日本耳鼻咽喉科学会会報
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77 巻, 9 号
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
  • 山本 香列
    1974 年 77 巻 9 号 p. 641-649
    発行日: 1974/09/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    目的:
    現在実施されている誘発反応聴力測定における反応判定の信頼性や恒常性について検討し,問題の所在を明らかにする諺的で行なわれた.
    実験方法:被検者は正常成人では覚醒時,睡眠時ともに3名,正常幼児では覚醒時2名,睡眠時3名計11名である.頭頂部電極より誘発反応を導出し,データレコーダに記録した.次に記録された波形をコソピュータで各50回加算し,XYレコーダで加算波形を作成した.音刺激は1000Hz.,立上り立下り10msec,持続100msecの純音で2秒に1回の割で被検者の一方の耳に与えた.刺激音の強さは幼児睡眠時では0,20,40,60,80dBHL,幼児覚醒時および成人では0,10,20,30,40,dBHLの5種,これに音刺激(一)の条件を加え,計6種の条件で刀10回ずつ,1名の被検者につき計60個の波形サンプルを作成した.このサンプル総計660個を4名の判定者に見せ,反応の有無を判定させた.そのうちの2名の判定者は幼児睡眠時の波形につき,約6か月後に再判定を行い,初回判定成績と比較した.
    実験成績:
    1.成人覚醒時では3名の被検者,4名の判定老による平均陽性判定率は0dB(15.83%),10dB(70.83%).20dB(77.5%),30dB(96.67%)で,一方誤陽性判定率は0.83%に過ぎなかつた.
    2.成人睡眠時で陽性判定率50%を越すのは10dB段階(50.83%)であるが,覚醒時と異なり誤陽性判定が27.5%と著しく増加している.
    3.幼児覚醒時で陽性判定率50%を越すのは20dB段階(67.5%)で,誤陽性判定は26,25%であつた.
    4.幼児睡眠時では3名の被検児の平均陽性判定率は0dB(30.83%),20dB(44.17%),40dB(50.0%),60dB(78.33%),80dB(86.67%)で,一方誤陽性判定率は26.67%であつた.
    5.4名の判定者が全員同一判定を下した判定数の割合は,成人覚醒時で76.7%と最も高く,幼児睡眠時では55.6%と最も低い.
    6.2名の判定者の初回判定•再判定間の一致度は,幼児睡眠時のサンプルで,1名は92.2%,他の1名は77.8%であつた.
  • 平野 実, 小池 祐一, 広瀬 幸矢, 粕谷 尚男
    1974 年 77 巻 9 号 p. 650-656
    発行日: 1974/09/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    研究目的:声帯は極めて高頻度の激しい運動を行う特異な器官であり,そこに生じる病態についてもまだ疑問の点が少くない.そこで,声帯粘膜の基礎的な微細構造を追求することは,振動体としての声帯の構造をより深く理解し,さらに声帯疾患の病態を解明する上での一助になると考え,本研究を行った.
    研究方法:喉頭全摘を施行した喉頭癌3例および下咽頭癌4例計7例の声帯健常部を研究材料とした.声帯遊離縁部で膜様部中央の粘膜を速やかに採取し,これを3つのブロック,すなわち上皮を含む固有層浅層,中間層および深層に細切して,グルタールおよびオスミウムで固定し,アセトンおよびプロピレンオキサイド脱水,エポソ包埋を行い,超薄切片を作製して,透過電子顕微鏡で観察を行った.また同時に,光学顕微鏡による組織学的検索も併せて行った.
    研究結果:
    1)声帯粘膜は上皮,固有層および声帯筋の3部分から構成される.声帯遊離縁部においては上皮は重層扁平上皮であり,その固有層は主として弾力線維,膠原線維および線維細胞の三成分,およびこれらの成分の間を占める基質とから溝成され,その中に血管系の組織が存在する,
    2)重層扁平上皮は7-8層から成り,その形態は表層部では扁平状であるが,基底部に向つて次第にその丈を増し基底細胞は立方状となる.上皮の表面には約0.2μの長さのmicrovilliが認められる.上皮細胞相互間の間隙は比較的広く,desmosomeの発達もそれほど良好ではないが,著明に発達した細胞質突起をもつて纒絡状の結合をなしている.これらの所見から,細飽間の結合は密ではないが,強固であり,伸展性,可動性という点でゆとりある結合と思われる.
    3)固有層における膠原線維および弾力線維は層によつて量的差はあるが,その配列においてほぼ並行する走行を示す.固有層中間溜における両線維の縦断像をみると,膠原線維が個々独立して観察されるのに比べ,弾力線維は互いに手をつないだ如き,樹枝状の所見を呈する.このことから弾力線維は網状の分布をするのではないかと考えられる.
    4)固有層における微細血管の形態および分布を部位釣にみると,固有層浅層では10μ内外の毛細血管がすべてであり,中間層,深層では細動静脈が大部分であるが,少星の小動静脈が観察される.固有層浅層の中でも,上皮に近接する部位の毛細血管は管径8~10μで,内皮細胞に小孔を認め,小孔の存在部位は上皮側に向かう.しかし,これよりやや深部の毛細血管は管径がやや大きく,胞体もやや厚くなり,小孔は全く認められない.
    5)以上の所見より,声帯遊離縁部の上皮および固有層の構造に関して病態生理的観点から若干の考察を行った.
  • 鳥山 稔
    1974 年 77 巻 9 号 p. 657-666
    発行日: 1974/09/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    (1)目的:ひとの側頭骨における砂鍾様体は古くかかみとめられていた.そして他の腫瘍で死亡した患者にこれをみとめて,重復腫瘍であるとか,また聴力のわるいひとの側頭骨にこれをみとめ,これは,内耳道動脈の栓塞によりおこるものであつて,これが難聴の原因であるとした論文もあつた.今回著港は,この側頭骨における砂腫様体と,聴力との関係を明らかにする目的で,ひとの側頭骨標本337例について検索した.
    (2)方法:New York大学 Temporal bone bank における側頭骨337をもちいて,顕微鏡下に,砂腫様体を観察し,その存在部位,数について記載した.また死亡前2年以内に聴力のあつた側頭骨34については,聴力図を6つに分類した.
    (3)結果:
    i)ひとの側頭骨およびその周囲親織中に,砂腫様体は,内耳道,顔面神経膝神経節,三叉神経半月状神経節,蝸牛導水管,前庭導水管中にみとめた.中耳腔にはほとんどなかつた.
    ii)内耳道における砂腫様体は15才以後にみとめ,35才位までにその数は増加し,約400となり40才以後は一定となつた.
    iii)三叉神経半月状神経節における砂腫様体は20才以後の側頭骨の80%,70才以上の全例にみとめた.
    iv)顔面神経膝神経節における砂腫様体は7才以後にあらわれ年令とともにその発現頻度は増加した.
    V)舌咽神経下神経節にも砂腫様体を23才以後25耳にみとめた.
    vi)蝸牛導水管の砂腫様体は15才以後の全例にみとめた.
    Vii)前庭導水管の砂腫様体は,発現頻度は最もすくなく27才以後にみとめ,337の標本中17%に観察できたにすぎなかつた.
    viii)顔面神経膝神経節と前庭導水管の砂腫様体の発現頻度との相関は,両者に関係の深いことがわかつた.
    ix)内頸動脈硬化と膝神経節中の砂腫様体の発現頻度との関係は,あまりなかつた.
    x)聴力型と内耳道砂腫様体との間には,直接の関係をみとめなかつた.
    結論:ひと側頭骨の砂腫様体は,年令の増加とともにふえてくる.しかし聴力とは関係はなかつた.また動脈硬化とも関係なく,くも膜のある所にあることより,くも膜からでてくるものと考えた.
  • 杉山 茂夫, 宮原 裕, 中島 礼士
    1974 年 77 巻 9 号 p. 667-672
    発行日: 1974/09/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    アブミ骨およびその周辺に限られた畸型は非常に珍しく,耳硬化症は欧米人に多く鋼本人には比較的少い疾患である.その難聴は進行性または固定性で,手術による以外改善させる方法はない.最近Stapedektomieを施行した症例で特異な所見が見られたので,その詳細を報告し考察を加えた.
    第一は耳硬化症と考えれば片側性であつたことである.通常,耳硬化症の難聴は左右対称盤の経過をたどることが多く,文献的に眺めた片側性耳硬化症の発生頻度は,Larsson 15%,後•13.7%,Cawtho-rne 4%,堀口0%である.我々も9年間に28例中2例(7.1%)を見るにすぎず,非常に少い症例であると・える.
    臨床的耳硬化症のアプミ骨病変の状態に関しても,欧米人では可成りの症例が高度かつ広範な障害を示す.日本人では交献的にも我々の経験でも,殆んどがいわゆる Ringbandsklerose である.時にアブミ骨底が全体に肥厚する症例を見るが,その輪郭は識別することが出来る(Verdickung).本症例は一面に壁土をぬりつけたようで,アブミ骨底自体を認識できない状態であつた(Vermauerung).我々には初めての経験であり,日本人の耳硬化症としてはその例を見ないようである.
    本症例では顔面神経がFacialiskanalに沿つて広く露出していた.またアブミ骨自体変形してえり,その前脚は殆んど痕跡的であつた.これは露出して来た顔面神経に圧追され,いわゆるDruckatrophieによつて変形したのではないかと考えられる.しかし年令,聴力図,手術時所見から耳硬化症ではなく,アブミ骨周辺に限られた畸形とも考えられる.いずれにせよ手術時スチールピスFンは,顔面神経を避けて斜めに挿入せざるを得なかつたが,会話領域の術後気導聴力は20dBまで改善することができた.
  • 佐藤 武男
    1974 年 77 巻 9 号 p. 698-701
    発行日: 1974/09/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
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