目的: 当科では, 耳下腺良性腫瘍に対して一定した診断および治療を施行してきた. その手術例が300症例に達したので, それらの症例を解析して, 診断, 治療上の問題点について検討した.
方法: 1999年9月から2011年3月までの約12年間に当科で手術を施行した耳下腺良性腫瘍症例300例を対象とした.
結果: 男性が155例, 女性が145例であった. 腫瘍の部位別では浅葉が152例, 下極が103例, 深葉が45例であった. 病理組織別にみると, 多形腺腫が147例で最も多く, ついでワルチン腫瘍が111例であり, 両組織型で全体の86%を占めた. 穿刺吸引細胞診 (FNAC) による病理組織診断の正診率は全体で66%であり, 病理組織別にみると, 多形腺腫では80%, ワルチン腫瘍で67%であった. 術後顔面神経の永久麻痺を来した症例は一例もなかったが, 一時麻痺を来した症例は61例 (20.3%) であった. 部位別にみると浅葉では16.4%, 深葉では55.6%, 下極型では10.7%であった. 一時麻痺の要因を検討すると, 腫瘍の部位, 手術時間, 出血量で有意差を認めた. 麻痺からの回復期間は, 浅葉では1.7カ月, 深葉では2.8カ月であった.
結論: FNAによる術前組織診断は良好であるものの, その診断には限界があった. 深葉腫瘍は, 浅葉腫瘍や下極腫瘍と比較して有意に高い一時麻痺率であった. 顔面神経の一時麻痺率, 手術時間, 出血量などを考えたとき, 耳下腺腫瘍は, 浅葉腫瘍, 深葉腫瘍, 下極腫瘍の3つの場合に分けるのが臨床的に適当であると考えた.
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