日本耳鼻咽喉科学会会報
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75 巻 , 4 号
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  • 高山 哲, 古屋 英彦
    1972 年 75 巻 4 号 p. 449-456
    発行日: 1972年
    公開日: 2009/03/19
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    I 緒言
    1895年Wallenbergが急性球麻痺と解離性知覚障害を主症状とする特有な症候群を示めす症例を発表,ついで1901年その症例の病理解剖より,この症候群は後下小脳動脈の栓塞によるものと判明して以来,Wallenberg症候群あるいは後下小脳動脈閉塞症候群として多数の報告をみるようになつた.本邦では1931年より1961年までに58例の報告があるが,1961年以後耳鼻科領域での報告は数例にすぎず,かつまたこれらの多くは症状類似の報告が多く後下小脳動脈閉塞症と明示された症例は極めて少い.最近椎骨動脈の閉塞による後下小脳動脈の血流遮断に基く典型的なWallenberg症候群を経験したので報告する.
    II 症例
    患者:T.K56才主婦,主訴:1)突然発生した左顔面の知覚麻痺.2)嚥下障害,飲食物の鼻内への逆流.現症歴:昭和38年2月20日,果物屋の店頭で突然眩暈を感じ嘔吐す.耳鳴,難聴なし.左四肢の運動失調,眩暈のため起床不可.約1ヵ月の内科医の加療を受けるも軽快せず.原因不明のまま耳鼻科に転科し昭和38年4月3日左耳の手術をうける.術後眩暈,頭重感は消失,嘔気軽減するも左四肢の運動失調回復せざるまま日常生活を送つていた.昭和43年3月5日,早朝起床時左顔面のしびれに気づく,強い嚥下障害,飲食物の鼻内逆流のため朝食摂取不能.眩暈,左四肢の運動失調のため臥床し内科的治療をうけるも軽快せず,昭和43年3月18日東京医歯大耳鼻科に転科入院す.現症:体格中等度,栄養状態中等度.諸検査の結果-1)左顔面神経不全麻痺(鼻唇溝の消失,味覚雄害など),2)左ホルネル症候群(眼瞼下垂,縮瞳),3)左顔面および右躯幹四肢の解離性知覚障害,4)眩暈(左DP,OKP:中枢障害型),左へ向う眼振,左側の運動失調,5)迷走,舌咽伸経不全麻痺(左軟口蓋の運動および知覚麻痺,嚥下障害,言語障害,食道筋麻痺)など-から左側延髄の障碍が推定され,脳動脈撮影の結果左椎骨動脈の閉塞による左後下小脳動脈の血流遮断が判明しWallenberg症候群であることを確認した.VB1,VB2,VC,VB12,ATP,カリクレン等の点滴静注72回,安静などの約3ヵ月間の入院加療により,軽度の解離性知覚障碍を残すのみとなり退院した.
    III 考按
    Wallenberg症候群は延髄の血管性障害に基く急性球麻痺症状と対側の解離性知覚麻痺を主症状とする症候群で,その特有の臨床症状は,Wallenbergの解剖所見より明らかなごとく,一側の後下小脳動脈の閉塞により延髄外側部が軟化し同部に存在する脳神経核,伝導路が障害される結果,脱落症状として出現したものである.延髄外側部な支配する後下小脳動脈の分枝動脈の走行は変異に富むので出現する症状にも多少相違が生じてくる.そこで28例を自験したLewisの臨床症状の出現頻度と本症例の症状を比較してみると,本症例が典型的なWallenberg症候群であると容易に理解される.本症の原因は動脈硬化症に基く血栓形成が最多とされている.本症例においても動脈硬化症による血栓形成が原因として類推された.
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