1986年から2002年までの17年間に当科で初治療を行った耳下腺悪性腫瘍74例(男性39例,女性35例,平均62歳)を対象とした.T別ではT1:4例,T2:9例,T3:6例,T4:55例であり,N別ではN0:50例,N1:9例,N2:14例,N3:1例であった.両葉に腫瘍が及んでいた症例が36例(49%)と最も多かった.治療前に顔面神経麻痺を認めていた症例は18例(24%)で,両葉,深葉に腫瘍が存在するほど顔面神経麻痺の頻度が高かった.病理組織型は16種類と多彩であり,粘表皮癌が16例(22%)と最も多かった.5年,10年生存率は65%,61%であった.T別の5年生存率は,T1は5年経過例はいないが全例生存しており,T2:100%,T3:63%,T4:58%であった.N別の5年生存率は,N0:84%,N1:42%,N2:13%,N3:0%であり,N0とN(+)との間に有意差を認めた(p<0.0001).初診時顔面神経麻痺の有無でも有意差を認めた(p<0.0001).主な病理組織型別の5年生存率は粘表皮癌:69%,腺癌:48%,腺様嚢胞癌:71%,腺房細胞癌,悪性混合腫瘍:100%であった.原発巣手術法の検討から,腫瘍が浅葉や深葉に限局し顔面神経への浸潤がないT1•T2例は顔面神経を保存した葉切除術で十分であり,T3以上の症例は顔面神経本幹からの合併切除と全摘術以上が必要であると考えられた.また,腺癌,粘表皮癌では顔面神経本幹からの切除が必要と思われ,N0症例でも腺癌,腺様嚢胞癌,未分化癌では頸部郭清術が必要と考えられた.
抄録全体を表示