日本耳鼻咽喉科学会会報
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119 巻, 10 号
選択された号の論文の18件中1~18を表示しています
総説
  • 岩切 勝彦
    2016 年 119 巻 10 号 p. 1273-1281
    発行日: 2016/10/20
    公開日: 2016/11/16
    ジャーナル フリー

     2009年に日本消化器病学会より胃食道逆流症 (gastroesophageal reflux disease: GERD) 診療ガイドラインが発刊された. その後, 国内外からの多くの論文が報告され, GERD 診療に関する多くの進歩, 変化がみられた. 特に GERD 治療の第一選択薬であるプロトンポンプ阻害薬 (PPI) 抵抗性 GERD の病態, Barrett 食道に関する研究が多数報告され, これらの2012年6月までの文献エビデンスに基づく改定版が2015年10月に発刊された. 今回の改訂では, 新しくガイドライン作成の標準となりつつある GRADE system を用いて作成が行われている.
     今回の改定の主な内容としては, 近年増加してきている PPI 抵抗性 GERD の定義 (標準量の PPI を8週間内服しても ① 食道粘膜傷害が治癒しない and/or ② 胃食道逆流症由来と考えられる症状が十分に改善しない状態) が示された. PPI 抵抗性 GERD に対する治療戦略としては PPI の変更, 消化管運動機能改善薬, 漢方薬, H2RA の追加投与が提案 (推奨度: 2, エビデンスレベル: C) され, また PPI 倍量分割投与が推奨 (推奨度: 1, エビデンスレベル: A) されている. GERD の長期治療戦略も変更され, 重症びらん性 GERD では症状の有無にかかわらず積極的な継続した維持療法が推奨 (推奨度: 1, エビデンスレベル: B) されているのに対して, 軽症びらん性 GERD および非びらん性 GERD では on demand 療法または継続的な維持療法が提案 (推奨度: 2, エビデンスレベル: B) されている.
     Barrett 食道に関しては, 国内外で定義が異なること, Barrett 食道の発症因子としては, 逆流性食道炎が重要であり, 酸逆流や胆汁逆流が関連している可能性が示されている. また懸念されている Barrett 食道からの発癌に関しては, 本邦からのエビデンスレベルの高い報告はなく, 正確な発癌頻度は不明であるが, 欧米と比較すると本邦の食道腺癌の増加は際立ったものでないことが報告されている.

  • 堀 龍介
    2016 年 119 巻 10 号 p. 1282-1289
    発行日: 2016/10/20
    公開日: 2016/11/16
    ジャーナル フリー

     近年多くの外科系診療科において内視鏡下手術が行われるようになったのは, HD CCD カメラや高解像度液晶モニターなどの内視鏡システムの高性能化が大きな要因である. 耳鼻咽喉科においては, 鼻・副鼻腔疾患に対して内視鏡下手術がむしろ標準となっているが, 耳科手術も内視鏡中心で行うという発想が出てくるのは自然なことではないだろうか. 2000年代に入り耳科手術を主に EES (Endoscopic Ear Surgery) で行う施設が出現した. また, 顕微鏡と内視鏡を併用して手術することも可能である. EES のよく見える良好な視野と低侵襲である利点は大きいが, 欠点として狭い外耳道内での操作のため内視鏡と手術機器が干渉し得ること, 両手操作ができずに片手操作となることなどが挙げられ, 欠点の克服は重要である. われわれが行う EES は, 外耳道からまっすぐ見える部位に限られるが, 両手操作の方が容易に短時間で手術が行いやすいと思われる状況では顕微鏡を補助併用する Microscopy-assisted EES としている. 助手にレンパート氏耳鏡で視野を確保してもらいながら顕微鏡下で骨削除, 鼓膜形成, 伝音再建などを両手で操作する. 内視鏡を挿入しない分ワーキングスペースも広くなる. 手術全体の流れからみると顕微鏡の使用はワンポイントであるため, 顕微鏡カバーはハンドルカバーのみとしており, 追加コストや医療廃棄物も最小限で済む. 内視鏡と手術機器が干渉することへの対策としても Microscopy-assisted EES は有効である. 本稿ではわれわれが行っている EES および Microscopy-assisted EES についての現状や鼓室形成術とアブミ骨手術についての手術手技について述べるが, 内視鏡のみ, もしくは顕微鏡のみで耳科手術をすることにこだわるのではなく, 患者にとって最良である方法を選択することが重要と考える.

原著
  • 浦口 健介, 假谷 伸, 岡 愛子, 津村 宗近, 石原 久司, 宮武 智実, 平田 裕二, 牧原 靖一郎, 西﨑 和則
    2016 年 119 巻 10 号 p. 1290-1299
    発行日: 2016/10/20
    公開日: 2016/11/16
    ジャーナル フリー

     脳幹・小脳梗塞は耳鼻咽喉科に関連するさまざまな脳神経障害を来すことが知られている. 急性期脳梗塞は早期治療を目的に MRI の拡散強調像 (DWI) で評価されるが, 急性期の場合は DWI が偽陰性になることがあり脳神経障害の精査のため耳鼻咽喉科を受診することがある. 香川労災病院に脳幹・小脳梗塞のため入院した245人250例を対象とし, 初回 DWI で偽陰性だった脳幹・小脳梗塞の16症例について検討した. 初回 DWI 偽陰性は脳幹梗塞12例, 小脳梗塞3例, 脳幹・小脳梗塞1例であった. 16例全例が12時間以内に初回 DWI 撮影をされていた. 250例中めまいや嚥下障害の精査目的で耳鼻咽喉科を受診し脳幹・小脳梗塞と診断された耳鼻咽喉科診断例は8例あり, そのうち3例が初回 DWI偽陰性であった. 初回 DWI で梗塞像がないが脳梗塞が疑われる場合は定期的な神経診察や DWI 再検をする必要がある.

  • 奥住 沙也, 小松 正規, 松浦 省己, 千葉 欣大, 荒井 康裕, 愛甲 健, 西村 剛志, 高橋 優宏, 田口 享秀, 折舘 伸彦
    2016 年 119 巻 10 号 p. 1300-1304
    発行日: 2016/10/20
    公開日: 2016/11/16
    ジャーナル フリー

     咀嚼筋隙とは, 咬筋筋膜と翼突筋膜の間に囲まれる領域を言い, 頬骨弓より上を側頭隙, 下を側頭下隙と区分する. 下顎大臼歯部に生じた感染が頭側へ進展する際にはここを通って上行する. 本症例1では, 歯周囲の感染から側頭下隙, さらに側頭隙へ波及した. 症例2はビスホスホネート系薬剤内服中の抜歯を契機に下顎骨骨髄炎となり, 症例1と同様に側頭下隙へ波及した. 症例1は骨髄炎には至っておらず, 短期的な抗菌薬投与と外科的ドレナージのみで改善した. 症例2は骨髄炎を来したため外科的ドレナージに加え約4カ月間の抗菌薬投与を要した. 咀嚼筋隙膿瘍の感染源として, 歯周囲感染症を認識することが必要である.

  • 富山 要一郎
    2016 年 119 巻 10 号 p. 1305-1311
    発行日: 2016/10/20
    公開日: 2016/11/16
    ジャーナル フリー

     Retroauricular hairline incision (以下 RAHI と表記する) を用いた耳下腺腫瘍の手術は通常の皮膚切開よりも審美性に優れている. われわれは RAHI を用いて25例の耳下腺良性腫瘍の手術を行った. 手術法について解説し経験した症例から考察を加えた.
     手術時間や一過性顔面神経麻痺の頻度は, 諸家の報告と比べて許容範囲内と考えた. RAHI は耳前部に皮膚切開を置かないため術野に制限があり, 浅葉下極にある腫瘍が最も良い適応になると考えた. 適応をよく見極め, 標準的な皮膚切開法で十分経験を積んだ者であれば RAHI を用いた耳下腺良性腫瘍手術は有用であると思われた.

  • 冨山 道夫
    2016 年 119 巻 10 号 p. 1312-1319
    発行日: 2016/10/20
    公開日: 2016/11/16
    ジャーナル フリー

     成人急性中耳炎において集団保育児 (集保児) との同居 (集保児同居), 65歳以上は薬剤耐性肺炎球菌 (drug-resistant Streptococcus pneumoniae: DRSP) 検出の背景因子 (背景因子) とされているが, 背景因子と成人急性中耳炎の関係について検討を行った報告は少ない. 今回1995~2015年に中耳貯留液より S. pneumoniae が検出された成人急性中耳炎症例209名を対象として, 集保児同居の有無と年齢分布, 集保児同居の有無, 対象の年齢層と, DRSP の検出頻度, S. pneumoniae の薬剤感受性の関係について後方視的に解析した. 対象の年齢分布は30代が最も高い割合を占めた. 30代の症例は30代以外の症例と比較し, 集保児同居例の占める割合が有意に高かった. 集保児同居例は, DRSP の検出頻度が集保児非同居例と比較し有意に高く, S. pneumoniae の薬剤感受性が有意に不良であった. 同居している集保児の年齢層が2歳未満の群は, DRSP の検出頻度が2歳以上の群より有意に高く, S. pneumoniae の薬剤感受性が有意に不良であった. 65歳以上と65歳未満の群における DRSP の検出頻度, S. pneumoniae の薬剤感受性の比較では差はみられなかった. 成人急性中耳炎の治療にあたり, 集保児同居の有無と同居している集保児の年齢を問診にて確認すべきであると思われた.

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