日本耳鼻咽喉科学会会報
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124 巻, 2 号
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総説
  • 河田 了
    原稿種別: 総説
    2021 年 124 巻 2 号 p. 81-85
    発行日: 2021/02/20
    公開日: 2021/03/01
    ジャーナル フリー

     耳下腺腫瘍手術, 特に良性腫瘍に対する手術では, 確実な顔面神経の温存が望まれる. 耳下腺腫瘍の多くを占める浅葉腫瘍では, 浅葉部分切除術が基本術式となる. 本術式における神経温存に当たって, まず顔面神経主幹を同定することが最初のステップである. 神経同定を安全, 確実に行うには, 正確な術前診断, 臨床解剖の熟知, および頭頸部腫瘍手術に対する基本手術手技の習得が必要である. 神経刺激装置・神経モニタリング機器を神経同定に活用することはよいが, それに頼らないと手術ができないのでは困る. 顔面神経主幹を安全・確実に同定するポイントとして, 1) 皮膚切開に対応した広い術野を得ること, 2) 筋膜に沿った正しい層で剥離を進めていくこと, 3) 顔面神経主幹を見つける指標となる, ポインター軟骨, 乳様突起, 顎二腹筋後腹を確実に剖出すること, 4) 主幹の直前に走行する茎乳突孔動脈を確実に結紮すること, 5) 神経刺激装置・神経モニタリング機器を適切に使用すること, 6) 電気メス等の機器を活用して, 極力出血させずきれいな術野を得ること, 7) 主幹同定後神経を愛護的に扱うことなどが挙げられる. われわれは良性耳下腺腫瘍996例 (再発腫瘍を除く) に対して本術式を施行し, 一時的顔面神経麻痺を来したのは198例 (19.9%) であった. その回復までの期間は2カ月で50%, 6カ月で90%, 12カ月で100%であった.

  • ―前庭リハの選択と認知療法の導入―
    新井 基洋
    原稿種別: 総説
    2021 年 124 巻 2 号 p. 86-94
    発行日: 2021/02/20
    公開日: 2021/03/01
    ジャーナル フリー

     薬物のみでは治療に抵抗し, 症状が遷延する慢性めまい患者には前庭リハビリテーション (以下, 前庭リハ) の治療導入が推奨される. めまいの主な原因である前庭障害の回復には小脳の中枢代償 (〓前庭代償) が重要な役割を果たし, この代償は前庭リハによって促進される. 効率のよい前庭リハの選択法は確立していないが, 前庭系, 眼運動系, 体性感覚系の3つを有効に刺激することでもたらされる. よって, 米国における前庭リハの基本的考えである下記 a~c

     a. めまい症状を起こしやすい動作を繰り返すことで症状を軽減する馴化訓練

     b. 前庭動眼反射を用いた適応訓練

     c. 視覚と体性感覚を用いた代用, 機能補充訓練

    を元に以下の疾患に関する前庭リハ選択を行った.

     ただし, 過去の前庭リハ総説 (日耳鼻 2017; 120: 1401-1409と2020; 123: 307-314) で詳細に紹介した訓練内容は重複を回避するために割愛した.

     A. めまい発症にストレス関与が高くない (1) 一側前庭障害代償不全, (2) 加齢性めまいと高齢者平衡障害, (3) 良性発作性頭位めまい症.

     B. めまい発症にストレス関与が高い (4) メニエール病, (5) 前庭性片頭痛, (6) 持続性知覚性姿勢誘発めまい.

     女性はストレスが多く, 男性よりもめまいに罹患する割合が多い. めまいが遷延すると不安やうつ状態を併存し, 認知の歪みが患者に生じることを臨床上で多く経験する. その場合には前庭リハと並行して認知療法も治療の手札に加えてほしい.

     最近, 前庭機能低下患者は両側海馬萎縮, 空間記憶低下を認め, 前庭が認知に関与している報告を多数認める. 高齢めまい患者を前庭リハで制御することは要介護, 認知症予防の一貫になることも期待されている.

     高齢めまい患者には全身の問題点を明確化し, 残存機能を考えて各個人に最適な前庭リハを提供することが治療効率を上げることになる. われわれ, 耳鼻咽喉科医は患者を親身になって元気づけ, 患者自身による前庭リハが継続できるような指導を求められている.

原著
  • 清川 佑介, 有泉 陽介, 大野 十央, 伊藤 卓, 川島 慶之, 朝蔭 孝宏, 堤 剛
    原稿種別: 原著
    2021 年 124 巻 2 号 p. 95-102
    発行日: 2021/02/20
    公開日: 2021/03/01
    ジャーナル フリー

     外耳道癌は100万人に一人の発症率とされるまれな腫瘍で扁平上皮癌が多くを占め, その治療プロトコルは施設によって異なる. 当施設で2015年7月~2019年4月の間に一次治療を行った外耳道扁平上皮癌症例を対象に, 手術治療の予後規定因子ならびに CRT との比較を行った.

     初回手術群 (n=27) と TPF-RT 群 (n=6) ではそれぞれ2年全生存期間 (OS) は87.4%, 83.3%, 2年疾患特異的生存率 (DSS) は91.0% と83.3%, 2年無病生存期間 (DFS) が81.1%, 66.7% であった. 初回手術群における予後規定因子 (DFS) として術式, 年齢, 性別, T (ピッツバーグ分類) /N 分類, 病期, 術後病理 (切除断端, 脈管侵襲), 術後補助療法を検討したところ, 切除断端陽性例で予後不良であった. T4 症例で初回手術群 (n=5) と TPF-RT 群 (n=4) を比較したが, 2年 OS はともに75.0%, 2年 DFS は60.0% と 50.0% で有意差は認めなかった. Stage IV 症例で初回手術群 (n=11) と TPF-RT 群 (n=5) を比較すると, 2年 OS はともに80.0%, 2年 DFS は71.6% と60.0% でやはり有意差を認めなかった.

     適切な術式選択により進行例でも手術治療により良好な予後が期待できる可能性はあるが, 術後 QOL を考慮すると TPF-RT も有用と考えられ, 現時点では症例ごとの検討が必要である.

  • 増田 佐和子, 臼井 智子
    原稿種別: 原著
    2021 年 124 巻 2 号 p. 103-108
    発行日: 2021/02/20
    公開日: 2021/03/01
    ジャーナル フリー

     わが国では学校で定期的に健康診断が行われており, 耳鼻咽喉科健康診断もこれに含まれて実施されている. 今回, 学校健診から難聴を疑われて耳鼻咽喉科を受診した小中学生の検討を行った. 対象は201例 (男児86例・女児115例) で, 平均年齢は8.6歳であった. 聴力に関する診断結果の内訳は, 両側感音性難聴8%, 両側伝音性難聴3%, 一側感音性難聴21%, 一側伝音性難聴15%, 一側感音性難聴と機能性難聴合併1%, 機能性難聴29%, 正常23%であった. 両側感音性難聴7例, 一側感音性難聴16例は, 新生児聴覚スクリーニングをパスしていたことが確認された. 両側感音性難聴17例のうち12例が補聴器の適応と診断され, 7例が補聴器装用に至った. 両側伝音性難聴7例のうち中耳奇形1例, 一側伝音性難聴30例のうち中耳奇形3例, 中耳真珠腫6例, コレステリン肉芽腫1例の計11例が手術治療に至った. 機能性難聴は7~8歳児に多く, 女児が76%を占めた. 新生児聴覚スクリーニングや乳幼児健診により難聴の早期発見が進んでいるが, 学校健診は小中学生の難聴の発見と治療介入に有用であり, 重要な機会であると考えられた.

  • ―肺炎球菌結合型ワクチン導入前後の比較―
    冨山 道夫
    原稿種別: 原著
    2021 年 124 巻 2 号 p. 109-121
    発行日: 2021/02/20
    公開日: 2021/03/01
    ジャーナル フリー

     成人急性鼻副鼻腔炎において集団保育児 (集保児) との同居 (集保児同居) と同居している集保児の年齢層が, 薬剤耐性肺炎球菌 (drug-resistant Streptcoccus pneumoniae: DRSP) 検出の背景因子とされている. この集保児より検出される S. pneumoniae の動向に関しては, 肺炎球菌結合型ワクチン (pneumococcal conjugate vaccine: PCV) 導入前後で変化が見られ, 導入後に集保児の DRSP の検出頻度が有意に減少したこと, 導入前は集保児は未入園児より, 2歳未満の集保児は2歳以上の集保児より DRSP の検出頻度が高かったが, 導入後はこれらの差が見られなくなったことが報告されている (乳幼児の動向). そこでこの乳幼児の動向に伴う成人急性鼻副鼻腔炎の DRSP の検出頻度と DRSP 検出の背景因子の変化について, PCV 導入前後で後方視的に検討した. 対象は S. pneumoniae が検出された成人急性鼻副鼻腔炎症例のうち PCV 導入前の2007~2009年 (Ⅰ期) 188名, PCV13 導入後3年を経過した2017~2019年 (Ⅱ期) 202名である. その結果Ⅱ期に DRSP の検出頻度が有意に減少し, 集保児同居と同居している集保児の年齢層が DRSP 検出の背景因子ではなくなったことが判明し, PCV の集団免疫効果が示唆された.

  • 高橋 優人, 正道 隆介, 高橋 剛史, 植木 雄志, 山崎 恵介, 堀井 新
    原稿種別: 原著
    2021 年 124 巻 2 号 p. 122-127
    発行日: 2021/02/20
    公開日: 2021/03/01
    ジャーナル フリー

     末梢挿入型中心静脈カテーテル (peripherally inserted central catheter, PICC) は安全性が高く頭頸部癌の薬物療法でも用いられるが, 留置側の左右差に着目した報告は少ない. PICC 留置後の先端位置移動と合併症発生率の左右差について検討した.

     PICC 留置を行った頭頸部癌145例172件を対象とし後方視的な調査を行った. 留置側は右36件, 左136件で, 留置期間中央値は65日であった. 121例137件で X 線による留置時・留置後の先端位置評価が可能であった. 先端位置を Zone A: 上大静脈下半分と右心房上部, Zone B: 上大静脈上半分と左腕頭静脈合流部, Zone C: 左腕頭静脈に分類し, Zone A・B を適正位置とした. 右側では留置時33件 (100%), 留置後30件 (91%) が適正位置であったのに対し, 左側では留置時97件 (93%), 留置後82件 (79%) が適正位置で, 留置時と留置後では有意な変化を認めた (p=0.001). そのほかの合併症発生率に左右差は認めなかった.

     左側からの PICC 留置では上大静脈右側壁にカテーテル先端が当たり, Zone A への留置率が低い. さらに留置後の体位・肢位の変化により先端が移動し, 適正位置である Zone A・B に留まりにくい. 不適正な先端位置は遅発性の上大静脈壁損傷や血栓症を招くため, 右側からの PICC 留置が望ましいと考えられた.

  • 佐藤 雄一郎
    原稿種別: 原著
    2021 年 124 巻 2 号 p. 128-134
    発行日: 2021/02/20
    公開日: 2021/03/01
    ジャーナル フリー

     2008年6月~2019年5月に施行した Provox® 留置術53例を後ろ向きに検討した. 音声再獲得率, 入院加療を要した合併症の発生率, 音声再獲得および合併症発生に関連する因子を統計学的に解析した. 年齢中央値は68歳, 性別は男性50例 (94.3%), 女性3例 (5.7%) であった. 放射線治療の「既往あり」27例 (50.9%),「既往なし」26例 (49.1%), 留置方法は一期的留置11例 (20.8%), 二期的留置42例 (79.2%)であった. ST 介入「あり」33例 (62.3%),「なし」20例 (37.7%) であった. Performance Status Scale for Head and Neck Cancer (PSS-HN) に基づく PSS-HN=75 以上の音声獲得率は47例 (88.7%) であった. ST 介入あり群 (96.7%) は, なし群 (76.2%) に比して音声獲得率は有意に高かった (p=0.0307). 入院を要する合併症は13例 (24.5%) に生じた. 放射線治療の有無や留置術のタイミングによる合併症発生率に差はなかった. Provox® による音声再獲得率は, 特に ST 介入症例で有意に向上していた. リハビリテーションの効果に加えて, 患者側のコミュニケーション意欲が向上したことも要因である. 今後は Provox® 管理が可能な施設の増加, 他施設・他診療科医師への啓発が課題と考えられた.

最終講義
専攻医トレーニング講座
専門医スキルアップ講座
ANL Secondary Publication
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