日本耳鼻咽喉科学会会報
Online ISSN : 1883-0854
Print ISSN : 0030-6622
ISSN-L : 0030-6622
105 巻, 8 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
  • 小川 浩司
    2002 年 105 巻 8 号 p. 863-872
    発行日: 2002/08/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    筆者は1994年10月から2000年9月までの6年間に15歳未満の小児185名(男女比1.4:1),15歳以上の161名(男女比1:1.3)の滲出性中耳炎患者を外来で治療した.
    治療途中で来院しなくなった予後不明者を除くと,小児では65例(40%)は保存的治療で,79例(49%)は鼓膜切開で,また18例(11%)は中耳換気チューブ留置によって治癒した.
    15歳以上では保存的治療は3例(2%),鼓膜切開によって116例(87%),換気チューブ留置によって9例(7%)が治り,2002年2月現在未治癒なのは鼓膜切開で治療している2例と換気チューブ留置の3例の4%である.換気チューブ留置で治癒した患者の平均留置期間は15歳未満では11.3ヵ月間,15歳以上では7.2ヵ月間であった.
    両耳が罹患したのは15歳未満では患者の30%,15歳以上では8%と小児に多く,15歳未満の両側滲出性中耳炎は73%,15歳以上では38%の患者が長期治療を要した.したがって小児の両側性は難治性であるといえる.
    滲出性中耳炎に先行あるいは合併した疾患は,急性上気道炎が15歳未満で36%,15歳以上で26%,鼻•副鼻腔炎は15歳未満19%,15歳以上で14%であった.急性中耳炎から進展したのは小児では22%だったが,大人では3%しかいなかった.鼻症状は小児では49%,大人では33%の患者にあり,上気道の感染が発症にかかわることが考えられた.アレルギー性鼻炎の合併率は14%と12%であった.また易感染性によると考えられる小児の再発性急性中耳炎は発症の年齢分布が滲出性中耳炎の発症年齢分布とほぼ一致したので,滲出性中耳炎と再発性急性中耳炎の発症に共通の因子がかかわることが考えられた.
  • 渡邉 光弘, 角田 幸子
    2002 年 105 巻 8 号 p. 873-881
    発行日: 2002/08/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    慢性鼻炎やアレルギー性鼻炎において,鼻粘膜に誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)を発現することが報告されている.しかしながら,鼻茸組織におけるiNOSの発現を研究した報告は少ない.本研究は,鼻茸組織中においてiNOSを発現する細胞を同定することを目的とした.臨床症状とアレルギー諸検査によって,10症例から摘出した鼻茸を感染性鼻茸(4例)とアレルギー性鼻茸(6例)に分類した.鼻茸組織を免疫組織化学法によって染色し,iNOSを発現する細胞を光学顕微鏡と電子顕微鏡を用いて同定した.
    鼻茸中のiNOS免疫陽性細胞は,粘膜上皮,炎症細胞,血管内皮と平滑筋,および鼻腺上皮であった.両タイプの鼻茸の粘膜上皮は中等度から強い免疫陽性反応を示した.また,鼻茸の血管内皮と平滑筋は,時に中等度から弱い免疫陽性反応を示した.鼻腺上皮は時に弱い免疫陽性反応を示した.
    iNOS免疫陽性炎症細胞は,感染性鼻茸では炎症細胞の42%,アレルギー性鼻茸では53%を占めた.免疫陽性炎症細胞の種類は好中球,好酸球,およびマクロファージであった.好中球および全炎症細胞中における免疫陽性好中球の割合は,感染性鼻茸の方がアレルギー性鼻茸よりも有意に高かった.好酸球中の免疫陽性細胞の割合はアレルギー性鼻茸と感染性鼻茸で有意差がなかった.一方,全炎症細胞中の免疫陽性好酸球の割合はアレルギー性鼻茸の方が感染性鼻茸よりも高かった.電子顕微鏡法により,免疫陽性好酸球に隣接して,核濃縮を示す変性細胞が存在する知見を得た.免疫陽性マクロファージの割合は,両タイプの鼻茸で有意差がなかった.
  • 苦瓜 知彦, 鎌田 信悦, 川端 一嘉, 保喜 克文, 三谷 浩樹, 吉本 世一, 米川 博之, 三浦 弘規, 別府 武, 福島 啓文
    2002 年 105 巻 8 号 p. 882-886
    発行日: 2002/08/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    癌研究会附属病院頭頸科で治療した中咽頭後壁癌9例の臨床像や治療結果などについて報告した.9例はすべて男性で,平均年齢は64.1歳であった.病期はStage I:1例,II:1例,III:1例,IV:6例で,全例扁平上皮癌であった.9例中6例は初診時にリンパ節転移を伴っていた.咽頭後リンパ節転移は4例に認められた.重複癌が5例にみられた.9側中3例には放射線根治照射を行い,6例には手術中心の治療を行った.その結果,原発巣制御率は50%,5年無病生存率は22%であった.手術が行われた6例の内,4例に喉頭全摘が行われた.死因は6例が原病死,1例が他癌死であった.
    中咽頭後壁癌はまれな疾患で,他の中咽頭癌にくらべて難治と考えられるため,今後さらに症例を重ねて有効な治療法について検討する必要がある.
  • 御厨 剛史, 菅原 一真, 下郡 博明, 三浦 正子, 山下 裕司
    2002 年 105 巻 8 号 p. 887-892
    発行日: 2002/08/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    現在,耳科手術において耳介軟骨は鼓膜形成術や鼓室形成術の再建材料として用いられている.1963年Jansenが耳介軟骨を再建材料に用いた鼓室形成術を報告して以来,耳科手術における耳介軟骨の有用性は多く報告されている.その利点は同一術野から採取できる点,加工しやすい点が挙げられ,術後成績も良好である.しかしながら,耳介軟骨は外部に晒される部位より採取するため,術後の耳介聳立,耳介変形など美容上の問題が生じるといわれている.しかし,実際にこのことについて検討した報告はまだない.
    今回我々は当施設において1999年から2001年までの問に山口大学医学部付属病院耳鼻咽喉科を受診し承諾を得られた軟骨使用群15例,軟骨非使用群12例,計27例を対象に,耳介軟骨を用いた鼓室形成術症例での術後の耳介変形の発生について検討した.
    耳介変形の評価には,Farkasの計測法に従い測定した耳長,耳幅,耳介付着部長,耳介軟骨長,耳垂長,耳介の高さの6項目を用いて術前•術後の変化を評価した.また並行して自覚症状についても評価を行うためにアンケート調査も行い,耳介のしびれ感,耳介の変形の自覚,耳介の柔らかさ3項目について経時的に評価した.
    結果として,耳介軟骨の採取の有無にかかわらず,測定した6項目において術前•術後に有意な変化はみられなかった.アンケート調査結果では耳介軟骨使用群•非使用群ともに,術直後には耳介しびれ感,耳介変形について自覚症状を訴える患者が多い傾向を認めたが,これらの症状は経時的に改善して耳介変形の自覚症状は6ヵ月の段階でほぼ消失した.自覚的にも他覚的にも,耳介軟骨の採取が及ぼす影響は極めて軽微であると考えられた.
    今回の調査により,耳介の聳立や耳介変形等の美容上の問題点も少ないという点が加わり,再建材料としての耳介軟骨の有用性を再確認する結果となった.
  • 近藤 千雅, 北原 糺, 三代 康雄, 森鼻 哲生, 奥村 新一, 久保 武
    2002 年 105 巻 8 号 p. 893-896
    発行日: 2002/08/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    高位頸静脈球の進展方向はヴァリエーションに富んでおり,時として下鼓室に突出することがあるものの,実際臨床の場において鼓膜を通して直接視覚的にとらえられることはめったにない.今回我々は,非典型的な位置である中鼓室後上部に突出する頸静脈球が,鼓膜を通して認められるという非常にまれな症例に遭遇した.さらに,本症例は,唯一聴耳(only hearing ear)で,同耳に癒着性中耳炎を合併したことに起因する高位頸静脈球の易出血状態を惹起した.この症例に対して,観血手術を施行した場合,only hearing earゆえ両耳聾となる可能性や手術操作により大出血を来す危険性が生ずる.したがって,本症例においては非常に慎重な対応が迫られ,今後,耳出血量が増加した場合,経カテーテル的血管内治療を選択肢の一つとして考慮する必要がある.
  • 安松 隆治, 中島 寅彦, 倉富 勇一郎, 小宮 山荘太郎
    2002 年 105 巻 8 号 p. 897-900
    発行日: 2002/08/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    出産後に高Ca血症を来した甲状腺癌術後症例2例について報告した.症例はいずれも過去に甲状腺全摘出術を施行され,術後副甲状腺機能の低下に伴い,一定量のCa製剤,ビタミンD製剤の内服によって血清Ca値をコントロールされていた.しかしながら,出産を契機に高Ca血症を来したため,Ca製剤,ビタミンD製剤の内服を中止し,血清Ca値は正常に維持された.授乳期では,母体の乳腺懇織からPTH関連ペプチド(PTHrP)が過剰に分泌されるため,副甲状腺機能低下症症例では一時的に寛解現象が起こることが近年報皆されている.今回の2症例も同様にPTHrPが分泌され,その際,Ca製剤,ビタミンD製剤が継続的に投与されたことが高Ca血症を引き起こしたものと考えられた.
feedback
Top