日本耳鼻咽喉科学会会報
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117 巻, 2 号
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総説
  • ―3T超高磁場装置の臨床応用―
    藤田 晃史, 木村 有喜男, 酒井 修
    2014 年 117 巻 2 号 p. 75-80
    発行日: 2014/02/20
    公開日: 2014/03/20
    ジャーナル フリー
    MRIは1980年に臨床導入されて以来, その進歩は著しい. 3T超高磁場装置は約10年前に薬事認可され, 当初は主に研究用装置として使用されていたが, 現在では広く普及し, 一般臨床でも高空間・時間分解能MR画像が容易に得られるようになってきた. 装置の普及とともに, PROPELLER法 (BLADE法), 脂肪抑制画像や3次元画像データ収集の活用による画質改善, また拡散強調画像, 灌流画像, MR spectroscopy などの撮像法の発展もあり, 近年, 新たな知見が得られている分野も多い. 本稿では, 3T装置の特性について確認し, 今後ますます普及し, 日常臨床で有用と考えられる撮像法について概説する.
  • 中溝 宗永
    2014 年 117 巻 2 号 p. 81-85
    発行日: 2014/02/20
    公開日: 2014/03/20
    ジャーナル フリー
    頸部郭清術は, 頭頸部癌を主とした頸部リンパ節転移を制御する手術で, “頭頸部がん専門医” にとっては必須で基本の手術術式である. 既に100年以上もの歴史があり, この間にさまざまな変法や術式名称が生まれた. 現在は全頸部郭清術を基本型とし, 肩甲舌骨筋上頸部郭清や側頸部郭清などを主とする選択的頸部郭清術が頻繁に行われている.
    頸部郭清術では, 頸部筋間の脂肪組織に存在する転移リンパ節を, その連続性を保持して一塊に切除する. メス, 剪刃, 電気メスなどでの切離だけでなく, 結紮や止血, 縫合など, 種々の基本的外科手技が不可欠であるため, 使用する器械の機能や使用法に習熟し, 頸部臓器・組織の解剖学的構造を熟知して, 各所において適切かつ確実な手技を行うことが要求される. 選択的頸部郭清術を行うことで, 全頸部郭清術よりも郭清領域を狭めても, 決められた領域のリンパ節群は残すことなく確実に郭清し, 治療成績を低下させないようにする. 一方, 術後の機能障害や変形の軽減化を目指し, 重要な脈管と神経など温存する臓器とその周囲を確実に処理する.
    温存する臓器・組織が多い選択的な術式は, ワーキングスペースと視野が狭く, 手術に慣れるまでは操作が難しい. したがって, 根治的郭清術を十分経験した後に選択的頸部郭清術を行うのが望ましい.本稿では,内頸静脈と副神経を温存してレベルI~IVを郭清する選択的郭清術の手順を記載し,筆者が考える器械の使用法や手技上のコツについて述べるので,参考になれば幸いである.
  • 栢森 良二
    2014 年 117 巻 2 号 p. 86-95
    発行日: 2014/02/20
    公開日: 2014/03/20
    ジャーナル フリー
    顔面神経麻痺による表情筋機能不全に対して, 神経再生を促せば顔面神経麻痺は回復すると考えがちである. しかし, これは誤っている. むしろ再生を抑制することが重要である. 迷入再生を抑制して病的共同運動を予防軽減することが目標である. 表情筋の役割は, 第1に目, 口, 鼻, 耳の顔面開口部を閉鎖することであり, ヒトでは第2に感情表出である. 神経障害が起こると, 早急に回復させるべく顔面神経核の興奮性亢進が起こり, 開口部の閉鎖促進機序が作動する. 骨格筋と異なり表情筋は皮筋である. 同様に顔面神経幹には神経束構造がなく, 約4,000本の神経線維は密接している. 接触伝導や迷入再生が容易に起こり, 4つの開口部は同時に効率的に閉鎖する合目的性の解剖になっている. 感情表出の維持には,むしろ開口部同時閉鎖を抑制する必要がある.
    Bell麻痺などの膝神経節部での神経炎では, 脱髄であるニューラプラキシアが生じる. しかし,骨性神経管内では浮腫による絞扼障害が加わる. まず栄養血管閉鎖による求心性の遡行変性が生じる. 内膜は温存されている軸索断裂である. さらに絞扼圧迫が強いと, 遠心性ワーラー変性が生じ神経断裂が起こる. 内膜も断裂しているために, 引き続き迷入再生が生じる. 脱髄と軸索断裂線維は1mm/日スピードで再生し, 遅くとも発症3カ月で表情筋に達する. 神経断裂による再生突起の指向性は,随意運動あるいは筋短縮方向に向かう. 迷入再生回路の形成時間と拡がりは, 随意運動と筋短縮の強度に規定される. 最速1カ月で迷入再生回路が形成される. このために, 発症3カ月で顔面神経麻痺が完治しない症例では, 4カ月以降に迷入再生線維が順次表情筋に到着して病的共同運動が顕在化する. 神経断裂線維再生時に随意運動と筋短縮を抑制することによって, 迷入再生を抑制して病的共同運動を予防軽減することがリハビリテーションの原則である. 強力な随意運動を避け, 頻回のマッサージを行い, 眼瞼挙筋による眼輪筋ストレッチを行うことが基本的手技である.
  • 藤枝 重治, 坂下 雅文, 意元 義政, 徳永 貴広, 二之宮 貴裕
    2014 年 117 巻 2 号 p. 96-102
    発行日: 2014/02/20
    公開日: 2014/03/20
    ジャーナル フリー
    好酸球性副鼻腔炎は, 鼻腔内に多発性鼻茸を有する篩骨洞主体の病変で, 嗅覚障害を伴い, 鼻粘膜や末梢血中で好酸球増加を伴う難治性副鼻腔炎である. 経口ステロイドが有効であり, 内視鏡下鼻副鼻腔手術を行っても再発が多い. 現在, 大学病院レベルで行われている内視鏡下鼻副鼻腔手術の約30%が好酸球性副鼻腔炎であった. 好酸球性副鼻腔炎は, 鼻粘膜組織中の強い好酸球浸潤で診断されていたが, 研究班を組織し, 臨床所見や検査データから好酸球性副鼻腔炎診断基準を検討した. 現在, 発症年齢, 両側性, 鼻茸, 嗅裂閉鎖, 篩骨洞陰影優位, 薬物アレルギーの合併, 末梢血好酸球率の7項目からスコア化している. さらに好酸球性副鼻腔炎にも重症度分類が可能であり, アスピリン喘息に合併する好酸球性副鼻腔炎が最も難治性である.
    治療法は, やはり経口ステロイドと内視鏡下鼻副鼻腔手術が主体である. 軽症例では内視鏡下鼻副鼻腔手術と適切な術後管理で治癒し得る. 経口ステロイドは, 血中コルチゾール値を適宜測定しながら, 注意深く長期に処方する. 好酸球性副鼻腔炎の発症機序はまだ不明のままであり, 今後の発展を期待する分野である. ステロイド以外の治療としては, 抗体療法に期待するがまだ本邦での使用は難しい.
原著
  • 端山 昌樹, 赤埴 詩朗, 道場 隆博, 曺 弘規, 山本 雅司, 森 照茂
    2014 年 117 巻 2 号 p. 103-110
    発行日: 2014/02/20
    公開日: 2014/03/20
    ジャーナル フリー
    手術部位感染 (surgical site infection; 以下,SSI) は耳鼻咽喉科・頭頸部外科領域での手術において比較的多いと思われる手術合併症である. 今回われわれはNTT西日本大阪病院耳鼻咽喉科において2009年4月から2011年3月までの皮膚切開を伴う手術症例203例を対象とし, SSIの発生頻度ならびにSSI発生の危険因子について検討を行い報告する.
    SSIは22例 (10.8%) で発生していた. 患者側因子, 医療側因子に分けてSSI発生の危険因子についてχ二乗検定を用いて検討したところ, BMI低値, 糖尿病合併, 貧血, 低アルブミン血症, 手術清潔度, 手術時間, 出血量, 埋入物の存在, 放射線治療歴が有意に相関していた. さらに多変量解析を行ったところ, 術式の清潔度 (odds ratio (OR) 5.88, p=0.02), 術前アルブミン低値 (OR 11.48, p<0.01), 手術時間 (OR 18.66, p<0.01), 埋入物の存在 (OR 20.24, p<0.01) がSSI発生率に有意に相関していた.
    術後感染の発生を抑えるには手術時間や術式選択のみならず, 栄養状態にも配慮することが必要であると示唆された.
  • 畑中 章生, 立石 優美子, 本田 圭司, 鎌田 知子, 田崎 彰久, 岸根 有美, 竹田 貴策, 川島 慶之
    2014 年 117 巻 2 号 p. 111-115
    発行日: 2014/02/20
    公開日: 2014/03/20
    ジャーナル フリー
    従来, 野生株によるムンプスウイルス再感染はまれとされていたが, 近年, 主に小児科領域において, ムンプスウイルス再感染の報告が散見されるようになった. 再感染の診断基準の一つとして, 初診時のムンプスウイルス血清IgM抗体価<2.5, かつ同IgG>25.8が提唱されている. 2010年7月から2011年6月までの12カ月間に, 土浦協同病院耳鼻咽喉科を受診した大唾液腺腫脹症例のうち感染によるものと考えられた45例に対して, 初診時にムンプスウイルス血清抗体価を測定した. ムンプスウイルス初感染と考えられた症例は10例, 上記診断基準からムンプスウイルス再感染と考えられた症例は7例であった. 今回の検討から, ムンプスウイルス再感染はありふれた病態である可能性が示唆された.
  • 稲垣 洋三, 大石 直樹, 神崎 晶, 若林 聡子, 藤岡 正人, 渡部 高久, 渡邉 麗子, 和佐野 浩一郎, 山田 浩之, 小島 敬史, ...
    2014 年 117 巻 2 号 p. 116-121
    発行日: 2014/02/20
    公開日: 2014/03/20
    ジャーナル フリー
    耳鳴再訓練療法 (tinnitus retraining therapy: 以下,TRT) は, 指示的カウンセリング (directive counseling) と音響療法 (sound therapy) を組み合わせて行う神経生理学的モデルに立脚した治療戦略である. サウンドジェネレータを用いた一側性音響刺激によるTRTの有効性およびその予後因子に関しては, 既にOishiらにより報告されている. しかしながら,2年以上の長期経過に関する報告は国内において存在しない. 海外の文献において, S. Fortiらにより3年間効果を追跡した報告があるが, 世界的には音響療法は両耳刺激が原則とされており, 一側性音響刺激の長期治療成績は報告されていない. そこで, 一側性音響刺激を行ったTRT単独症例について, 2年以上経過を追跡できた33例についてまとめた. さらに3年を超える11例について経過を追跡し, 長期的なTRTの有効性および適切な治療終了時期について検討した. その結果, 一側性音響刺激によるTRTは, 耳鳴の日常生活への支障度を長期的に軽減させることが示唆された. 2年を超えても有効性が継続する傾向にあったが, 3年を超えた症例の中には, 耳鳴が再度重症化する症例が認められた. 順応を促す治療であるサウンドジェネレータを用いたTRTの終了時期に関しては, 一般的に2年程度で終了となることが多いが, 最終的には患者個々の状況に応じて対応する必要がある. 個々の耳鳴患者の診療に当たっては, 患者の状態を耳・聴覚のみでなく総合的に診察し, 集学的な治療を行うという耳鳴診療の要点を外さずに, 的確に対応することが重要であると考えられた.
  • 中村 雄, 外山 勝浩, 佐藤 伸矢, 小玉 隆男, 東野 哲也
    2014 年 117 巻 2 号 p. 122-127
    発行日: 2014/02/20
    公開日: 2014/03/20
    ジャーナル フリー
    感染性仮性動脈瘤は比較的まれな疾患である. 今回扁桃周囲膿瘍に続発した感染性仮性外頸動脈瘤症例を経験したので報告する. 症例は60歳代男性で咽頭痛と頸部腫脹を自覚して近医受診, CTにて左扁桃周囲膿瘍と左外頸動脈領域の仮性動脈瘤の所見を指摘され, 当科紹介となった. 入院時のMRIにて動脈瘤内の血流は乏しく, 器質化が進んでいることが示唆されたため, 抗菌薬投与による保存的治療を行った. 経過中, 骨髄異形成症候群を基礎疾患として有していることが判明したが特別な治療を行うことはなかった. 炎症所見・頸部腫脹のいずれも軽快し, 後遺症なく退院した. 感染性仮性動脈瘤の周囲への進展を防止するためには, 適切な抗菌薬や抗真菌薬による原発感染巣のコントロールが重要であると考えられた. また, その評価にはMRIが有用であった.
  • 冨山 道夫
    2014 年 117 巻 2 号 p. 128-134
    発行日: 2014/02/20
    公開日: 2014/03/20
    ジャーナル フリー
    成人急性鼻副鼻腔炎において集団保育児 (集保児) との同居, 65歳以上は薬剤耐性菌の危険因子とされているが, これらの危険因子と成人急性鼻副鼻腔炎の関係について検討を行った報告は少ない. 今回成人急性鼻副鼻腔炎症例における集保児との同居と性差, 年齢構成, 薬剤耐性菌の検出頻度の関係および年齢層と薬剤耐性菌の検出頻度の関係について調査した. 2010~2012年に当院を受診した成人急性鼻副鼻腔炎症例598名を対象とした. 性差は女性が多く, 年齢構成は30代が最も高い割合を占めた. 女性は男性と比較し有意に集保児との同居ありの症例 (集保児同居例) が高い割合を占めた. 30代の症例は30代以外の症例と比較し, 集保児同居例の占める割合が有意に高かった. drug-resistant Streptcoccus pneumoniae,ampicillin (ABPC) 耐性Haemophilus influenzae の検出頻度は, 集保児同居例が同居なしの症例と比較し有意に高かった. 65歳以上と65歳未満の群の薬剤耐性菌の検出頻度に有意差は認めなかった. 集保児との同居は薬剤耐性菌の危険因子であり, 成人急性鼻副鼻腔炎は集保児からの家族内感染が発症要因の一因である可能性が示唆された. 成人急性鼻副鼻腔炎の治療に当たり, 集保児との同居の有無を必ず問診にて確認すべきであると思われた.
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