日本耳鼻咽喉科学会会報
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116 巻, 6 号
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総説
  • 岡村 陽介, 武岡 真司
    2013 年 116 巻 6 号 p. 673-678
    発行日: 2013/06/20
    公開日: 2013/08/28
    ジャーナル フリー
    血小板は, 血液凝固系と連動した巧妙かつ複雑な止血機構を有しており, これらすべての機能を人工系で模倣することは非現実的といっても過言ではない. 感染の危険性がなく長期間保存可能な血小板代替物として, 生体投与可能なナノ粒子に活性化血小板を認識できる分子 (フィブリノーゲンγ鎖C末端ドデカペプチド, HHLGGAKQAGDV: H12) を担持させることで, それが血管損傷部位へ特異的に集積して血栓形成を誘導する起点となり, 集積したナノ粒子によって出血部位を充填し止血能を補助できるとの発想に基づいて, 極めて単純な血小板代替物を設計した. さらに, 血小板凝集を惹起するアデノシン5'-二リン酸 (ADP) をリポソームの内水相に封入することで止血能を増幅させることにも成功している.
  • 佐藤 公則
    2013 年 116 巻 6 号 p. 679-688
    発行日: 2013/06/20
    公開日: 2013/08/28
    ジャーナル フリー
    医療を行う上で医療従事者に過失がある医療過誤は防げても, 医療事故を避けては通れない. 医療行為の内容とその頻度, 例えば手術治療とその頻度によっては, 医療事故の確率は高まる.
    診療所における耳鼻咽喉科手術のリスク管理, すなわち医療事故を最小限にするためには, 以下の取り組みが大切である.
    1. 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学を常に継続して研鑽する耳鼻咽喉科専門医としての姿勢.
    2. 医療従事者 (スタッフ) の研鑽.
    3. 周術期の呼吸循環器動態の管理など, 緊急時に対応する基本的なトレーニング.
    4. 医療施設・医療器械などの管理システム.
    5. 手術治療に対する患者へのインフォームド・コンセント.
    6. 良好なコミュニケーションによる患者と医師の人間関係・信頼関係の構築.
    7. 患者が医師と診療所を信頼し, 医療従事者 (スタッフ) も安心して医療を提供できるシステムの構築.
    8. 基幹病院の耳鼻咽喉科・頭頸部外科, あるいは関連した他診療科の信頼できる医師との連携.
    「起こる可能性があることは, 可能性が低くても必ず起こる」, このことは医療過誤を含む医療事故に関しても当てはまる. 手術に伴う医療事故を最小限にするためのリスク管理は, 診療所においても大切である.
  • 古川 まどか
    2013 年 116 巻 6 号 p. 689-694
    発行日: 2013/06/20
    公開日: 2013/08/28
    ジャーナル フリー
    超音波検査は頸部の広い範囲の断層像をリアルタイムに得ることが可能で, 適切な使用により診断に直結する多くの情報がもたらされる. 頸部触診の延長線上にあり, 唾液腺, 甲状腺といった特定の臓器だけではなくリンパ節やその他の頭頸部腫瘤, 口腔, 咽頭, 喉頭病変など頸部全体で触診が対象となる病態すべてが超音波検査の適応となる.
    検査者が意図して観察しなければ, その部分の所見を得ることができない. 疾患の見落としをなくし, 超音波検査の客観性と再現性を向上させるため, 病変がある部位のみならず, 頸部全体を観察する習慣をつけておくことが望ましい. 実際の検査では, 頸部の正常解剖, 頸部各臓器の正常像を把握した上で, 実際の動画所見を観察しながら病変を検出していく. 通常の白黒画像であるBモードに, カラードプラ法による血流診断を加えるとより病変の状態が把握しやすくなる.
    近年の超音波診断装置の進歩によって, 容易に良好な画像が得られるようになり, 誰でも手軽に使用できる時代になってきた. 正しい使い方を身につけ, 超音波検査を日常診療に活用するとともに, 超音波検査の信頼性を十分確保していくことも今後の課題である.
原著
  • ―経口摂取可否の予測因子の検討を中心に―
    高柳 博久, 遠藤 朝則, 中山 次久, 加藤 孝邦
    2013 年 116 巻 6 号 p. 695-702
    発行日: 2013/06/20
    公開日: 2013/08/28
    ジャーナル フリー
    急性期病院において, 入院患者の絶食後の経口摂取再開が可能か不可能かは非常に関心の高い問題である. 今回われわれは経口摂取再開時の嚥下機能評価の中で, 退院時に経口摂取可能か否かに関与する予測因子について検討した. 対象は2010年1月~12月までの1年間に入院した患者で, その間に絶食していて経口摂取再開時に嚥下機能評価した186例である. 平均年齢80.9歳 (50~99歳), 観察期間は初回診察日から退院までとし, 平均日数は32.6日 (3~206日) であった. 検討項目は年齢, 性別, 食欲 (患者自身の経口摂取の希望の有無), 咽頭拘扼反射の有無, 舌運動, 反復唾液飲みテスト, 指示従命, 嚥下内視鏡検査: 水飲みテスト前の咽喉頭の唾液の貯留, 喉頭の感覚, 水飲みテストの誤嚥の有無である. 嚥下機能評価後の入院中死亡例は評価が難しく除外して検討した. 経口摂取可能群は112例 (60.2%), 不可能群は54例 (29.0%), 死亡例20例 (10.8%) であった. 有意差を認めたものは年齢, 性別, 食欲, 舌運動, 反復唾液飲みテスト, 指示従命, 嚥下内視鏡検査 (水飲みテスト) (P<0.05) であった.
    経口摂取可否の予測因子が分かれば経口摂取再開時の嚥下機能評価に非常に有用であり, 嚥下障害と誤嚥性肺炎発症の可能性が示唆されていても対応を十分に取れば, 入院中の経口摂取の可否に対し影響を低下させる可能性が示唆された.
  • ―2,184件の外来手術の統計的検討から―
    森 泰雄
    2013 年 116 巻 6 号 p. 703-708
    発行日: 2013/06/20
    公開日: 2013/08/28
    ジャーナル フリー
    耳鼻咽喉科無床診療所におけるオフィスサージャリーの実態を調査するため, 当院の2008年から2011年の4年間に施行した18術式の外来手術2, 184件 (1,383症例) を調査対象とした. 年間手術件数は463件から600件 (308症例~397症例) で年間平均は546件 (346症例) であった. 鼓膜切開術が1,379件 (780症例), 鼻腔粘膜焼灼術が388件 (276症例), 鼓膜チューブ挿入術が172件 (92症例), 外耳道異物除去術 (単純) が99件 (94症例) と4術式で9割以上を占めたが, その他の14術式は耳・鼻・咽から唾液腺・皮膚や顎関節にまで及んでおり, 耳鼻咽喉科医の守備範囲の広さを示していた.
    1,383症例中0から11歳代の乳幼小児が827症例と約6割であり, 特に0から5歳代の乳幼児が563症例と4割以上を占めていて, 小児耳鼻咽喉科外科の存在意義を示していた. 反面, 70歳以上の高齢者は, 1,383症例中123症例 (8.9%) であったが, 90歳以上が3症例あり最高齢が99歳代であった. 男女比は867: 516で, 性比は1.68であった.
    国民皆保険制度のもとに保険診療が行われている現在の日本においては, オフィスサージャリーに積極的に取り組んでいる開業医療施設は必然的に高点数保険医療機関となるが, その対象症例は入院することなく治療を完結することも可能であり, 専門性を維持し地域医療の質を向上させるだけでなく, 医療費の削減にも貢献していることを附記した.
  • 丸山 裕美子, 北川 典子, 伊藤 真人, 吉崎 智一
    2013 年 116 巻 6 号 p. 709-714
    発行日: 2013/06/20
    公開日: 2013/08/28
    ジャーナル フリー
    症例は15歳女児. 左頸部痛と発熱を主訴に受診した. 血液学的炎症所見は高度であり頸部超音波検査および頸部~胸部のCTおよびMRI・MRAで左総頸動脈の壁肥厚を認めたが, 主要血管の狭窄や拡張病変を認めずそのほかの器質的異常は認められなかった. 20日間の発熱継続に対しポジトロン断層撮影 (18F-FDG PET) を施行したところ, 左総頸動脈, 上行大動脈から腹部大動脈の動脈壁に集積を認めた. 高安動脈炎としてステロイド投与を開始し症状所見は改善した. 4カ月後のMRAで左総頸動脈内腔の狭窄が確認され確定診断に至った. 高安動脈炎の初発症状が頭頸部領域に生じ, 早期診断にPETが有用であった.
  • 佐藤 輝幸, 中澤 操, 高橋 辰, 石川 和夫
    2013 年 116 巻 6 号 p. 715-719
    発行日: 2013/06/20
    公開日: 2013/08/28
    ジャーナル フリー
    秋田県では平成22年度から軽・中等度難聴児に補聴器購入費助成事業が開始された. 初年度は県に意見書が交付された全例18名32耳に対して補聴器購入費助成が行われた. うち17名30耳を対象に, 年齢, 補聴器装用耳の4分法平均聴力レベル, 発見契機, 難聴診断年齢, 補聴器装用開始年齢, 装用耳, 助成の利用目的, 重複障害の有無を検討した. 交付対象として両耳の聴力レベルが原則として30dB以上70dB未満としたが, 言語獲得の必要性などから, 医師が装用の必要を認めた場合は, 30dB未満についても助成対象となっている. 本制度開始以前は経済的理由にて補聴器購入を断念したが, 本制度発足後に購入に至った例もあり, 行政施策の有効性が確認された.
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