日本耳鼻咽喉科学会会報
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76 巻, 6 号
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  • 超高速度映画による解析
    平野 実, 川崎 洋, 松下 英明, 吉田 義一, 小池 靖夫
    1973 年 76 巻 6 号 p. 721-728
    発行日: 1973/06/20
    公開日: 2008/12/16
    ジャーナル フリー
    一側反回神経麻痺3症例について声帯の振動モードを超高速度映画によつて観察,分析した.主なる成績は次の如くである.(1)神経の再支配がかなりよく行なわれている1例では,声門後部が完全に閉鎖しない他はほぼ正常の振動モードを示した.(2)脱神経が長期にわたつて持続し,筋の変性萎縮が起つている2例に共通の所見は,声門全長にわたる閉鎖の不完全と粘膜波動の欠如であつた.(3)これら2例中の1例では患側声帯の異常な振動が目立ち,患側声帯の振幅は小さく,位相が健側と異なり,また患側声帯内の各部間にも位相のずれを認めた.声門面積波形は健側の動きに比較的一致していた.(4)他の1例では両声帯の周波数の違いが最も注目すべき所見であり,患側の5~6周期毎に健側の周期が一つ脱落していた.
  • 川城 信子
    1973 年 76 巻 6 号 p. 729-738
    発行日: 1973/06/20
    公開日: 2008/12/16
    ジャーナル フリー
    後迷路性難聴(本論文では後迷路性難聴というのは顔面神経鞘腫あるいは聴神経腫瘍による第8神経障害および脳幹障害をいう)において語音弁別が著しく悪くなるが,その理由については明らかになつていない.後迷路性難聴においては音の強さに関する異常ばかりでなく,音の高さに対する感覚にも異常がみられるのではないかと推測でぎる.その意味で内耳性難聴および後迷路性難聴において周波数分析能の異常にどのような差異があるかを明らかにするために次のような研究を行なつた.検査対象は正常10例.一組性内耳性難聴32例.聴神経腫瘍および顔面神経鞘腫による後迷路性難聴13例である.
    以上の症例に対して2つの検査法を行なつた.
    (1) alternative binaural pitch balance test(以下ABPBテストと略す);両耳に交互に音をきかせ両耳間の音の高さの感覚がバランスする値を求めた.
    (2) monaural frequency difference limen test(以下MFDLテストと略す);2音比較法を用い,単耳で,固定周波数Fと高さが違うと知覚される最小の域値△Fを求めた.ΔF/F×100で検討した.検査はいずれも域値上20dBで250Hz,500Hz,1KHz,2KHz,4KHz,8KHzの各周波数について行なつた.次のような結果を得た.
    1) ABPBテストは内耳性難聴において250Hzで左右差が大であつたが,500HZ,1KHz,2KHz,4KHz,8KHzでは正常範囲内であつた.後迷路性難聴では500Hzのみ正常範囲内にあるが,250Hz,1KHz,2KHz,4KHz,8KH2ではABPBテストの左右差が大であり,症例によるばらつきが大である.
    2) ABPBテストの左右差と聴力損失,語音明瞭度との相関関係は内耳性難聴,後迷路性難聴ともに認められなかつた.
    3) MFDLテストは内耳性難聴では正常範囲内にある.これは従来の報告と異なる結果であつた.後迷路性難聴では周波数弁別域値が大で,250Hz,1KHz,2KHz,に正常および内耳性難聴との間に有意差があつた.
    4) MFDLテストは内耳性難聴の場合,聴力損失および語音明瞭度との間に相関的関係はなかつた.後迷路性難聴では語音明瞭度40%以上の群と40%未満の群の間にMFDLテストに有意の差が認められた.
    5) 以上のような結果が得られたが第8神経障害および脳幹障害による後迷路性難聴の場合に語音弁別が著しく悪くなるのは音の高さの感覚の障害が本質的に関与しているのではなさそうである.
  • 神田 敬, 北村 武, 金子 敏郎, 飯泉 修
    1973 年 76 巻 6 号 p. 739-743
    発行日: 1973/06/20
    公開日: 2008/12/16
    ジャーナル フリー
    モルモット及び人間の嗅粘膜上皮の表面を走査型電子顕微鏡を用いて観察した.
    材料はモルモットの鼻中隔上方後部及び上顎癌手術時の患者の鼻中隔の上方後部と上鼻甲介側壁を観察対照とえらんだ.摘出せる組織片は生理食塩水で充分に洗浄し,5%-glutar aldehydeで前固定し,cacodylate bufferで良く洗浄し,2%O5O4で後固定した.ethanolで脱水しamylacetateに移し,critical point法で脱水乾燥させた.乾燥した組織片は金とカーボンで真空蒸着し,走査型電子顕微鏡で観察した.
    所見並びに結果
    (1) モルモットの嗅上皮
    嗅覚部と呼吸部との境界は明瞭に区別され嗅覚部の方が呼吸部に比較して高く観察された.嗅細胞の数は1mm3につき8~10万個である.嗅小胞の大きさは直径1~2μでほぼ球形をなし,表面は平滑でnut様の紋様をもつ.1コの嗅小胞からでる嗅線毛の数は6~8本で,上皮をおおうように上皮に平行に走行し,フェルト細工を形成している.
    (2) 人間の嗅上皮
    嗅細胞の存在する位置はその面積に比較して狭い.嗅細胞の数は1mm3につき約3万である.嗅小胞の大きさは直径8~10μで表面は凹凸が著しく,moon surface状を呈している.1コの嗅小胞からでる嗅線毛の数は2~3本のものから数本もつものと不定で,その長さも0.5μの短いものから10μ前後の長いものもある.
  • 中島 恒彦
    1973 年 76 巻 6 号 p. 744-746
    発行日: 1973/06/20
    公開日: 2008/12/16
    ジャーナル フリー
    モルモツトの前庭器外半規管で内リンパ直流電位の測定を行つた.またアノキシアによる電位の変化を観察した.外半規管内リンパ直流電位は+2~+4mVという,球形のう,卵形のう,膨大部において報告された電位と大差ない値を示した.アノキシアにより電位は極性を逆転するのが観察された.前庭器内リンパ直流電位の値については,蝸牛内リンパ直流電位の如く大きな陽性電位を示さないことは諸家の報告によりほぼ明らかであるが,その成因については蝸牛内リンパ電位の影響をうけた単なる受動的なものであるか,または前庭器内で発生するものか不明である.蝸牛管から遠ざかるにつれて前庭器内リンパ電位が次第に低下するといつた勾配を示さず,前庭器全体を通してほぼ一定の小さな陽性電位が保たれている点や,アノキシアにより前庭内リンパ電位も極性を逆転する点からみて前庭独自の電位維持機構が存在する可能性が考えられた.
  • 酒井 俊一, 松永 喬
    1973 年 76 巻 6 号 p. 747-759
    発行日: 1973/06/20
    公開日: 2008/12/16
    ジャーナル フリー
    本邦において耳硬化症は少なく,アブミ骨摘出術を行なう機会も稀である.しかし聴力改善を目的とした二次的鼓室成形術に際しアブミ骨外科が重要な課題となつて来た.この機会にアブミ骨摘出術後に起る内耳障害の頻度,原因,対策などについて熟知しておく意義は大きいと考える.
    著者らはアブミ骨摘出術を行つた734例の術後聴力および100例の平衡機能を検査し,自から行なつたアブミ骨摘出術も23例となつたのでここにその成績を発表した.
    術後聾となつたものは734例中4例(0.5%)であり,自験例では認めなかつた.1年後に骨導聴力が10dB以上悪化した症例は326例中21例(6.4%)であり,自験例では2例(8-7%)に認めた.
    術後一過性の平衡障害は一般に術側前庭のHypertonieを経て正常に戻るものが多いが,全例を詳しく見ると6型に類型化できた.廃絶例の2例を除けば全例正常に回復した.術後長期に続く平衡障害は自験例13名中1名に頭位変換性めまいを認め,各種平衡機能検査を行なつた結果,阪大式振子様回転検査において,耳石系を主とする内耳障害があるものと推察した.
    文献的考察を加え,内耳障害の原因,予防策などについて紹介した.
  • 横見 美昭
    1973 年 76 巻 6 号 p. 760-772
    発行日: 1973/06/20
    公開日: 2008/12/16
    ジャーナル フリー
    1 目的:現在,神経耳科臨床で一般におこなわれている平衡機能検査はENGを軸とした電気生理学的アプローチが中心をなし,現在のめまいに対する臨床的研究の主流を占めている.他方,めまいの病態ならびに生化学的面よりの研究は少ない.今回,著者は生化学的アプローチとしてめまい患者の血中セロトニンを測定し,めまい,平衡障害との関連についての研究をおこない有意義な結果を得た.
    2 方法:めまい患者54名および正常者29名について,血中セロトニンの定量をおこない,平衡機能検査成績とともに検討を加えた.セロトニンの抽出法はS. H. Snyder法にしたがい,測定は螢光法で定量的におこなつた.なお,基礎的研究として正常者29名のうち2名に回転刺激によつてめまいを誘発し,血中セロトニンの経時的観察をおこなつた.なお18名には温度刺激による誘発をおこない刺激前後の血中セロトニン値を比較検討した.さらに治療目的をかねて,めまい患者のうちセロトニン値が高値を示す症例3例に対し,L-DOPAの投与をおこない,血中セロトニン,尿H. V. Aおよび臨床的経過を観察し検討を加えた.
    3 結果:
    1) 正常者に対し回転,温度刺激によりめまい,眼振を誘発させ血中セロトニン値の上昇を認めた.
    2) めまい患者の血中セロトニン値は正常者に比して多く統計的に有意の差を認めた.
    3) めまい患者の眼振の認められるものと,認められないものとの間には,血中セロトニン値において統計的に有意の差を認めた.
    4) 血中セロトニン値の高いめまい患者3名にL-DOPAを投与し,全例に血中セロトニンの減少を認めた.
    5) めまいとセロトニンとの間には密接な関係があるものと考えられる.
  • 若山 徹
    1973 年 76 巻 6 号 p. 773-795
    発行日: 1973/06/20
    公開日: 2008/12/16
    ジャーナル フリー
    研究目的:頸性眩暈はBarre,Maspetiolらによつて,頸性の障害に起因して惹起されるめまいが報告されていらい,最近,とくに神経耳科学領域において注目をあびてきている.しかしながら本症の原因については諸説がありいまだ明らかにされていない.本研究では,本症と非頸性眩暈と比較検討をおこない本症の特徴を浮き堀りにするとともに本症の発生機序について推論した.
    研究方法:研究対象は,昭和43年5月より,昭和47年4月までの4年間に日本医科大学附属病院耳鼻咽喉科めまい外来を受診した患者のうち,頸部レントゲン写真像,および上腕動脈経由逆行性椎骨動脈撮影像で頸都に異常をみとめたものを,I項部のOssification,II頸椎の骨棘形成,III頸椎の変形,IV頸椎の癒合,V頸椎推間の狭小,VI椎骨動脈障害の6群に分類し対象とし,また比較対照としては,頸部レントゲン写真像および上腕動脈経由逆行性椎骨動脈撮影像で異常をみとめなかつためまい患者をもちい,年令分布,めまいの性質,四肢平衡機能検査,眼振検査,眼運動系の検査(視運動性眼振検査,視標追跡検査),温度眼振検査について比較検討した.
    研究結果:頸部障害者のめまいの性質は,回転感を訴えるものが多くみられ,四肢平衡機能検査では,対照群にくらべてRomberg陽性率が高かつた.足踏検査は偏倚をみたものはほぼ同率であつたがStaggeringをみたものは圧倒的に高率であつた.結局,四肢平衡機能検査では対照群にくらべて頸部障害のすべての群が異常出現率が高かつた.眼振検査では注視眼振出現率は対照群より低くかつた反面,頭位眼振,頭位変換眼振の出現率は高かつた.とくに椎骨動脈障害群では眼振出現率が高く,頭位眼振,頭位変換眼振各検査の重要性を証明し得た.視運動性眼振検査で中枢障害型を示すものが対照群にくらべて多かつた.とくに椎骨動脈障害,頸部の運動障害をみるものに多かつた.視標追跡検査では頸部障害のすべての群が対照群にくらべて異常出現率が高かつた.頸性眩暈の発生機序に関して文献的考察を加えるとともに,頸部の障害とくにながい年月にわたつて行なわれてきた頸部の運動による椎骨動脈の血流障害によつて,その血流域である脳幹および小脳になんらかの影響をあたえた結果であろうと推論した.
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