Ramsay Hunt症候群 (以下, ハント症候群) の臨床像は多発脳神経障害を伴うこともあり, 多彩であることが知られている. 今回われわれは, 第VII・VIII脳神経症状に加え, 第IX・X脳神経障害を合併したハント症候群を経験したので, われわれの施設での統計および若干の文献的考察を加えて報告する. 症例は58歳女性. 主訴は回転性めまいおよび右耳痛. 慢性関節リウマチにて治療中であった. 咽頭痛も伴っていた. 4日後, 右顔面神経麻痺, 嚥下困難, 嗄声が出現し, われわれの施設に入院となった. 眼振, 右軟口蓋麻痺および喉頭麻痺を認め, 多発脳神経障害を合併する右ハント症候群の診断にて抗ウイルス薬およびステロイドの投与を行った. 症状は次第に改善傾向を示したが, 軟口蓋麻痺および喉頭麻痺が改善するには3カ月以上を要した. われわれの施設での過去4年間の統計では, 第IX・X脳神経を含む多発神経障害を認めたハント症候群の患者は27% (軟口蓋もしくは喉頭の麻痺症例のみに限ると9%) であった. 多発脳神経障害を伴う場合, 特に反回神経麻痺があるときは誤嚥性肺炎を起こし重症化する恐れがある. ハント症候群と診断した後も, 経時的な症状変化を注意深く観察し, 合併症の早期診断に努めることが必要と思われた.
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