体平衡を維持するために前庭系, 視覚系と同時に深部知覚が重要である. 後頸筋の深部知覚受容器の体平衡に対する重要性はすでに検討されているが, 姿勢制御に関する下肢筋や体幹筋などの他の筋への振動刺激についての系統的な研究は少ない. さらに内耳機能廃絶者へのこれらの筋の振動による効果に関しては, ほとんど知られていない. そこで, 一側内耳機能廃絶者の姿勢制御に対する骨格筋の深部受容器の役割を調べた.
対象は一側内耳機能廃絶者20例で, 振動刺激装置を装着した後, 重心動揺計の上に直立させた. 後頸筋, 僧帽筋, 腰部, 大腿二頭筋, 大腿四頭筋, 前脛骨筋, 腓腹筋を刺激し, 総軌跡長, 前後・左右移動距離, 外周面積, 動揺中心の偏位などについて解析した.
僧帽筋, 腰部共に正常者と比べて大きな違いがないことから内耳機能廃絶後の代償について大きな役割をしていないものと考えられる. 大腿二頭筋, 大腿四頭筋刺激は正常者と比べると有意に大きく, 内耳機能廃絶者の代償後の平衡維持の役割の一部を担っていると推測される. 前頸骨筋, 腓腹筋刺激では正常者と比べて有意に大きく, 下腿筋深部知覚は平衡維持や内耳機能廃絶後の代償に対する関与が大きいと言える. 後頸筋では, 刺激によって動揺は大きくなるものの, 正常者と比べ有意差を認めず, 内耳機能廃絶の代償に対して下腿筋や大腿筋ほど大きな役割は担っていないと考えられる.
刺激部位別に動揺中心の偏位を検討すると, 後頸筋への刺激で一側内耳機能廃絶者では, 患側への明らかな偏位が認められ, 前庭の代償過程において頸部の入力は左右のバランスの維持に重要な役割をしていることが推測された.
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