日本耳鼻咽喉科学会会報
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114 巻, 7 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
総説
  • 梅澤 明弘, 宮本 義孝
    2011 年 114 巻 7 号 p. 593-601
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/10
    ジャーナル フリー
    細胞医療を支える幹細胞には, さまざまなレベルが存在する. たとえば, 受精卵に近い全能性を有する胚性幹細胞やiPS細胞がある一方, 部分全能性を示す組織幹細胞では, 骨髄に由来する間葉系幹細胞が知られている. 骨髄由来の間葉系幹細胞は, 生体マイクロデバイスとしての地位を築いてきたが, 現在は骨髄のみならず胎盤, 脂肪, 月経血から単離されてきている. 予想を超える体性細胞の可塑性が次々と明らかになってきている中で, 発生学, 工学によって培われた幹細胞技術が要素技術として, 多くの疾患に対する再生医療・細胞医療システムとして完成させることが可能となっている. 幹細胞に関する基盤技術を組み合わせることにより再生医療がシステム化されることは間違いないが, すばらしいレベルの高い基盤技術が実際の再生医療と中にはうまくフィットしない場合がある. 特定の疾病に対して有効な基盤技術を開発しようとするのは困難が伴うことが多いと個人的に感じている一方, 幹細胞基盤技術から出発すれば, そのレベルが高い場合, その有用性がどの疾患に対する再生医療に最も有効かという出口を見つけることは成功の確率を上げられるのではないかということがある. それには, 医療の知識, 経験がある人に真剣にコミットしてもらうことが好ましいとしており, これは経験に基づいた「土地勘」の有無と考えている. 耳鼻咽喉科領域における再生医療・細胞医療も当然その土地勘が重要であり, 実際の最前線の医療に携わる耳鼻咽喉科の医師達に判断されることが最も大事である.
  • 本田 耕平
    2011 年 114 巻 7 号 p. 602-606
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/10
    ジャーナル フリー
    小児における喘息とアレルギー疾患の国際共同疫学調査 (ISAAC) や国内の最近の疫学調査でもアレルギー性鼻炎の増加や低年齢化が指摘されており大きな社会問題になっている.
    現在アレルギー性鼻炎の治療は, 耳鼻咽喉科以外にも多くの医療機関で行われている上に, 第2世代抗ヒスタミン薬のスイッチOTC化が進み, 現在医療機関を介さず薬局で第2世代抗ヒスタミン薬を購入できる時代になった. 今後薬物療法で十分な満足が得られなかった患者や, 薬物治療を希望しない患者, 根治を望む患者をどのように治療していくかが耳鼻咽喉科医師の課題となっていくと思われる.
    特異的免疫療法は唯一の根治的治療法であり, 治癒または長期寛解が期待できることから重要な治療法の一つと考えられる. また近年one way one diseaseといった概念が提唱され, アレルギー性鼻炎と喘息の密接な関与が報告されている. 免疫療法などによるアレルギー性鼻炎の治療による介入が喘息発症の予防につながる可能性も指摘されている. またアレルギー性鼻炎患者の約25%が種々の方法や食品を用い代替医療を行っていた. 効果や副作用などの面でまだまだ不明な点が多いが, 代替医療は副作用が少ないものが多く, 低年齢または発症前から実施可能なことからアレルギー性鼻炎の低年齢化や発症予防を考えていく上で重要であると考えられる.
原著
  • 野口 佳裕, 高橋 正時, 喜多村 健
    2011 年 114 巻 7 号 p. 607-614
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/10
    ジャーナル フリー
    埋め込み型骨導補聴器 (BAHA) は, 従来の補聴器と比較して音質, 静寂下での語音聴取などに優れるが, 手術を必要とし術後合併症などの欠点もある. 今回われわれは, 2001年9月から2005年10月までのBAHA手術例を対象に, 聴覚機能検査所見, 術後9カ月から8年10カ月 (平均4年7カ月) における術中・術後合併症を検討した. 対象は12例13耳 (男性8例, 女性4例, 年齢20~71歳) であり, 両耳施行例が1例, 一側性高度感音難聴に対する手術施行例が1例存在した. 一側性高度感音難聴例を除いた11例の平均震音聴覚閾値は, BAHA非装用時が46~83dB (平均65.2dB), BAHA装用時が21~38dB (平均29.9dB) であり, ファンクショナルゲインは16~52dB (平均35.3dB) であった. 術中合併症として, 4耳に硬膜露出もしくは静脈性出血, 1耳に乳突蜂巣の開放, 1耳に皮弁の切断が認められたが, 重篤なものはみられなかった. 皮膚の炎症反応は, 術後1年目には約70%に認められたが, 多くはGrade 1の軽微なものであり, 時間とともに減少した. 1耳で術後2年目に接合子が骨導端子からはずれ, 骨導端子が皮下に埋没した. すべて外来処置にて対応可能であり, インプラント脱落や手術を要した症例は認められなかった. BAHA手術の際には, 術中・術後合併症が生じうることを十分に説明した上で適応を決定する必要がある.
  • 村井 紀彦, 谷口 善知, 高橋 由佳, 安原 裕美子, 窪島 史子, 楯谷 一郎
    2011 年 114 巻 7 号 p. 615-619
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/10
    ジャーナル フリー
    目的: 2004年に日本臨床細胞学会において提唱された, 唾液腺細胞診に関する新報告様式の当科での運用状況, 有用性と問題点を検討すること. 対象と方法: 2006年から2010年までの4年間に, 術前穿刺吸引細胞診と外科的切除を行った44例を対象とし, カルテをレトロスペクティブに調査し, 細胞診の結果, 病理組織診断等を記録した. 結果: 耳下腺原発が33例, 顎下腺原発は11例, 悪性は8例, 良性は36例であった. 良性例のうちの2例は検体不適正であり, また, 良性例のうちの4例と悪性例のうちの1例は「鑑別困難」と判定された. 真陽性は3例, 真陰性は30例で, 偽陰性が4例あり, 偽陽性例はなかった. 感度, 特異度, 正診率はそれぞれ42.9% (4/7), 100% (30/30), 89.2% (34/37) であった. 精度管理指標については, 検体不適正率は4.5% (2/44), 良悪性鑑別困難率は11.4% (5/44), 悪性疑い例の悪性率は100% (2/2) であった. 結論: 新報告様式の使用により, パパニコロウ分類の報告結果に対する臨床医の解釈の曖昧さが減少し, 臨床的に有意義であると考えられた.
  • 木村 寛
    2011 年 114 巻 7 号 p. 620-623
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/10
    ジャーナル フリー
    Actinomyces naeslundiiはオーラルバイオフィルムを形成する細菌である. この菌は歯周囲炎に関与するが, 頸部放線菌症の原因となった報告例はない. 今回, 珍しいA. naeslundiiによる頸部放線菌症例を経験したので報告する.
    症例は56歳の男性で, 主訴は頸部腫脹で歯科治療も受けていた. 抗菌薬の点滴と膿の穿刺吸引で腫脹は軽減した. しかし, その後, 再び腫脹した. 膿からA. naeslundiiが同定された. そして, 切開排膿を行い, 薬剤感受性試験結果に基づいて抗菌薬を変更し治癒した. 本症例は, 本邦で最初のA. naeslundiiによる頸部放線菌症例であると推察された.
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