日本耳鼻咽喉科学会会報
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121 巻, 10 号
選択された号の論文の17件中1~17を表示しています
総説
  • ―音声・嚥下機能の維持のための方策―
    平野 滋, 杉山 庸一郎, 金子 真美
    2018 年 121 巻 10 号 p. 1235-1239
    発行日: 2018/10/20
    公開日: 2018/11/21
    ジャーナル フリー

     超高齢社会を迎え, 高齢者における音声・嚥下機能の維持は喫緊の課題である. 高齢者の2~3割は音声・嚥下障害を来すといわれ, 特に嚥下性肺炎は致命的側面を持つからである. 音声・嚥下機能の維持のためには, 声帯の維持, 喉頭挙上の維持, 咽喉頭の知覚の維持などが重要であり, 従来音声・嚥下リハビリテーションの多くが経験的に行われてきたのに対し, 近年, 多少ともエビデンスを伴う研究成果が輩出されてきた. 声帯の維持においては, 歌唱や音声治療の重要性が臨床研究より提唱され, 音声治療の一つである音声機能拡張訓練 (vocal function exercise) が内喉頭筋の筋電図活動を促進する効果があることが証明された. まだエビデンスはないものの, 内喉頭筋への直接的な電気刺激も試みられている. 一方, 声帯の粘膜の劣化予防として活性酸素を抑制する抗酸化剤の有効性が基礎実験・臨床研究から提唱されている. 声帯の損傷・加齢により声帯粘膜内に多量の活性酸素が生じることが動物実験で示され, 抗酸化剤の投与によって活性酸素を抑え, 声帯粘膜内のヒアルロン酸や各種細胞増殖因子が維持されることが同じく動物実験で示された. さらに臨床研究において, 音声酷使による声帯粘膜の損傷と音声障害が抗酸化剤の投与によって抑制されることが報告されている. 咽喉頭の知覚維持は嚥下機能の維持に極めて重要であり, 近年, 上喉頭神経内枝および咽頭粘膜の干渉波電気刺激が知覚維持に有効であることが解ってきた. 臨床的には干渉波刺激を行うと嚥下回数が増加することが示され, 除脳非動化動物を用いた実験では, 干渉波刺激により嚥下惹起までの時間が短縮すると同時に, 脳幹における嚥下関連ニューロンの活動が促通されることが示された. このように, 近年音声・嚥下機能維持のための多くのエビデンス創出が行われており, 一部は臨床にも応用されている. 音声・嚥下機能を維持し, その障害を予防していくことが健康長寿の促進に必要不可欠と考えられる.

  • 堀井 新
    2018 年 121 巻 10 号 p. 1240-1242
    発行日: 2018/10/20
    公開日: 2018/11/21
    ジャーナル フリー

     めまいはその発症形式から, 急性めまい, 発作性めまい, 持続性めまいに分類される. この中でも, 脳血管障害による危険なめまいは急性めまいとして発症する. 本稿では, 急性めまいの中から生命にかかわる重篤な病態を見分けるための急性めまいの診療フローチャートに関して解説する. このフローチャートの原案は筆者が日本めまい平衡医学会の学会のあり方委員会委員長であった時に作成を開始し, 現委員長である北原 糺先生 (奈良医大) に引き継がれ近々公表される運びとなっている. 危険なめまいを見逃さないためには, 圧倒的に頻度の高い末梢性めまいを積極的に診断すること, 頻度は少ないが脳血管障害によるめまいの特徴をよく理解すること, に集約できる.

  • 將積 日出夫
    2018 年 121 巻 10 号 p. 1243-1249
    発行日: 2018/10/20
    公開日: 2018/11/21
    ジャーナル フリー

     遅発性内リンパ水腫は先行する高度感音難聴にメニエール病様のめまい発作あるいは対側の聴力変動を来す疾患群である. 先行する高度難聴耳と内リンパ水腫症状の原因耳の関係から同側型, 対側型に分けられる. 平成26年5月に「難病の患者に対する医療等に関する法律」(難病法) が制定され, 遅発性内リンパ水腫は第2次指定難病 (平成27年7月1日施行) に選定された.「難病法」による医療費助成の対象となるのは, 原則として「指定難病」と診断され,「重症度分類等」に照らして病状の程度が一定度以上の場合である. 遅発性内リンパ水腫の診断基準は, A. 症状 (4項目), B. 検査所見 (5項目), C. 鑑別診断からなる. 指定難病には症状の4項目および検査所見の4項目に該当する確実例のみである. 遅発性内リンパ水腫の重症度分類は A. 平衡障害・日常生活の障害, B. 聴覚障害, C. 病態の進行度の3項目がある. 医療費助成の対象となるのは, 平衡障害では両側の半規管麻痺, 聴覚障害では両側 40dB 以上, 病態の進行度では不可逆性病変が高度に進行して後遺症を認めるものと定義されている.

     遅発性内リンパ水腫の治療としては, 保存的治療として有酸素運動等の生活指導, 心理的アプローチ, 浸透圧利尿剤等の薬物治療, 機能保存的手術治療として内リンパ嚢開放術, 選択的前庭機能破壊術として内耳中毒物質鼓室内注入, 前庭神経切断術が行われている. 近年, その治療選択として低侵襲の治療から開始し, 有効性が確認されない場合に, 次の段階へ進む段階的治療選択法が提唱された. 中耳加圧療法は, 保存的治療に抵抗した難治例に対して手術治療の前に考慮される新しい治療法である. 新型鼓膜マッサージ機は経済産業省平成24年度課題解決型医療機器等開発事業「難治性メニエール病のめまい発作を無侵襲的に軽減する医療器機の開発」により作成され, 平成29年9月に中耳加圧装置として一般的名称がつけられた.

  • ノイズ前庭電気刺激による前庭障害患者の体平衡機能改善機器の開発
    岩﨑 真一
    2018 年 121 巻 10 号 p. 1250-1257
    発行日: 2018/10/20
    公開日: 2018/11/21
    ジャーナル フリー

     われわれのグループは, 末梢前庭障害による体平衡障害に対して, 日本医療研究開発機構 (AMED) より資金援助を受けて, ノイズ前庭電気刺激 (ノイズ GVS) を利用したバランス改善機器の開発を進めている. ノイズ GVS は, 耳後部に貼付した電極より直流電流を流すことで前庭神経を刺激する方法で, 以前より前庭機能検査に使用されてきた. ノイズ GVS は, 痛みや不快感などの副作用を伴わない程度の微弱な刺激でパフォーマンスを改善することが可能であり, 外科的侵襲を伴わず, 耳後部に貼付する表面電極と携帯型の刺激装置があれば, どこでも簡単に使用することができる, などの利点を有する.

     われわれは, まず, このノイズ GVS の短期刺激が体平衡に及ぼす影響について, 健常者と両側前庭障害患者に対して検討した. この研究では, ノイズ GVS で30秒間刺激を行うと, 健常者および両側前庭障害患者において, 刺激がない時と比較して, 重心動揺計における総軌跡長, 外周面積, RMS 値の有意な改善を認めた.

     次に, ノイズ GVS の長期刺激の安全性および持ち越し効果について検討する目的で, 健常者を対象として, 30分刺激と3時間刺激のクロスオーバー試験を行った. この試験では, 30分刺激, 3時間刺激のいずれにおいても刺激後に少なくとも3時間はバランス改善効果が持続することが確認された.

     この結果を基に, 両側前庭障害患者において, ノイズ GVS 長期刺激の持ち越し効果について検討する自主臨床試験を行い, 患者においても, ノイズ GVS の30分間刺激を行うと, 刺激終了後も3時間にわたり重心動揺の総軌跡長が改善することを明らかにした.

     次のステップとして, 前庭障害に基づく重度のふらつきを有する患者を対象とする, 二重盲検ランダム化プラセボ対照の治験を計画している. 今後は, ノイズ GVS の刺激機器の改良も併せて行い, 実際の臨床応用につなげていきたい.

原著
  • 片岡 祐子, 菅谷 明子, 福島 邦博, 前田 幸英, 假谷 伸, 西﨑 和則
    2018 年 121 巻 10 号 p. 1258-1265
    発行日: 2018/10/20
    公開日: 2018/11/21
    ジャーナル フリー

     新生児聴覚スクリーニング (以下 NHS) を全例公費で実施した場合と, 全例実施しなかった場合で, NHS および要精密検査例を含めた難聴児の診断にかかる費用, その後に必要となる教育, 福祉, 補聴等にかかる公的費用について岡山県のデータをもとに試算し, NHS の費用対効果について検討を行った. 義務教育機関については NHS 実施例の方が非実施例よりも地域の公立学校 (難聴学級, 支援学級を含む) 進学率は7.6%高かった. また NHS 実施例の方が特別児童扶養手当受給開始は4.3カ月早く, 障害児福祉手当受給率は8.8%低く, 人工内耳装用率は6.9%高かった. NHS と精査, 教育, 福祉, 補聴にかかる公的費用は, 年間出生数16,000人の自治体を想定すると, NHSを実施した場合では795,939,526円, 非実施では807,593,497円であり, NHS を実施した方が11,653,971円低く, NHS を全額公費負担にしたとしても償還できる可能性が高いという結果であった. また NHS と以後の精査にかかる費用としては, 1段階 NHS と確認検査まで実施する2段階 NHS を比較すると, 2段階 NHS の方が経済的効率は高かった. 教育および福祉費用の軽減の背景には難聴児, 障害児の義務教育の受け入れ状況の年代による変化も関与している可能性はあり, 統計学的な限界はあるものの, NHS を全額公的助成で行う意義は十分あると考える.

  • 太田 有美, 森鼻 哲生, 川島 貴之, 大崎 康宏, 佐藤 崇, 岡崎 鈴代, 宇野 敦彦, 西村 洋, 今井 貴夫, 北原 糺, 土井 ...
    2018 年 121 巻 10 号 p. 1266-1272
    発行日: 2018/10/20
    公開日: 2018/11/21
    ジャーナル フリー

     2007年4月~2016年10月に大阪大学耳鼻咽喉科およびその関連施設でアブミ骨手術を施行された症例のうち, 6カ月以上経過観察でき, 術後骨導閾値を測定され術後気骨導差を確認し得た98症例113耳について聴力成績を検討した. 日本耳科学会判定基準 (2010) による術前骨導を用いた成功率は術後6カ月で90%, 術後2年で93%と良好な成績であった. 術後気骨導差 10dB 以内は術後6カ月で67%であった. 術後気骨導差に影響を及ぼす因子について, ロジスティック回帰分析を行ったところ, 男性, 片側罹患, 術前気導閾値, 手術時間が独立した危険因子であった. アブミ骨底板開窓方法 (stapedotomy/stapedectomy), アブミ骨底板開窓手段 (用手/レーザー), ピストンの種類, 術者による有意差はみられなかった.

  • 小林 万純, 柘植 勇人, 三宅 杏李, 曾根 三千彦
    2018 年 121 巻 10 号 p. 1273-1278
    発行日: 2018/10/20
    公開日: 2018/11/21
    ジャーナル フリー

     両耳聴の意義に対する認識が高まり, 補聴器も人工内耳も可能であれば両耳聴を目指す方向に向かっている. 今回, 装用前の語音弁別能は不良であったが, 両耳装用後に実用レベルに達した症例について検討した. 耳鳴を主訴とした両側水平性感音難聴の2症例で, 語音弁別能は初診時左右それぞれ30~55%であったが, 1年後には両耳装用下の音場検査にて各々80,95%という結果が得られた. これは周波数ごとに圧縮を変更しながら十分なファンクショナルゲインを確保したことと, 優れた両耳聴効果に起因するところが大きいと思われる. そして, 補聴器の調整を適正に行い十分な聴能訓練を行うことで, 補聴器の効果をより発揮できると考える.

  • 池田 香織, 富田 雅彦, 新堀 香織, 尾股 丈, 馬場 洋徳, 高橋 奈央, 佐々木 崇暢, 堀井 新
    2018 年 121 巻 10 号 p. 1279-1287
    発行日: 2018/10/20
    公開日: 2018/11/21
    ジャーナル フリー

     嗄声や嚥下障害など急性発症の下位脳神経麻痺が Ramsay Hunt 症候群の随伴症状として出現する場合があり, その診断や治療方法の決定は比較的容易である. しかし, 水痘-帯状疱疹ウイルス (varicella-zoster virus; 以下 VZV) が原因の下位脳神経麻痺の中には顔面神経麻痺を伴わない例もあり, 球麻痺や悪性腫瘍との鑑別など確定診断に時間を要し, 治療開始の遅れから後遺障害を残した例も報告されている. 今回われわれは血清抗体価および疱疹から VZV 再活性化が原因と考えられるものの, 顔面神経麻痺を伴わずに急性発症した下位脳神経麻痺2例を経験した. 渉猟し得た22例と合わせ, 考察を加え報告する.

  • 高橋 克昌, 西岡 由樹, 井田 翔太, 桑原 有紀, 松山 敏之, 岡本 彩子, 桑原 幹夫, 紫野 正人, 新國 摂, 工藤 毅, 高安 ...
    2018 年 121 巻 10 号 p. 1288-1293
    発行日: 2018/10/20
    公開日: 2018/11/21
    ジャーナル フリー

     初診時すでに遠隔転移を伴った頭頸部扁平上皮癌35症例 (2007~2016年) について, 治療法別の生存期間を後方視的に検討した. 治療しなかった (緩和医療) 群16症例の生存期間 (中央値, 以下同様) は87日で, 1年粗生存率は6%だった. 何らかの治療をした群19症例の生存期間は343日で, 1年粗生存率は53%だった. しかし治療群の中で, 姑息照射症例の1年粗生存率は0%と低く, 生存期間も127日だった. 化学療法, 放射線療法, 分子標的薬の投与は, いずれも生存率を向上させ, 生存期間も350日以上に延長した. 初診時に遠隔転移を伴っても, 治療中止の判断理由にならず, 併存疾患に配慮しつつ, 転移巣と原発巣の両方に対して治療をすべきである.

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