日本耳鼻咽喉科学会会報
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120 巻, 11 号
選択された号の論文の18件中1~18を表示しています
総説
  • 上出 洋介
    2017 年 120 巻 11 号 p. 1293-1298
    発行日: 2017/11/20
    公開日: 2017/12/16
    ジャーナル フリー

    「外来診療の工夫―将来に向けて」の大切な点は耳鼻咽喉科医の専門性と将来性を打ち出すことである.他科と協調しつつ差別化を図れるかどうかが重要である.本稿では4つの主題 Ⅰ.器材の工夫,Ⅱ.ソフトの工夫,Ⅲ.検査の工夫,Ⅳ.治療の工夫,を挙げた.

     Ⅰ.器材の工夫では ① 画像・データファイリングシステムを電子カルテと併用することで高効率かつ高精度で診断・治療が可能となる.② 中耳炎治療では鼓膜開窓がより正確に確実に行われる炭酸ガスレーザーを用いることを勧める.

     Ⅱ.ソフトの工夫では医学専用音声認識ソフトを用いてマイク入力することを勧める.ただし誤変換には注意が必要である.

     Ⅲ.検査の工夫では ① 従来にない新しいティンパノグラムを紹介する.広帯域周波数ティンパノメトリーは内耳側に吸収されたエネルギー量を測定することで中耳,鼓膜病態を検査する新しいタイプの音響検査装置である.② IgG2の検査については保険適応となったので難治性中耳炎で免疫的なスロースターターが疑われる場合は測定することを勧める.③ 肺炎球菌ほか呼吸器系ウイルス迅速検査を有効に使用して抗菌薬投与の適正使用を勧める.

     Ⅳ.治療の工夫では「献血ヴェノグロブリンIH5%静注」がインフルエンザ桿菌や肺炎球菌を起炎菌とする急性気管支炎,肺炎,急性中耳炎に対して血清IgG2値の低下による発症抑制に追加適応 (2015年2月) となった.効果は期待できるが適応を十分検討し小児科医との綿密な情報の共用が大切である.

  • 竹野 幸夫
    2017 年 120 巻 11 号 p. 1299-1304
    発行日: 2017/11/20
    公開日: 2017/12/16
    ジャーナル フリー

     重症アレルギー性鼻炎症例では, しばしば下鼻甲介粘膜の不可逆的腫脹と同時に鼻過敏性の亢進が顕著である. この神経原性反射の閾値の低下は, くしゃみ・むずむず感の原因となっている. 同時に遠心性副交感神経の興奮優位による分泌亢進は鼻汁過分泌の主因の一つとなっている. わが国で考案された後鼻神経切断術 (経鼻腔翼突神経切断術) は, これらの症状を観血的に制御する機能的手術である. 鼻腔後部において蝶口蓋孔 (sphenopalatine foramen) を確認し, 蝶口蓋動脈 (sphenopalatine artery) に伴走している求心・遠心両神経線維束 (知覚神経である三叉神経第Ⅱ枝の枝, 翼口蓋神経節由来の遠心性副交感神経の枝) を切断する手法である.  

     本稿では当科で施行している後鼻神経切断術の実際についてその手技と効果を紹介する. 蝶口蓋孔において血管神経線維束を同定後に線維鞘を切開し, 血管を温存しながら神経線維束を切断している. ポイントとしては, 1) 良好な術野の確保, 2) 助手との協力体制 (4 hands procedure), 3) 神経線維束の走行個体差の予測, 4) 鼻腔側壁粘膜フラップの温存, などが挙げられる.  

     後鼻神経切断術の効果に関しては自覚鼻症状の改善などの優れた臨床効果と同時に, 局所のアレルギー・好酸球性炎症に対する抑制効果に関する報告もされている.

     一方で, 鼻腔形態整復術と組み合わせた後鼻神経切断術の相乗効果を評価するうえで, 治療の主目的である鼻過敏症状 (くしゃみと鼻漏症状) に関する客観的検査法の確立が今後の検討課題と思われる.

  • 湯田 厚司
    2017 年 120 巻 11 号 p. 1305-1310
    発行日: 2017/11/20
    公開日: 2017/12/16
    ジャーナル フリー

     スギ花粉の舌下免疫療法が保険適用となり3シーズンが経過した. 当院では3年間に本邦で最も多いとされる455例 (初年度225例, 2年目134例, 3年目96例) の舌下免疫療法を導入しており, 当院で最近集積できた成績を中心に最近の話題を概説する.

     治療当初は脱落率とアドヒアランスが懸念されていたが, 2014年に初めて開始した例での1年目の脱落率は約3%で, 2年間でも約7%と低かった. 服薬アドヒアランスは, 治療1年目で89%, 2年目で81%と良好であった. 全例に完璧なアドヒアランスを求めるには無理があるが, 70~75%のアドヒアランスを保てるか否かで症状にも有意な差が認められたので, ある程度のアドヒアランス維持を求めたい.

     本治療で最も注意が必要なことが, 副反応への対応である. 詳細な問診によるシダトレン® の副反応率は40.5%であったが, いずれも軽微な副反応であり, 過度の心配をする必要には至っていない. 治療を中止する副反応は経験していないが, 慎重に対応すべき副反応や偶発症もある. 気管支喘息発作と急性蕁麻疹を偶発した場合には中断も考慮したい. 治療継続可能であっても, 副反応としての長引く咳と好酸球性食道炎症状には継続の可否を考えたい.

     われわれは多数例の治療による臨床効果を報告してきた. 過去3年間の成績では, すべての年で舌下免疫は皮下免疫と同等の効果があり, 初期療法, 飛散後治療や未治療よりも有意に良好な成績を示した. また, 1年目よりも2年目で有意に効果が増強されていた. ただし, ヒノキ花粉症には効果のない例も多いので注意が必要であった. 自験例と海外データなどを踏まえて2年間の治療期間では不十分と考え, できれば4~5年間の治療を目標にしたいと考えている.

  • 梅野 博仁
    2017 年 120 巻 11 号 p. 1311-1317
    発行日: 2017/11/20
    公開日: 2017/12/16
    ジャーナル フリー

     喉頭微細手術は全身麻酔下に直達喉頭鏡を用いて喉頭を展開し, 手術用顕微鏡下で経口的に行う喉頭腔の手術である. 最近では, 直達喉頭鏡を基にした手術器具の進歩に伴い, 中咽頭・下咽頭・食道入口部の疾患に対しても手術が行われている. 手術術式は, 1) 良性隆起性病変の切除術, 2) 喉頭狭窄や麻痺に対する喉頭形成術, 3) 喉頭への薬剤局所注射を含めた声帯内注入術, 4) レーザーを用いた Transoral laser microsurgery(TLM), 5) 痙攣性発声障害に対する声帯内筋切除術など多種多様の術式が行われている. 喉頭微細手術の準備には, 気管挿管に用いるチューブの選択,患者の頭位, 歯芽損傷の予防などに気を配り, 使用する喉頭鏡, 鉗子類は手術手技に適したものを選択する必要がある. ハート型把持鉗子は声帯上皮マイクロフラップの把持に有用であり, アリゲーター鉗子は細かな組織の把持に有用で, ミニマイクロフラップ法や TLM での Type I cordectomy の手技に有用である. CO2 レーザー光をマイクロマニュピレーターで顕微鏡に誘導して手術を行う TLM ではハンドピースを用いたレーザー手術より手振れが少なく, 繊細で緻密な手術操作が可能である. 声帯の喉頭微細手術では手術前後に音声検査を行い, 音声評価を行う必要がある. 主な音声検査には聴覚心理的音声評価として GRBAS 評価があり, 音声評価の自覚的評価には VHI(voice handicap index), V-RQOL(voice-related quality of life) が用いられている. 空気力学的検査には, 最長発声持続時間 (maximum phonation time : MPT), 発声時平均呼気流率 (mean flow rate : MFR), 声門下圧などがあり, 音響分析には周期変動指数 (pitch perturbation quotient : PPQ), jitter, 振幅変動指数 (amplitude perturbation quotient : APQ), shimmer, 規格化雑音エネルギー (normalized noise energy : NNE), HNR(hermonic-to-noise ratio) などが用いられ, 声の高さ域や声の強さ域などの音声検査も行われている.

原著
  • 小幡 和史, 米川 博之, 佐藤 由紀子, 川端 一嘉, 三谷 浩樹, 福島 啓文, 佐々木 徹, 新橋 渉, 瀬戸 陽, 蛯名 彩, 神山 ...
    2017 年 120 巻 11 号 p. 1318-1327
    発行日: 2017/11/20
    公開日: 2017/12/16
    ジャーナル フリー

     背景 : EBER (Epstein-Barr virus encoded small RNA) 陽性上咽頭癌は予後良好と報告されているが, EBER が上咽頭癌の予後に如何に関与するかは不明である. 

     方法 : 2005~2012年でがん研有明病院にて一次治療を行い, EBER を測定した上咽頭癌45例を対象に後向き解析を行った. 年齢, 性別, T・N 分類, 病期・病理分類, 亜部位, EBER 陽・陰性, シスプラチン投与量を対象とし, 全生存期間と無増悪生存期間, 独立した予後因子を求めた. また, 有害事象, 各因子間の相関, 死亡症例を解析した.

     結果 : 5年全生存率, 無増悪生存率は76.9%, 63.2%であった. 単変量解析では, 全生存期間・無増悪生存期間において EBER, 病理・病期分類で有意差を認めた. 全生存期間では病理分類, 無増悪生存期間では病理・病期分類が独立した予後因子であり, EBER と病理分類に相関を認めたが, 治療後遠隔転移発生と相関する因子は認めなかった. 死亡症例では WHO type II・III が遠隔転移, WHO type I は原発・頸部転移が多く見られた.

     結論 : EBER の陽・陰性は独立した予後因子とはならず, EBV 関連の有無は病理組織学的分類ほどの予後予測因子ではないこと, 独立した予後因子である病理組織型と EBV 感染の関連性が示唆された.

  • ―123手術症例からの臨床的検討
    天津 久郎, 愛場 庸雅, 中野 友明, 木下 彩子, 植村 剛, 金村 信明, 神田 裕樹, 副島 千晶, 岩井 謙育, 石橋 謙一, 楠 ...
    2017 年 120 巻 11 号 p. 1328-1336
    発行日: 2017/11/20
    公開日: 2017/12/16
    ジャーナル フリー

     下垂体腺腫に対する手術は近年経鼻内視鏡手術が多く行われ, その低侵襲性と良好な術後成績が示されている. しかし, これらの手術に耳鼻咽喉科医が関与している施設は限定され, 術後鼻副鼻腔合併症についての報告は少ない.

     大阪市立総合医療センターで2003年から2016年の間に下垂体腺腫と診断された102症例に対する123回の手術を対象として, 術後鼻副鼻腔合併症, 髄液漏, 髄膜炎について後方視的に検討し, 耳鼻咽喉科医が寄与できる点につき考察した.

      内視鏡下での止血操作が必要であった鼻出血が2例 (1.6%), 急性蝶形骨洞炎が 1例 (0.8%) に認められた. 髄液漏が3例 (2.4%) に認められ,このうち1例 (0.8%) が細菌性髄膜炎を続発した.嗅覚について詳細な問診が行われた36例で嗅覚脱失を認めた症例はなかった.恒久的な鼻閉, 涙・唾液の分泌低下や口蓋の知覚低下を訴えた症例はなかった.

     本検討から下垂体腺腫に対する内視鏡下経鼻経蝶形骨洞手術で生じ得る鼻副鼻腔合併症と, 耳鼻咽喉科医が関与することによりこれらに適切に対応できることが示唆された. 下垂体腺腫を含む頭蓋底疾患に対する経鼻内視鏡手術の適応が拡大している. 耳鼻咽喉科医と脳神経外科医とでチーム医療を行うことにより術後鼻副鼻腔合併症の管理を効果的に行うことができ, 積極的に耳鼻咽喉科医が関与すべきであると考えられる.

  • 松尾 美央子, 西嶋 利光, 小池 浩次
    2017 年 120 巻 11 号 p. 1337-1342
    発行日: 2017/11/20
    公開日: 2017/12/16
    ジャーナル フリー

     NUT midline carcinoma は頭頸部領域での報告が48例のみとまれな疾患である. 疾患の特徴は, 染色体異常が認められること, 組織像のみでは診断が不可能なこと, そして進行が速く通常の癌治療に抵抗性であることである. 今回報告するのは49歳の男性で篩骨洞発生の症例である. 最初 Ewing 肉腫と診断され, その後 t (15; 19) の染色体異常から NUT midline carcinoma の診断に至った. 肉腫レジメンにて縮小したがその後増大し, シスプラチン併用の放射線治療に抵抗性で初診から9カ月後に死亡した. 未分化組織型で若年症例かつ正中発生の頭頸部癌の場合, 本疾患を疑いまずその診断に至ることが重要である.

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