日本耳鼻咽喉科学会会報
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121 巻, 9 号
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総説
  • 歯・口腔領域におけるアンチエイジング対策
    財津 崇, 川口 陽子
    2018 年 121 巻 9 号 p. 1139-1145
    発行日: 2018/09/20
    公開日: 2018/09/29
    ジャーナル フリー

     歯や口腔の機能として, 咀嚼, 発音 (発声), 審美性等が挙げられている. したがって, 歯の喪失は栄養や健康状態, 社会生活, QOL に大きな影響を及ぼす.「よく噛んで味わいながらおいしく食事を摂り, 人々と楽しく語らい, いつまでも笑顔で生き生きと暮らす」―このような生活を実践するために必要となる歯・口腔の健康を守ることは, アンチエイジングのための基本事項である. 歯・口腔領域においては, 生涯にわたって自分の歯を維持すること, すなわち歯の喪失防止がアンチエイジング対策の中心となっている.

     永久歯の数は第三大臼歯 (智歯) を除外すると28歯である. 20歯以上の現在歯を保有していると義歯を使用しなくてもほとんどの食品を咀嚼できるという疫学調査の結果をもとに, わが国では行政および歯科医師会等が連携して, 8020運動 (80歳まで20歯以上自分の歯を保とう) を実施している. 栄養摂取の基本となる咀嚼機能を考えると, 現在歯数だけではなく, 上下顎の臼歯部の咬合状態に注目することも大切である. 喪失歯が多い人や欠損部を補綴していない人には咀嚼機能を維持するために補綴処置を受けるよう, 積極的に助言していくことが必要である.

     さらに, 歯の研磨やホワイトニングを行って歯を白くし, 矯正治療を行って歯列不正や咬合異常を改善して顔貌の審美性を改善し, 口臭予防対策を実施してさわやかな息でいることも, いつまでも若々しくいるためのアンチエイジング対策の一つである.

     日本人が歯を喪失する主な原因はう蝕と歯周病の二大歯科疾患である. これまでの研究からフッ化物の応用, 歯間部の清掃, 禁煙, 適切な食生活, 定期歯科健診等は, 歯科疾患の予防に効果があることが判明している. 若いときから歯・口腔の健康に注意し, 自分で行うセルフチェックとセルフケア, また歯科専門家が行う定期健診とプロフェッショナルケアを継続して受けることがアンチエイジング対策として重要である.

  • ―治療について―
    和田 哲郎
    2018 年 121 巻 9 号 p. 1146-1151
    発行日: 2018/09/20
    公開日: 2018/09/29
    ジャーナル フリー

     感音難聴は治療が困難なことが少なくない. 代表的な感音難聴疾患である突発性難聴についても, 現在までにエビデンスの確立した治療法は存在しない. だからこそ, 現時点で最善と考えられる治療戦略を理解し, その有効性と注意点に配慮しつつ日々の臨床を行っていくことが肝要である.

     先ごろ, 平成26~28年度厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業難治性聴覚障害に関する調査研究班 (代表: 宇佐美真一) により,「急性感音難聴の診療の手引き」が作成され, 最新の知見がまとめられた. この手引きの内容を踏まえて, 感音難聴の治療について現場の医師が抱くであろうクリニカルクエスチョンへの回答を概説する.

     また近年, 治療が困難な感音難聴について, 予防を推進していく取り組みがいくつか始められている. 現状で最善と考えられる治療を行いつつ, 並行して予防にも取り組んでいくことが感音難聴の克服のために重要と考える.

  • 竹野 幸夫, 高原 大輔, 石野 岳志, 西田 学, 上田 勉
    2018 年 121 巻 9 号 p. 1152-1159
    発行日: 2018/09/20
    公開日: 2018/09/29
    ジャーナル フリー

     わが国では今世紀に入り難治・再発性である好酸球性副鼻腔炎 (eosinophilic chronic rhinosinusitis, ECRS) と好酸球性中耳炎 (eosinophilic otitis media, EOM) とが増加してきている. 両者は診断基準と重症度分類に関する記載事項も重複していることより, 上気道の好酸球性炎症として一元的に包括可能である. そして難病指定の診断スコア (JESREC スコア) の活用も, 昨年の調査では8割近くに達し, 実地臨床に広く浸透してきている.

     ECRS における難治性, 再発性のリスク因子としては, 1) 非ステロイド抗炎症薬 (NSAIDs) 過敏症, 2) 気管支喘息の合併, 3) 末梢血好酸球比率, 4) 篩骨洞陰影優位, が挙げられ, EOM の合併自体はリスク因子にはなっていない. 一方で EOM 側からみると好酸球性炎症の遷延化要因として, ECRS 病変の首座である鼻咽腔との換気路である耳管機能の関与 (耳管開放) が指摘されている. ECRS 重症化のリスク因子の中で, 喘息合併因子については気道全体にわたる Th2 型炎症と好酸球性炎症の程度を反映していると解釈される. また好酸球性炎症病態を鋭敏に反映するバイオマーカー候補として, ペリオスチン (periostin) と一酸化窒素 (nitric oxide, NO) 濃度が注目されている. 篩骨洞優位陰影の因果についての詳細は不明であるが, 本項では胃食道逆流 (GERD) との関連性について触れた.

     国際的にも副鼻腔炎病態をフェノタイプ (表現型からの分類) とエンドタイプ (特徴的なバイオマーカーなどを指標とした病態生理メカニズムからの分類) の観点から分類する動きが高まっている. わが国においてもこの流れを受け, 個人レベルで病態を解析し, 最適な治療方法を選択し, 最小の医療コストと侵襲で QOL の維持を保った最大の治療効果をあげることが, ECRS と EOM に対するプレシジョン・メディシン (Precision Medicine, 精密医療) に繋がるものと思われる.

原著
  • ―手術治療との比較―
    櫻井 みずき, 高安 幸弘, 紫野 正人, 坂倉 浩一, 白井 克幸, 齋藤 淳一, 大野 達也, 中野 隆史, 近松 一朗
    2018 年 121 巻 9 号 p. 1160-1166
    発行日: 2018/09/20
    公開日: 2018/09/29
    ジャーナル フリー

     耳下腺癌は多彩な病理組織像を呈し, しばしば治療に難渋する. 治療の第一選択は手術だが, 切除不能例や顔面神経麻痺などの合併症の問題がある. 当科では耳下腺癌症例の一部に重粒子線治療を行っている. 重粒子線は強い殺細胞効果と優れた線量分布を持ち, 重要臓器の隣接する頭頸部領域で従来の放射線抵抗性の高い悪性腫瘍に有用とされている. 今回, 2011年8月から2016年8月までに当科で初期治療として手術治療を施行した22症例 (9例早期癌, 13例進行癌) と重粒子線治療を行った11症例 (2例早期癌, 9例進行癌) の計33症例について比較検討を行った. その結果, 無増悪生存期間および全生存期間は, 手術群と重粒子線治療群で有意差を認めなかった (無増悪生存期間, p=0.147; 全生存期間, p=0.580). 重粒子線治療群では, 1例で永続的な顔面神経麻痺を治療後に認めたが, 治療前に麻痺を認めた4例中3例で麻痺の部分改善を認めた. 一方, 重粒子線治療に特有の有害事象として全例に放射線皮膚炎 (Grade 2以下), また9例に外耳道炎, 5例に滲出性中耳炎, 1例に脳障害を認めた. 進行癌の比率が多いにもかかわらず, 重粒子線治療は手術療法とほぼ同等の有効性が示唆され, 有害事象では手術と異なる特徴が認められた.

  • ―川崎市5年間のまとめ―
    茂木立 学, 佐々木 優子, 小見山 彩子
    2018 年 121 巻 9 号 p. 1167-1172
    発行日: 2018/08/20
    公開日: 2018/09/29
    ジャーナル フリー

     少子高齢化社会の到来に伴い, 地域包括ケアシステムの構築に伴う在宅医療の重要性が指摘されている. 今後10年にかけては東京, 神奈川など大都市部において高齢者割合の増加が見込まれており, 人口150万都市である川崎市の耳鼻咽喉科在宅医療の現状を検討したので報告する.

     対象期間は2009年8月~2014年12月まで, 男性27例女性74例で計101例であった. 初診時年齢は51~103歳で平均年齢は86.4歳であった. 約5年間の往診総回数は193回で月平均2.9回であった. 1人当たりの往診回数は1~13回で平均1.9回であった. 往診依頼の約8割は耳に関するものであり, 全依頼の約5割は耳垢除去目的であった. 行った処置では耳垢栓塞除去術が最も多く43例であった. 耳垢除去目的で往診するも51例中8例は耳垢を認めなかった.

     難聴は認知症の危険因子とされ, 早期から聴覚管理をすることは耳鼻咽喉科医の役目である. また, わが国における死因の第3位が肺炎であり, 嚥下障害による嚥下性肺炎が原因と考えられている. 嚥下障害の在宅医療も超高齢社会においては極めて重要な問題である.

     平成29年度において診療報酬上はまだ耳鼻咽喉科医が訪問診療を積極的に行える状態にはない. 耳鼻咽喉科医による往診の社会的ニーズは今後とも増加すると考えられるが, 日々多忙な耳鼻咽喉科医がどのような形で在宅医療に関与するべきか議論を要する時期である.

  • 日本耳鼻咽喉科学会福祉医療・乳幼児委員会 , 守本 倫子, 益田 慎, 麻生 伸, 樫尾 明憲, 神田 幸彦, 中澤 操, 森田 訓子, 中 ...
    2018 年 121 巻 9 号 p. 1173-1180
    発行日: 2018/09/20
    公開日: 2018/09/29
    ジャーナル フリー

     背景: ムンプスワクチンは副反応である無菌性髄膜炎が注目を集め, 任意接種となっているため, 接種率は40%近くまで低下し, 周期的に流行が繰り返されている. ムンプス難聴は難治性であり, ワクチンで予防することが唯一の対策であるが, そのことは広く知られていない. そこで, 本調査では近年のムンプス難聴患者の実態を明らかにすることを目的とした.

     方法: 2015~2016年の2年間に発症したムンプス難聴症例について全国の耳鼻咽喉科を標榜する5,565施設に対してアンケート調査を行い, 3,906施設より回答を得た (回答率70%).

     結果: 少なくとも359人が罹患し, そのうち詳細が明らかな335人について検討した. 発症年齢は特に就学前および学童期と30歳代の子育て世代にピークが認められた. 一側難聴は320人 (95.5%), 両側難聴は15人 (4.5%) であり, そのうち一側難聴では290人 (91%) が高度以上の難聴であり, 両側難聴の12人 (80%) は良聴耳でも高度以上の難聴が残存していた. 初診時と最終聴力の経過を追えた203人中, 55人 (27%) は経過中に聴力の悪化を認め, うち52人 (95%) は重度難聴となっていた. 反対に改善が認められたのは11人 (5.0%) のみであった.

     結論: ムンプス流行による難聴発症は調査された以上に多いものと推測され, 治療効果もほぼないことから, 予防接種率を高めるために定期接種化が望まれる.

  • 川島 佳代子, 澤田 達, 坂 哲郎, 中山 堯之, 浅井 英世, 川嵜 良明
    2018 年 121 巻 9 号 p. 1181-1187
    発行日: 2018/09/20
    公開日: 2018/09/29
    ジャーナル フリー

     大阪府では大阪市救急医療事業団が運営する中央急病診療所にて昭和48年より年末年始に耳鼻咽喉科救急医療を開始した. 昭和53年には土, 日, 祝日, 平成12年には平日夜間に診療を拡大した. 今回中央急病診療所の受診患者や後送患者から大阪府の耳鼻咽喉科救急の現況と問題点について検討した. カルテに記載した救急必要度では, 非救急患者の割合が徐々に減少した. 後送患者では中等度以上の特別な処置を必要とする患者が多数を占めた. これらは大阪市消防局が実施している救急安心センター事業による影響も考えられた. 中央急病診療所が終了した後の深夜帯の救急体制の整備は今後の課題である. 関係各所との定期的な協議が重要であると考えた.

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