本研究では, ヒトにニオイ刺激 (アミルアセテート) と無臭刺激を与えたときの脳磁図を記録し, その信号を高速フーリエ変換 (FFT) によって解析し, ニオイ刺激によりどのような周波数が変動するか検討した. 対象は嗅覚正常者9名, 計測には37チャンネルの脳磁計を2基使用した. 刺激は右鼻腔に提示し, 脳磁図の記録を行った. 得られた波形をFFT処理し, 周波数帯域別および4~25Hzまで1Hz毎にスペクトル密度を算出した. このスペクトル密度がチャンネル毎, 周波数毎に各刺激条件で有意な変化があるかを検討した.
その結果, 周波数帯域別ではいずれの帯域にも無臭刺激とニオイ刺激の比較では有意差は認めなかったが, 1Hz毎に検討すると以下のように有意差が認められた.
(1) 無臭刺激とニオイ刺激の比較では7Hzに有意差を認めた. これは体性感覚やニオイ刺激特有の反応ではなく, アミルアセテートの刺激に対する認知機構との関係が示唆され, 嗅覚中枢の眼窩前頭野との関連が推測された.
(2) 8Hzにおいて無刺激と無臭刺激, 無刺激とニオイ刺激の場合, 右側に有意差を認め, その有意差を認めた部位はほぼ同様なパターンを呈した. この変動は刺激による覚醒レベルの上昇によるものと考えられた.
(3) 無刺激と無臭刺激の比較で11Hzのみ左側に, 無刺激とニオイ刺激の比較で11, 12Hzの左側に両者ともスペクトル密度の増大を認めた. この変動は注意力の集中によるものと推測された.
(4) 無刺激とニオイ刺激の比較では14~24Hzまで多くの周波数で左側に有意差を認めた. このうち21, 22Hzの変動は無刺激と無臭刺激の比較でも認められた. この21, 22Hzの変動は無臭刺激, アミルアセテートによる三叉神経刺激によるものと考えられた. また, 無刺激とニオイ刺激の比較で認められた14-17Hz, 23-24Hzの変動はニオイ刺激によって生じた情動が関与していると考えられた.
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