鼻腔の通気性は様々な条件の下で,変化する.その通気性に影響を与える因子としては,構造性因子と粘膜性因子に大別することができる.これらの因子がどのように鼻腔に影響を与えるかを検討するため,今回,鼻腔通気度計を用い,鼻腔抵抗を測定した.本法により,鼻腔の通気性を客観的に評価することができた.その中で,運動負荷を行い,鼻腔抵抗の変化を測定したところ以下のような結果が得られた.
(1) 正常成人,成人鼻アレルギー患者,正常児,小児鼻アレルギー患者,気管支喘息児に運動負荷(トレツドミル10%6km/h,6分間)行うと,運動直後には鼻腔抵抗の減少がみられ,鼻アレルギー患者は,正常者に比べて,著しい鼻腔抵抗の減少がみられた.
(2) 運動直後の鼻腔抵抗値は,正常者,鼻アレルギー患者もほぼ等しい値となった.
(3) 運動負荷時間を,2分,4分,6分と変化させたが,運動直後の鼻腔抵抗値の減少には,有意差がみられなかった.
(4) 正常者の運動直後の片側鼻腔抵抗値の左右差は,1.0±0.7cmH
2O,/L/Sと安静時の4.0±3.5cmH
2O/L/Sに比べて減少した.しかしながら,鼻腔骨格形態異常を伴った鼻アレルギー患者は,運動直後も,鼻腔抵抗値の左右差は,大きく,累積分布曲線による分析からは,2.4cmH
2O/L/Sより大きい値を示した者には鼻腔形態異常を示す例が多かった(誤診率18%).従って,運動負荷は鼻腔骨格形態異常の客観的評価に有用であると考えられた.
(5) 運動負荷後の全鼻腔抵抗の変化は,運動後5分後から鼻控抵抗値の上昇傾向を示した.正常者が安静時とほぼ変わらない鼻腔抵抗値を示すのに対し,鼻アレルギー患者では安静時に比べて全鼻腔抵抗値が上昇する傾向がみられた.
(6) 運動後の片側鼻腔抵抗の変化では,10~20分後に極端に片側鼻腔抵抗値の上昇がみられ,100cmH
2O/L/S以上になる例,すなわち運動誘発鼻閉(EINO)が成人鼻アレルギー患者では,15例(23%),小児鼻アレルギー患者,6例(40%),気管支喘息児18例(36%)にみられた.
(7) 気管支喘息児においては運動誘発鼻閉(EINO)と運動誘発喘息(EIA)の間には明らかな相関がみられなかった.
このように,運動負荷は,ダイナミックに鼻粘膜を腫脹,収縮させ,生理的変動を検索するうえで,非常に有益な方法であることが明らかになった.運動直後の片側鼻腔抵抗値の左右差からは,鼻腔の骨格構造の異常をある程度のところまで,推測することができ,例えば,鼻中隔彎曲症の手術適応を,決めるのにも有効であろうと考えられる.また,運動後の鼻控抵抗の戻り方をみていくと,鼻アレルギー患者においては,気管支喘息患者(特に小児)の,運動誘発喘息(EIA)と似たような現象,すなわち運動誘発鼻閉(EINO)と
いう現象が発現することが確認された.しかしながら,EIAとの間には発現時期の差があり,その発現メカニズムは,まだ不明な点が多い.また,小児と成人の発現率は,小児の方が高い傾向にあった.このように,EINOは鼻アレルギー粘膜の非特異的刺激に対する反応プロセスを考えるうえで,極めて示唆に富むものである.したがって,EINOの発現機序の解明は,鼻腔生理,および,鼻アレルギーの病態生理の研究の上で,重要であると考えられた.
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