昭和40年から56年の17年間に国立がんセンター頭頸科で加療した舌癌症例531例中外科療法を主体に行った扁平上皮癌新鮮例で,術前治療のないもの,または術前治療による影響を認めない40例を腫瘍の占居部位によって7群に分類し,その検討から以下の結論を得た.
1. 腫瘍の臨床的な進展部位と病理組織学的な進展部位はほぼ一致していた.術前の十分な触診は手術範囲の決定,予後推定に重要である.
2. 原発巣の切除について
1) 切除断端と腫瘍の距離が近い程,その部での再発の可能性が高い.
2) 術前腫瘍が口腔底に進展している例,あるいは接している例でも頸部皮膚直下での再発の可能性が高く,このような症例での底部の切除は顎舌骨筋は勿論のこと,舌骨上組織の全切除が必要で,舌骨の切除も考慮すべきである.
3) 腫瘍が前口蓋弓に進展している例では軟口蓋断端での再発の可能性が高く,このような症例では扁桃窩を含めて軟口蓋半側切除が必要と考えた.
4) 腫瘍が下顎骨に進展している例は別として,下顎骨切除の有無での局所再発率に差はなかった.下顎骨と腫瘍との距離が取れる場合には下顎骨は保存され得ると考える.
3. 頸部リンパ節転移について
1) 腫瘍の占居部位により分類した7群のいずれにも転移が認められた部位は,同側顎下部,上深顎部だった.次いで同側中深頸部に多かった.
2) 腫瘍が口腔底に進展した例では頸部リンパ節転移の出現は高率となり,転移の出現部位も対側下深顎部まで広範な領域に及んだ.
3) 初診時No症例に対する頸部郭清術は,今回の検討からは口腔底進展例等頸部リンパ節転移の出現頻度の高いもの,あるいは原発巣を外科療法で治療する場合には予防郭清術をその他のものでは原発巣の治療がRa針等であれば転移が出現してから郭清するという方針で良い.
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