日本耳鼻咽喉科学会会報
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118 巻, 2 号
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総説
  • ―医師主導治験 Phase III―
    中﨑 公仁, 岡 真一, 佐々木 祐典, 本望 修
    2015 年 118 巻 2 号 p. 93-97
    発行日: 2015/02/20
    公開日: 2015/03/05
    ジャーナル フリー
     われわれは基礎研究と臨床研究において, 脳梗塞に対して, 骨髄間葉系幹細胞の経静脈的投与により, 機能回復が得られることを報告してきた. 2007年より自家骨髄間葉系幹細胞を用いた, 脳梗塞に対する臨床研究を行い, 同治療の安全性と有効性を報告した. その結果を踏まえて, 2013年より, 医師主導治験 (Phase III) に取り組んでいる. この治験は, 薬事法 (平成26年11月25日より,「医薬品, 医療機器等の品質, 有効性及び安全性の確保等に関する法律」に改名) に基づき, 厳格な品質管理のもと, 細胞医薬品 (細胞生物製剤: 自己骨髄間葉系幹細胞) を製造し, 適応となった症例を実薬群, プラセボ群へランダム化二重盲検法で割り付けて, 同治療の有効性を検証し, 薬事承認を目指している. 本稿では, 脳梗塞に対する骨髄間葉系幹細胞移植治療の臨床研究と, 現在進行中の医師主導治験の概要について報告する.
  • ―神経幹細胞を利用した中枢神経再生医療―
    安井 徹郎, 中島 欽一
    2015 年 118 巻 2 号 p. 98-106
    発行日: 2015/02/20
    公開日: 2015/03/05
    ジャーナル フリー
     中枢神経系は神経細胞 (ニューロン) が無数のシナプスを介して複雑な神経回路を形成し, グリア細胞 (オリゴデンドロサイト, アストロサイト) がこれらと密接に連携することで, 高次機能を司っている. これらのニューロン・オリゴデンドロサイト・アストロサイトは多分化能と自己複製能をもった共通の神経幹細胞から分化する. しかし, いったん中枢神経系が傷害を受け, 軸索の途絶あるいは神経系細胞の細胞死が引き起こされ, 神経回路が崩壊してしまうと, 成体哺乳類では十分にそれを再生させることができない1). そのため現在でもほとんどの中枢神経疾患に有効な治療法が存在せず, 多くの患者が高次機能障害による ADL (activities of daily living: 日常生活動作) の著しい低下に苦しみ続けている. 損傷された中枢神経を再生するためには, それぞれの病態を解明し, それに応じて神経発生過程で起こる現象の少なくとも一部を再現する必要があると考えられている. 近年, 中枢神経障害のうち脊髄損傷に関して, 神経幹細胞移植を利用した治療法の有効性が示されたため, その臨床応用も検討されている.
  • ―頸部の痛み―
    鈴木 幹男
    2015 年 118 巻 2 号 p. 107-114
    発行日: 2015/02/20
    公開日: 2015/03/05
    ジャーナル フリー
     日常臨床では耳痛, 咽頭痛と比較して頸部痛を主訴に受診する患者数は少ないが, 病態はさまざまで, 他科領域の疾患を含むため, 診断に苦慮することも多い. 頸部は上方は下顎骨の下縁から乳様突起を結ぶ線, 下方は鎖骨上縁で区切られた領域であり, さらに, 前頸部, 側頸部, 後頸部, 顎下部に大別される. 頸部痛を来す疾患には部位に特有のものが多く, 頸部の解剖, 特に神経経路の理解が必要である. 頸部の痛みのコントロールの基本は原疾患の治療であり, 疾患の鑑別を速やかに行う. 典型的な耳鼻咽喉科疾患による頸部痛の診断はさほど難しいものではないが, 比較的まれな疾患や関連痛では診断が難しいことがある. また, 普段扱わない他科疾患による頸部痛で受診することがあり, 耳鼻咽喉科医も適切に診断し, 専門科へ妥当な時期に紹介できるように境界領域の知識を持っておくことが大切である.
原著
  • 山田 光一郎, 田中 信三, 平塚 康之, 隈部 洋平, 渡邉 佳紀, 吉田 尚生, 吉松 誠芳
    2015 年 118 巻 2 号 p. 115-122
    発行日: 2015/02/20
    公開日: 2015/03/05
    ジャーナル フリー
     はじめに: 甲状腺乳頭癌周囲臓器浸潤例を対象に予後因子について検討した.
     対象と方法: 1993年4月から2011年4月までに当科で初回手術を施行した甲状腺乳頭癌症例のうち, 周囲臓器浸潤を認めた72例 (全例 T4a, N0/N1a/N1b 25/15/32例, M0/M1 68/4例, 経過観察 8.1±4.4年) を対象とした.
     結果: 原病死は11例, 担癌他病死3例, 担癌生存10例であった. 粗生存率は, 5年88.3%, 10年73.4%であり, 疾患特異的生存率は, 5年91.4%, 10年88.6%であった. 局所再発は7例で認め, 局所制御率は, 5年94.1%, 10年85.4%であった.
     単変量解析において, 疾患特異的生存では初診時遠隔転移, 気管浸潤, 複数臓器浸潤が, 局所制御では食道浸潤, 喉頭浸潤, 複数臓器浸潤が, 術後遠隔転移出現では気管浸潤, 喉頭浸潤, 食道浸潤, 複数臓器浸潤が有意差のある因子であった.
     浸潤臓器別 (反回神経, 気管, 食道, 喉頭) に多変量解析を行ったところ, 疾患特異的生存では気管浸潤が, 術後遠隔転移出現では気管浸潤と喉頭浸潤が有意差のある因子であった.
     結論: 初診時遠隔転移と複数臓器浸潤に加え, 気管浸潤と喉頭浸潤が危険度の高い予後不良因子であることが示唆された.
  • 松尾 美央子, 力丸 文秀, 檜垣 雄一郎, 益田 宗幸
    2015 年 118 巻 2 号 p. 123-128
    発行日: 2015/02/20
    公開日: 2015/03/05
    ジャーナル フリー
     頭頸部領域の spindle cell carcinoma は比較的まれである. 今回経験した spindle cell carcinoma は6症例で, 同時期治療した扁平上皮癌の0.9%とやはりまれであった. 6症例の共通点として, 特殊な外観 (ポリープ様, 外向発育型の外観) と, 病理診断の困難さが挙げられた. 治療は手術療法が基本であったが, 下咽頭癌の1症例は化学放射線療法で制御されていた. 一般に spindle cell carcinoma は扁平上皮癌に比べ予後不良とされる. 今回の6症例の予後については, 経過観察期間が短いものも存在するため, 長期的な経過観察とさらなる検討を行うべきと考えている.
  • ―外切開を行わない鼻中隔外鼻形成術―
    児玉 悟, 立山 香織, 能美 希, 鈴木 正志
    2015 年 118 巻 2 号 p. 129-134
    発行日: 2015/02/20
    公開日: 2015/03/05
    ジャーナル フリー
     鼻閉の改善は鼻科手術の重要なアウトカムであり, 鼻閉の改善のためには, その原因を的確に捉え, 鼻腔形態の矯正を行うことが重要である. 鼻中隔弯曲症は鼻閉を来す代表的な疾患であり, 鼻中隔矯正術は耳鼻咽喉科医にとってはごく一般的な術式である. しかし前弯が顕著な症例では, 通常の鼻内法による鼻中隔矯正術では, 弯曲の矯正が困難なことが多く, 満足する結果が得られないこともある. このような鼻中隔弯曲症に対しては, 外鼻と鼻中隔を立体的な一つの構造物と考え, 矯正を行う鼻中隔外鼻矯正術が有効である. われわれの行っている外切開を加えない鼻中隔外鼻矯正術, closed septorhinoplasty について報告する.
  • 高橋 克昌, 中島 恭子, 紫野 正人, 豊田 実, 高安 幸弘, 近松 一朗
    2015 年 118 巻 2 号 p. 135-139
    発行日: 2015/02/20
    公開日: 2015/03/05
    ジャーナル フリー
     われわれは,マトリライシン (MMP-7) を標的遺伝子に OSNA (One Step Nucleotide Amplification) 法を用いてリンパ節転移診断を試みた. 病理検査と比べて遺伝子検査での転移リンパ節が多かった4症例のうち, 3症例に後発頸部リンパ節転移や遠隔転移が出現し予後不良の傾向があった. 病理検査と遺伝子検査が一致した6症例では, 全例生存していた. 遺伝子検査ではより多くの転移を診断し, その転移陽性症例の予後が不良であったため, 病理検査は頸部リンパ節転移を過小評価していると思われた. OSNA 法による MMP-7 遺伝子診断は, 後発転移の予測に有用と思われた.
最終講義
  • 大越 俊夫
    2015 年 118 巻 2 号 p. 140-148
    発行日: 2015/02/20
    公開日: 2015/03/05
    ジャーナル フリー
     私は1973年 (昭和48年) に東邦大学医学部を卒業した. 麻酔科で2年間研修した後, 1975年に名越好古教授の東邦大学耳鼻咽喉科学教室に入局した. 入局直後から臼井信郎講師 (後の東邦大学教授) に指導を受け鼻腔生理学の研究を開始した. この中で日本医用エアロゾル研究会と出会い, 耳鼻咽喉科領域のエアロゾル研究は私のライフワークとなった.
     ここでは私が行ったエアロゾル関係の研究の中で印象に残ったエアロゾル粒子の気道内沈着とネブライザーにおける薬液濃度の濃縮についてまとめてみる.
     エアロゾル療法とは薬剤を微細な粒子にして浮遊させ鼻腔・咽頭・喉頭・気管・肺に沈着させる治療法で耳鼻咽喉科領域においては汎用されている治療であり内服, 坐剤, 注射, 経皮に次ぐ経呼吸器局所薬物療法である. エアロゾル化された薬剤を標的部位にいかに到達させるかが重要である. エアロゾル粒子の沈着は粒子径により大きく左右される.
     われわれの実験においてはエアロゾル粒子の体内沈着率はアイソトープ液を用いて1回注入式のジェット式ネブライザーで経鼻的に吸入を行わせた場合, 注入量の約22%であった. 体内に沈着したエアロゾルの54%が鼻部に沈着していた. ネブライザー容器内には注入量の50%程度残留がみられた. このことは一回注入式ジェット式ネブライザーにて吸入させる場合これら残量を考慮しあらかじめ注入量を決定する必要があると考えた. 経口的に吸入を行わせたエアロゾル粒子の沈着実験では喉頭領域の沈着は声門が狭いと沈着率が高くなると考えられた.
     ネブライザー療法における留意点としては薬剤の安定性が重要である. 抗菌薬を用いた実験においてジェット式ネブライザー, 超音波式ネブライザーともに薬液濃度の濃縮がみられた. 薬液濃度の経時的変化には注意が必要である.
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