日本耳鼻咽喉科学会会報
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120 巻, 5 号
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総説
  • 自己免疫性膵炎
    神澤 輝実, 来間 佐和子, 千葉 和朗, 田畑 拓久, 小泉 理美, 菊山 正隆, 服部 藍, 白倉 聡, 杉本 太郎
    2017 年 120 巻 5 号 p. 677-684
    発行日: 2017/05/20
    公開日: 2017/06/20
    ジャーナル フリー

     自己免疫性膵炎は, 発症機序に何らかの自己免疫現象の関与が示唆される膵炎として, 1995年に本邦から世界に発信された. 現在は, IgG4 が関連する全身性疾患である IgG4 関連疾患の膵病変と考えられている. 病理組織学的には, 高度のリンパ球と IgG4 陽性形質細胞の浸潤と花筵状線維化 (storiform fibrosis), および閉塞性静脈炎を特徴とし, lymphoplasmacytic sclerosing pancreatitis (LPSP) と呼ばれる. 高齢の男性に好発し, しばしば膵腫瘤を形成して閉塞性黄疸を呈するので, 膵癌との鑑別が問題となる. しかし, 自己免疫性膵炎はステロイドが奏効するので, 無用な外科手術を避けるためにも正確な診断が必要である. 診断は, 自己免疫性膵炎臨床診断基準2011にしたがって, CT や MRI による膵腫大の有無, 内視鏡的膵管造影像, 高 IgG4 血症, 病理所見, 膵外病変 (硬化性胆管炎, 涙腺・唾液腺腫大, 後腹膜線維症), ステロイドの反応性の組み合わせにより行う. び漫性膵腫大, 造影 CT の後期相での膵腫大部の造影効果や膵腫大部の周囲を部分的に取り囲む capsule-like rim 所見, 膵管狭細像などは, 自己免疫性膵炎を示唆する所見であり, 膵癌との鑑別に有用である. しかし, 限局性膵腫大例では超音波内視鏡下吸引細胞診 (EUS-FNA) 等による病理組織学的アプローチが必要となることが多い. 標準治療は, ステロイド治療で, 経口プレドニゾロン0.6mg/kg/日から開始し, 漸減する. 自己免疫性膵炎はステロイド減量・投与中止後にしばしば再燃するので, 再燃防止の目的でプレドニゾロン5mg/日程度の維持療法を行うことが多い. 最近欧米では, 自己免疫性膵炎に対して, 免疫抑制剤やリツキシマブの有用性が報告されている. 長期的予後は不明であるが, ステロイド依存性の自己免疫性膵炎は, 2016年より難病に指定された. 再燃を繰り返す例では膵石が形成されることがあり, また経過中に膵臓癌の合併例が報告されており, 両者の関連性が問題となっている. 一方, 欧米では膵管上皮内へ好中球の浸潤 (granulocytic epithelial lesion(GEL)) を認める idiopathic duct-centric chronic pancreatitis(IDCP) の病理像を呈する自己免疫性膵炎が注目され, 現在 LPSP を呈する自己免疫性膵炎は1型と, IDCP は2型と呼ばれている.

  • ―顔面神経機能再建の基礎と新たな戦略―
    稲垣 彰
    2017 年 120 巻 5 号 p. 685-691
    発行日: 2017/05/20
    公開日: 2017/06/20
    ジャーナル フリー

     顔面神経麻痺は生命予後を左右する疾患ではないが, 社会的な影響が大きい疾患である. 多くの場合に予後は良好であるが, 重度のウイルス性顔面神経麻痺, 外傷, 手術操作などによる顔面神経の断裂が生じた場合には, 後遺症を残すことがある.
     人類と顔面神経麻痺のかかわりは長く, 古くは7世紀から顔面神経の端々吻合が試みられてきた. 顔面神経の端々吻合や神経移植による顔面神経再建は, 神経損傷直後, あるいはしばらくの間であれば効果が期待できる. しかし, 受傷後, 時間の経過とともに神経の変性が進行すると, これらの方法では再建が困難となる.
     このような場合には他の運動神経, すなわちドナー神経の再生能を用いて麻痺した表情筋を駆動する神経移行術が用いられる. 1879年に副神経をドナー神経として用いた顔面神経再建術が初めて施行されて以来, 舌下神経, 対側顔面神経, 咬筋神経がドナー神経として用いられ, さらには神経脱落症状など合併症の軽減や手術成績向上を目的にさまざまな変法が考案された. しかし, 今なお, いずれの方法を用いても, 左右差のない十分な表情運動を実現することは困難であり, とりわけ ① 不全麻痺の残存, ② 病的共同運動, ③ 筋拘縮の3点が克服すべき課題となっている.
     現在, これらの克服のためにさまざまな戦略が試みられている. 神経科学の進歩とともに神経再生の機序が分子レベルで徐々に明らかにされているが, 神経再生促進因子の投与による不全麻痺改善の試みはその一例である. また, 病的共同運動の改善を目的に, 正常運動を強化し異常運動を抑制するためのリハビリテーションが試みられ, 最近では, 新たな展開として, 脳活動を制御する技術である経頭蓋磁気刺激法を応用した方法が試みられている. しかし, いまだ十分とはいえないのが現状であり, 病態のさらなる解明とそれによる新たな展開が望まれる.

  • ―耳鼻咽喉科診療で問題となる認知症―
    山本 纊子
    2017 年 120 巻 5 号 p. 692-697
    発行日: 2017/05/20
    公開日: 2017/06/20
    ジャーナル フリー

     超高齢社会の到来とともに, 認知症あるいは軽度認知機能障害 (MCI) を持った高齢者が専門以外の科を受診することが増加し, 実診療に影響を与える場合が少なくない.
     受診状況は ① 認知症の診断をされていない受診者が, めまい, ふらつき, 難聴など耳鼻咽喉科的な訴えで受診する場合, ② 認知症と診断されている受診者を診療する場合, あるいは ③ 耳鼻咽喉科疾患が認知症の発症や進行に影響を与える場合などに大別されるが, ①の場合は診断に, ②③の場合は患者の対応に時間が長くなり, 日常診療に多大な影響を及ぼす.
     また, 総じて認知症と言ってもその病型はアルツハイマー病, レビー小体型認知症, 嗜銀顆粒性認知症 (非アルツハイマー型高齢者タウオパチー), 血管障害型認知症, そして混合型と多種で, 同じ病型でもステージによってその症候は全く異なる上に, 加齢とともに他の病型や他の疾患が加わり, 一層複雑になる. このような状況に対応するにはまず主な認知症の典型的な臨床像を理解し, 病型や病気に合致しない症候がみられた場合には他の認知症あるいは他疾患が合併したと考えるのが妥当で, 受診者の精神身体状況を経時的に的確に把握することが, 認知症をはじめとする長期経過疾患を診療するポイントである. さらにこれらの患者の状況を把握し, 対処できるよう看護師, 看護補助あるいは事務も含めたチームでの対応を考える必要がある. また, 薬の服用に影響された身体あるいは認知機能の低下が増加しており, 多くの診療科を受診している患者については, 医師同士の連絡を密にして患者の状況や服薬状況を共有することも重要となる.

  • 千葉 伸太郎
    2017 年 120 巻 5 号 p. 698-706
    発行日: 2017/05/20
    公開日: 2017/06/20
    ジャーナル フリー

     本邦の耳鼻咽喉科医に睡眠時無呼吸症の診療は十分広まってはいない. その理由として, これまで終夜ポリグラフ検査など専門性が高く, 高価な設備を必要とするとされてきたこと, 多くの診療科領域にまたがる広い知識が診療において必要とされることなど, 一般開業医からはハードルが高い診療と考えられてきたと予想される. しかしながら, 睡眠時無呼吸症の診療は世界的に大きな変革期を迎え, 成人患者の診断・初期治療は, 在宅の携帯装置と Auto CPAP による治療が一般化し, 今後ますます一般診療医による診療が広まっていくと予想される. また, これまで小児 OSA の治療第一選択はアデノイド切除, 口蓋扁桃摘出術と認識されてきたが, 本邦では手術適応基準が明示されておらず, 昨今は手術治療に慎重な保護者も多いこと, 噴霧ステロイドや抗ロイコトリエン剤といった保存治療の有効性が報告されたなど, 第一選択治療とされてきたアデノイド切除術, 口蓋扁桃摘出術だけではなく, 保存治療を含め治療戦略を見直す時期である. 睡眠時無呼吸症が疑われる多くの患者が, いびき, 睡眠中の無呼吸, 眠気, さらに小児では成長障害, 落ち着きのなさなどを訴え, 小児から高齢者までさまざまな患者が耳鼻咽喉科を訪れている. 一般耳鼻咽喉科医が初期診断, 導入治療を広く行い, 時に専門治療が必要な患者を見分け, 専門施設と医療連携し効率よい診療が行えるよう, まさに睡眠時無呼吸症診療のゲートキーパーとしての役割が重要である.
     この項では, 成人 OSA の診断と初期治療としての CPAP 導入, 小児 OSA における手術 (アデノイド切除術, 口蓋扁桃摘出術) を優先すべき症例の総合的な判定, 保存治療導入, さらに後の管理を中心に具体的に概説し, 無床診療所でも可能な睡眠時無呼吸症の取り扱いについて概説する.

  • 杉浦 彩子, 内田 育恵
    2017 年 120 巻 5 号 p. 707-713
    発行日: 2017/05/20
    公開日: 2017/06/20
    ジャーナル フリー

     難聴は高齢者に最も多くみられる障害の一つだが, 近年難聴が認知機能低下のリスク要因であることが注目されている. 難聴と認知機能は, 共通の因子や相互作用もあると考えられ, その関係性は複雑である. 補聴器による難聴に対する介入で, 認知機能の維持・改善が報告されており, 2015年には大規模な疫学調査における補聴器装用の認知機能への有効性がイギリスとフランスから報告された.
     難聴高齢者は難聴の自覚が乏しく, 家族から難聴を指摘されて受診する場合が多い. 高齢者において聴力を評価する場合には, 既に認知機能低下を伴っていて, マスキングがうまく入らなかったり, 聴力検査でのボタン操作が不安定だったりすることがある. また, 本来の難聴に機能性難聴を伴う症例があり, 留意が必要である.
     認知機能低下のある高齢者の難聴への介入は, 語音明瞭度が悪く補聴器の効果が限定的な方が多いこと, 本人の自覚が乏しく補聴器装用の意思の乏しい方が多いこと, 意思があっても補聴器の操作などが困難な方がいること, 紛失のリスクが高いこと, などの問題点があり, 慎重な対応を要する. 認知機能正常の難聴高齢者と認知機能低下のある難聴高齢者とを区別して対応する必要がある.
     高齢の難聴者の看過できない問題として耳垢栓塞があり, 湿性耳垢の多い欧米では高齢者の3割程度に認めるとされているが, 本邦においても1割弱の方に耳垢栓塞があると考えられ, 留意が必要である.

原著
  • 山田 浩之, 大石 直樹, 神崎 晶, 小川 郁
    2017 年 120 巻 5 号 p. 714-721
    発行日: 2017/05/20
    公開日: 2017/06/20
    ジャーナル フリー

     真珠腫の診断において PROPELLER 法による non-EPI 拡散強調 MRI の有用性は複数報告されているが, 陽性所見の判定は主観的で, 判定基準は明確でなく, 信号強度の他覚的な基準の確立が必要である. 今回われわれは真珠腫診断における PROPELLER 法の有用性を示し, また最大信号強度の比較による他覚的評価法について, また比較対象として最適な部位について検討した.
     対象は2012年6月から2014年3月までに当院で PROPELLER 法を施行後に手術を行い, 病理診断が確定した35耳で, アーチファクトの影響が少ない小脳白質よりも肉眼的に高信号であれば陽性と判定した. さらに他覚的評価法として関心領域を設定し, 病変と複数部位の最大信号強度を比較した. 小脳, 小脳白質, 側頭葉, 側頭葉白質を比較し, 最も適切な部位を検討した.
     感度・陽性的中率はともに85.7%で, 特異度・陰性的中率が42.9%であった. 最小描出病変は長径3.8mmであった. また関心領域の最大信号強度の比較による他覚的評価法においては, 病変が描出されなかった4耳を除く31耳中26耳で術後診断と合致した. また他部位と比べると, 小脳白質が比較対象部位として最も適切であることが示唆された.
     本法は肉眼的に判定が困難な病変の評価において有用性を発揮すると考えられ, 臨床的に活用できるツールであることが示された.

  • 百束 紘, 塩野 理, 佐野 大佑, 矢吹 健一郎, 須藤 七生, 小林 茉莉子, 西村 剛志, 高橋 優宏, 折舘 伸彦
    2017 年 120 巻 5 号 p. 722-726
    発行日: 2017/05/20
    公開日: 2017/06/20
    ジャーナル フリー

     眼窩感染症は, 局所の感染と膿瘍による圧排から眼窩内圧の上昇を起こし, 視力障害および眼球運動障害を起こすため, 視機能温存のために早期の診断と治療が必要な疾患である. 今回, 免疫抑制剤を服用中に涙嚢炎を契機に発症したと考えられた眼窩内膿瘍の症例を経験した. 症例は, 68歳女性, 左眼瞼腫脹, 左視力低下を主訴に当院を受診した. 副鼻腔CTで左眼窩内膿瘍を認め, 鼻内アプローチによる眼窩内膿瘍切開排膿術を施行し, 視機能障害などの後遺障害なく治癒した. 眼科との迅速かつ緊密な連携が必要であり, 視機能の低下を認めた場合には, 早期の外科的介入に踏み切るべきである.

  • 片岡 祐子, 内藤 智之, 假谷 伸, 菅谷 明子, 前田 幸英, 福島 邦博, 西﨑 和則
    2017 年 120 巻 5 号 p. 727-732
    発行日: 2017/05/20
    公開日: 2017/06/20
    ジャーナル フリー

     近年の人工内耳は, 1.5T までの磁場であればインプラント磁石を取り出すことなく MRI 検査を行うことができる. ただ疼痛や皮膚発赤, 減磁や脱磁, 磁石の変位などの合併症が起こり得る.
     今回われわれは MRI 後に人工内耳インプラントの磁石の反転を来した2症例を経験した. 2例とも磁石は180度反転してシリコンフランジ内に格納されており, 1例は極性を逆にした体外磁石を特注し, もう1例はインプラント磁石の入れ替え手術を行った. 人工内耳は適応の拡大, 高齢化などに伴い, 今後も装用者は増加すると見込まれる. 医療者として, 人工内耳患者が MRI を受ける上での留意点, 合併症が生じた場合の検査, 対応などを認識する必要がある.

  • 今井 貴夫, 西池 季隆, 大島 一男, 鶴田 幸之, 上野 裕也, 田中 秀憲, 富山 要一郎
    2017 年 120 巻 5 号 p. 733-739
    発行日: 2017/05/20
    公開日: 2017/06/20
    ジャーナル フリー

     めまいの診療を専門としない医師 (非めまい専門医) 3名の良性発作性頭位めまい症 (Benign paroxysmal positional vertigo, 以下 BPPV) 患者に対する診療を確認し, 後に正しく指導した. 2度目の頭位・頭位変換眼振検査にて初めて眼振が観察され, BPPVと診断できている場合があった. reverse Dix-Hallpike 法でのみしか頭位変換眼振が誘発できなかった場合や下眼瞼向きの頭位眼振が観察されていた場合は正確な診断ができていなかった. 上級医師は非めまい専門医に対し, 典型的な BPPV の眼振の性状を詳細に教え, カルテ記載のみならず眼球動画も確認しなければならない.

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