日本耳鼻咽喉科学会会報
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76 巻, 12 号
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  • mite (Dermatophagoides farinae)抽出抗原液による鼻アレルギー患者の特異的減感作療法の検討
    島田 哲男, 石川 暁, 宮下 久夫, 藤田 洋右
    1973 年 76 巻 12 号 p. 1405-1413
    発行日: 1973/12/20
    公開日: 2008/12/16
    ジャーナル フリー
    目的:市販のmite抽出抗原液を用い,いわゆる鼻アレルギー症状を呈し,miteによる皮内反応,鼻粘膜誘発反応,P-K反応が陽性である患者に,特異的減感作療法を行い,その経過の解察とin vivo及びin vitroによる抗体の検出から,その変動を検討し,減感作療法の作用機序について考察する事が目的である.
    実験方法:mite (Dermatophagoides farinae)抽出抗原液を生理食塩水で稀釈し,患者の皮内反応関値にかかわらず,一率,mite8万倍液0.05ccから上膊皮下に注射開始し,週2回漸増し,0.5ccに達したならば,2倍濃度液0.25ccに進め,mite5,000倍液まで進めた.注射開始3ヶ月後には,5,000倍液0.3~0.5cc週1回維持とし,6ヶ月後には2週に1回維持とした.減感作開始後3ヶ月,同6ヶ月,同9ヶ月,同12ヶ月,同15ヶ月のそれぞれの時点で,自覚症状の改善度,皮内反応閾値,鼻粘膜誘発閾値,P-K価,B. D. B間接赤血球凝集抗体価を検討した.
    結果:
    1. 注射開始3~6ヶ月後,自覚症状の改善のみられた者は約68%であつた.同9~15ヶ月後では76~83%であつた.
    2. 皮内反応閾値は,それぞれの時期で変動を示さない事が多かつた.(注射開始3ヶ月後71%が不変,6~12ヶ月後80~90%が不変.)
    3. 鼻粘膜誘発閾値は,注射開始3ヶ月には48%に閾値上昇を認め,同6ヶ月後には58%,同9ヶ月後には68%,同12ヶ月後には65%に閾値の上昇を認めた.
    4. P-K価はそれぞれの時点で,減感作開始前と較べ,やや減少傾向を認めた,(3ヶ月後13名中6名,6ヶ月後24名中11名,9ヶ月後6名中4名,12ヶ月後10名中7名,にP-K価の低下を認めた.)
    5. B.D.B処理間接赤血球凝集抗体価は,それぞれの時点で,減感作関始前と較べ上昇傾向を認めた.(3ヶ月緩13名中6名,6ヶ月後25名中16名,9ヶ月後8名中8名,12ヶ月後11名中7名,にB.D.B処理赤血球凝集抗体価の上昇を認めた.)
    6. 以上の客観的検査の変動と自覚症状の改善度,及びそれぞれの検査相互間の変動を検討すると,皮内反応閾値上昇者3名は,全例が自覚症状改善例であり,同様に鼻粘膜誘発閾値上昇者15名中,自覚症状改善例は13名であつた.又P-K価が下降した症例14名中,12名が自覚症状改善例であり,B.D.B処理赤血球凝集抗体価の上昇をみた16名中,15名が自覚症状改善例であつた.
    各検査相互間の関係では,鼻粘膜誘発閾値上昇者にP-K価とB.D.B処理赤血球凝集抗体価のそれぞれの変動に,特に一定した関係を認める事はできなかつた.
  • 横山 俊彦, 星野 健一
    1973 年 76 巻 12 号 p. 1414-1425
    発行日: 1973/12/20
    公開日: 2008/12/16
    ジャーナル フリー
    1 目的:全身振動曝露下における発語者の音声言語がその振動によつてどのような影響を蒙むるかを騒音との関連において多角的に検索をしている.今回の実験は発声強度と最大発声持続時間について観測したので,その結果を報告する.
    2 実験方法:被検者は正常聴力で発語明瞭な本大学工学部学生(男性)の7名である.被検者は振動台上の椅子に正姿勢で腰掛し,口唇前50cmのマイクロホン(Bruel & Kjaer製)に向つて発語せしめた.発語強度は「e,i,u,o,a」の各母音,最大発声持続時間は「e」母音を中等度および強度の強さで,それぞれ3回繰り返し発語せしめ,その音圧レベルおよびその持続時間をsound spectrogra-ph (B. & K.2112型)とhigh speed level recorder (B. & K.2305型)で記録し観察した.これらの測定値は実験条件別に全被検者の平均値で表わし,各平均値について95%の信頼区間を求めた.さらに,発語強度については各被検者の個人内変動(標準偏差)を検討した.
    負荷振動は5CPS.10CPS,15CPSおよび20CPSの正弦波垂直振動で,その強度は最大耐容強度であり,全身振動と同時に白色騒音をレシーバで両耳に曝露した.騒音強度はレシーバの前面でover all75dB SPLとした.
    3 実験結果:
    a 発声強度:各母音とも騒音独単曝露下の方が非曝露時よりも,さらに振動+騒音の同時曝露下の方が騒音単独曝露時よりも発語強度は明らかに増強した.負荷振動数の中では15CPS振動が最も顕著であつた.強く発語せしめても,中等度に発語せしても,両者の成績には大差は認められなかつた.
    同一条件による3回繰り返し発語の個人内強度変動は全体的にみてその偏差値は小であつた.
    b 最大発声持続時間:上述の発語強度の測定結果と異なり,振動+騒音の同時曝露下の方が騒音単独曝露下,非曝露時よりもその持続時間は短縮し,殊に10CPS,5CPSの低振動数振動曝露時において明らかであつた.
    4. 考察:振動の人体に対する振動伝達,共振部位の観測成績およびその他の実験諸成績から推察して,発語強度の増強は音声器宮の緊張増大,胸腹部共振による呼気圧,呼気流の増大であり,最大発声持続時間の短縮は胸腹部共振で呼気流出が断続的,噴出的となるために,呼気コントロールに混乱が起り,呼気消耗が増大した結果であろうと考察した.
  • 小田 恂
    1973 年 76 巻 12 号 p. 1426-1439
    発行日: 1973/12/20
    公開日: 2008/12/16
    ジャーナル フリー
    1. 目的:音の強さの弁別機能検査が,現在日常の臨床検査法として行なわれているのに反して,周波数の弁別機能検査はいくつかの報告例に見られるものの,いまだに日常的に難聴症例に対して行なわれるに至つていない.従来難聴耳に対する周波数弁別機能の検査は主として弁別域値(FDL)の測定としてなされ,刺激音として純音が用いられることが多かつた.しかしながら正常人を対象としたFDLの測定は聴覚心理学上興味のある主題ではあるが,病因や程度のさまざまな難聴耳の場合には個々の症例によつてその値は大きな分散を示すことが予想され,さらに検査装置の繁雑さなどと併せて周波数弁別機能測定の臨床応用は,現在なお確立された段階に至つていない.
    本研究の目的は周波数弁別機能検査の臨床応用への道程の第一歩として感音難聴耳の音色弁別能力を測定し,その臨床応用への可能性を論ずるとともに感音難聴の病態を考察することにある.
    2. 実験:感音難聴者と聴力正常な若年者および高令者(狭義の老人難聴)を検査の対象とし,感音難聴症例はさらに内耳性難聴,後迷路性難聴(聴神経腫瘍などによる難聴)および純音聴力図上低音性感音難聴を示すグル-プに分けられた.
    検査音としては単一共振回路を介して得られた白色雑音が用いられた.検査は低,中,高の三つの音域で行なわれ,各音域で三つの検査音が準備され用いられた.低音域の三つの検査音の共振周波数(ピークの周波数)はそれぞれ450Hz,500Hz,550Hzであり,同様に中音域では1,350Hz,1,500Hz,1,650Hz,高音域では2,700Hz,3,000Hz,3,300Hzであつた.
    検査には各音域の三つの検査音中,任意に選ばれた二つの音を用い,ABX法によつて二に音の識別能力が測定された.
    3. 結果:各検査音域における音色弁別力には明らかにグループ間の差異が見られた.内耳性難聴の症例では純音聴力が相当悪化している症例が含まれていたにもかかわらず良好な音色弁別値を示し,正常若年者に近い値であつた.低音性感音難聴のグループは内耳性難聴につぎ,聴神経経腫瘍などによる難聴および正常聴力高令者(狭義の老人難聴)は最も悪い値を示した.
  • 鎌田 重輝, 木村 瑞雄, 永井 一徳
    1973 年 76 巻 12 号 p. 1440-1448
    発行日: 1973/12/20
    公開日: 2008/12/16
    ジャーナル フリー
    患者は28才の既婚の女子,生来健康であつたが昭和46年10月ころより上口唇の腫脹糜爛をもつて発症し,鼻の悪性肉芽腫と類似した経過をとり,全身の皮膚および臓器に病変が波及し,剖検によつて悪性細網症と診断された稀有な一症例を経験した.発病時の主訴は上口唇の縻爛を伴う高度の腫脹で,某医に6ヶ月間治療をうけていたが軽快せず当科へ入院した.入院時には上口唇は甚だしく腫脹しその表面は潰瘍に陥り,高熱悪感,咽頭痛,全身倦怠態,食欲不振などあり,これらの症状は初めは一進一退していたが次第に増悪した.入院時より上口唇より再三に亘り組織生検を行つたが確定診断が得られず,細綱肉腫がもつとも疑われた.
    治療は極めて困難をきたし,局所の軟膏塗布,抗生剤とステロイギ併用療法,放射線療法,多剤併用化学療法(VEMP),輸血等可及的に行つたが,放射線療法(60Co)に少しく反応を示した他は見るべき効果がなかつた.3ヶ月目頃より全身皮膚表面に拇指頭~梅実大の深い潰瘍形成を伴う硬結が多発し,それらの潰瘍及び原発巣からも度々出血した.47年11月全身状態は更に悪化し,肺及び肝への転移も疑われたが,入院後7ヶ月で気管支肺炎を併発し死亡した.
    剖検では肺,心,胸腺,全身皮膚に腫瘤がみられ,喉頭蓋,食道,胃に潰瘍がみられた.肝,脾は腫大していた.このように本症例では皮膚,呼吸器,消化器を初め種々臓器に多数の腫瘍状結節及び潰瘍が認められたのであるが,組織学的には転移した腫瘍とみるよりはむしろ上記諸臓器における既存組織の壊死と異常細網細胞の浸潤及び他の間葉性細胞の肉芽腫様増殖とであつた.これら壊死巣の内部及び周辺では血管内膜下に細網細胞が強く増殖し,ために血管内腔が狭くなり,血栓が生じて内腔が完全に閉塞されたものもみられた.
  • 西田 裕明, 隈上 秀伯, 陣内 広
    1973 年 76 巻 12 号 p. 1449-1458
    発行日: 1973/12/20
    公開日: 2008/12/16
    ジャーナル フリー
    電子走査型瞳孔計を用い,基準奥5種類についての瞳孔反射を検査記録し嗅刺激による瞳孔反射の客観的嗅覚検査法としての実用性について検討した.
    方法:嗅覚障害を自覚していない健康成人32例について5種類の基準臭を用いて嗅覚測定基準設定に関する研究会で決められた方法であらかじめ検知閾値を検査しておき,ついで検者が嗅系を浸した"におい紙"を被検者の外鼻孔に近づげ3~4秒においをかがせその時の瞳孔反射を記録した.
    結果:
    1. 嗅覚正常者では基準臭5種類とも瞳孔反応発現率は約88%と非常に高く,大部分が瞳孔反射検査中に嗅覚を感知した最小可嗅値に一致して瞳孔も鋭敏に反応を示した.
    2. 嗅刺激による瞳孔反射の反応型には散瞳型,縮瞳後散瞳型,瞳孔動揺型の三つのパターンがみられ,いづれの嗅素においても散瞳型を呈したものが最も多く他は少数例づつであつた.
    3. 自覚閾値に一致して瞳孔反射が認められた症例の一例にdl-Camphorおよびγ-Undecalactoneを用いて短時間の刺激間隔で順次濃度を高めて刺激を与えたときの瞳孔反射はいづれも自覚閾値に一致したところですでに最も大きな反応がみられ,それよりも高い濃度ではおそらく疲労現象のためにわずかな反応か,もしくはほとんど反応がみとめられなかった.
    4. 嗅覚脱失者の一例について瞳孔反射を検査したがいづれの嗅素とも最も高い濃度で刺激しても瞳孔反射は全くあらわれなかつた.
  • 前川 彦右ヱ門, 伊藤 督夫, 渡辺 とし子, 文 英一
    1973 年 76 巻 12 号 p. 1459-1471
    発行日: 1973/12/20
    公開日: 2008/12/16
    ジャーナル フリー
    1. 目的:小児嗄声の問題は最近,学校保健の立場から,大気汚染との関係から,更をこは喉頭微細手術の適応を考える上で注目を集めている.
    我々は,未知の課題の多いこの小児嗄声の本態を明らかにする手掛りとして,先づ学童嗄声の実態調査を行なつた.
    2. 方法:大阪市内5小学校全児童4,138名について音声言語治療に携わる教員の聴覚印象による選別を行なつた.嗄声ありと判断された児童について耳鼻咽喉検査•音声機能検査な行なつた.
    3. 結果:
    1) 嗄声発現率は6.3%で,そのうち中等度のもの1.4%,軽度のもの4.9%であつた.
    2) 男児に多く(男4:女1),学年別では6年生において低率であつた.
    3) 工業地区,住宅地区に比して,市中心部に高率に認められた.
    4) 身体発育の面では,嗄声児と正常児との間には差違は認められなかつた.
    5) 声帯所見は,54%が軽度変化,25%が浮腫性病変であるのに対し,結節性病変は13%に過ぎなかつた.
    6) 浮腫性病変は男児にやや多く,また3年生にやや多かつた.結節性病変は市中心部でやや多かつた.
    7) 嗄声の程度と声帯所見の間には相関が認められ,殊に浮腫性病変ではひどい嗄声が多くみられた.
    8) 音声機能検査(呼気乱費係数,声の強さおよびソナグラフ)の結果では,嗄声児と正常音声児の間に一定の傾向を認めることができなかつた.
  • 森満 保
    1973 年 76 巻 12 号 p. 1472-1478
    発行日: 1973/12/20
    公開日: 2008/12/16
    ジャーナル フリー
    外傷性顔神経麻痺に対する神経管開放術の有用性は既に定説化しているが,その筋機能の回復に関しての遠隔成績については比較的に検討されていないように思われる.そこで術後2年以上を経過し,その治癒過程が完了したと考えられる6症例について,主に筋機能に関して検討し,更に術前•術中所見と比較検討してみた所次のような結果を得た.
    1) 前頭筋•口輪筋•眼輪筋の3つの筋についてそれぞれの回復状態を調べた所,全症例に略満足すべき回復を認めた.回復の初徴は術後2日目から認められたものや1ヶ月後にも全く認められず2年以上経過した時点での検査では略完全に回復していたものまで色々であつた.三つの筋の中では前頭筋の回復状態が最も悪かつた.
    2) 顔面筋全体の総合的機能である表情機能について検討した所その成績は予想以上に悪かつた.閉眼で口角の運動が生ずるといつたsynkinesis movementが5/6症例に,笑顔を作ると左右非対称になる例が3/6症例に,又チック様の顔面筋痙攣が2/6症例に認められた.
    3) 術前後のEMG所見,術中NET所見と最終的な回復状態とを比較検討した結果,synkinesismovementは従来説明されていたような再生軸索のmisdirectionやbranchingのみで説明不能であり,その一つの原因としてephaptic conduction接触伝導という考え方を提唱した.
    4) 顔面筋金体としての正常な表情機能まで回復させる為には,その諸臨床検査成績が,例え部分麻痺といつたものであつても,麻痺発症後出来るだけ早期に顔神管開放術を施行すべきであると考える.
  • 大塚 護
    1973 年 76 巻 12 号 p. 1479-1485
    発行日: 1973/12/20
    公開日: 2008/12/16
    ジャーナル フリー
    従来あまり報告のない正常な前庭神経節細胞の微細構造について,正常成熟家兎を用いて,光学ならびに電子顕微鏡による細胞学的検索を行なつた.
    前庭神経節細胞は,Kolatchev標本で,明調細胞と暗調細胞の2種に区別される.神経節細胞はほぼ球形で1~3個の外套細胞に包まれている.核は明るく,細胞のほぼ中央か,やや偏心性に位置し大きな核小体をもつ.ゴルジ装置はよく発達しているが,明調細胞では粗な網状で核をとりかこむように認められるが,暗調細胞では網状構造は明瞭ではない.ゴルジ装置は電顕観察によれば,3要素からなり,ニツスル物質の間にみられる.ニツスル物質は主として細胞辺縁部に多く認められ,明調細胞では小顆粒状を呈するが,暗調細胞では斑状の小野をなす.電顕観察によると,粗面小胞体とポリゾームの複合体であるニツスル物質の分布と量により神経節細胞を2種に区別できる.第1はニツスル物質が集団をなし小野を形成するもので,第2はニツスル物質が明瞭な小野を形成せず核周囲部と細胞辺縁部とに分布するものである.糸粒体は小さく顆粒状または短杆状でニツスル物質の内部には少ないが,ニツスル物質の周囲や核周囲部に多い.前庭神経節細胞は有髄神経細胞であり,この細胞体は外套細胞と,重層する薄い細胞質層で構成される髄鞘とからなる被膜によつて包まれている.
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