我々の教室に於ては, 1963年以来頭頸部悪性腫瘍に対する術前治療としての制癌剤の動脉内注入療法を実施しており, 既に200例を越えている. 今回新制癌剤Bleomycin (BLM) を使用した症例の中, 上顎悪性腫瘍例13例の臨床並びに病理組織学的効果につき, 従来の制癌剤の術前動注を行った上顎悪性腫瘍例24例の効果と比較検討を加えたので報告する.
方法は浅側頭動脉より制癌剤を動注後, 臨床並びに上顎部開放創よりの病理組織検査による効果を判定, 次いで上顎全摘術を施行, 摘出した上顎部を大切片標本とし, これを参照して顕微鏡標本を作製, 組織効果を判定した.
臨床効果では従来の制癌剤の動注群では, 著効率21%, 有効率66.6%であるのに対し, BLM動注群では著効率53.7%, 有効率92.3%であり, 後者の方がかなり優れていた.
予後を考慮に入れた下里の分類に従って組織効果を分類してみると, 従来の制癌剤では再増殖の必至と思われる0~IIa度の症例が87.5%, 再増殖の可能性があると思われるIIb度の症例が8.3%であるのに対し, BLM使用群では0~IIa度53.7%, IIb度30.7%, III度15.4%であり, 組織効果の上からもBLMの方が秀れた成績を示した. 併し乍ら, 局所治癒の可能性のあると思われる, 腫瘍細胞の全く認められないIV度の症例は1例も無かった点は従来の制癌剤の場合と同様であった. この事実は制癌剤による治療の1つの限界を示している様に思われる.
臨床効果と組織効果は必ずしも一致しなかつたが, 従来の制癌剤と比べて一致する傾向にあった.
大切片標本では, 洞内に腫瘍の残存が認められたのは69%であり, 上顎洞壁破壊の頻度は前壁92.3%上壁76.9%, 後壁61.5%, 以下内壁, 下壁, 側壁の順であった.
予後を左右する幾つかの因子をみてみると動注終了から手術までの期間は, 腫瘍細胞が全例に残存している事を考慮に入れて1~2週間が適当と思われ, この期間に手術を行った症例群は他の群に比べて予後も良かった.
手術法別では, 口内法は予後が悪く, 広汎性上顎全摘術例が予後が良好な事は, 臨床的に著効の症例でも, 手術範囲を縮少する事が如何に危険であるかを物語つている.
腫瘍の進展形態からみると, 被膜の形成が良好な拡大増殖型は全例が生存しているのに対し, 被膜の形成不良な浸潤増殖型では25%しか生存していない.
術後再発率は従来の制癌剤では79%, 平均再発日数45日であるのに対し, BLM使用群では15%, 225日であり, 或程度の再発抑制効果がある様に思われる.
又BLM使用群の2年粗生存率は53.7%であり, 従来の制癌剤の29.2%と比べて, 或程度の延命効果もあるものと考えられる.
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