日本耳鼻咽喉科学会会報
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101 巻, 9 号
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  • 本吉 和美, 湯本 英二, 兵頭 政光, 門田 吉見, 比野平 恭之
    1998 年 101 巻 9 号 p. 1057-1061
    発行日: 1998/09/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    1990年から1996年までの7年間に愛媛大学医学部耳鼻咽喉科において,両側反回神経麻痺による両側声帯正中位固定症6例(男性1例,女性5例,平均58.5歳)に対しEjnell法による声門開大術を行った.4例は当科外来受診時すでに気管切開術を受けていた.また,術前復に呼吸機能検査を行った4例において最大呼気流量(FEFR)は,予測値に対する割合の平均が,43.7%から66.5%と改善した(p<0.05).術後は全例において呼吸困難が改善し,気管切開術を行っていた4例はすべて気管切開孔を閉鎖するにとができた.退院後も日常生活において呼吸困難を訴えた例はなかった.
    Ejnell法は頸部と喉頭内腔からの両方の操作が必要ではあるが,披裂軟骨へのアプローチが必要でない点において手術手技が比較的容易であり,かつ確実な手術効果が得られる.このことからEjnell法は両側反回神経麻痺による呼吸困難に対する手術的治療法として優れた声門開大術と考えられた.
  • 前田 学, 斉藤 龍介, 中川 文夫, 宮原 孝和, 宇野 欽哉, 園部 紀子
    1998 年 101 巻 9 号 p. 1062-1068
    発行日: 1998/09/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    1989年の湯浅らの報告以来,急速に普及した接着法による鼓膜形成術とオーソドックスな従来の方法について臨床的比較を行った.1988年9月から1995年11月までの約7年間に行われた従来法による鼓膜形成術109耳と,1991年5月から1995年11月までの約4年半に行われた接着法による鼓膜形成術84耳を対象とした.その結果,鼓膜穿孔閉鎖率は従来法90.8%,接着法79.8%で,両術式とも鼓膜穿孔が大きくなるほど閉鎖率が低下する傾向にあつたが.低下率は接着法で顕著であつた.聴力予後については,両術式とも術直後より改善が得られ,約半年でその聴力は安定したが,大穿孔では従来法で術直後改善した聴力が1年を越えわずかに悪化する傾向が認められた.接着法は従来法に比べて伝音系に対する侵襲が少なく聴力予後は従来法より優れており,手術法の工夫や術後のケアにより穿孔閉鎖率の改善をはかっていく価値がある方法であろうと考えられた.
  • 特にペニシリン低感受性肺炎球菌の関与と治療について
    工藤 典代, 笹村 佳美
    1998 年 101 巻 9 号 p. 1075-1081
    発行日: 1998/09/20
    公開日: 2008/07/08
    ジャーナル フリー
    抗生剤の開発と普及により,急性乳様突起炎(以下乳突炎と略)は激減したといわれている.しかし,近年,抗生剤の進歩と共に耐性菌も増加し,難治性の中耳炎や乳突炎をしばしば経験するようになった.これらの症例は乳幼児特に1歳以下の乳児に多くみられ,しかも起炎菌はペニシリン低感受性肺炎球菌(PISP)が検出されるとが多い.治療は,乳様突起削開術を行ったという報告もあるが,我々は起炎菌の抗生剤に対すゐ感受性を考慮し,抗生剤の静脈内投与による保存療法で全例が治癒に至うた.これらの症例を報告し,乳幼児の乳突炎の特徴につき考察を加えた.
    症例は1991年から1996年に経験した7例で,4歳が1例,1歳が5例,0歳が1例であった.主訴は,耳後部肺脹,発熱,耳漏であり,耳鼻科や小児科で1週閣から1ヵ月間,セフェム系抗生剤による治療を受けていた.7例中6例に耳漏から肺炎球菌が検出され,1991年の1例はペニシリン感受性肺炎球菌(PSSP)であったが,1995年以降の2例はPISP,3例はペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)であった.治療は1991年当初はABPCを100~150mg/kg/日の静脈内投与で治癒に至ったが,1995年からはかしバペニム系抗生剤(PAPM/BP)の投与で治癒した.骨膜下膿瘍が生じていた1歳児の1例のみ,外切開により排膿を行った.入院期間は.下気道炎を含併していた1例は11日間,骨膜下膿瘍の1例は12日間であったが,他の5例は5日から8日の入院であり,抗生剤の使用は5日から8日であつた.
    肺炎球菌の同定や感受牲検査はどこの施設でも可能というわけではないため,PISPやPRSPによる感染症の発見が遅れることもあるが,乳児に関してはPISPを念頭におき,ますPAPM/BPなどの抗生剤による保存治療を試みるべきと考える.
  • 井口 芳明, 小川 克二, 山本 一博, 伊藤 昭彦, 岩渕 啓一, 岡本 牧人, 越野 樹典, 望月 幸子
    1998 年 101 巻 9 号 p. 1082-1087
    発行日: 1998/09/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    65歳女性の左鼻閉を主訴とするhemangiopericytomaによく似た構造をもつ鼻腔特有の腫瘍を経験した.左鼻中隔より発生した半円球状,表面平滑の腫瘍を全摘出した.病理組織学的に鼻腔に固有のhemangiopericytoma-like tumorと診断した.欧米ではしばしばその報告があるが,本腫瘍は検索したかぎり本邦ではこれまで報告は1例しかない.文献的に鼻腔に発生する本腫瘍の臨床像,病理組織像についてその特徴を示した.典型的な軟部組織に発生するhemangioperi-cytomaと比較してその病理組織像はかなり異なっていた.本症例の病理組織では腫瘍は正常な鼻腔上皮に覆われ,類円形から紡錘形の大きさのそろった細胞が密に平面的にシート状に配列し,細胞分裂像や壊死巣は認めなかった.良性腫瘍と考えられるが少数であるが再発例も報告されており経過観察が必要と考えた.また本疾患の概念の確立が必要であると考えられる.
  • 高橋 光明, 富山 俊一
    1998 年 101 巻 9 号 p. 1088-1092
    発行日: 1998/09/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    内リンパ嚢腔に侵入した抗原に対する内リンパ嚢の抗原除去,排泄機能について検討した.Hartley系モルモットを用い,KLH抗原で全身感作を行った後に右内リンパ嚢腔内にKLH抗原を注入した.その後5ヵ月間のKLH抗原の両側内耳分布を免疫組織学的方法により観察した.KLH抗原を右内リンパ嚢に注入した2日後,内リンパ嚢に激しい炎症細胞浸潤が惹起され,右内耳に内リンパ水腫が観察された.KLH抗原は右内リンパ嚢に限局し,腔内と腔周囲にKLH抗原とKLH抗原の貪食細胞が観察された.14日にはKLH抗原は右内耳から消失した.全経過中,対側の左内リンパ嚢と両側蝸牛と前庭にはKLH抗原は同定できなかった.以上の結果は内リンパ嚢に侵入した抗原を上皮細胞と貪食細胞により,腔内から速やかに腔周囲へと移動除去される機構を装備していることを示した.
  • 黒野 祐一, 平野 隆, 渡辺 哲生, 鈴本 正志, 茂木 五郎
    1998 年 101 巻 9 号 p. 1093-1098
    発行日: 1998/09/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    滲出性中耳炎発症におけるIL-1βの役割を解明することを目的として,マウス滲出性中耳炎モデルを作製し検討した.BALBcマウスの中耳骨胞に経下顎的に小孔を開け,インフルエンザ菌より分離されたエンドトキシンあるいはマウスrIL-1βを注入し,中耳炎の発症を鼓膜所見により経日的に観察した.また,中耳貯留液中のIL-1β濃度をELISA法により測定し,貯留液中の細胞成分そして中耳粘膜の組織学的所見を比較した.さらに,ラット抗マウスIL-1レセプター抗体をエンドトキシンあるいはrIL-1βととちに注入し,その中耳炎発症に対する効果を観察した.その結果,エンドトキシン投与により滲出性中耳炎が発症し,中耳貯留液中のIL-1β濃度が高値を示した.rIL-1β投与によっても滲出性中耳炎が誘導され,中耳粘膜の組織像もエンドトキシンによる滲出性中耳炎と同一の所見を示した.さらに,抗IL-1レセプター抗体の投与によってこれら滲出牲中耳炎の発症が抑制された.以上の結果から,IL-1βが滲出性中耳炎の発症に重要な役割を演じていることが示唆された.
  • 宮地 麻美子
    1998 年 101 巻 9 号 p. 1099-1111
    発行日: 1998/09/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    通常発声時,声帯は毎秒100~300回程度振動している.病的な声帯では振動状
    態に変化が生じ,振動が不規則な場合にはストロボスコピーでの観察ができない.
    そのため我々は,コンピュータを用いた高速度ディジタル撮影法を開発し,病的
    声帯振動の解析を試みている.今回の研究は,声帯の種々な器質的疾患について
    高速度ディジタル撮影による解析を行い,それを疾患名からではなく振動パター
    ンから分類し,声帯の病的振動様式と病変の状態につき考察した.対象は声帯の
    器質的疾患患者22例で,延べ26データを解析した.高速度ディジタル撮影画像か
    らの観察項目は,対称性•規則性•位相差•声門閉鎖•振幅•粘膜波動•振動周
    期の違いの7項目とした.高速度ディジタル撮影による病的声帯振動のパターン
    は,同一疾患でもその障害の部位や程度,声の高さ•強さ,空気力学的条件や喉
    頭調節によって様々に変化し,疾患と振動パターンの1対1の対応はなかった.
    高速度ディジタル撮影による病的声帯振動の解析は,音声外科を含めた音声治療
    の理論的嚢づけの手がかりとなり,ひいては嗄声生成機構の解明につながると考える.
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