日本耳鼻咽喉科学会会報
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120 巻, 1 号
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総説
  • 小児喘息の診断とコントロール
    河野 陽一
    2017 年 120 巻 1 号 p. 1-8
    発行日: 2017/01/20
    公開日: 2017/02/10
    ジャーナル フリー

     年長児の喘息は, 典型的な発作症状である呼気性喘鳴を伴う呼吸困難を繰り返していれば, 診断は難しくない. 一方, 乳児期においては, ウイルスによる下気道感染により喘息と同様の喘鳴を認めることがあり, 喘息の診断は必ずしも容易でない. しかし, 乳幼児期の発症早期より適切な治療・管理を行うことが, 治療目標の達成に重要と考えられることから, 乳児喘息は症状を広く捉えて診断する.
     治療開始後の治療ステップの選択は, コントロール状態の評価を基に進める. 長期管理の薬物療法は, 吸入ステロイド薬による抗炎症療法が基本であるが, ロイコトリエン受容体拮抗薬, テオフィリン徐放製剤も用いられる. 3カ月以上コントロール状態が良好であれば, 治療内容のステップダウンを考えるが, 症状のみではなくピークフロー値, FEV1.0, β2 刺激薬吸入に対する反応性なども確認する. 乳幼児期に発症した喘鳴疾患は, ウイルス感染による呼吸器症状など多様な病態を含むことから, 喘息のオーバートリートメントにならないように注意する.
     急性増悪 (発作) は, 発作強度に基づき β2 刺激薬などを中心とした気管支拡張薬による治療を行う. 呼吸困難レベルによっては酸素の吸入を同時に行い, 脱水症状を認めることも多いので, 輸液による補正を行う. 経過により, ステロイド静注, イソプロテレノール持続吸入療法などを併用し, また年長児であればアミノフィリン持続点滴療法も用いる.
     喘息治療は薬物療法のみではなく, 悪化因子対策, 患者と家族への教育, 心理社会的要因への対策, 学校での対応など, 患者固有の要因についての確認と指導も重要である.

  • 耳石置換法と平衡訓練
    武田 憲昭
    2017 年 120 巻 1 号 p. 9-14
    発行日: 2017/01/20
    公開日: 2017/02/10
    ジャーナル フリー

     1. BPPVに対する耳石置換法
     後半規管型 BPPV には耳石置換法 (Epley 法) が有効で, 頭位めまいと頭位眼振の消失を促進することから, 強く推奨される. しかし, 自然治癒が期待できる疾患のため, 嘔気のある患者や頸椎や腰部に異常のある患者に無理に行う必要はない. 外側半規管型 BPPV・半規管結石症にも耳石置換法 (Gufoni 法) が有効で, 頭位めまいと頭位眼振の消失を促進することから推奨されるが, 効果は限定的である. 無治療でも早期に自然治癒が期待できるため, 無理に行う必要はない. 外側半規管型 BPPV・クプラ結石症には標準化された耳石置換法はないが, 無治療でも早期に自然治癒が期待できる.
     2. 前庭障害に対する平衡訓練
     平衡訓練は, 前庭障害患者の自覚的な平衡障害を改善するとの evidence がある. しかし, 重心動揺などの他覚所見の改善効果は不十分である. 平衡訓練は標準化されていないため, 今後, 標準化された平衡訓練の evidence を得る必要がある. 前庭障害患者に対する Wii Fit を用いた平衡訓練が, 通常の平衡訓練と比較して有効であるとの evidence はない. 仮想現実を用いて感覚ミスマッチ刺激を反復して与える平衡訓練により, 前庭障害患者の姿勢が安定する可能性がある. しかし, 感覚ミスマッチ刺激により転倒のリスクがある. 感覚代行を用いた平衡訓練が, 前庭障害患者の姿勢や歩行を改善する可能性がある. 今後, 臨床研究を行い, evidence を得る必要がある.

  • ―保存的治療, 特に鼻すすり癖を伴う症例の鑑別について―
    水田 邦博, 遠藤 志織
    2017 年 120 巻 1 号 p. 15-19
    発行日: 2017/01/20
    公開日: 2017/02/10
    ジャーナル フリー

     【診断】耳管開放症の診断において, 耳閉感, 自声強聴, 自己呼吸音聴取などの症状が臥位で改善すれば, 疑い例となる. さらに鼓膜の呼吸性動揺を確認するか, 耳管機能検査で, 1. TTAG 法における鼻咽腔圧と外耳道圧の同期, 2. 音響法における提示音圧が 100dB 未満, 3. 音響法において嚥下などによる耳管の開大が継続しプラトーになる, の3つのいずれかが認められれば, 確実例と診断される. 確実例に至らない場合は, 耳管閉塞処置で自覚症状の改善を確認することが診断に有効である. 菲薄化, 硬化性病変, 弛緩部の陥凹などの鼓膜所見から耳管閉鎖不全が疑われれば, 鼻すすり癖の有無を問う. 以前は鼻をすすって改善していた症状が, 鼻をすすっても改善しにくくなったことが来院のきっかけであることが多い.
     【治療】鼻すすり癖のない耳管開放症は鼓膜が正常のことが多く, 体重減少, 妊娠などが発症の誘因となる. まず, 病態の説明, 生活指導を行う. 不十分なら薬物療法を行う. 症例によっては鼓膜へのテープ貼付, 耳管咽頭口ルゴール処置も効果がある. これらの保存的療法が無効な場合, 外科的処置への移行を検討する. 鼻すすり癖のある耳管開放症の場合, 若年で中鼓室が陰圧を示し, 弛緩部の陥凹の進行が懸念される例では, 鼻すすり癖の停止勧告を優先する. 高齢者で長年のすすり癖にもかかわらず弛緩部の陥凹が円滑なら, 鼻すすり癖のない開放症に準じた治療を行う. ルゴール耳管咽頭口処置や耳管ピンで耳管を狭窄として鼻をすすりやすくすれば, 症状を軽減できる.
     【まとめ】体重減少や妊娠を契機として起こる耳管開放症も鼻すすり癖をもつ開放症も同一の診断基準で診断され得るが, 病態が異なるため治療は違ったアプローチとなる. したがって, 問診や鼓膜所見で, まずその鑑別を行うことが重要である.

  • ―ガイドラインに基づく小児市中肺炎の最適療法―
    尾内 一信
    2017 年 120 巻 1 号 p. 20-25
    発行日: 2017/01/20
    公開日: 2017/02/10
    ジャーナル フリー

     小児の市中肺炎の最適療法を行うためには, 当然のことながら小児の特殊性を理解することが重要である. さらに, 適切な病型診断と原因微生物の推定, 原因細菌の薬剤感受性動向の把握, 薬物動態 (PK) と薬力学 (PD) の理解, 治療前の検体採取, 抗菌薬のミキシング, 標準的な治療期間を遵守, 耐性菌リスクを考慮し不必要な抗菌薬を投与しないなどそれぞれ基本的な事項であるが, 数多くて複雑である. 小児感染症専門医でもアップデートはなかなか困難である. したがって, これらの基本的な事項に配慮して作成されたガイドラインを使って治療することがより現実的であり, 最適治療の近道である. ガイドラインに従って, 耐性菌を増やさないように常に意識して抗菌薬の適性使用を心がけたい.

原著
  • ―当院の嚥下訓練開始条件の妥当性の検討―
    丸山 裕美子, 塚田 弥生, 星田 茂, 中西 庸介, 北川 典子, 平井 信行, 笠原 善弥, 南部 亮太, 金塚 智恵子, 吉崎 智一
    2017 年 120 巻 1 号 p. 26-35
    発行日: 2017/01/20
    公開日: 2017/02/10
    ジャーナル フリー

     過去8年間に嚥下訓練を施行した884例の集計と訓練開始時の状態と経口摂取再獲得の成否との関連につき調査した. その結果, 当院で嚥下訓練を施行した症例は徐々に増加傾向にあり, 70歳以上の症例が82.8%を占めており, 男性に有意に多いことが確認された (p=0.004). 基礎疾患は脳血管障害と呼吸器疾患が中心で, 訓練終了時の主な栄養経路が経口摂取であった症例は全体の56.3%で, 訓練の実施期間は30日以内が全体の60.5%を占めていた. 訓練開始時の状態と経口摂取再獲得の成否について検討したところ, (1) 患者自身に「食べたい」という意欲のある群は, ない群および意欲不明群に比較し経口摂取獲得率が有意に高く (p<0.001), (2) 意識レベルが JCS 3 桁の群は意識清明群, 1桁群, 2桁群に比較して経口摂取獲得率が有意に低く (p<0.001), (3) ADL (日常生活動作) が仰臥位の群は半座位可能群, 端座位可能群, 移乗可能以上群に比較し経口摂取再獲得率が有意に低い (p<0.001) ことが確認された. 多変量解析を行ったところ, 意欲, ADL, 意識レベルの順に経口摂取再獲得の成否との関連が強いという結果を得た. 本研究より, 当院では嚥下訓練を必要とする症例が増加傾向にあり, 患者自身の「食べたい」という意欲の有無, ADL のレベル, 意識レベルは経口摂取再獲得の成否に有意に関連することが確認された.

  • 田中 翔太, 宮田 政則, 高橋 吾郎, 松岡 伴和, 黒田 優美, 増山 敬祐
    2017 年 120 巻 1 号 p. 36-43
    発行日: 2017/01/20
    公開日: 2017/02/10
    ジャーナル フリー

     花粉症の煩わしい諸症状は患者の QOL を低下させるだけでなく, 社会経済活動にも影響を及ぼし労働生産性や学業の能率の低下を招いているとされる. これらの原因として, 花粉症によってもたらされる睡眠障害と日中の過度の眠気 (Excessive Daytime Sleepiness, EDS) が指摘されている. この研究の目的は, 花粉症患者に質問票調査を行うことにより, 花粉症の症状の重症度と EDS との関係を検討することである. 臨床的に春季花粉症と診断された患者1,726人より有効な回答が得られた. 花粉症の中等症, 重症群では無症候群に対して有意に日中の眠気が多いことが示された. また, 同様に重症群では有意にいびきを有する割合が多かった.

  • 湯田 厚司, 小川 由起子, 鈴木 祐輔, 有方 雅彦, 神前 英明, 清水 猛史, 太田 伸男
    2017 年 120 巻 1 号 p. 44-51
    発行日: 2017/01/20
    公開日: 2017/02/10
    ジャーナル フリー

     舌下免疫の最初の数年間の効果は治療年数により高まるとされる. スギ花粉舌下免疫の同一患者での症状を, ともに中等度飛散であった2015年 (花粉総数2,509個/cm2) と2016年 (同3,505個/cm2) の2年間で検討した. 【方法】発売初年に開始した舌下免疫132例 (41.8±17.5歳, 男女比75: 57) と対照に初期療法56例 (44.9±13.5歳, 同25: 31) を選択した. 2015年と2016年の両方のスギ花粉飛散ピーク時に, 1) 症状スコアと症状薬物スコア, 2) Visual analog scale, 3) 日本アレルギー性鼻炎標準 QOL 調査票 (JRQLQ No1) で調査した. 主目的に舌下免疫療法2年目に効果が増強するか, 副次目的に舌下免疫と初期療法の比較とした. 【結果】推定周辺平均ですべてに治療方法と年度に交互作用はなく, くしゃみ, 鼻汁, 鼻閉, 眼のかゆみなどの眼鼻症状において, 初期療法には2年での差はなく, 舌下免疫療法の多くで2年目は1年目より有意に良かった. 全般症状の項目も同様であった. QOL (quality of life) は, 舌下免疫の17項目中2項目のみで有意に2年目が良かった. また, ほとんどの項目で舌下免疫は初期療法より有意に効果的であった. 【結論】初期療法を対照にした中等度飛散の2年の比較で, 舌下免疫の治療効果は治療1年目より2年目で高まっていたと考えられる.

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