネコにおいても同様に出現する.
    (3) 負荷音4000-6000Hz, 音圧110-120dB, 30分間の負荷条件では, さらに蝸牛底よりのそれぞれの基底膜の最大振巾部位付近の聴毛は, 音刺激により機械的損傷をうけてその一部の聴毛が蓋板から折離され, 蓋膜の網状膜面に並列して付着してくるという興味ある新知見がえられた. このような機械的損傷をうけ, 折損される聴毛列は, 1個の蓋板上に3列のW字型配列をなす聴毛のうち, 蓋膜に浅いくぼみを作つて陥入している最外側の聴毛のみであり, それらが部分的に数本以上並列した束となつて蓋膜に付着する.
    (4) 本実験にみられた音刺激による聴毛の配列異常と, その折離現象は, 蝸牛の回転別におけるラセン器の解剖学的構造の差異と, 聴毛自体の形態ならびに物理的特性 (弾力性) の差異とによって起るものと考えられる.
  • 小坂 直也
    1970 年 73 巻 9 号 p. 1465-1473
    発行日: 1970/09/20
    公開日: 2010/10/22
    ジャーナル フリー
    (目的) 走査電子顕微鏡は組織全体の表面構造を立体的に, その超微細構造を観察できるので, 蝸牛膜様迷路のような複雑な立体構造をなす組織の観察には最適である.
    (実験法) 材料は正常モルモットを使用. 断頭後, できるだけすみやかに蝸牛をとり出し, 2%オスミウム酸と2.5%グルタールアルデヒドの混合固定液にて固定, 上昇エタノール系列及び無水アセトンにて脱水, 温風下に乾燥, カーボン, 金の二重蒸着をしてJSM-2型走査電顕にて観察した.
    (結果) 1) 外毛細胞蓋板の形は第1列がさかずき状, 第2, 3列は八角形である. その蓋板周辺部には大小のMicrovilliがあり, その数は第1列から第3列に向うにつれて多くなっている. basal bodyは第1, 2列には明瞭に認められるが, 第3列には認められない部位がある.
    2) 内毛細胞の聴毛は階段状に3~5列の配列をなし, 外方 (ヘンゼン細胞方向) の聴毛は太さ長さ共に均一であるが, 内方 (蝸牛軸方向) のは太さ長さに多少のばらつきがある. 一部がこぶ状に腫脹している聴毛が所々に認められた. 内毛細胞蓋板の外側縁部にマンジュウ状の突起物がみられた.
    3) 外柱細胞のlaminal processの表面には多数の線維が網状をなしてからみ合い, その一部が外毛細胞蓋板上までのびている. 外柱細胞の体部は2-3本の支柱が一束になっている.
    4) 蓋膜と聴毛の接触関係をみるに, 蓋膜外側端部が第3列外毛細胞の聴毛と比較的密接に接着しているのが認められた. 蓋膜先端部より足状突起が第3ダイテルス細胞節板の方向にのびているのが所々にみられた.
    蓋膜がヘンゼン細胞に接触している所見は認められなかった.
  • 徳田 紀九夫
    1970 年 73 巻 9 号 p. 1474-1487
    発行日: 1970/09/20
    公開日: 2010/10/22
    ジャーナル フリー
    1. 目的
    聴覚検査においては最小可聴閾値の測定のみならず, 障害部位診断のためのいくつかの鑑別診断法がすでに確立されているが, 嗅覚検査においては, 後者の部位診断のための検査法は今日なお未解決の点が多く, 聴覚検査ほどには一般的に確立された方法がほとんどみられない現状である. さらに最近の交通災害の激増は頭部外傷後遺症としての嗅覚障害症例の増加をもたらし, これら嗅覚障害の認定, 治療方針の決定などとも関連してその部位診断の必要性は日毎に増大している. ここに私は最も一般的で簡便な嗅素ビン検査法で, 嗅覚の閾値上検査, 主として相対的識別閾の測定により, 嗅覚障害の部位診断の可能性について検討した.
    2. 実験法
    アリナミン注射液の等比級的稀釈液によるアリナミン嗅素ビンを使用し, まず最小可嗅閾値, すなわちにおいを識別できる最小量を測定し, 続いて相対的識別閾の測定を行なった. 嗅覚障害の程度を示す基準としては便宜的に, 最小可嗅閾値0.05%から0.4%液を軽度嗅覚減退者, 0.5%から4%液を中等度嗅覚減退者, 5%以上を高度嗅覚減退者, 原液でもかぐことができない者を嗅覚脱失者と分類した. また相対的識別閾の測定には, 0.1%, 1%, 10%各液を基準とし (基準嗅素液), 各々の基準嗅素液との濃度差をはじめて識別できる最小濃度を求めて, 各基準嗅素液に対する識別値とし, 識別値と基準嗅素液との濃度差 (識別閾) の基準嗅素液濃度に対する割合を相対的識別閾とした. 実験対象は以下に示すごとくである.
    1) 実験的末梢性嗅覚障害
    (1) 実験的呼吸性嗅覚障害
    (2) 実験的嗅上皮性嗅覚障害
    2) 嗅覚障害臨床例
    (1) 鼻副鼻腔疾患による嗅覚障害
    (2) 刺激性嗅物質による嗅覚障害
    (3) 中枢性嗅覚障害と思われる, 頭部外傷後の嗅覚障害
    3. 結果
    1) 障害程度が中等度以下の場合, 中枢性嗅覚障害は末梢性嗅覚障害に比して, 相対的識別閾が著しく大きい.
    2) 末梢性嗅覚障害では, 障害原因 (呼吸性または嗅上皮性) によつて相対的識別閾に差は生じないが, 障害程度が高度になると, 相対的識別閾は大きくなる.
    3) 中枢性嗅覚障害と末梢性嗅覚障害の高度のものとの間では, 相対的識別閾に有意の差は認められない.
    4) 高度嗅覚障害例では, 経静脈性嗅覚検査を参考にして, その持続時間が15秒以下に短縮しているものは, 中枢性障害を考えるべきであろう.
    5) 障害程度が中等度以下の, 鼻副鼻腔疾患による嗅覚障害および刺激性嗅物質による嗅覚障害は, 末梢性障害であろうと推測される.
  • 内海 重光
    1970 年 73 巻 9 号 p. 1488-1505
    発行日: 1970/09/20
    公開日: 2010/10/22
    ジャーナル フリー
    声帯癌の進展速度がゆるやかであることは知られているが, 声帯癌が時の経過と共に如何なる進展型式をとり, どの程度の大きさになるかについての報告はない. 声帯癌は臨床上嗄声をもって発症するので発癌の時期を比較的正確に推定でき, 時の経過を知るにはよい材料と考えた. しかも組織像が全例扁平上皮癌であることは条件が一定しやすく好都合である. したがって声帯癌を材料にして嗄声発症後の質的変化である進展型式と, 量的変化である腫瘍の大きさの変化を追跡した.
    対象として138例の声帯癌患者をもちい, 喉頭鏡所見, laryngogram, tomogram, 手術所見, 喉頭摘出標本を病理形態学的に調べ, また病理組織学的には大切片連続標本として, その進展型式と腫瘍増大様式を検討した.
    その結果は, 声帯癌を進展型式により初期癌, 一側声帯限局型 (声帯可動), 前連合型, 前方進展型, 下方進展型, 両側進展型, 晩期型の7型に分類することができた. 初期癌は, 一側声帯の一部に限局し, 声帯可動性を有するものであり, 一側声帯限局型 (声帯可動) は一側声帯全長に進展はしているが声帯可動性を有するものである. 前連合型は前連合部に原発して一部声帯に進展しているが声帯可動性のものであり, 前方進展型は一側声帯を前方に進展して前連合を経て, 反対側声帯に進展したもので声帯は可動性を有するものである. 下方進展型は一側声帯全長および同側の声門下に進展し, 声帯は固定しているものである. 両側進展型は一側声帯および同側の声門下に進展した下方進展型が前連合を経て反対側の声帯および声門下に進展したものである. 晩期型は喉頭腔上下全体に浸潤したものである. なお一側声帯に限局し, 声帯固定している症例は存在しなかった.
    7型別の組織悪性度は, 初期癌, 一側声帯限局型, 前方進展型までは悪性度は低いが, 下方進展型, 両側進展型, 晩期型では強まっていた. 腫瘍構築型からみても, 初期癌, 一側声帯限局型 (声帯可動), 前方進展型では延伸発育型が多いのに対して, 下方進展型, 両側進展型, 晩期型では続発性簇出型が増加していた.
    前連合型は, 悪性度, 簇出傾向ともに強く, 遠隔転移もおこしやすく, 声帯癌では特異型である.
    嗄声を訴えてからの期間を各型別に分類してみると, 初期癌では2~4ケ月, 一側声帯限局型では5-7ケ月, 前連合型では1年前後, 前方進展型では1年半前後, 下方進展型では1年3ケ月~2年, 両側進展型では1年10ケ月~2年5ケ月, 晩期型では2年半以上のものが多かった.
    各型別の前額面最大腫瘍面積を測定した結果, 初期癌から前方進展型まではゆるやかに増殖しているが (lag phase), 下方進展型, 両側進展型, 晩期型になるとexponentialに増大している傾向がうかがえた.
  • 福田 宏之
    1970 年 73 巻 9 号 p. 1506-1526
    発行日: 1970/09/20
    公開日: 2010/12/22
    ジャーナル フリー
    I) 研究目的
    いわゆるBrünings techniqueは片側反回神経麻痺に対するVocal Rehabilitation, phonosurgeryとして発展してきた. 1911年Brüningsがバラフィンを用いたのが最初であるが, これはその異物反応のためバラフィノーマを作ることが多く, 一時この方法は途絶えてしまった.
    しかるに最近ArnoldやRubinがTeflonやSiliconeを用いるようになって, 再び登場することになった.
    この研究は, 現在最も組織反応のすくないとされているSiliconeを, 従来一般的適応とされていた片側反回神経麻痺の他に,
    (1) いわゆる声帯萎縮
    (2) 蛋白同化及び男女混合ホルモンによる音声障害
    (3) 外傷性声帯側方固定
    (4) 片側声帯切除後
    にも拡大応用し, 良好な結果をえたので, その音声学的成績と共に組織学的な検討を報告したものである.
    II) 臨床成績
    片側反回神経麻痺においては, 呼気の利用率が2.7倍になると共にソナグラム上に於て雑音成分が著明に減少する. いわゆる声帯萎縮, 外傷性声帯側方固定, 声帯切除後では, 呼気の利用率は各々, 1.9, 2.7, 3.0となるが, その雑音の減少は著明ではなく, 自覚的変化も「発声の容易」に集中する.
    一方蛋白同化及び男女混合ホルモンによる音声障害では, もともと呼気の乱費はないからこの点の変化はみとめられないが, その声域, 及び話声位に於て著しい改善がみられた.
    III) 組織反応, 及びSiliconeの所在
    剖検例等において, Siliconeは甲状披裂筋の外側にあり, これは手術的正中位固定と同じ状態であることが確認できた. またその組織学的検討によりほとんど異物反応が認められないことが理解された.
    IV) 結論
    以上の, 成績及び組織反応の結果からSiliconeによるBrünings techniqueは, 声門閉鎖機能の改善の面で意義のある片側反回神経麻痺, いわゆる声帯萎縮, 外傷性声帯側方固定, 片側声帯切除後において極めて有効であるばかりでなく, 蛋白同化及び男女混合ホルモンによる音声障害にも, 効果のあることが確認された.
  • 某合唱団員における音響負荷による音程の正確度について
    桜井 栄, 岡本 健
    1970 年 73 巻 9 号 p. 1527-1532
    発行日: 1970/09/20
    公開日: 2010/10/22
    ジャーナル フリー
    われわれはさきにピアノでc´の音を聞かせ両耳に音響を負荷して, c´よりc´´までの1オクターブを発声させた場合, 音程が著明に上昇する傾向があることを報告した. この現象は被検者が音楽的に訓練されているか, いないかによって異なると思われるので, 今回は3年以上の経験のある某合唱団員の女子9名を選び音響負荷の発声に及ぼす影響について検討した.
    実験方法は被検者にピアノでc´の音を聞かせ, 直ちに, c´よりc´´までの1オクターブをド, レ, ミ……の如く8音を発声させた (上行音階). 次に, ピアノでc´の音を聞かせ, 直ちに, 両耳に90dBのwhite noiseをあたえて, c´よりc´´までの1オクターブを同様に発声させた. また, ピアノでc´´の音を聞かせ, 直ちに, c´´よりc´までの1オクターブをド, シ, ラ, ……の如く発声させた (下行音階). 次に, ビアノでc´´の音を聞かせ, 直ちに, 両耳に90dBのwhite noiseをあたえて, c´´よりc´までの1オクターブを同様に発声させた.
    音声は喉頭マイクを用いて録音し, 音声の基本周波数の測定はユニバーサル, カウンター及び, オッシレーターによる波形と同期させる方法によって測定した.
    成績は, ピアノでc´を聞かせ, 直ちに, c´よりc´´までの1オクターブを発声させた場合の9例の平均値は, c´は262Hz, d´は293Hz, e´は330Hz, f´は346Hz, g´は390Hz, a´は436Hz, b´は491Hz, c´´は514Hzであった. noiseをあたえた場合の平均値は, c´は262Hz, d´は298Hz, e´は335Hz, f´は353Hz, g´は397Hz, a´は448Hz, b´は496Hz, c´´は523Hzであった. 次に, ピアノでc´´の音を聞かせ, 直ちに, c´´よりc´までの1オクターブを発声させた場合の平均値はc´´は517Hz, b´は491Hza´は436Hz, g´は389Hz, f´は346Hz, e´は327Hz, d´は289Hz, c´は260Hzであった. noiseをあたえた場合の平均値は, c´´は521Hz, b´は495Hz, a´は441Hz, g´は395Hz, f´は358Hz, e´は333Hz, d´は295Hz, c´は263Hzであった.
    以上, 9例についてnoiseをあたえて1オクターブを上行音階で発声させた場合, 各例について検討すると, 音階が上昇するに従い所定周波数値より高い音程で発声する群は5例であり, noiseをあたえても殆んど影響のない群は4例であった.
    ピアノでc´及びc´´の音を聞かせ, 直ちに, 発声した場合, 即ち, 追唱について音程の上昇した群でのc´の値は260Hzより265Hzまでであり, c´´の値は514Hzより528Hzまでの範囲であった. noiseの影響の殆んどない群ではc´の値は253Hzより267Hzまでであり, c´´の値は510Hzより521Hzまでの範囲であった. このことは追唱では音程の上昇した場合と然らざる場合とを比較して相異は殆んどなかった.
    結論として, 1) 9例中4例はnoiseをあたえた場合, 上行音階, 下行音階とも音程の変化は殆んどなかった. 2) 5例ではnoiseをあたえた場合, 上行音階で音程が上昇するが, 下行音階では殆んど変化を認めなかった. 3) 音楽的訓練をうけてもnoiseをあたえて発声すると音程の変化をきたす例は約半数であった.
  • 細川 隆
    1970 年 73 巻 9 号 p. 1533-1536_1
    発行日: 1970/09/20
    公開日: 2010/10/22
    ジャーナル フリー
    1. 目的
    上咽頭癌は台湾から華南, 東南アジア一帯の地域に居住する中国人に多発する癌腫として知られていたが, 最近, バーキットリンパ腫をめぐる研究途上における偶然の出来事から, バーキット腫瘍患者に劣らず, アフリカ, 北米の上咽頭癌患者血清中の抗EBウイルス抗体価が非常に高いことが明らかにされた. 以来, 人間の腫瘍と, EBウイルスとの因果関係についての果てしない議論を呼び起す結果を招いている. そこで私共は, 本邦における上咽頭癌患者血清中の抗EBウイルス抗体価を調べ, 他の耳鼻咽喉科領域の腫瘍性疾患患者血清, 及び健康人血清中の抗EBウイルス抗体価と比較検討した.
    2. 実験方法
    Henleらの螢光抗体法 (間接法) にて検索した. 即ち, バーキットリンパ腫由来培養細胞系P3HR-1を抗原として, 被検血清を燐酸緩衝液 (PBS) にて40倍, 160倍, 640倍, 2560倍に段階稀釈して反応させ, さらにFITCラベル抗人γ-グロプリンウサギ血清にて反応させた後, 千代田螢光顕微鏡にて観察判定した. 被検血清の螢光陽性最大稀釈倍数を, その抗体価とした.
    3. 結果
    上咽頭癌患者血清は, 26例中18例 (約70%) が640倍以上の抗EBウイルス抗体価を有し, その中2560倍陽性が3例 (11.5%) に見られた. これは他の耳鼻咽喉科領域の癌患者血清, 及び健康人血清と比べて, 明らかに抗体価の異常な上昇が判明した.
  • 1970 年 73 巻 9 号 p. 1537-1549
    発行日: 1970/09/20
    公開日: 2010/12/22
    ジャーナル フリー
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