急性低音障害型感音難聴 (Acute low tone sensorineural hearing loss : ALHL) に関する認識は臨床医の間で定着し, 聴力障害が軽度であり, その予後も比較的良好であることが知られている. 一方聴力障害の再発に加えメニエール病に移行する症例の存在も報告されている.
当科およびその関連病院でALHLと診断加療された357症例についてその臨床経過を中心に検討した. 今回の集計の中には, 高音部に生理的と思われる聴力障害を持つ非典型例45症例が含まれている. 経過中に聴力レベルの悪化もしくは再発を繰り返した “予後不良例” は49症例あり, このうち最終的に中高音域にまで及ぶ聴力レベルの低下を認めた症例が両側低下1例を含む8例存在した.
めまい発作を併発した症例が17症例, めまい発作を反復し種々の平衡機能検査などからメニエール病と診断された症例が8症例あった. これは “予後不良例” の中のそれぞれ34.7%および16.3%にあたる. 聴力障害の再発をみた症例では, めまい発作を併発しメニエール病に移行する症例がより高率であることが確認された.
ALHLと診断される症例の中には, 再発, 悪化をする症例が混在する可能性があり, 一旦聴力の改善が得られた症例でも慎重な経過観察が必要と考える. 今回の集計結果では特に高齢者や非典型例, 両側例に予後不良例の比率が高く, これらの症例では慎重な経過観察が必要と思われた. 一般的に予後良好とされる本症のなかに, 再発により重篤な聴力障害を残す進行性難聴となる症例やメニエール病へ移行する症例が混在することをあらためて認識し, 本症の初期の取り扱いに対し, これらの可能性を十分考慮し, 安易な取り扱いは注意するべきだと考える.
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