日本耳鼻咽喉科学会会報
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117 巻, 8 号
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総説
  • ―動脈硬化の診療における CAVI の有用性―
    東丸 貴信
    2014 年 117 巻 8 号 p. 1055-1063
    発行日: 2014/08/20
    公開日: 2014/10/07
    ジャーナル フリー
     動脈硬化症の診断には超音波検査などの画像診断による血管構造の評価が重要である. しかし形態評価のみでは血管弾性等の血管機能を知ることはできない. 血管機能検査は超早期病変やストレスなどを評価する方法として重要であり, 脈波伝播速度 (PWV) が汎用されてきた. しかし, 血圧の影響を受けるなど不安定な面があり, 心臓足首血管指数 (Cardio-Ankle Vascular Index: CAVI) は血圧依存度が少なく簡便に動脈弾性を評価できる指標として脈波速度検査を基に開発された. CAVI は加齢に伴い上昇するが, 生活習慣病 (高血圧症, 糖尿病, 脂質異常症, 肥満, メタボリック症候群), 喫煙, 慢性腎臓病などでさらに上昇する. また CAVI は頸動脈硬化や冠動脈病変の重症度と関係するが, さらに血管弾性増加は心臓血管イベントのリスクを増すことが報告されている. そして, 虚血性心疾患, 脳血管障害や全身の動脈硬化症でも高値である. また, 降圧薬, 脂質低下薬や糖尿病治療薬で生活習慣病の治療を行うと, 上昇していた CAVI は低下してくる.
     このように, CAVI は血圧などの影響を受けない安定した血管機能の指標である. そして生活習慣病などによる血管へのストレスや動脈硬化進展度,脳血管や心臓血管イベントリスクの指標として有用であるが, 正常の場合でも他の指標や症状も考慮して総合的に評価する必要があると考えられる.
  • 中田 誠一, 鈴木 賢二
    2014 年 117 巻 8 号 p. 1064-1072
    発行日: 2014/08/20
    公開日: 2014/10/07
    ジャーナル フリー
     閉塞型睡眠時無呼吸症候群 (obstructive sleep apnea syndrome: OSAS) に対して手術治療は耳鼻咽喉科医として常に念頭に置いておかなければならない治療である. その中で口蓋垂軟口蓋咽頭形成術 (uvulopalatopharyngoplasty: UPPP) は耳鼻咽喉科医にとって OSAS の手術治療の中心であり, 適応には十分に注意する必要がある. 適応の第1は非肥満であり口蓋扁桃が大きいことである. 第2には年齢は少なくとも50歳以下が望ましく, 顔面軸は86度以上, 極端な軟口蓋低位がないことである. UPPP の術式のポイントは上咽頭から中咽頭に抜ける軟口蓋後部の狭窄部位をいかに拡大するかにかかっている. 筋層は傷害しないのが基本である. 手術時は開口器の位置に工夫が必要である. 通常の開口器では良好な視野が得られない場合が必ず出てくる. そのようなときにデビスクローの穴無しの開口器は有用である. また特に OSAS の手術においての周術期の管理には十分に留意する. 最近では手術麻酔が終了し抜管時に CPAP を患者の鼻に被せ呼吸器管理を数日行うという周術期対策の治療が発表され注目されている. OSAS に対する鼻手術治療 (鼻中隔矯正術, 下鼻甲介切除術, 粘膜下下鼻甲介骨切除術など) には2つの目的がある. 1つは CPAP 治療が鼻閉にて使えないときその救済治療としてである. もう1つは OSAS そのものを治す目的としてである. 前者は両側の鼻腔通気度の値が0.35Pa/cm3/sec. 以上が適応であるが症例によっては夜間, 仰臥位によっての鼻甲介の腫脹を勘案して鼻腔通気度が0.2Pa/cm3/sec. 台であっても手術適応になるのではないかと考える. 後者に対する手術適応は, OSAS 患者の軟口蓋の位置が高く (口腔内を視診したときに口蓋垂や口腔の後方がしっかり認められる), 舌根部の空間が広い場合, 鼻手術単独でも OSAS を軽減させる確率が高い. 小児 OSAS に関しては, 手術 (Adenotonsillectomy) が基本であるが, 現在色々な治療に関するエビデンスが出てきており, 今後はより注意していく必要がある.
原著
  • 志津木 健, 行木 英生
    2014 年 117 巻 8 号 p. 1073-1079
    発行日: 2014/08/20
    公開日: 2014/10/07
    ジャーナル フリー
     無料 DICOM ビューアーソフト Onis の multi-planar reconstruction 機能を用いて, 前頭洞換気排泄路の斜断面 CT を作成した. 矢状断で前頭洞換気排泄路を特定し, ここにスライス線を設定すると, 正常副鼻腔65例の96.9%で前頭洞と換気排泄路が同時に現れる斜断面 key 画像を作成可能だった. 換気排泄路は鉤状突起を境界として内外に分割でき, これを, (1)内, (2)外から内, (3)外の3ルートに分類した. 鉤状突起上端付着部は, (1)外: 眼窩壁, (2)上: 天蓋または前頭洞中隔, (3)内: 中甲介の3方向に分類した. 鉤状突起が 「外」 の症例は, 全例で換気排泄路が 「内」 となり, 全症例の66.7%を占めた. 鉤状突起が 「上」 または 「内」 の症例の場合, 換気排泄路は 「外から内」 または 「外」 となった. 前頭洞と agger nasi cell, frontal ethmoidal cell, intersinus septal cell といった前篩骨蜂巣の位置関係は, 換気排泄路の3つのバリエーションの成立過程を用いて説明可能だった. 換気排泄路が明示された斜断面 CT は, 前頭洞を開放する強弯器具の挿入経路, 動作面に相当する. この斜断面 CT と矢状断 CT を合わせると縦横の3次元解剖を理解できるので, 前頭洞開放の術前準備, 術中確認に有用である.
  • 安江 穂, 杉浦 彩子, 内田 育恵, 中島 務
    2014 年 117 巻 8 号 p. 1080-1086
    発行日: 2014/08/20
    公開日: 2014/10/07
    ジャーナル フリー
     【目的】 聴覚コミュニケーション障害に対する対策を求めて当院補聴器外来を受診した高年齢者について, 年齢毎の聴覚推移の特徴と語音弁別能低値に寄与する要因を明らかにする目的で検討した.
     【方法】 対象は60~98歳の525名1,050耳である.
     解析1: 10歳毎の年齢群別・性別語音弁別能平均値を求めた.
     解析2: 同じく語音弁別能60%未満,40%以下の割合を求めた.
     解析3: 語音弁別能60%未満となる危険因子を2種のモデルを設定して多重ロジスティック回帰分析で検討した.
     解析4: 年齢群別・性別で Rollover Index (RI) 平均値を求めた.
     【結果】 語音弁別能は特に80歳代以上の年齢群において急激な低下を認めた (60歳代; 80.8%, 70歳代; 75.3%, 80歳代; 60.7%, 90歳代; 45.5%). 語音弁別能60%未満, 40%以下の割合も80歳代以上で急増した. 語音弁別能60%未満となる危険因子は, 目的変数を語音弁別能60%未満, 説明変数を性, 年齢 (10歳 毎), 4周波数平均聴力レベル (10dB 毎) としたモデル1において, 年齢のオッズ比は3.03 (95%信頼区間2.38-3.85; p<.0001), 4周波数平均聴力レベルのオッズ比は2.33 (2.03-2.68; p<.0001) と有意であり, 性別は有意ではなかった. 同じく, 目的変数を語音弁別能60%未満, 説明変数を各周波数聴力レベル (10dB 毎), 調整変数を性・年齢 (10歳 毎) としたモデル2では250Hz, 2,000Hz, 4,000Hz での聴力レベルが有意に影響していた. RI は年齢群が高いほど上昇傾向を示した.
     【結論】 高年齢者, 特に80歳以上においては語音弁別能低下が著しく, RI は上昇した. 語音聴力検査は, 補聴器導入時のガイダンスに有益な情報をもたらすと考えられた.
  • 福田 篤, 津布久 崇, 松村 道哉, 古田 康
    2014 年 117 巻 8 号 p. 1087-1092
    発行日: 2014/08/20
    公開日: 2014/10/07
    ジャーナル フリー
     急性期病院では嚥下障害があっても入院の契機となった病状が安定すると速やかに退院あるいは転院となり, 入院中に転退院後の経口摂取可否の判断をすることは困難である. 急性期病院から転退院後の経口摂取状況を追跡調査し, 転退院後の経口摂取状況を予測する上で有用な因子を後方視的に検討した.
     対象は2011年10月から2012年12月までに急性期病院である当院に入院し, 嚥下機能評価を行った45例である. 転退院後の経口摂取状況を経口摂取自立群, 制限群, 不可群の3群に分類した. 制限群と不可群を併せた群を非自立群とし, 自立群との間で, 年齢・性別・兵頭らが報告した嚥下内視鏡検査スコア評価基準によるスコアの合計点 (以下, VE スコア)・日常生活動作 (以下, ADL) の指標としての Functional Independence Measure (以下, 運動FIM・認知FIM) との関係を検討した.
     単変量解析では, 年齢, VE スコア, 運動 FIM, 認知 FIM で有意な差が認められ, VE スコアは多変量解析でも有意な差が認められた. VE スコアにおいて自立群と非自立群の間で4点を cut off 値とした場合, 特異度は0.944, 陽性的中度は0.923となった. 一方, 不可群と, 自立群と制限群を併せた群の間で9点を cut off 値とした場合, 特異度は0.969, 陽性的中度は0.857となった.
     以上より VE スコアは経口摂取の可否と相関する独立した因子であり, 急性期病院から転退院後の経口摂取状況の予測に有用であることが示唆された. また, 年齢・ADL も嚥下状況の予測に有用な因子であることが示唆された.
  • 阪上 雅史, 黒野 祐一, 井之口 昭, 武田 憲昭, 愛場 庸雅, 任 智美, 池田 稔
    2014 年 117 巻 8 号 p. 1093-1101
    発行日: 2014/08/20
    公開日: 2014/10/07
    ジャーナル フリー
     味覚障害は, 初診時のみならず治療経過においても味覚機能検査の結果と患者の訴えとが必ずしも一致せず, 治療効果の評価やそれに応じた治療方針の見直しが難しい疾患である. 本研究では, 亜鉛内服治療の適応と診断された味覚障害患者44例に対してポラプレジンク150mg/日 (亜鉛量34mg/日) を最長で24週間投与し, 濾紙ディスク味覚検査法および自覚症状スコアを4週間ごとに評価し, 経時的推移を検討した. また, 効果予測因子として, 患者背景因子または濾紙ディスク味覚検査法による治療途中での評価結果に応じた治療転帰の違いについて検討した. 濾紙ディスク味覚検査法と自覚症状スコアでは異なる経時的推移を認めた. 濾紙ディスク味覚検査法の有効率は投与12週時で47.7%に達し, その後の上昇は緩やかで, 24週時では56.8%であった. 一方, 自覚症状スコアは24週時まで時間に比例した改善を認めた. 患者背景因子では, 本研究で対象とした患者においては, 味覚障害の分類を含めて最終的な効果に違いを認めなかったが, 投与12週時の濾紙ディスク味覚検査法での改善傾向の有無により明らかな差を認めた. 改善傾向にある症例は, 最終的な有効率, 自覚症状スコアともに有意に高い効果が示されるのに対して, 改善傾向を認めない症例は, その後の12週間の治療継続によっても効果が得られることは少なかった.
  • 後藤 一貴, 金谷 洋明, 今野 渉, 中島 逸男, 深美 悟, 平林 秀樹, 春名 眞一
    2014 年 117 巻 8 号 p. 1102-1107
    発行日: 2014/08/20
    公開日: 2014/10/07
    ジャーナル フリー
     間葉腫は線維組織以外の異なる間葉組織で構成され, 多潜能間葉細胞から生ずるとされる. 38歳女性. 平成9年に舌根部腫瘍摘出術を施行され, 神経線維腫の診断を得た. 平成14年に再発し, 摘出術を施行. 脂肪腫の診断であった. 平成20年に左舌根部から喉頭蓋に再々発し, 頸部外切開にて摘出した. 病理診断は成熟した軟骨, 骨, 脂肪組織から構成された間葉腫であった. 神経線維腫, 脂肪腫の切除が行われた既往から, 多潜能間葉細胞に由来する個々の組織成分が異時性に腫瘍性病変を形成したものと考えられた. 再発防止のためには, 組織再建も考慮しつつ十分な surgical margin とともに摘出することが重要である.
  • 井口 福一郎, 谷口 善知, 草野 純子, 髙橋 由佳, 村井 紀彦
    2014 年 117 巻 8 号 p. 1108-1114
    発行日: 2014/08/20
    公開日: 2014/10/07
    ジャーナル フリー
     唾液腺導管癌は予後不良な唾液腺悪性腫瘍であり, 遠隔転移再発後の有効な治療法はこれまで知られていなかった. HER2 過剰発現する本腫瘍へトラスツズマブを含む分子標的治療が著効した症例を経験したので報告する. 症例は69歳男性, 原発巣と所属リンパ節への手術, 術後照射の初回治療から半年後に肝, 椎骨への遠隔転移を来した. パクリタキセルとトラスツズマブによる化学療法を行ったところ, 転移巣は肝, 椎骨ともに著明に縮小した. パクリタキセルによる四肢の末梢神経障害が認められた後はトラスツズマブのみの投与を続けているが, 心障害は生じていない. 遠隔転移から3年経過するが再増大は認められず, 在宅で日常生活を送っている.
  • 結束 寿, 海邊 昭子, 穴澤 卯太郎, 高石 慎也, 蓮 琢也, 増田 文子, 吉村 剛, 飯野 孝, 田中 康広
    2014 年 117 巻 8 号 p. 1115-1119
    発行日: 2014/08/20
    公開日: 2014/10/07
    ジャーナル フリー
     血腫形成を伴う出血を来す総頸動脈損傷の多くは穿通性であり, 非穿通性の損傷はほとんど報告がない. 今回, われわれは軽微な外力により急激な血腫形成を来した非穿通性総頸動脈損傷例を経験したので報告する. 症例は35歳男性. 空手の練習中に相手の弱い突きが下顎に当たり, 急激な頸部腫脹と疼痛を認めたため当院を受診した. 経鼻内視鏡検査にて血腫による気道狭窄が確認され, 気管切開を施行した. その後, 頸部造影 CT にて総頸動脈より活動性の出血を認め, 血腫除去と止血術を施行した. 術中は総頸動脈に約2cmの裂創を認め, これを縫合止血した. 術後は四肢麻痺などの合併症を認めず経過良好であり, 術後22日で退院した.
  • 大野 恒久, 水越 彬文, 木村 俊哉, 玉木 久信
    2014 年 117 巻 8 号 p. 1120-1125
    発行日: 2014/08/20
    公開日: 2014/10/07
    ジャーナル フリー
     薬剤溶出性ステント (DES: Drug-Eluting Stent) は, 現在冠動脈疾患の治療に広く使用されているが, 留置後の血栓症予防のため, 抗血小板剤の長期服用を必要とする. そのため外科手術を必要とする場合, 血栓リスクと出血リスクを考慮して周術期管理を行う必要がある. また甲状腺手術においても, 術後出血による合併症を最小限に抑える周術期管理が重要である. 今回われわれは, 小倉記念病院の周術期プロトコールに沿って甲状腺手術を2例行い, 合併症なく安全に行うことができた. DES 留置術後に外科手術を行う際の安全性に関するエビデンスはこれまで報告がなく, 今回われわれが採用したプロトコールにより安全に甲状腺手術が行えることが示唆された.
  • 長安 吏江, 前田 幸英, 菅谷 明子, 片岡 祐子, 福島 邦博, 西﨑 和則
    2014 年 117 巻 8 号 p. 1126-1131
    発行日: 2014/08/20
    公開日: 2014/10/07
    ジャーナル フリー
     成人の聴覚障害者の補聴器装用効果の指標としては, 日本聴覚医学会の補聴器適合指針をはじめ, 各種質問紙調査が用いられている. しかし, 聴覚障害に伴うコミュニケーション障害を評価するための指標は定まっていない.
     われわれは, 実用コミュニケーション能力検査 (Communication ADL Test: CADL) から音声に関する項目を抜粋し, 音声ファイルを作成, このCADL簡易版を用いて, 当科補聴器外来にて補聴器装用を介入とした前後比較試験を行ったところ, 各15の質問項目および総得点で装用後有意な得点の改善がみられた. また, 装用後の総得点は補聴器装用耳の語音明瞭度と良好な相関を認め, 本検査がコミュニケーション障害のアウトカム指標に応用できる可能性が示唆された.
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