日本耳鼻咽喉科学会会報
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103 巻, 1 号
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
  • 鴻 信義, 吉川 衛, 春名 眞一, 森山 寛
    2000 年 103 巻 1 号 p. 1-6
    発行日: 2000/01/20
    公開日: 2008/12/15
    ジャーナル フリー
    内視鏡下鼻内手術にナビゲーションシステムを導入し,その有用性について検討した.対象は,1998年7月より1999年5月までの間に,当科において磁気式ナビゲーションシステムInsta TrakTM(米国Visualization Technology社製)を用いて手術を施行した33症例とした.内訳は,慢性副鼻腔炎8例,副鼻腔嚢胞14例,副鼻腔腫瘍(生検)1例,トルコ鞍内嚢胞(ラトケ嚢胞)1例,および脳下垂体腫瘍9例であった.Insta TrakTMは,磁場をかけた術野における金属プローブの位置を,3次元的に再構築されたCT像上に表示し,慰者の頭部固定の必要がなく,術者の自由度が高いのが特徴である.対象とした全症例において,InstaTrakTMの使用により副鼻腔天蓋,視神経管などの解剖学的危険部位が的確に確認され.病変部位への到達と病変の処置が円滑に行い得た.また病変が強く出血の多い症例や,既往の手術で副鼻腔形態が変貌している症例など術野のオリエンテーションがつきにくい症例において,本システムは存分に威力を発揮した.特に前頭洞,蝶形骨洞や,脳下垂体の病変に対しては,非常に有用であると考えられた.一方,機械の操作に慣れないと手術時間が通常より長くなること,高価格であることなどが欠点として挙げられた.ナビゲーションポイントには常に最大2mm程度の誤差が存在する可能性があり,本システムは術者の解剖学的知識を裏付けて,安全に適切な手術操作を可能とするための手術支援装置として利用することが肝要であると考えた.
  • 北原 糺, 近藤 千雅, 村田 潤子, 奥村 新一, 三代 康雄
    2000 年 103 巻 1 号 p. 7-12
    発行日: 2000/01/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    (目的)唯一聴耳•良聴耳に発生する内耳道内限局聴神経腫瘍Ear Tumor (ET)はまれではあるが,経過観察を余儀なくされる場合が多い.このような症例に対する対応上の問題点を3例の自験例について述べる.
    (症例)第1,第2例のET対側耳平均聴力は各々聾ならびに100.0dBと高度感音難聴をきたしているが,ET側耳はいずれも正常範囲であった.一方,第3例のET対側耳平均聴力は80.0dBであり,さらにET側耳は過去2回の回転性めまい,耳鳴増強を伴う突発難聴のため65.0dBと悪化していた.これらの3症例は,現在のET手術成績および患者の年齢•職業,そして最終的に患者の意志によりいずれも経過観察となった.しかしながら,実際ET側耳聴力の低下した第3例は,問診,正確•不安傾向テストで他2例に比して著しい情緒不安定•抑鬱•神経症傾向を認めた.そこで,いずれの症例に対しても経過観察中の突発難聴発症時には,即時受診するように確認した.さらに,聾であるET対側耳に対してはアロモントリー•テスト(第1例),残聴を有するET対側耳に対しては読唇組み合わせ語音聴力検査を施行し(第2,3例),それぞれに人工内耳および補聴器の適応が存在することを確認し得た.また,将来的可能性としてET側の脳幹インプラントも選択肢に加え,QOL保持のための対策を十分説明した.
    (結語)唯一聴耳•良聴耳のET症例に対しては,腫瘍の単なる経過観察にとどまらず,QOL保持のための対策とそれに基づくカウンセリングが必要であると考えた.
  • その意義と注意点
    山田 弘之, 加藤 昭彦, 石永 一
    2000 年 103 巻 1 号 p. 13-18
    発行日: 2000/01/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    目的:早期癌を発見するのが目的の一つである人間ドックにおいて,甲状腺癌発見を目的とした超音波検査の導入が普及してきている.この導入がもたらした結果と当院で発見された甲状腺癌の詳細を検討し,その意義を考察した.
    対象:1989年から1998年までの10年間に,山田赤十字病院の検診センターで施行した人間ドックにおいて発見された甲状腺結節性病変のうち,手術によって癌であることが確認された78例と,同期間に当科において手術を行ったそれ以外の甲状線癌287例と対象とした.また,ドックによって発見され手術を行った良性疾患26例も検討対象に含めた.
    方法:ドック群と対象群287例において,手術時年齢,TN分類(なかでもT1とT4について),遠隔転移の有無,性比を比較した.
    結果:ドック群には44歳以下の症例が24例30.8%含まれ,対象群の60例20.9%に比して高率であった.また,ドック群には微小癌が41例52.6%含まれており,
    対象群の100例34.8%に比して高率であった.逆にドック群には気管食道など周囲臓器に浸潤した症例が1例1.3%に過ぎず,対象群の21例7.3%に比して低率であった.一方で,ドック群にも遠隔転移を認めた症例が1例あり,対象群の3例1.0%とほぼ同率であった.なお,ドック群には22例28.2%の男性症例が含まれ,対象群の28例9.8%に比して高率であった.
    結論:ドックで発見される甲状腺癌には若年者が多く,また微小癌が多い一方で,周囲組織特に気管食道などへの浸潤例が少なかったことから,ドック群には予後良好な症例が多いと考えてよい,微小癌の良好な予後を考えると,ドックによって不急の微小癌手術が増えていること,更にドックによって結果的に不要であつた良性疾患手術があったことから,穿刺吸引細胞診など精査の対象とすべき症例を嚴選することが頭頸部外科医に求められる.
  • 末武 光子, 入間田 美保子, 高橋 辰, 大山 健二, 生方 公子
    2000 年 103 巻 1 号 p. 19-23
    発行日: 2000/01/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    乳幼児反復性中耳炎の起炎菌が毎回異なる菌株によるものか,同一の菌によるものかを検討した.
    8週間以内の間隔で急性化膿性中耳炎を反復した3歳以下の乳幼児70人を対象とし,述べ282回の急性化膿性中耳炎の起炎菌を調べた.各エピソードごとに耳漏(または中耳貯留液)と鼻咽腔ぬぐい液とペアで採取し,細菌検査,MIC測定を行い,肺炎球菌については血清型,pbp遺伝子,ermAM,mefE遺伝子を検索した.これらの1つでも異なれば違う菌株と判定した.
    起炎菌はPSSP(Penicillin sonsiliec S.pneumoniae)26株,PISP(Penicillin inscnsitice S.pneumoniae)65株,PRSP(Penicillin resistant S. pneumoniae)50株で肺炎球菌が全体の約50%を占めた.次いでインフルエンザ菌が多く,感性菌65株,BLNAR(β-lactamase negative ampicillin resistant H. influenzae)27株,β-ラクタマーゼ産生株17株であった.連続する2回の急性中耳炎を1組とし
    た計202組のうち,150組(74%)において,2回目の急性中耳炎は1回目とは異なる菌によって引き起こされていた.PISP,PRSPが連続して起炎菌であった症例でも,22組中15組(68%)で菌株は異なっていた.以上より反復性中耳炎では基本的に毎回起炎菌が異なり,耐性肺炎球菌の場合も特異的に上咽頭に残って急性中耳炎を反復するのではなく,多くの場合その都度異なる菌株に感染すると考えられた.
  • 佃 朋子, 工藤 典代
    2000 年 103 巻 1 号 p. 24-27
    発行日: 2000/01/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    咽頭異物は,たいていの症例において,介在機点がはっきりし,患者自身がその存在を強く自覚することが挙げられる。しかし,乳児においては,症状を訴えることができず,診断が困難となる症例がしばしば見られる.我々は,2力月もの間発見されなかつた,咽頭異物の乳児例2例を経験したので報告した.喘鳴を主訴に受診した1歳女児は,脱水,と気道炎にて小児科で入院治療をした既往があり,歯ブラシの頭部が中咽頭から下咽頭にかけての後壁に刺入していた.10ヵ月男児は.体重増加不良を主訴としており,他院にて嚥下運動協調障害の診断を受け受診し,PTPが下咽頭後壁に刺入していた.両症例とも土咽頭高圧撮影および内視鏡検査にて診断がつき,全身麻酔下に異物を摘出した.乳児においては,口腔に入るものすべてが異物となり得る.他の疾患で説明のつかない発熱,喘鳴,嚥下困難,体重増加不良等の癌状のある患児を診察する際には,この疾患も念頭におく必要があり,また,異物の危険性につき広く啓蒙する必要があると思われる.
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