Bakamjianのmedially based delto-pectoral-skin flapによる頭頸部領域の形成再建手術,とくに下咽頭頸部食道再建について,自験例を中心とし,併せて広く内外の文献的観察をもとに検討を加えた.
本術式を要約すると,第一次手術にて,前上胸部に,茎を胸骨外縁におき,三角筋,胸筋の筋膜までを含む,大きな細長い有茎水平皮弁を作成し,表皮側を内方にまるめた皮膚管つまり新食道を形成し,下咽頭口と皮膚管上端との端々吻合及び食道端と皮膚管との端側吻合をそれぞれ行なって,食道再建の大部分を完了する.約一ケ月後の第二次手術にて,人工瘻孔の型にされたままの茎部を切断閉鎖して再建を完成する方法である.
その特長は,(1) 根治手術と同時に行う一次的再建術であること,(2) 適応範囲が広いこと,(3) 消化管利用の方法より手術侵襲が少ないこと,(4) 一次手術にて食道再建の骨子は完了した状態になり,一期的再建術に匹敵することなどの諸点である.
1970年に吾々をは本邦第一例を報告したが,その後,下咽頭•頸部食道再建8例,口腔底•中咽頭再建一例.頬部頸部の皮膚欠損被覆一例の計10症例を経験した.
食道再建8例の皮弁は金例に生着を認め,又,上端の吻合は全例に一期治癒を認めたが,食道と皮膚管の吻合部には,4例の瘻孔が発生した.これらは,二次手術の際に修復して,自然閉鎖をみた。第一次手術から経口摂取までに要した期問は,一期治癒をみた場合には,平均8週間であつた.現在8例中7例が,2年8ヶ月から6ヶ月の術後経過にて健在である.
以上の結果から,吾々もdefto-pectoral-skin flap法は,多くの利点を有する,すぐれた下咽頭•頸部食道再建術であることを確認したが,内外の多数の追試によつても,その有用性が認められ,好評を得ているところであり,今後ますますその適応を拡げて活用されると信じ,本法の現況と今後の問題点について言及,論述した.
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