日本耳鼻咽喉科学会会報
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113 巻, 6 号
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総説
  • 小林 国彦
    2010 年 113 巻 6 号 p. 525-534
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/03/12
    ジャーナル フリー
    QOLをエンドポイントとする臨床研究の要点は, 「物差し」として標準性が証明されたQOL調査票を採用することと, 適切な統計手法を選択することである. QOL調査票は, 基本的な要因 (活動性尺度, 身体性尺度, 心理的尺度, 社会性尺度など) からなる基本調査票 (core questionnaire) と疾患特異的調査票 (disease-specific module) により構成されている. 統計手法では, 患者の全身状態が不良となりQOL調査票に回答できなくなる (informative censoring) か否かで採用する手法が異なる. 具体的に耳鼻科領域のQOL研究をまとめると, 次の2パターンに要約できる: 1) 悪性疾患で用いられるQOL調査票の基本調査票として, EORTC QLQ-C30, FACT-G, QOL-ACD, または, Care Notebookと, 疾患特異的調査票として, EORTC QLQ-H & N35, FACT-H & N, PSS-HN, または, University of Washington head-and-neck QOLを採用する. そして, informative censoringが予想される研究では, 確実に悪化したと判定するQOLレベル (definitive impairment of health-related QOL) を設定し, そのQOLレベルまで悪化するまでの時間をKaplan-Meier法で評価しlog-rank testで検定を行う. 2) アレルギー性鼻炎の領域では, 基本調査票としてSF-36, 疾患特異的調査票としてRQLQやJRQLQを用い, informative censoringが予想されないので, repeated measurement ANOVA, linear mixed model, または, generalized estimation equation (GEE) を採用する.
  • 落合 淳志
    2010 年 113 巻 6 号 p. 535-541
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/03/12
    ジャーナル フリー
    頭頸部はきわめて多彩な解剖学的臓器からなり, また頭頸部に起こる腫瘍はきわめて多彩な組織型の腫瘍からなる. 頻度的には悪性腫瘍の中では扁平上皮癌が90%以上を占める. 扁平上皮癌は形態学的には一般に比較的均一な腫瘍と考えられており, 分化度は角化の程度で分類されるために, 中分化の扁平上皮癌が主体を示すことになるが, 実際頭頸部領域に起こる扁平上皮癌は病理学的, 生物学的に非常に多彩であり, またその発生部位により治療法が大きく異なることが特徴である. 頭頸部扁平上皮癌の臨床病理学的問題点として, TNM分類により規定される腫瘍の大きさが, 腫瘍の表面からのサイズにより規定されるが, 咽頭に直接連続する食道病変では粘膜面の大きさではなく, 粘膜表層からの深部浸潤の程度により分類されている. 臨床病理学的検討では頭頸部扁平上皮癌でも癌の深部浸潤の程度により生物像が規定されることが明らかになりつつある. また近年, 内視鏡技術の発達により表在性扁平上皮癌が見つけられるようになり, その結果, 非常に多数の早期病変が見つけ出されるようになってきた. また, 早期扁平上皮癌が見つけられるようになり, その発癌過程を直接観察できるようになっただけでなく, 内視鏡的に早期治療ができるようになってきた. しかし, 表在病変の診断に関しては, 上皮内腫瘍性病変として異形成と上皮内癌の診断ならびに病変の一部に浸潤を認める腫瘍におけるステージングや早期浸潤癌への臨床対応など多くの問題点が出現してきた.
    本稿では頭頸部扁平上皮癌の臨床病理学的な全体像と近年数多く見つけ出されてきた咽頭部早期扁平上皮病変の臨床病理学的な問題点について述べる.
原著
  • 西山 耕一郎, 永井 浩巳, 臼井 大祐, 栗原 里佳, 八尾 和雄, 廣瀬 肇
    2010 年 113 巻 6 号 p. 542-548
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/03/12
    ジャーナル フリー
    耳鼻咽喉科一般外来を受診した75歳以上の高齢者81例を対象に, 嚥下障害のスクリーニング検査を行った. 81例中, 誤嚥群は26例 (32%) であり, 誤嚥群の病態を “食物誤嚥例”, “唾液誤嚥例”, の二群に分類した結果, 食物誤嚥例は24例, 唾液誤嚥例は2例であった.
    臨床症状および嚥下内視鏡検査所見と誤嚥との影響度の高い要因を, ロジスティク解析を用いて検討した. その結果, 誤嚥に影響度の高い所見は, “食事時間が延長”, “嚥下時に頸部前屈”, “食事中にムセる”, “喉頭知覚の低下”, “嚥下反射の惹起遅延” であった. これは従来の報告と異なる結果であり, 臨床の現場での有用性が期待できた.
  • 寺山 吉彦, 坂田 文, 村田 保博, 原田 幸二, 大橋 正實
    2010 年 113 巻 6 号 p. 549-555
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/03/12
    ジャーナル フリー
    ブロー液 (ブ液) は19世紀に開発された殺菌作用, 収斂作用のある13%酢酸アルミニュウムの点耳薬である. 20世紀後半に再登場し, 難治性慢性中耳炎に対し著効と耳毒性のないことが報告された. われわれはさらに, 他の慢性外耳道疾患にも有効と報告した. 目的: 中耳, 上鼓室真珠腫には無効とされるブ液を, 2例の外耳道真珠腫 (EACC) と1例の乳突腔真珠腫に使用し治癒したので報告する. 症例: 1例目は8歳, 男性, 外耳道後下部が陥凹し真珠腫のdebrisと骨露出を示す. ブ液の耳浴後真珠腫は消失し上皮化. 2例目は31歳女性, 主訴は左耳痛と味覚障害. CT上, 外耳道前壁の骨欠損と後上壁の骨破壊あり. MRSA検出. 外耳道内に肉芽, 膿, debris充満. debrisを除去し母膜は保存, ブ液耳浴, 1カ月後真珠腫消失上皮化治癒. 3例目は47歳男性, 過去に鼓室形成術を受けたが, 乳突腔真珠腫と肉芽が外耳道後壁にかけて拡がり, 排膿が持続した. ブ液の耳浴に変えて5カ月後真珠腫は消失し乾燥治癒した. 3例とも鼓膜穿孔無し. NaimらのEACCの病変の程度の分類によれば, 1例目はStage II, 2例目はStage IVに相当し, 2, 3例目は通常は手術の適応であるが, ブ液を使用して真珠腫は消失し治癒した. 結論: ブ液が有効な理由は真珠腫と液の直接接触と, 随伴する細菌感染と炎症の抑制によると推測される. 自他の知見からブ液の適応, 長所, 短所を考察した. さらに多数例につき検討を要する.
  • 土井 勝之, 浅野 貴徳, 木下 崇
    2010 年 113 巻 6 号 p. 556-560
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/03/12
    ジャーナル フリー
    近年, 治療関連骨髄異形成症候群 (therapy-related myelodysplastic syndorome: t-MDS) の報告が増えているが, 化学放射線同時併用療法 (concurrent chemoradiotherapy: CCRT) 後の報告や頭頸部悪性腫瘍治療後の報告はまれである. われわれは口腔癌CCRT後にt-MDSを発症した症例を2例経験したので文献的考察をあわせて報告する. 一次腫瘍は2例とも舌扁平上皮癌でcisplatin (CDDP) やcarboplatin (CBDCA) の投与と同時に放射線療法が施行された. CCRT終了後からt-MDS発症までの期間は, それぞれ11カ月, 14年であった.
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