日本耳鼻咽喉科学会会報
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112 巻, 7 号
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総説
  • 亀山 香織
    2009 年 112 巻 7 号 p. 531-533
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/10/26
    ジャーナル フリー
    2004年, WHOによる甲状腺腫瘍組織分類の改訂が行われた. これに伴いわが国でも2005年, 甲状腺癌取り扱い規約が改定された. 本稿では, 乳頭癌の亜型の細胞診所見, 細胞学的に乳頭癌と紛らわしい疾患, 濾胞性腫瘍の細胞診断の困難性の3点につき概説する.
    今回, 乳頭癌の亜型として7つの亜型を採用した. このうち濾胞型乳頭癌, 被包型乳頭癌, 大濾胞型乳頭癌は通常の乳頭癌と細胞学的に相違はない. 好酸性細胞型は遭遇する頻度がとても少ないため, 現実に問題となるのは残り3型である. びまん性硬化型乳頭癌は多数の砂粒小体, 硝子化, 石灰化が観察され, 細胞診でも推定可能である. 高細胞型乳頭癌は予後が不良であり, 細胞診で診断する意味がある. 細胞学的にはその名称通り, 一般の乳頭癌と比べ細胞質ならびに核の丈が高くなる. 篩 (・モルラ) 型乳頭癌は臨床的にも特異な疾患である. 家族性大腸ポリポージスの一部分症として知られており, 濾胞状, 乳頭状, 索状あるいは篩状構造を示す他, モルラと称される充実性胞巣が散見されるという特徴的な形態を示す. この形態が細胞診でも反映される.
    細胞学的に乳頭癌と紛らわしい疾患には腺腫様甲状腺腫, 橋本病, 硝子化索状腫瘍が挙げられ, ときに乳頭癌と間違う場合がある. 特に硝子化索状腫瘍はその細胞学的特徴を把握していないと誤診の原因となる.
    濾胞性腫瘍には腫瘍内にheterogeneityがある. そのため細胞診の採取部位によっては正しい診断が得られない可能性がある. エコー下で低エコーの部位からの採取を心掛けることにより, 正診率の向上が期待される.
    病理医と耳鼻科医あるいは外科医双方が細胞診の限界を認識し, 他の診断ツールを併用することにより診断率の向上を目指していきたいと考える.
原著
  • —国立長寿医療センター耳鼻咽喉科外来での統計から—
    杉浦 彩子, 内田 育恵, 中島 務
    2009 年 112 巻 7 号 p. 534-539
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/10/26
    ジャーナル フリー
    日本は2007年より65歳以上の高齢者の人口が20%を超える超高齢社会となり, 耳鼻咽喉科外来においても高齢者の占める割合が急増している. 今回われわれは一般耳鼻咽喉科外来を受診する高齢者について, 特に65歳から74歳までの前期高年期と75歳以上の後期高年期ではどのような臨床背景の違いがあるのかについて検討した. 対象は2006年9月より2007年8月までの1年間に国立長寿医療センター耳鼻咽喉科を初診した1,329名 (男性627名, 女性702名) である. 方法は対象を壮年期以下 (44歳以下), 中年期 (45-64歳), 前期高年期 (65-74歳), 後期高年期 (75歳以上) の4群にわけて, それぞれについて主訴, 既往歴, 服薬歴, 受診動機, 発症から受診までの日数について比較検討した. その結果, 主訴として最も多かったのは壮年期以下では咽喉頭痛, 中年期・前期高年期ではめまい, 後期高年期では難聴であった. 高齢になるほど, 既往歴, 服薬歴が増加し, 罹病期間は長く, 自分の意思で受診する割合が減少していた. めまいを主訴とした患者では高齢になるほど中枢性めまいの割合が増加し, 後期高年期では26%を占めていた. 難聴を主訴とした患者は後期高年期で倍増し, かつ, 中等度以上の難聴が7割を占めていた. 高齢者特有の臨床背景を理解した上で診療にあたることが必須であり, 特に主訴として多いめまいと難聴に関しては高齢者のQOLとも直結しており, 啓発, リハビリの充実が急務と考えた.
  • 中山 明仁, 清野 由輩, 林 政一, 宮本 俊輔, 竹田 昌彦, 正来 隆, 横堀 学, 岡本 牧人
    2009 年 112 巻 7 号 p. 540-549
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/10/26
    ジャーナル フリー
    (目的) Supracricoid laryngectomy (SCL) の導入が当科の喉頭腫瘍治療に与えた影響と本術式の位置づけについて評価することを目的とした.
    (方法) 1997-2008年の11年間にSCLを施行した50症例を対象として臨床的検討を行った. 内訳はCricohyoidoepiglottopexy (CHEP) 47例, Cricohyoidopexy (CHP) 3例であった.
    (結果) SCL施行例は徐々に増加し, 2003年以降は年間のSCL例数が喉頭全摘出術 (TL) 例を上回った. 術後感染は16例 (32%) に認めたが, 12例は保存的に閉創し, 4例が再手術を必要とした. 照射歴と既往症がある症例は有意に術後感染率が高かった. 音声機能は96%の症例で獲得され, 嚥下機能のゴールである外食は89%の症例で達成された. 5年粗生存率はSCL-CHEP群69%, TL群51%で, 病期III, IVに限定してもSCL-CHEP群がTL群を下回ることはなかった. 喉頭温存率は病期II, III例ではSCL-CHEP導入前が70%, 導入後が89%と有意な上昇がみられ, SCL-CHEPが最も寄与していた.
    (結論) 導入後11年間の経験でSCL, 特にSCL-CHEPは機能的にも腫瘍学的にも安定した機能温存手術であることが確認された.
  • 南 和彦, 長谷川 直子, 福岡 修, 宮島 千枝, 角田 玲子, 深谷 卓
    2009 年 112 巻 7 号 p. 550-553
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/10/26
    ジャーナル フリー
    頭頸部進行癌で皮膚浸潤を呈した症例では出血, 疼痛, 感染などを伴い, 著しくQOLを損なうが, 有効な治療手段がないのが現状である. 特に腫瘍の皮膚浸潤による自壊, 出血例では止血に難渋することが多く, 輸血を必要とすることもある.
    今回, われわれは皮膚科領域で使用されてきたMohs軟膏を使用した処置を頭頸部癌皮膚浸潤2症例に適応した. この治療法は病変を化学的に固定することで, 腫瘍出血, 疼痛, 感染, 滲出液を制御するとされる. 実際, いずれの症例においても出血と疼痛を制御し, QOLの改善に有効であった.
    Mohs軟膏による処置は頭頸部癌の皮膚浸潤および皮膚転移を伴う症例における局所合併症の制御目的に非常に有用な治療法と考えられる. 頭頸部癌進行例のQOLの改善目的にMohs軟膏を使用して局所合併症を制御し得た2症例を経験したので若干の考察とともに報告する.
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