日本耳鼻咽喉科学会会報
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74 巻, 7 号
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  • 牧島 和見
    1971 年 74 巻 7 号 p. 1099-1102
    発行日: 1971/07/20
    公開日: 2010/10/22
    ジャーナル フリー
    1. 目的: 糖尿病患者に特有の難聴があるとすれば, その病態, 成因はどうであるかを形態学的に把握したいと思った.
    2. 方法: 糖尿病屍患者の側頭骨および聴覚中枢路を病理組織学的に検索し, 生存中に得た聴覚像との対比を試みた.
    3. 結果:
    (1) オージオグラムで8192Hzに左右対称性の感音性聴覚閾値上昇を認めた. 生存中, 耳科学的愁訴はなかった.
    (2) 内耳の主病変はラセン神経節萎縮であった. 第8脳神経に脱髄などの変性を認めた.
    (3) 内耳道の小動脈, 血管条毛細血管に内腔狭窄などの変化を認めた.
  • 坂井 真
    1971 年 74 巻 7 号 p. 1103-1118
    発行日: 1971/07/20
    公開日: 2010/10/22
    ジャーナル フリー
    1. 臨床的耳硬化症とstapedectomy
    白色人種では発生頻度の高い耳硬化症は日本人にはきわめて少ない. 著者は過去約3年間に24人の臨床的耳硬化症患者を発見し, これら患者の一側又は両側耳の合計37耳に対してstapedectomyを行ない次のような結果を得た.
    1) 日本人における臨床的耳硬化症の発生頻度は耳疾患々者の約0.25%であり, コーカシア人種, アリアン人種よりもはるかに低い発生頻度である.
    2) 男女性別の発生頻度はほぼ同率であり, 女性に多い白人種の発生頻度とは異なる.
    3) 日本人の耳硬化症は遺伝的関係が少ない.
    4) 日本人のあぶみ骨の固着や病理変化は白色人種に比してきわめて軽度なものが多い.
    5) stapedectomyは臨床的耳硬化症に対してきわめて有効な術式であり, 術後聴力像では気導骨導差を9db以内に短縮出来たものは37耳中70.3%であった. 又81.1%の症例では術後聴力がいわゆるsocial level以上に好転した.
    6) 各種のあぶみ骨代用物のうちではgelfoam-wire prosthesisがやや優れていると思われる.
    7) 手術により75%の症例で耳鳴が消失又は減少した.
    8) 37耳中2耳で術後に聴力低下を認めた. 術後の内耳性難聴の発生をさけるためには前庭窓閉鎖に充分注意しgelfoam-wire prosthesisの使用に際してはwireの先端を前庭窓中央部に置くことが必要である. 又術後は騒音性難聴の発生に注意せねばならない.
    2. 組織学的耳硬化症
    臨床的に全く症状をあらわさず, 側頭骨の病理組織像によってのみその存在が確認される組織学的耳硬化症は, 白色人種では10人に1人の割合で存在する. しかるに日本人に於いては今日まで組織学的耳硬化症の存在が確認されたという報告はない. 著者は病理解剖屍体82症例の側頭骨を病理組織学的に検索し, 次のような結果を得た.
    1) 82症例中に1症例 (155側頭骨中2個) の組織学的耳硬化症を発見したが, この発生頻度は1.29%である.
    2) 患者は死亡時57才の女性で, 生前聴力障害はなかったと推測される.
    3) 病変は両側々頭骨に認められ, 両側とも前庭窓前方部と蝸牛窓辺縁部の2ヶ所に認められた.
    4) いずれの病変部位もhematoxylin-eosinで赤染し, 正常なるendochondral layerとは凹凸不整な不明瞭な境界線で分けられていた. 新生骨組織は硬化度の比較的強い, いわゆるモザイク状又は層状をなす骨組織で, 血管骨髄組織に乏しく造骨細胞, 破骨細胞は認められなかった. あぶみ骨底板と輪状靱帯には病変の波及を認めない. この病変は活動性と非活動性の中間の程度であると思われた.
    5) 本症例は日本人における組織学的耳硬化症としては本邦第1例である.
  • 樋口 博行
    1971 年 74 巻 7 号 p. 1119-1128
    発行日: 1971/07/20
    公開日: 2010/10/22
    ジャーナル フリー
    (目的) ウサギの外眼筋の自己受容器に由来するインパルスを中脳被蓋部から誘導し, 視運動眼振解発機序解明の一端に資するため本実験を行った.
    (実験方法) 有色のウサギを用いて, 左側上丘経由で中脳被蓋部に色素充填微小電極を定位的に刺入, 単一神経活動を誘導した.
    ウサギの同側6外眼筋を剥離し, 刺激として20g~30gの張力を滑車を介してそれぞれの筋に与えた. 誘導部位は実験後誘導電極を通じて生体染色を行い組織学的に同定した.
    (結果) 562ユニットの外眼筋伸展に対する中脳被蓋部から誘導した単一神経活動中419ユニット (74%) は無反応で, 反応を認めたのは39ユニット (7%) に過ぎず, 104ユニット (19%) ではいずれとも断定できなかった. 反応を示した39ユニットのほとんどは, 傍水道中心灰白質外側縁から誘導された. 反応を示したユニットの各外眼筋伸展刺激に対する反応様式を個々に分類し, (i) 放電数増加型, (ii) 放電数減少型, (iii) 長潜時放電数増加型の3型とした. 反応を示した39ユニット中, 23ユニットは総ての外眼筋の伸展刺激に反応を示し, しかもそれぞれのユニットはいずれの外眼筋伸展刺激に対する反応も同一の反応型を示した. 10ユニットでは全眼筋の伸展刺激を行い, そのうち少くとも一筋に対する反応が確認されているが, 他の筋に対してはそれと異なる型の反応が認められているか, あるいはそれが疑われるものであった. 6ユニットでは6外眼筋中の一部の筋に対する試行しか観察できなかったが, 試みた刺激に対しては確実に反応していた.
    以上の結果から, 本実験で観察した外眼筋伸展刺激に反応を示すユニットは, いずれも外眼筋の自己受容器の刺激に対して反応したものと考えられたが, 自己受容器の求心性一次ネウロンから誘導されたものではないと考えられた.
  • Bleomycin使用例を中心として
    高崎 敬
    1971 年 74 巻 7 号 p. 1129-1147
    発行日: 1971/07/20
    公開日: 2010/10/22
    ジャーナル フリー
    我々の教室に於ては, 1963年以来頭頸部悪性腫瘍に対する術前治療としての制癌剤の動脉内注入療法を実施しており, 既に200例を越えている. 今回新制癌剤Bleomycin (BLM) を使用した症例の中, 上顎悪性腫瘍例13例の臨床並びに病理組織学的効果につき, 従来の制癌剤の術前動注を行った上顎悪性腫瘍例24例の効果と比較検討を加えたので報告する.
    方法は浅側頭動脉より制癌剤を動注後, 臨床並びに上顎部開放創よりの病理組織検査による効果を判定, 次いで上顎全摘術を施行, 摘出した上顎部を大切片標本とし, これを参照して顕微鏡標本を作製, 組織効果を判定した.
    臨床効果では従来の制癌剤の動注群では, 著効率21%, 有効率66.6%であるのに対し, BLM動注群では著効率53.7%, 有効率92.3%であり, 後者の方がかなり優れていた.
    予後を考慮に入れた下里の分類に従って組織効果を分類してみると, 従来の制癌剤では再増殖の必至と思われる0~IIa度の症例が87.5%, 再増殖の可能性があると思われるIIb度の症例が8.3%であるのに対し, BLM使用群では0~IIa度53.7%, IIb度30.7%, III度15.4%であり, 組織効果の上からもBLMの方が秀れた成績を示した. 併し乍ら, 局所治癒の可能性のあると思われる, 腫瘍細胞の全く認められないIV度の症例は1例も無かった点は従来の制癌剤の場合と同様であった. この事実は制癌剤による治療の1つの限界を示している様に思われる.
    臨床効果と組織効果は必ずしも一致しなかつたが, 従来の制癌剤と比べて一致する傾向にあった.
    大切片標本では, 洞内に腫瘍の残存が認められたのは69%であり, 上顎洞壁破壊の頻度は前壁92.3%上壁76.9%, 後壁61.5%, 以下内壁, 下壁, 側壁の順であった.
    予後を左右する幾つかの因子をみてみると動注終了から手術までの期間は, 腫瘍細胞が全例に残存している事を考慮に入れて1~2週間が適当と思われ, この期間に手術を行った症例群は他の群に比べて予後も良かった.
    手術法別では, 口内法は予後が悪く, 広汎性上顎全摘術例が予後が良好な事は, 臨床的に著効の症例でも, 手術範囲を縮少する事が如何に危険であるかを物語つている.
    腫瘍の進展形態からみると, 被膜の形成が良好な拡大増殖型は全例が生存しているのに対し, 被膜の形成不良な浸潤増殖型では25%しか生存していない.
    術後再発率は従来の制癌剤では79%, 平均再発日数45日であるのに対し, BLM使用群では15%, 225日であり, 或程度の再発抑制効果がある様に思われる.
    又BLM使用群の2年粗生存率は53.7%であり, 従来の制癌剤の29.2%と比べて, 或程度の延命効果もあるものと考えられる.
  • 特に声帯呼吸性運動との関連性を中心として
    村上 泰
    1971 年 74 巻 7 号 p. 1148-1154
    発行日: 1971/07/20
    公開日: 2010/10/22
    ジャーナル フリー
    声帯の呼吸性運動と内喉頭筋活動の相関については, 吸気相の後筋活性によつて外転し呼気相の閉鎖筋活性によつて内転するという概念が定説化され, すでに過去の研究として今日では顧みる者すら少ない. しかし著者はすでに報告した多くの基礎実験の結果から, この概念が必ずしも正しいものではなく, 筋記録や神経記録により電気生理学的にこの概念を裏付けるにはかなり無理があり, 実験成績で説明できない点にも推測をまじえたあいまいな判断がなされているのではないかという疑問を持つた. そこで更めて多数の猫の内外喉頭筋について検索した結果, すくなくとも安静呼吸では閉鎖筋は全く活動しないこと, 従って声帯呼吸性運動は後筋活動の消長にだけ起因するものであり, 呼気相におこる内転はpassiveな運動であること, 更に後筋について広い範囲から記録すると, 必ずしも吸気相にだけ活動するものではなく, 吸気呼気の別なくtonicな活動を示す線維もあることを知った.
    今回の研究の目的は, 後筋におけるtonicityの生理学的特性をとらえ, 声帯運動との関連性を明らかにすることである. 実験方法は猫の反回神経が喉頭内で分枝した後筋支配神経枝からtonicな活動を示す線維を分離し, 主として単一神経記録によって一連の実験を行なった. その結果1) 後筋支配神経の呼吸活動は吸気相に発射するphasicな線維の他に少数ではあるがtonicな活動を示すものも含まれている. 2) 両者は呼吸条件の変動や知覚神経刺激に対してほとんど同様の反応を示す. 3) 両者の活性に基く後筋活動の消長は声帯呼吸性運動のパターンと極めてよく合致する. などの結論をえた.
  • 国武 博道
    1971 年 74 巻 7 号 p. 1155-1188
    発行日: 1971/07/20
    公開日: 2010/12/22
    ジャーナル フリー
    (目的): 従来, 内喉頭筋に関しては呼吸, 嚥下, 発声等についての作動様式が詳細に検討されているが, 外喉頭筋に関しては呼吸, 嚥下, 発声等における一連の詳細な研究はごく少なく, また, 数多くの筋について行った研究は少ない. よって種々の動作および種々の発声 (歌唱) について筋電図学的に研究を行った.
    (研究方法): 双極有鈎線電極を声楽の訓練を受けたことのない正常男性6名において6つの外喉頭筋 (胸骨舌骨筋, 胸骨甲状筋, 甲状舌骨筋, 甲状咽頭筋, 輪状咽頭筋, 顎二腹筋前腹) に経皮的に挿入し, 筋放電を3チャンネル・データー・レコーダーおよびテープレコーダーにて磁気テープに記録し, ビジグラフにて描画し, 分析検討した.
    (結果): 外喉頭筋への電極挿入を確実に行う方法および確認法が得られた. また次の如き結論を得た.
    1. 開口, アクビでは胸骨舌骨筋, 胸骨甲状筋, 顎二腹筋前腹が関与し, アクビの深吸気時には甲状咽頭筋もわずかに影響を与える.
    2. 頸前傾には胸骨舌骨筋, 胸骨甲状筋, 甲状舌骨筋が関与する.
    3. 咳払いおよび咳嗽では, 咳払い音, 咳嗽音に先行して胸骨舌骨筋, 胸骨甲状筋が筋放電を呈し, 甲状咽頭筋, 輪状咽頭筋は両音と同時に筋放電を呈する.
    4. 嚥下においては図7の如く, 時間的に一定の関係を保って各筋が作動する. 輪状咽頭筋には常にinhibitionを認める. 胸骨舌骨筋, 胸骨甲状筋は関与する場合としない場合がある.
    5. 声の強さの調節に関係の深い筋は, 胸骨舌骨筋, 甲状舌骨筋, 顎二腹筋前腹である.
    6. 強弱両音を別々に発した場合とswelltoneではパターンが若干異なる.
    7. 声のピッチ調節に関係の深い筋は, 胸骨舌骨筋, 胸骨甲状筋である.
    8. 声区に関係の深い筋は, 胸骨舌骨筋, 甲状舌骨筋, 甲状咽頭筋, 顎二腹筋前腹である.
    9. 母音に関係の深い筋は, 胸骨舌骨筋, 甲状舌骨筋, 顎二腹筋前腹である.
    外喉頭筋の放電パターンは個人差が少なからず認められる. このことは声の音色に微妙な変化を与えていることを示唆している.
  • 1声楽家についての実験的研究
    平野 実, 宮原 卓也, 宮城 平, 国武 博道, 永嶋 俊郎, 松下 英明, 前山 忠嗣, 讃井 憲威, 川崎 洋, 野副 功, 広瀬 肇 ...
    1971 年 74 巻 7 号 p. 1189-1201
    発行日: 1971/07/20
    公開日: 2010/10/22
    ジャーナル フリー
    研究目的: 歌唱に際して声区, ピッチ, 声の強さなどがどの様にして調節されているかを, 一流の声楽家について明らかにし, 発声法の訓練, 指導に資するとともに, 音声調節のメカニズムの解明にも寄与することを目的とした.
    研究方法: 本邦第一級のテノールとして活躍中の一声楽家を対象として, 種々の発声中の喉頭筋々電図記録, 呼気流率測定, 声帯振動の高速度映画撮影を行っ.
    研究成績および結論: 1. 声区は声帯筋によつて第一義的に調節される. 声帯筋はheavy registerでは強く収縮するが, light registerではほとんど収縮しない. 従つて, heavy registerでは声帯が厚く, 粘膜波動は著明で, 開放時間率が小さく, 開閉速度率は大きい. 呼気流率は一般にlight registerで大きい.
    2. ピッチの調節機構は声区によつて異なり, 前筋, 側筋, 声帯筋の関与はheavy registerで顕著である. 呼気流率の関与は何れの声区においても認められなかった.
    3. heavy registerでは声帯筋と呼気流率が声の強さの調節に関与する. light registerでは声帯筋は関与せず, 呼気流率と声の強さの関係が極めて緊密である.
    4. 声の調節機構はstaticなものではなく, 前後の発声情況によつて変化するdynamicなものである.
  • 1971 年 74 巻 7 号 p. 1202-1214
    発行日: 1971/07/20
    公開日: 2010/12/22
    ジャーナル フリー
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