日本耳鼻咽喉科学会会報
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115 巻, 6 号
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総説
  • 中山 哲夫
    2012 年 115 巻 6 号 p. 605-611
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/06
    ジャーナル フリー
    感染症対策にワクチンの果たしてきた役割は大きく, ワクチンで予防できる疾患はワクチンで予防する基本的な方針で欧米は積極的にワクチン政策をすすめてきた. 一方, わが国では種痘禍, ジフテリア・百日咳・破傷風 (DPT) の事故, 麻疹・風疹・ムンプス (MMR) スキャンダルと予防接種に関する訴訟が続き積極的な予防接種政策を執ることができなかった. ワクチンメーカーも新規ワクチン開発や外国からの導入もなく空白の十数年が経過し, その間欧米においては1990年代にはインフルエンザ桿菌ワクチン (Hib), 結合型肺炎球菌ワクチン (PCV) が開発され日本発の無細胞型百日咳ワクチン (DTaP) をベ-スに多価ワクチンの開発と積極的に予防接種政策を推し進めてきた. ワクチンの品目, 制度の違いからワクチンで予防できる疾患 (vaccine preventable diseases: VPD) の流行が制圧できずワクチンギャップとして問題視されてきた. 最近になって2008年にはインフルエンザ桿菌ワクチン (Hib), そして2010年春から小児用の結合型肺炎球菌ワクチンが使用できる様になった. わが国の予防接種政策が立ち遅れた原因は何か, そしてこれからの予防接種対策について考えてみたい.
  • 池田 稔, 丹羽 秀夫
    2012 年 115 巻 6 号 p. 612-617
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/06
    ジャーナル フリー
    日常の診療の中で悪性腫瘍を含め, 多彩な口腔病変の多くをまず診るのは耳鼻咽喉科医である. 口腔病変の原因は多彩であり, またそれらが類似した所見を示すことが多い. 原因としては感染症による場合が多いが, 全身疾患や全身の皮膚疾患を反映する病変も少なくない. 口腔病変の診断と治療には皮膚科, 内科, 小児科, さらには歯科口腔外科なども対応していることが多く, 典型的な境界領域となっている. この多彩な原因による口腔病変に対し, 適切に診断・治療をすすめていくことは, どの科においても必ずしも容易ではない. 口腔病変に対しては, まず整理された知識をもとに対応し, 診断に苦慮し治療に難渋する例に対しては, 積極的に他科との連携をとることがすすめられる. ここでは耳鼻咽喉科の日常診療の一助となることを目的として, 多彩な口腔病変の診断と治療を進めていく上で必要な, 基本的な事項について解説した.
原著
  • 河田 了, 李 昊哲, 吉村 勝弘, 西川 周治, 荒木 倫利
    2012 年 115 巻 6 号 p. 618-624
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/06
    ジャーナル フリー
    目的: 当科では, 耳下腺良性腫瘍に対して一定した診断および治療を施行してきた. その手術例が300症例に達したので, それらの症例を解析して, 診断, 治療上の問題点について検討した.
    方法: 1999年9月から2011年3月までの約12年間に当科で手術を施行した耳下腺良性腫瘍症例300例を対象とした.
    結果: 男性が155例, 女性が145例であった. 腫瘍の部位別では浅葉が152例, 下極が103例, 深葉が45例であった. 病理組織別にみると, 多形腺腫が147例で最も多く, ついでワルチン腫瘍が111例であり, 両組織型で全体の86%を占めた. 穿刺吸引細胞診 (FNAC) による病理組織診断の正診率は全体で66%であり, 病理組織別にみると, 多形腺腫では80%, ワルチン腫瘍で67%であった. 術後顔面神経の永久麻痺を来した症例は一例もなかったが, 一時麻痺を来した症例は61例 (20.3%) であった. 部位別にみると浅葉では16.4%, 深葉では55.6%, 下極型では10.7%であった. 一時麻痺の要因を検討すると, 腫瘍の部位, 手術時間, 出血量で有意差を認めた. 麻痺からの回復期間は, 浅葉では1.7カ月, 深葉では2.8カ月であった.
    結論: FNAによる術前組織診断は良好であるものの, その診断には限界があった. 深葉腫瘍は, 浅葉腫瘍や下極腫瘍と比較して有意に高い一時麻痺率であった. 顔面神経の一時麻痺率, 手術時間, 出血量などを考えたとき, 耳下腺腫瘍は, 浅葉腫瘍, 深葉腫瘍, 下極腫瘍の3つの場合に分けるのが臨床的に適当であると考えた.
  • 横山 純吉, 伊藤 伸, 大峡 慎一, 藤巻 充寿, 池田 勝久, 花栗 誠
    2012 年 115 巻 6 号 p. 625-631
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/06
    ジャーナル フリー
    頭頸部進行癌の最大の予後因子は頸部リンパ節の制御である. 頸部リンパ節の栄養血管は外頸動脈の分枝と鎖骨下動脈の分枝があるが, 最大の栄養血管は甲状頸動脈およびその分枝であることをわれわれは報告してきた. しかし, その分枝は複雑で挿入は必ずしも容易ではなくSeldinger法の弱点でもある. Seldinger法で挿入できない25例を対象に上腕動脈経由に挿入した.
    目的: 上腕動脈経由の動注法の有用性を検討した.
    方法: 血管造影室にて上腕動脈より穿刺し, CT-アンギオで腫瘍範囲と脊髄神経枝の有無を確認し, CDDP 100-150mg/m2,DOC 10-15mg/m2 動注した. 有用性を挿入率, 挿入時間, 効果, 安全性より評価した.
    結果: 本法によりSeldinger法で挿入できなかった全症例に挿入できた. 脳梗塞等の合併症はなかった. 当日より歩行や座位が可能であった. 挿入時間は平均25分 (15-40分) であった. Seldinger法では60分以上をかけても挿入できなかった. 化学放射線療法の奏功率は100%であり, 5年粗生存率は38%であった.
    結論: Seldinger法で挿入できない鎖骨下動脈の分枝を栄養血管とする頸部リンパ節転移症や下咽頭癌, 喉頭癌, 頸部食道癌に上腕動脈経由の動注療法は安全で有効と考えられた.
  • 平原 信哉, 松田 圭二, 外山 勝浩, 永野 由起, 長井 慎成, 東野 哲也
    2012 年 115 巻 6 号 p. 632-635
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/06
    ジャーナル フリー
    乳幼児血管腫にPropranololが著効した症例を経験したので報告する. 症例は4カ月の女児. 生後1カ月より左耳下部腫脹が出現し, 来院時に左耳下部皮膚に発赤を伴う弾性硬の緊満した腫瘤を触診し, 頸部MRIなどから血管腫と診断した. Propranolol経口投与を1mg/kg/日から開始し, 3カ月かけて2mg/kg/日まで増量した. 内服開始後, 急速な腫瘍の縮小を認め, 4カ月後には腫瘤, 発赤ともほぼ消失した. 10カ月内服を続けているが無症状で, MRIでも腫瘍は扁平に退縮している. その速効性, 副作用の少なさは自然治癒を待つよりも確実に効果が期待でき, 今までの治療であるステロイド治療, 硬化療法などの侵襲的治療に代わり第一選択とされるべき治療と考えられた.
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