日本耳鼻咽喉科学会会報
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119 巻, 12 号
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総説
  • IgG4 関連疾患
    川 茂幸
    2016 年 119 巻 12 号 p. 1475-1482
    発行日: 2016/12/20
    公開日: 2017/01/14
    ジャーナル フリー

     IgG4 関連疾患とは IgG4 が関連する全身性疾患であり, 最近確立された疾患概念である. 臨床的特徴は, ① 病変が全身に分布し, これらの多くは従来その臓器独自の病名で診断治療されてきた, ② 画像所見として腫大, 結節, 壁肥厚を呈する, ③ 血中 IgG4 値が通常 135mg/dl 以上である, ④ 病変局所にリンパ球形質細胞浸潤, IgG4 陽性形質細胞浸潤を認める, ⑤ ステロイド治療に良好に反応する, ⑥ 他の IgG4 関連疾患を同時性, 異時性に合併することが多い, に集約される. 本疾患概念成立には, 自己免疫性膵炎で血中 IgG4 値が高率, 特異的に上昇し, 病変組織に IgG4 陽性形質細胞が特異的に浸潤すること, が明らかになったことが大きく貢献している. IgG4 関連疾患はほぼ全身諸臓器に分布しているが, 代表的構成疾患は IgG4 関連涙腺・唾液腺炎 (ミクリッツ病), IgG4 関連呼吸器病変, 自己免疫性膵炎, IgG4 関連硬化性胆管炎, IgG4 関連後腹膜線維症, IgG4 関連腎病変などがある. 耳鼻咽喉科領域の IgG4 関連疾患として IgG4 関連ミクリッツ病と IgG4 関連キュットナー腫瘍が知られているが, 新しい疾患概念の可能性として IgG4 関連鼻副鼻腔炎が提唱されている. IgG4 関連疾患の診断は「IgG4 関連疾患包括診断基準2011」によるが, 悪性疾患との鑑別が肝要である. IgG4 関連疾患は長期経過で, 機能障害を呈する慢性期の病態への移行, 悪性腫瘍の合併などが想定され, 今後の検討課題である.

  • ―言語聴覚療法―
    西澤 典子
    2016 年 119 巻 12 号 p. 1483-1489
    発行日: 2016/12/20
    公開日: 2017/01/14
    ジャーナル フリー

     音声・言語の表出, 理解の障害に対するリハビリテーション医療は「言語聴覚療法」と呼ばれる. これを担当する医療専門職 (言語聴覚士) は1997年に国家資格化され, 有資格者数は27,000人を超える. 対象領域をみると, 摂食嚥下, 成人言語・認知などが多数を占め, 脳血管障害などによる全身的な運動障害の機能回復訓練を中心として成り立っているわが国のリハビリテーションを反映している. 一方, 例えば口蓋裂や音声障害, 難聴など, 耳鼻咽喉科の担当する器官に局在する障害に対しては, それぞれに特異的な評価, 機能外科, 訓練手法があり, 領域専門医とリハビリテーション担当者との緊密な連携が必要とされる.
     耳鼻咽喉科に関係する言語聴覚療法の主要な対象疾患とエビデンスをまとめた. 機能性音声障害では, 近年「包括的治療」と呼ばれるいくつかの訓練メソードに関して, 開発者からのエビデンスの報告が比較的充実しているといえる. 実際の臨床場面では, 固有のメソードに固執することなく, 症例に合わせて症状対処的治療, 包括的治療を組み合わせて用いることが多く, メタアナリシスによる有効性が認められている. 一方, 機能性構音障害や口蓋裂術後の構音習慣の異常について, 構音訓練の有効性は臨床家が広く認めるところであるが, エビデンスレベルの高い有効性報告は多くない. 運動障害性構音障害についても, システマティックレビューにおいて高い有効性を認められる報告は少ない.
     このように言語聴覚療法においては, エビデンス研究に限界がある領域が存在することも否定できない. しかし耳鼻咽喉科の専門領域に特化した言語聴覚療法を効果的に運営すれば, 音声・言語障害の病態を正確に把握することで, 診断の精度を上げることができ, 医科的介入に限界のある機能障害に, リハビリテーションを導入することで, 治療の展望がひらける. 耳鼻咽喉科外来が臨床的かつ経営的に合理性のある言語聴覚療法を行うためには, 介入の定義と目標を明確にし, 領域ごとにエビデンスを蓄積していくことが課題である. さらに医師と言語聴覚士が病態の理解を共有し, 適応と予後に関する合意のもとに治療を行うことが必要と考える. これによって, 治療介入に対する適切な報酬が保証され, 臨床医学として認知され得るリハビリテーションが普及していくものと期待される.

  • ―Barany 学会の心因性めまい新分類を中心に―
    堀井 新
    2016 年 119 巻 12 号 p. 1490-1495
    発行日: 2016/12/20
    公開日: 2017/01/14
    ジャーナル フリー

     めまいの慢性化は神経変性疾患のように原疾患が遷延して起こる場合もあるが, 急性めまい後の代償不全や2次性にストレスから不安症やうつを発症しそれらが原因で慢性化・難治化している場合も多い. 実際, 慢性めまい患者の約70%で不安症とうつを合併しており, その程度はめまいの自覚症状の強さおよび病悩期間の長さと相関している. Barany 学会が策定した心因性めまいの国際分類では純粋に不安症やうつがめまいを引き起こしている狭義の心因性めまいに加え, メニエール病など何らかの器質的前庭疾患に精神疾患を合併した例も心因性めまいの範疇で定義されており, このような例は広義の心因性めまいとして対処すべきである. めまい患者の精神背景としては従来考えられてきた不安症だけでなくうつの合併も多いこと, および, ベンゾジアゼピン系抗不安薬の耽溺性の問題から, 心因性めまいの治療薬としては抗うつ・抗不安の両作用を持つ SSRI (Selective Serotonin Reuptake Inhibitor) や SNRI (Serotonin Noradrenaline Reuptake Inhibitor) が推奨される. セロトニンやノルアドレナリンは中枢前庭系でも神経伝達に関与しているが, これらの薬剤は慢性めまい患者の中でも HADS (Hospital Anxiety and Depression Scale) が高値で, 不安症やうつを合併する患者でのみめまいの自覚症状を軽快させることから, その作用機序は前庭機能の改善ではなく精神作用であると考えられる.
     慢性めまい患者の診療に当たっては不安症やうつの合併が多いことを認識した上で HADS などのアンケートを使用し精神疾患の有無を評価する. 不安症やうつを認めた場合には器質的前庭疾患のみならず, 精神疾患の治療も並行して行うことでめまいの自覚症状を軽減することが可能である.

  • ―局所進行甲状腺癌の手術療法―
    森谷 季吉
    2016 年 119 巻 12 号 p. 1496-1503
    発行日: 2016/12/20
    公開日: 2017/01/14
    ジャーナル フリー

     甲状腺分化癌は予後の良好な癌であり, その治療の中心は外科的切除である. 予後良好ではあるが, 初回治療後のリンパ節再発や遠隔再発は10%程度に認める. 死因の多くは遠隔転移であるが, 局所制御不能 (気道出血や窒息など) が死因に占める割合も多い. 被膜外浸潤は重要な予後因子であり, 周囲臓器に浸潤した癌 (隣接臓器浸潤) の取り扱いは, 予後ばかりでなく, 呼吸や構音, 摂食・嚥下など, 術後の QOL に大きな影響を与える. われわれになじみの深い頭頸部扁平上皮癌の手術は, 腫瘍の完全切除を基本とするが, 甲状腺分化癌の隣接臓器浸潤に関しては, その考えは必ずしも当てはまらない. 気道や食道の内腔に浸潤した癌に対して, 腫瘍の完全切除が支持される. しかし, 表層に浸潤が留まるものでは, 臓器切除を含む完全切除を推奨する立場と, 肉眼的な残存 (顕微鏡的な微小残存は容認) のないシェービングを推奨する立場に分かれる. 甲状腺癌の治療に関する複数のガイドラインが発表されているが, 甲状腺分化癌の隣接臓器浸潤に関する具体的な指針は示されていない. 隣接臓器浸潤の中でも, 特に内腔浸潤を認めるものの予後は不良である. これらは表層浸潤例と比べ, 局所および遠隔再発までの期間も短いと報告され, 生物学的特性の変化も示唆されている. また臓器の合併切除が必要となるため, どのように再建を行い術後の QOL を保つかも大きな問題である. 自験例の気管・喉頭浸潤の治療成績も, 他の報告と同様に内腔浸潤例の予後は不良であった. 術後の QOL は, 喉頭全摘は少数であったが, 気管切開孔が残存したものが多く満足のいくものではなかった. 隣接臓器浸潤が複数臓器に及んでいたことが大きな要因であった. 複数の臓器に浸潤した癌をどのように切除し, 同時に機能温存・再建を行うかを考え治療を進める必要がある. また, 死因の多くは遠隔転移死であり, 局所制御とともに遠隔転移をいかに制御するかも, 今後の重要な課題である.

原著
  • 湯田 厚司, 小川 由起子, 鈴木 祐輔, 有方 雅彦, 神前 英明, 清水 猛史, 太田 伸男
    2016 年 119 巻 12 号 p. 1504-1510
    発行日: 2016/12/20
    公開日: 2017/01/14
    ジャーナル フリー

     スギ花粉症の舌下免疫療法は効果的な治療であるが, 安全性と効果にはより良いアドヒアランスが求められる.
     【目的】舌下免疫療法のアドヒアランスの実態と効果への影響を検討する.
     【方法】スギ花粉症舌下免疫療法を2年間行った132例を対象に, 患者申告と処方実績からアドヒアランスを調査した. また, 2016年花粉飛散ピーク時に全般症状の Visual analog scale (VAS), 日本アレルギー性鼻炎標準 QOL 調査票 (JRQLQ No1) のフェーススケール, 総鼻症状薬物スコアを調査し, アドヒアランスとの関係を検討した.
     【結果】処方実績アドヒアランスは1年目 (88.5±9.8%) より2年目 (80.8±13.6%) で下がった (p=0.001) が, 2年間で83.1±11.7%と良好であった. しかし, 患者申告は実際より高く, 特に2年目で13.5%高くされていた (p=0.001). アドヒアランスの良い例で全般症状 VAS 値の良い例が多く, アドヒアランスの悪い例で全般症状 VAS 値のバラツキが大きかった. アドヒアランス70%および75%以上の場合に, 調査した3つの評価項目において効果が認められた.
     【結論】舌下免疫療法のアドヒアランスは比較的良いが, 効果を向上させるためには適切なアドヒアランスを保って治療をすべきである.

  • 和田 哲郎, 鈴鹿 有子, 杉原 三郎, 佐藤 宏昭, 原 晃
    2016 年 119 巻 12 号 p. 1511-1515
    発行日: 2016/12/20
    公開日: 2017/01/14
    ジャーナル フリー

     騒音性難聴は予防が大切である. しかし作業現場での認識は乏しい. 予防のためには騒音作業現場と耳鼻咽喉科医をつなぐ産業保健総合支援センターの役割が重要となる. 日耳鼻産業・環境保健委員会では, センターに耳鼻咽喉科医が産業保健相談員として登録する活動を全国に広げ, その成果をアンケート調査することとした. 各地で申請が行われた結果, 全国47カ所中20カ所のセンターで耳鼻咽喉科医が産業保健相談員として登録された. この活動を通して耳鼻咽喉科の相談員は増加し, センターとの連携は前進したと考えられた. この活動が騒音性難聴予防の一助になることが期待された.

  • 高橋 克昌, 相馬 眞祈, 松山 敏之, 工藤 毅, 近松 一朗
    2016 年 119 巻 12 号 p. 1516-1522
    発行日: 2016/12/20
    公開日: 2017/01/14
    ジャーナル フリー

     神経線維腫症1型の64歳女性に突然生じた右頸部の血腫に対して, 気道確保のため施行した気管切開術後, 気管内に流入する血液が止まらなくなった. 右副咽頭間隙の血管病変からの出血が, 気管傍間隙を通って気管切開孔に達していた. 血管造影にて顎動脈の動静脈瘻が判明し, 動静脈短絡による圧上昇から生じた静脈瘤の破裂と診断した. 止血救命のため血管内治療を施行し, 大量の白金コイルと血管塞栓物質を静脈瘤と動静脈瘻部位に注入した. 頭頸部領域の動静脈瘻に対しては, 外切開手術よりも近年の進歩が著しい血管内治療が望ましいが, 診療報酬や塞栓物質の薬事法未承認の問題がある.

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