大学における卒前教育の一環として, 開業医であるわれわれは, 自らのクリニックへ学生を受け入れ, その臨床実習に協力している. その目的は, 学生に大学病院だけではなく, クリニックにおける一次医療を体験してもらい, 耳鼻咽喉科が扱う領域の広さや疾患の多様性を知ってもらうこと, そして耳鼻咽喉科が魅力的な科であることを実感してもらうことにある.
当初, 中耳炎や鼻炎, 風邪などが主なクリニックで何が教えられるか, 多少の不安があったが, 実習を始めてみると学生の反応はきわめて良好で, 熱心に実習に取り組んでくれることが分かった. またその研修レポートからは, 学生がクリニック実習を通じ, 耳鼻咽喉科の守備範囲の広さや開業医の地域医療における役割, チーム医療の大切さなど多くのことを学んでくれていること, そしてこの実習を高く評価していることが明らかになった.
さらに患者さんに対するアンケート調査からも, 多くの患者さんがわれわれのクリニック実習に好意的であり, 理解を示してくれていることが分かった.
このクリニック実習を行う上で重要なことは, まず肩を張らずに, ありのままの耳鼻咽喉科外来を見せること, また患者さんとの信頼関係を崩さないようにするため, 学生実習に協力していることを明示するなど, 患者さんの理解と協力が得られるよう努めることである. そしてこれらをスムーズに実行するためには, スタッフの協力が不可欠であり, 看護師, 事務, 薬剤師と十分な連携が必要である.
新しい医学教育制度の実施で, 内科, 外科などに比べ, そのよさをアピールできる機会が少なくなった耳鼻咽喉科にとって, 卒前教育の中で学生のクリニック実習を行うことは, 非常に大きな意味を持つと思われる.
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