日本耳鼻咽喉科学会会報
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118 巻, 8 号
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総説
  • 坂井 文彦
    2015 年 118 巻 8 号 p. 1005-1010
    発行日: 2015/08/20
    公開日: 2015/09/04
    ジャーナル フリー
     頭痛は頭部の痛みであり, 耳鼻咽喉科は鼻腔・副鼻腔・内耳, 咽頭部など頭部の約3分の2の領域を対象とするため, 頭痛との関係が深い.
     一次性頭痛 (慢性頭痛) の代表である片頭痛, 緊張型頭痛, 群発頭痛のいずれも, 耳鼻咽喉科的症状が混在する. 片頭痛は前駆症状や随伴症状として時に回転性めまいがある. 緊張型頭痛にはいわゆる “ふわふわめまい” が多く, 耳鳴りもあると耳鼻咽喉科受診となる. 患者さんは「頭痛もあったが, 耳鼻咽喉科の症状があった」ために耳鼻咽喉科を受診する. 群発頭痛とその類縁疾患は三叉神経・自律神経性頭痛としてまとめられている. いずれも片側性頭痛で, 痛みに三叉神経が関与するとともに随伴症状に自律神経, 特に副交感神経が関与している. 頭痛と同側に鼻汁, 鼻閉, 流涙が随伴するのが特徴であり, 三叉神経と翼口蓋神経節との神経回路が病態に重要な役割を果たしていると考えられている.
     耳鼻咽喉科疾患に二次的に生ずる頭痛としては耳, 鼻腔, 副鼻腔の炎症性疾患が頭痛を主訴として発症することがあり, 特に小児では注意を要する.
  • 五島 史行
    2015 年 118 巻 8 号 p. 1011-1015
    発行日: 2015/08/20
    公開日: 2015/09/04
    ジャーナル フリー
     心身症とは身体疾患のうち, ストレスや生活習慣などの心理社会的影響が, 症状の発症や病態の変化に影響を与える疾患のことである. 現在の定義ではうつなどの精神疾患に伴うものは除外するとなっている. しかし, 実際にはこの鑑別は非常に困難である. 耳鼻咽喉科では感覚器疾患を扱うため心身症の割合は少なくない. 過去の一般総合病院耳鼻咽喉科における調査では初診患者586名のうち22.7%に心身症を認めた. 主訴ではめまい, 耳鳴, 咽喉頭異常感症ではその割合は高かった. これらはこれまで主に耳鼻咽喉科ではなく心療内科や精神科によって治療をされていたが, 必ずしも十分な治療が行われているとは限らなかった. どのような症例が心身症かイメージしにくい場合には, おおよそこれまで不定愁訴や, 医学的に説明できない身体症状 (MUS: medically unexplained symptom) として取り扱われてきた患者の多くが心身症であると考えてよい. 今回はその心身症のうち特にめまいに着目しその診断, 治療について概説する. 心身症の診断においては問診が最も重要であるが, 必ずしも十分な時間をかけられない. そのような際に質問紙を活用することで診察時間を短縮し, 必要な情報を短時間で得ることができる. めまいの質問紙として代表的なものは DHI (dizziness handicap inventory) である. DHI を活用することで心身症の治療, 抗うつ薬の適応症例などをスクリーニングすることができる. 耳鼻咽喉科医であっても不安・抑うつにうまく対応することができるとさまざまな疾患の予後を改善させることができる.
原著
  • 小河 孝夫, 加藤 智久, 小野 麻友, 清水 猛史
    2015 年 118 巻 8 号 p. 1016-1026
    発行日: 2015/08/20
    公開日: 2015/09/04
    ジャーナル フリー
     当科を受診した先天性嗅覚障害16例について臨床的検討を行った. 診断は主に問診から行い, 診断補助としてMRI検査が有用であった. 20歳代までの受診が多く, 性差はなかった. 受診契機は, 自覚症状がなく家族など周囲から嗅覚障害を指摘され受診する症例が多く, 嗅覚については,「生来においを感じたことがない」という症例を多く認めた. 嗅覚障害に関連する合併症がない非症候性の先天性嗅覚障害の割合が81% (13例) と高く, 症候性の先天性嗅覚障害である Kallmann 症候群は19% (3例) であった. 基準嗅力検査は88% (14例) の症例でスケールアウトであったが, 検査上残存嗅覚があった症例も12% (2例) 認めた. アリナミンテストは実施した11例全例で無反応であった. MRI 検査による嗅球・嗅溝の定量化が診断に有用であった. 嗅球体積は, 0mm3~63.52mm3, 平均値10.20mm3, 嗅溝の深さは0~12.22mm, 平均値4.85mmで, 嗅球・嗅溝の形態異常を高率に認めた. 嗅球には, 両側または片側無形成例が69% (11例), 両側低形成例が25% (4例), 嗅溝は片側無形成例が6.7% (1例), 片側または両側低形成例は73% (11例) であった.
     先天性嗅覚障害患者に対する治療方法はないが, 適切な診断を行い嗅覚障害に伴う弊害を説明することと, 性腺機能不全の精査を考慮することが重要である.
  • 松島 康二
    2015 年 118 巻 8 号 p. 1027-1036
    発行日: 2015/08/20
    公開日: 2015/09/04
    ジャーナル フリー
     【目的】組織親和性に優れた金属であるチタンを用いて, 甲状軟骨形成術Ⅰ型専用のインプラントを開発し, その音声改善効果と安全性について検討した.
     【対象と方法】胸部大動脈疾患を原因とする男性左声帯麻痺患者9名に対して披裂軟骨内転術と専用チタンプレートを用いた甲状軟骨形成術Ⅰ型を行い, 術後3カ月時点での音響分析検査, ストロボスコープ所見, MPT, MFR, VHI, 頸部 CT について評価した. 手術は laryngeal mask を用いた全身麻酔下に行い, 全例術中に laryngeal mask を抜去し覚醒させ音声を確認した.
     【結果】術後, 各検査において改善を認め, ストロボスコープでは対称性のある粘膜波動が確認された. 頸部 CT では今回検討を行った全例においてチタンプレートは声帯と平行に留置されており, チタンプレートの破損・変形・脱落・移動は認めなかった.
     【考察】声帯麻痺を治療するに当たり患者本来の音声を再獲得するためには, 麻痺声帯を発声時の生理的状態に近づけなければいけない. そのためには甲状軟骨形成術Ⅰ型により声帯前方の支点と振動体の再形成を行い, 披裂軟骨内転術により声帯後方の支点の再形成と声帯に適度な緊張を与える必要がある. この目的のために開発したチタンプレートを用いた音声改善手術について検討を行い, 生理的な声帯振動とともに良好な音声改善効果が得られることを確認した.
  • 大野 慶子, 角田 篤信, 有泉 陽介, 大野 十央, 角 卓郎, 杉本 太郎, 岸本 誠司
    2015 年 118 巻 8 号 p. 1037-1045
    発行日: 2015/08/20
    公開日: 2015/09/04
    ジャーナル フリー
     【目的】前頭蓋底手術を施行した篩骨洞癌症例について臨床的検討を行い, 篩骨洞癌に対する前頭蓋底手術の妥当性と安全性について考察する.
     【対象・方法】2001年から2013年に前頭蓋底手術を施行した篩骨洞癌の13例を対象とした. 13例中8例がさまざまな初回治療後の腫瘍残存あるいは再発例に対する救済手術であり, 他5例は一次治療の一環として手術を行った. 男性10例, 女性3例で, 初診時年齢は34~79歳 (中央値58歳), 観察期間は9~133カ月 (中央値58.9カ月) であった. 初回治療時の病期診断は T4a が6例, T4b が3例, T3 が3例, T2 が1例であり, 頸部リンパ節転移例, 遠隔転移例はなかった.
     【結果】全症例で腫瘍は一塊切除された. 全症例に対して, 冠状切開および前頭開頭を施行し, 腫瘍の進展範囲に合わせて, 症例ごと皮膚切開や術式を追加した. 13例中4例で患側の眼窩内容摘出を行った. 術後2例に硬膜外膿瘍を認めたが, ほかに特に重篤な合併症を来した症例はなかった. 局所再発を認めたのは4例であり, そのうち3例が術後9カ月・11カ月・49カ月で原病死に至った. 5年粗生存率は75.2%であった.
     【まとめ】前頭蓋底手術は局所進行したさまざまな術前治療後の篩骨洞癌に対する治療として適切に手術適応を考慮することにより安全で有用な方法であると考えられた.
  • 藤川 太郎, 白倉 聡, 畑中 章生, 岡野 渉, 得丸 貴夫, 山田 雅人, 齊藤 吉弘, 別府 武
    2015 年 118 巻 8 号 p. 1046-1052
    発行日: 2015/08/20
    公開日: 2015/09/04
    ジャーナル フリー
     癌治療において低ナトリウム血症はしばしば遭遇する電解質異常である. 今回われわれは, 中咽頭癌進行症例に対してシスプラチン (CDDP) 同時併用放射線治療を行い, 計3回の grade 4 の低ナトリウム血症を経験したので報告する. 初回および2回目の低ナトリウム血症は CDDP 投与後に出現し, 脱水と多尿を伴い, 輸液と塩分の補充により1週間程度で改善した. ナトリウムの排泄過剰の所見から塩類喪失性腎症が原因であると考えられた. 3回目の低ナトリウム血症の原因であった抗利尿ホルモン不適合分泌との比較から, 細胞外液量とナトリウムバランスの評価が低ナトリウム血症の鑑別と適切な治療において極めて重要であると考えられた.
  • ―頭頸部がん専門医の意識―
    横島 一彦, 中溝 宗永
    2015 年 118 巻 8 号 p. 1053-1057
    発行日: 2015/08/20
    公開日: 2015/09/04
    ジャーナル フリー
     本邦の高齢化の急速な進行に伴い, 高齢頭頸部癌患者も増加しており, 対応策を考えることが急務である. 頭頸部癌診療に当たっている医師の意識を明らかにするためにアンケート調査を行った.
     122名 (54.2%) の頭頸部がん専門医から有効回答を得た. 高齢者は非高齢者に比べ, 不顕性のものも含め, 併存疾患や臓器機能障害が明らかに多いこと, 特に認知機能の低下による病識の欠如や闘病意欲の低下が診療の妨げになり, 画一的な診療が不可能であることが意識されていた. “暦年齢でなく, 個々の状況により治療方針を決める”考え方が一般的だが, 判断基準が曖昧で, 医師の印象で方針決定がなされる危険性が指摘された.
  • 杉内 智子, 小寺 一興, 調所 廣之, 浅野 義一, 兼定 啓子, 林田 充弘, 金谷 浩一郎, 徳丸 岳志
    2015 年 118 巻 8 号 p. 1058-1067
    発行日: 2015/08/20
    公開日: 2015/09/04
    ジャーナル フリー
     耳型採型の副損傷の動向を概観するために, 1986年 (285医療施設), 1999年 (398医療施設) に続き, 2012年に対象を拡大して3,257医療施設の耳鼻咽喉科に対しアンケート調査を行った.
     その結果, アンケートの回収率は62.9% (3,257施設中2,050施設), 副損傷の経験があったのは2,050施設中301施設 (14.7%), 副損傷の総件数は460例であった. その発生場所は補聴器販売店が460例中342例 (74.3%) と最も多く, 自医療施設67例 (14.6%), その他が51件 (11.1%) であった. 副損傷の種類としては, 印象剤 (耳型) の離脱困難・残留という耳内異物が298例 (64.8%) と最も多く, これらのうち全身麻酔下での摘出や手術を要したものが32件認められた. 次に採取後の出血・外耳道炎が146件 (31.7%) で, 中には長期間の通院・処置を要した抗凝固薬内服例の報告があり, 留意を要すると考えられた. なお, 鼓膜穿孔例が10例に認められた. また医療機関で耳型採型を実施しているのは, 2,050施設中630施設 (30.7%) であった.
     補聴器適合の前には耳鼻咽喉科の受診が必要である. 耳型採型には副損傷の危険が伴い, 特に術後耳や中耳炎後遺症などの耳型採型は耳鼻咽喉科医師が直接に関与すべきであって, わが国の現状を踏まえ, これらに向けた態勢を整えることが望まれる.
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