現在,耳科手術において耳介軟骨は鼓膜形成術や鼓室形成術の再建材料として用いられている.1963年Jansenが耳介軟骨を再建材料に用いた鼓室形成術を報告して以来,耳科手術における耳介軟骨の有用性は多く報告されている.その利点は同一術野から採取できる点,加工しやすい点が挙げられ,術後成績も良好である.しかしながら,耳介軟骨は外部に晒される部位より採取するため,術後の耳介聳立,耳介変形など美容上の問題が生じるといわれている.しかし,実際にこのことについて検討した報告はまだない.
今回我々は当施設において1999年から2001年までの問に山口大学医学部付属病院耳鼻咽喉科を受診し承諾を得られた軟骨使用群15例,軟骨非使用群12例,計27例を対象に,耳介軟骨を用いた鼓室形成術症例での術後の耳介変形の発生について検討した.
耳介変形の評価には,Farkasの計測法に従い測定した耳長,耳幅,耳介付着部長,耳介軟骨長,耳垂長,耳介の高さの6項目を用いて術前•術後の変化を評価した.また並行して自覚症状についても評価を行うためにアンケート調査も行い,耳介のしびれ感,耳介の変形の自覚,耳介の柔らかさ3項目について経時的に評価した.
結果として,耳介軟骨の採取の有無にかかわらず,測定した6項目において術前•術後に有意な変化はみられなかった.アンケート調査結果では耳介軟骨使用群•非使用群ともに,術直後には耳介しびれ感,耳介変形について自覚症状を訴える患者が多い傾向を認めたが,これらの症状は経時的に改善して耳介変形の自覚症状は6ヵ月の段階でほぼ消失した.自覚的にも他覚的にも,耳介軟骨の採取が及ぼす影響は極めて軽微であると考えられた.
今回の調査により,耳介の聳立や耳介変形等の美容上の問題点も少ないという点が加わり,再建材料としての耳介軟骨の有用性を再確認する結果となった.
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