日本耳鼻咽喉科学会会報
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121 巻 , 6 号
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総説
  • 肥塚 泉
    2018 年 121 巻 6 号 p. 753-760
    発行日: 2018/06/20
    公開日: 2018/07/05
    ジャーナル フリー

     高齢者においては, めまいの有訴者率が高率になることが報告されている. 高齢者におけるめまい・平衡障害は, 転倒のリスクファクターの一つである. 高齢者によくみられる大腿骨近位部骨折の74%は転倒が原因とされる. 高齢者の ADL(activity of daily living) を極端に低下させることがある転倒を予防する上でも, 高齢者のめまい・平衡障害に対する理解と, これに対する適切な対応が重要である. 末梢前庭系における加齢変化は耳石, 有毛細胞から前庭神経まで前庭器全体に及ぶ. 眼では調節力の低下, 網膜感度の低下などが生じる. 体性感覚も加齢変化を受ける. 前庭神経核や舌下神経前位核, 前庭小脳などで構成され, 視覚情報, 体性感覚情報, 前庭感覚情報を統合処理している neural store (神経積分器の一種) や大脳, 多モダリティ感覚領域である頭頂―島前庭皮質 (parieto-insular vestibular cortex: PIVC) や頭頂連合野の VIP 野 (ventral intraparietal area) にも加齢変化が生じる. 高齢者のめまい・平衡障害の病態の把握には, “平衡感覚システム全体” の理解が必要となる. 加齢によるめまい・平衡障害の予防法は確立しておらず, 前庭動眼反射 (vestibulo ocular reflex: VOR) などを鍛えるめまいリハビリテーション (前庭訓練), 体性感覚を鍛える足底刺激, 下肢筋力を鍛える訓練 (加圧) などが行われている. めまいリハビリテーションの目的は前庭代償の促進である. 平衡感覚の維持に用いられている視覚情報, 体性感覚情報, 前庭感覚情報の各入力系に, 個々に生じた加齢変化の個体差や時間差による, “情報間のミスマッチ” を是正するようなパラダイムが用いられる. われわれは, 体性感覚入力が VOR の利得ならびにその可塑性に与える影響について検討を加えている. これまでの, 視覚入力を主体とした手法に加え, 体性感覚などほかの感覚入力を積極的に活用して行うめまいリハビリテーションの有用性を示唆する結果を得ている.

  • 土師 知行
    2018 年 121 巻 6 号 p. 761-765
    発行日: 2018/06/20
    公開日: 2018/07/05
    ジャーナル フリー

     「音声機能外科=phonosurgery」とは病変の切除を目的とするのではなく, 劣化した音声機能そのものを手術により改善するという概念に沿った外科治療を言うが, 音声改善手術とは音声機能外科の概念に沿ったさまざまな手術を指す. 音声改善手術にはラリンゴマイクロ手術でのマイクロフラップ法, 声帯注入, 甲状披裂筋切除など, あるいは甲状軟骨形成術を代表とする喉頭枠組み手術, 神経筋弁移植などの神経・筋移植, 再生法あるいは喉頭全摘後の代用音声獲得のためのシャント手術などがある. これらの手術の特徴や限界を理解するためには, 喉頭や音声生成に関連した臨床解剖や生理をよく知っておく必要がある. ここでは音声改善手術を行う際に留意すべき臨床解剖と生理の注意点について, 1) 声帯の構造, 2) 声帯の物性の調節, 3) 声帯の内転・外転運動, 4) 声帯のレベルと甲状軟骨, 5) 喉頭正中部の構造, の観点から論じた. また, 音声改善手術を施行する際のインフォームド・コンセントの重要性についても述べた.

  • 藤井 隆
    2018 年 121 巻 6 号 p. 766-770
    発行日: 2018/06/20
    公開日: 2018/07/05
    ジャーナル フリー

     頸部郭清術は耳鼻咽喉科・頭頸部郭清術外科医にとって必修の手術手技であるが, 頭頸部癌患者の予後および QOL を左右する重要な手術手技でもある. その術式は時代とともに変遷しながら, 各施設における先達による手技の工夫が加わりさまざまなバリエーションが生じてきたが, 変わらないコンセプトは,「リンパ節とリンパ管を含む脂肪結合織を周囲組織から切離し筋膜などの被膜に包んで摘出する」ということである. そのため, 頸部の筋膜の解剖と郭清組織を六面体に見立てて摘出するイメージは重要である.

     昨今では, 進行癌に対しても化学放射線療法が標準治療の一角を占めるようになり, 救済手術として頸部郭清術を行う機会が増えてきた. このような症例では, 強い線維化や瘢痕のため非照射例とは剥離の容易さが全く異なることがある. 非照射例では多くの場合, 鈍的剥離で容易に剥離される層は正しい郭清の面と一致するが, 救済手術では必ずしもそうとは限らない. 瘢痕組織は硬いため, 鈍的な剥離では本来の郭清すべき面と異なる脆弱な部分で裂けやすいことに注意が必要である. そのため, 瘢痕組織の切離を行う場合には, メスで鋭的に行う方が正確かつ容易である. 鋭的剥離の際には, メス刃の角度や動かし方を変えることで, メスの切れ味を調節したり, 想定以上に深く切り込まないようにすることが可能である.

     術後の QOL の面からは神経や筋肉などの非リンパ組織はできるだけ温存できることが望ましいが, 機能温存的な手術で再発があっては本末転倒である. 郭清範囲内からは絶対再発させないことを優先して術式を選択し実践することが重要であり, 治癒へのラストチャンスとなる化学放射線療法後の救済手術ではなおさらである. そのため, 瘢痕組織を正しい層で剥離することが容易なメスによる鋭的剥離の手技に習熟しておくことが望ましい.

  • 小林 泰輔
    2018 年 121 巻 6 号 p. 771-776
    発行日: 2018/06/20
    公開日: 2018/07/05
    ジャーナル フリー

     唾液腺には腫瘍性疾患以外にも, 炎症性疾患や嚢胞性疾患が発症する. その代表例が唾石症とガマ腫である. これらは古典的疾患であるが, 近年, その治療法は医療機器や薬剤の進歩により変化してきた. 唾液腺管内視鏡は1990年代にヨーロッパを中心に開発され, 2009年にはじめて日本でも導入された. 唾液腺管内視鏡による唾石摘出術は低侵襲で唾液腺の機能温存を可能にする. 手術適応は, 主に術前の computed tomography(CT) で唾石の位置, 大きさと形状を評価して決める. 顎下腺唾石症では直径5mm以下のものは内視鏡により摘出できる可能性が高いが, 部位や形状により口内法を併用して摘出する必要がある. 腺内結石は唾液腺摘出術の適応である. 唾液腺管内視鏡の操作には learning curve が大きいため, 容易な症例から手術に取り組み徐々にステップアップしていくのが良い. ガマ腫, 中でも顎下型ガマ腫は治療開始前にリンパ管腫や類皮嚢胞との鑑別を確実に行い, 治療方針を決定することが重要である. 近年行われるようになった, OK-432 によるガマ腫の硬化治療は治療の第1選択である. 再発を繰り返す症例に対しては根治的治療である舌下腺摘出術を行う.

  • 河田 了
    2018 年 121 巻 6 号 p. 777-782
    発行日: 2018/06/20
    公開日: 2018/07/05
    ジャーナル フリー

     耳下腺腫瘍手術, 特に良性腫瘍に対する手術では, 確実な顔面神経の温存が望まれる. 耳下腺腫瘍の多くを占める浅葉腫瘍では, 浅葉部分切除術が基本術式となる. 本術式における神経温存にあたって, まず顔面神経主幹を同定することが最初のステップである. 神経同定を安全, 確実に行うには, 臨床解剖を熟知するとともに, 頭頸部腫瘍手術に対する基本手術手技を習得する必要がある. 神経刺激装置・神経モニタリング機器を神経同定に活用することはよいが, それに頼らないと手術ができないのでは困る. 顔面神経主幹を安全・確実に同定するポイントとして, 1) 皮膚切開に対応した広い術野を得ること, 2) 筋膜に沿った正しい層で剥離を進めていくこと, 3) 顔面神経主幹を見つける指標となる, ポインター軟骨, 乳様突起, 顎二腹筋後腹を確実に剖出すること, 4) 主幹の直前に走行する茎乳突孔動脈を確実に結紮すること, 5) 電気メス等の機器を活用して, 極力出血させずきれいな術野を得ること, 6) 同定後神経を愛護的に扱うことなどが挙げられる. われわれは良性耳下腺腫瘍773例 (再発腫瘍を除く) に対して本術式を施行し, 一時的顔面神経麻痺を来したのは161例 (21%) であった. その回復までの期間は2カ月で50%, 6カ月で90%, 12カ月で100%であった.

原著
  • 金沢 弘美, 新鍋 晶浩, 高橋 絵里, 増田 麻里亜, 民井 智, 山本 大喜, 江洲 欣彦, 長谷川 雅世, 織田 潔, 吉田 尚弘
    2018 年 121 巻 6 号 p. 783-790
    発行日: 2018/06/20
    公開日: 2018/07/05
    ジャーナル フリー

     ビスホスホネート薬剤は, アレンドロン酸 (商品名: ボナロン, フォサマックほか) やソレドロン酸 (商品名: ゾメタほか) など骨粗鬆症や癌の骨転移に対する第一選択薬であり, 特に高齢者が内服中の薬として日々の外来診療においてよく見かける薬剤である. 日本においては, 1990年代中頃より発売開始となっている. 副作用として顎骨壊死が知られているが, 2005年頃より外耳道骨壊死も海外から報告されるようになり, 2016年5月には厚生労働省により重大な副作用として追記されている. そこで現在当院外来を通院している外耳道内に限局した外耳道真珠腫患者18例の薬剤使用歴を調べたところ, 6症例において同製剤の長期使用が確認され, これらは全例骨露出病変を認めていた. 同製剤使用の有無により分けて保存的治療効果について比較検討を行った結果, 同製剤使用症例は, 保存的治療のみでは骨露出部の上皮化は難しい傾向であった. これより骨露出を認める外耳道真珠腫の難治化に関係している可能性が示唆された. 外耳道骨壊死の診断基準はまだ確立されておらず, 顎骨壊死の基準を参考にすると, 6例中5例において当てはまった. ビスホスホネート製剤は今後高齢化に伴い同製剤長期間使用患者の増加が予想され, 外耳道真珠腫症例を診る際には, 同製剤使用歴の確認, 患者側への説明が大切であると考えた.

  • 橘 澄, 樫尾 明憲, 尾形 エリカ, 赤松 裕介, 五十嵐 一紀, 星 雄二郎, 坂田 阿希, 藤本 千里, 江上 直也, 岩﨑 真一, ...
    2018 年 121 巻 6 号 p. 791-798
    発行日: 2018/06/20
    公開日: 2018/07/05
    ジャーナル フリー

     前庭水管拡大症は反復するめまい発作と進行性難聴を伴う疾患である. 難聴とともに平衡機能障害が潜在的に存在することが予想され, 難聴が進行し人工内耳手術の適応となった場合, 残存する平衡機能が術側決定において一つの重要な因子となるが, これまで平衡機能について検討した報告は少ない. 今回われわれは1999年~2016年までに当科で人工内耳埋込み術を行った前庭水管拡大症患者13例26耳につき, 平衡機能を温度刺激検査および前庭誘発頸筋電位 (cVEMP) を用いて評価し, 臨床所見との相関を検討した. 温度刺激検査は11名21耳に施行し, 両側無反応例が2名, 一側無反応または低下例が3名, 合計21耳中7耳33.3%に機能障害を認めた. 一方 cVEMP は12名23耳に施行し, 一側の反応低下を1名, 23耳中1耳4.3%に機能障害を認め, 症例全体では38.7%に cVEMP または温度刺激検査に異常所見を認めた. めまい発作の既往があった6名中5名に平衡機能障害を認めたのに対し, 既往がない7名は平衡機能障害を認めず, めまい発作と平衡機能障害には有意な相関があった. 聴力レベル, 難聴の進行, 前庭水管径と平衡機能障害に相関はなかった. 前庭水管拡大症患者では4割に平衡機能障害を認めることから, 人工内耳術前の平衡機能検査は重要であり, 特にめまいの既往がある症例では必須と考えられた.

  • 齋藤 善光, 宮本 康裕, 望月 文博, 阿久津 征利, 加藤 雄仁, 藤川 あつ子, 栗原 宜子, 谷口 雄一郎, 肥塚 泉
    2018 年 121 巻 6 号 p. 799-804
    発行日: 2018/06/20
    公開日: 2018/07/05
    ジャーナル フリー

     Silent sinus syndrome(SSS) は上顎洞自然孔が閉塞し, 低換気により洞内が陰圧化し, 上顎洞内陥や骨菲薄化に伴って無症候性の眼球陥凹, 眼球低位を認める疾患である. われわれは, 鼻副鼻腔乳頭腫の影響で, 上顎洞自然孔閉塞により発生したと思われた, SSS 様の所見を呈する1例を経験した. 治療は, 内視鏡下で腫瘍摘出し, 上顎洞を開放した. 術後, 上顎洞内陥は改善し, 翼口蓋窩陰影が縮小した. 上顎洞自然孔が閉塞し, 上顎洞内陥に伴う翼口蓋窩の拡大を認めた場合は, SSS を念頭に置く必要がある. また, SSS であれば上顎洞を開放することで症状, 所見共に改善するため, 診断的治療として手術は有効な手段と考える.

  • 門脇 嘉宣, 平野 隆, 鈴木 正志
    2018 年 121 巻 6 号 p. 805-811
    発行日: 2018/06/20
    公開日: 2018/07/05
    ジャーナル フリー

     中耳手術症例の側頭骨 CT 画像より Multi-planar reconstruction(MPR) を用いて矢状断画像を得た後, それを回転・反転させて手術体位と同じ向きにすることで, 顕微鏡下耳科手術における手術視野に類似した視点の surgical position view(SPV) 画像を作成した. 画像の作成・参照は病院内の一般電子カルテ端末で施行可能であり, 過程も簡便だった. この SPV 画像を, 5年次医学生を対象とした耳科手術の臨床解剖教育の解説に試用した. 単回での解説のため優位性の評価は困難ではあるが, 従来の軸位断・冠状断画像だけで行うより手術時の解剖理解の平易化に繋がる可能性が示された.

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