日本耳鼻咽喉科学会会報
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119 巻, 7 号
選択された号の論文の16件中1~16を表示しています
総説
  • ―音響生理学の理解を通して―
    伊藤 健
    2016 年 119 巻 7 号 p. 929-936
    発行日: 2016/07/20
    公開日: 2016/08/06
    ジャーナル フリー

     音響生理学的プロセスを解説した上で, 聴覚検査において観察している現象について述べた. 対象としては専門医資格取得前後の耳鼻咽喉科医師を想定した. 中耳は空気中から外リンパに音波を伝えるためのインピーダンス整合器の働きを持つ. 内耳 (蝸牛) は音響受容器であるとともに内部に増幅機能 (amplifier) を持ち, さらに周波数分解をも行う. 検査としては基本となるもののみ (インピーダンス・オージオメトリ, 耳音響放射, 脳電図, 音叉による検査, 純音聴力検査, 聴性定常反応) に限った. 実際の検査結果を評価するに当たっては, どのような音響生理学的現象を観察しているのかを常に考えるようにすると学習効果が高まる.

  • 神崎 晶
    2016 年 119 巻 7 号 p. 937-940
    発行日: 2016/07/20
    公開日: 2016/08/06
    ジャーナル フリー

     急性内耳障害を中心とした感音難聴に関する病態, 検査, 治療など最近の知見について総説としてまとめた.
     多施設共同で行われた解析では突発性難聴の予後に関連する血液検査項目としてフィブリノゲンが挙げられた. また, 聴力型に応じて予後に関連する血液項目が異なっており, 病態が異なることが示唆された. さらに PDE5 阻害薬による突発難聴の発生から最近新たに提唱されている突発性難聴の病態機序を紹介した. その病態と, フィブリノゲン, 細胞ストレスに関する転写因子などを含んだ新しい病態について仮説を提唱した.
     今後期待されるような薬物治療として抗酸化物質などの基礎研究の現状を挙げた. また急性感音難聴が一側高度難聴に至る場合に人工内耳埋込み術がヨーロッパでは行われており, その成果について報告をまとめた. 国内でも今後実施されることが期待される.
     ステロイド, 特に糖質コルチコイドは内耳に保護的に作用することが明らかになってきている. 同時に突発性難聴などに対するステロイドの局所投与が見直されている. 今後期待される治療薬は副作用の観点から内耳局所に投与を行うことが重要である. ところが全身と局所投与について内耳への薬物動態が不明である. それぞれの投与法に応じて基礎的データから臨床的意義について論じた. 局所と全身投与では薬物動態が異なるため, 両者併用が薬物を内耳に到達させるために効果的である. また, 全身投与では多量の方がより内耳に到達することが示唆された.

原著
  • ―幼稚園から高等学校まで―
    大滝 一, 廣川 剛夫, 石岡 孝二郎, 堀井 新, 髙橋 姿
    2016 年 119 巻 7 号 p. 941-948
    発行日: 2016/07/20
    公開日: 2016/08/06
    ジャーナル フリー

     今回われわれは, 新潟県で初の幼稚園から高校までの耳鼻咽喉科の健康診断に関する実態調査を行った.
     その結果, 幼稚園, 保育園の62.1%で耳鼻咽喉科健診が行われておらず, 健診が行われている園の23.9%では他科の医師によって健診が行われていた. 就学時健診にいたっては, 耳鼻咽喉科医による健診が行われていたのは全体の4.2%にすぎなかった. 小, 中学校では全学年に健診が行われていたのは小学校で51.7%, 中学校で31.6%であった. 聴力検査は小, 中学校とも80%以上で全学年に検査が行われていた. 高校では全学年で健診が行われていたのは105校中わずか3校で, 1年生を中心に健診と聴力検査が行われていた.
     上記の結果に加え, 今回の調査で, 1自治体の1つの小, 中学校で9年間に一度も耳鼻咽喉科健診が行われていないことが分かり, 該当自治体と協議の結果, 平成28年から健診を行うことが決まった. また耳鼻咽喉科疾患の有所見率の高い幼児の健診体制強化の観点から, 健診率の低い新潟市の私立幼稚園の健診実施を新潟市に要望した.
     今回の調査を通して, 初めて分かった事実もあり, 問題点に対して対策を立てられた点で, 今回の調査は有意義であった. 今回の結果も踏まえ, 今以上に健診を含めた学校保健活動に積極的にかかわっていきたいと考えている.

  • ―過去20年間4期の比較―
    鈴木 基之, 藤井 隆, 喜井 正士, 音在 信治, 北村 公二, 金村 亮, 大森 良彦, 南野 太志
    2016 年 119 巻 7 号 p. 949-954
    発行日: 2016/07/20
    公開日: 2016/08/06
    ジャーナル フリー

     下咽頭癌は進行癌が多く予後不良とされてきたが, 内視鏡診断能の向上により上皮内癌や表在癌が増加している. これにより下咽頭癌の病期の内訳や生存率に大きな変化が生じていることが予想され, 1993~2012年に当科で一次治療を行った下咽頭癌722例を対象とし後ろ向きに研究を行った.
     20年間を5年毎に A~D 期に分け, 臨床病期別の症例数と OS(Overall survival rate) の推移を検討した. Stage I-II のうち表在癌と診断した T1-2sN0 の病期を Stage I-IIs とし, 表在癌以外の T1-2N0 の病期 Stage I-IIi と区別した.
     A~D 期の下咽頭癌全体の5年 OS は34%, 39%, 54%, 60%で B 期から C 期にかけて有意に上昇していた. Stage III-IV の5年 OS も B 期から C 期にかけて有意に上昇していた. また, C 期から D 期にかけて Stage 0~II の割合や, Stage I-II における Stage I-IIs の割合が有意に増加していた. Stage I-IIs は Stage I-IIi に比し有意に OS が高く, Stage 0 と同様の生存曲線を描いた.
     B 期から C 期にかけては進行癌の治療成績の改善が, C 期から D 期にかけては上皮内癌や表在癌の症例数増加が下咽頭癌の生存率向上に寄与していた.

  • 山下 ゆき子, 佐久間 康徳, 柴田 邦彦, 小松 正規, 丹羽 一友, 高田 顕太郎, 桑原 達, 笠井 理行, 佐合 智子, 高柳 博久 ...
    2016 年 119 巻 7 号 p. 955-961
    発行日: 2016/07/20
    公開日: 2016/08/06
    ジャーナル フリー

     石灰沈着性頸長筋腱炎は, 急激な頸部痛, 嚥下時痛, 頸部の運動制限などを来す頸長筋の急性炎症である. 予後は良好だが比較的まれな疾患で, 臨床症状や局所所見が咽後膿瘍など重篤な疾患と類似し診断に苦慮することもある.
     われわれが経験した1例目は本疾患を考慮しておらず結核性膿瘍や髄膜炎を疑い骨髄穿刺等を施行し, 2例目は本疾患を疑いつつも糖尿病の合併があり細菌性咽後膿瘍の鑑別に全身麻酔下に試験的切開術を行った. 3例目は本疾患を強く疑い外来通院で内服薬にて軽快した.
     本疾患は頸部 CT で環軸椎前方の石灰化像が特徴的であり, 咽頭後壁に低吸収域を認めても周囲に造影効果を伴わないことで咽後膿瘍と鑑別することができる.

  • 井上 麻美, 岡本 康太郎, 永尾 光, 豊田 健一郎
    2016 年 119 巻 7 号 p. 962-966
    発行日: 2016/07/20
    公開日: 2016/08/06
    ジャーナル フリー

     症例は54歳男性. 咽頭痛を主訴に入院. 炎症反応の高値, 頸胸部 CT では扁桃下極から頸部食道にかけて膿瘍および, 壁肥厚を認めた. 咽頭膿瘍を切開し, 細菌検査では Streptococcus milleri group の一つである Streptococcus constellatus が検出された. 扁桃周囲膿瘍から波及した食道粘膜下膿瘍と診断した. 炎症は, 咽頭粘膜間隙から食道粘膜下にのみ波及したと考えられた. 炎症が食道壁内にのみ留まったため, 重篤化せず抗菌薬による保存的治療にて軽快した.

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