日本耳鼻咽喉科学会会報
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112 巻, 5 号
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総説
  • 稲垣 直樹
    2009 年 112 巻 5 号 p. 405-413
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/08/05
    ジャーナル フリー
    cortisolに代表されるglucocorticoidは副腎皮質で合成されるホルモンであり, 糖, タンパク, 脂質などの代謝に関与する. 抗リウマチ作用が確認されて以来, 強力な抗炎症作用を有するglucocorticoidが合成され, 臨床応用されてきた. 炎症, アレルギー, 免疫反応を強力に抑制するが, 長期にわたって大量のglucocorticoidを使用すると生理的な作用が過度に発現する. 全身性副作用の発現を軽減するため, 吸収後には速やかに不活性化されるアンテドラッグの局所適用が進められている. アンテドラッグの開発は強力な作用をもつglucocorticoidをより安全に使用するための画期的な工夫である. glucocorticoidは細胞内にある受容体を介して種々の遺伝子の発現を高め, あるいは抑制することによって多様な生理作用および薬理作用を発現する. glucocorticoidによって活性化された受容体は転写調節因子として直接遺伝子発現を調節するのみならず, 核内の種々の因子との相互作用を介して遺伝子発現を制御する. glucocorticoid受容体は膨大な数の核内因子の中で, 複雑な相互作用を介して多数の遺伝子の発現を制御していると考えられる. glucocorticoidは受容体を活性化するのみと考えられてきたが, 作用発現機序の解明に伴い, 好ましい作用のみを発揮するglucocorticoidの創製の可能性が示唆されるようになってきた.
  • —加齢による内耳変性 老人性難聴の予防に向けて—
    山岨 達也
    2009 年 112 巻 5 号 p. 414-421
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/08/05
    ジャーナル フリー
    加齢に伴うミトコンドリアDNA変異蓄積・ミトコンドリア機能低下が老人性難聴の発症に関与する可能性について研究を行った. まず老人性難聴モデルであるDBA/2Jマウスの蝸牛における遺伝子発現変化を検討した. このマウスは2カ月齢では軽度難聴, 8カ月齢で聾となるが, 8カ月齢の蝸牛を2カ月齢のそれと比較すると, 約2,200の遺伝子の発現が低下し, 約1,900の遺伝子の発現が亢進していた. 特にミトコンドリア機能に関する15のカテゴリーでの遺伝子発現低下が顕著であり, 加齢に伴う難聴発現におけるミトコンドリア機能低下の関与が示唆された. 次にミトコンドリアDNA変異が加齢に伴い増加するPOLGマウスを作成したところ, 早期から様々な老化症状を呈した. 野生型では9カ月時には聴力は正常であったが, POLGマウスでは中等度難聴が生じ, 蝸牛に著明な変性とアポトーシスの増加が見られた. 9カ月齢のPOLGマウスの蝸牛では野生型に比べて, 聴覚, エネルギー代謝などに関与する遺伝子の発現が低下し, アポトーシスなどに関与する遺伝子の発現が増加していた. 最後にC57BL/6マウスに26%のカロリー摂取制限を行い, 加齢に伴う難聴が予防できるか検討した. 通常量の食事を与えた対照群では15カ月齢までに中等度難聴および蝸牛組織の変性, アポトーシスが生じたが, 同月齢のカロリー制限群では聴力は正常に保たれ, 組織変性も少なく, アポトーシスも抑制されていた. 15カ月齢のカロリー制限群では同月齢の通常食群に比べ, 聴覚機能・ミトコンドリア機能などに関与する遺伝子発現が増加し, アポトーシスなどに関与する遺伝子発現が低下していた. 以上の一連の結果から, ミトコンドリアDNA変異の蓄積によりミトコンドリア機能が加齢とともに低下し, 蝸牛内の重要な細胞のアポトーシスが誘導されて老人性難聴の生じることが示唆された.
原著
  • —2カ月後と2年後の治療成績—
    小宅 大輔, 越智 健太郎, 高津 光晴, 深澤 雅彦, 肥塚 泉
    2009 年 112 巻 5 号 p. 422-428
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/08/05
    ジャーナル フリー
    近年下鼻甲介の肥大性病変に対する治療として, 高周波電気凝固術の有用性が報告されている. われわれは, 2003年よりCelon社製のBipolar radiofrequency applicatorを用い, アレルギー性鼻炎による下鼻甲介の肥大性病変に対する治療を行っている. すでに2カ月後の有効性について報告したが, 今回は2年間経過を追えた症例の有効性について検討することを目的とした. 2003年2月から8月までに聖マリアンナ医科大学耳鼻咽喉科を受診し, 通年性アレルギー性鼻炎に対する高周波電気凝固術を行い2年間経過を追えた16例を対象とした. 外来で局所麻酔下に下鼻甲介後端から順次電気凝固を行った. 治療効果の評価にはVAS scoreおよびアンケートを用いた. 鼻閉, 鼻汁, くしゃみの術後2年目のVAS scoreは, 術前のVAS scoreと比較しすべて統計学的に有意 (鼻閉: P<0.0001, 鼻汁: P<0.0001, くしゃみ: P<0.0001) な改善を認めた. また2カ月後と比較しても有意な改善を認めた. 今回の検討から高周波電気凝固術の効果が2年間減弱せず, 2カ月から2年の間もさらに有効性が向上していることが確認できた. アンケートでも鼻の症状は改善しており, 治療に対して高い満足度が得られた. 鼻腔通気度検査でも, 本法により統計学的に有意な, 通気度の改善を認めた. さらに, 術前と比較し術後は統計学的に有意 (P<0.05) に鼻処置による鼻腔通気度の改善度が減少した. 高周波電気凝固術により下鼻甲介の肥大性病変による症状はほとんどの症例で改善した. 本法は合併症も少なく, 外来で簡単に行うことができ, 下鼻甲介の肥大性病変に対し有効な治療法の一つと考えられた.
  • 許斐 氏元, 吉田 知之, 伊藤 博之, 清水 顕, 清水 重敬, 岡本 伊作, 鈴木 衞
    2009 年 112 巻 5 号 p. 429-433
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/08/05
    ジャーナル フリー
    〔目的〕タラポルフィンナトリウム (NPe6) を用いた光線力学的診断 (PDD) が口腔咽頭癌にも応用可能であり, 光線力学的療法 (PDT) が有用であることを検討する.
    〔対象と方法〕NPe6を用い, PDD併用でPDTを施行した口腔咽頭癌11例を検討した. T1が6例, T2が5例で, リンパ節転移, 遠隔転移のない例を対象とした. NPe6をPDDの4時間前に投与し, 全身麻酔下でPDDを施行した. 腫瘍から発する蛍光を観察後, マーキングを行い, その部位にPDTを施行した. PDT後にはフォトブリーチ現象を確認した. また, 腫瘍中心部とコントロールとしての腫瘍辺縁正常部の組織を採取し, NPe6の組織内濃度を検討した. NPe6の腫瘍内濃度と治療効果も検討した.
    〔結果〕PDDは全例で施行され, 腫瘍進展範囲をマーキングできた. 蛍光範囲は肉眼的腫瘍部位よりやや大きく, 安全域を確保できた. PDT後, 全例でフォトブリーチ現象が確認できた. NPe6の腫瘍内濃度は1.57-6.84μg/gで, 腫瘍/正常組織比は2.32-5.69であった. 治療効果は全例でCRであった. 入院期間は放射線治療などと比べて著明に短縮された.
    〔結論〕NPe6を用いたPDDは口腔咽頭癌にも応用可能で, より正確な範囲でPDTを行えた. NPe6は腫瘍組織に2倍以上多く残存した.
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