日本耳鼻咽喉科学会会報
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115 巻, 9 号
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総説
  • 齋藤 昭彦
    2012 年 115 巻 9 号 p. 823-829
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/23
    ジャーナル フリー
    小児領域における新しいワクチンの登場は, ワクチンで予防できる疾患 (VPD: Vaccine Preventable Diseases) を増やすことに成功した. 特に乳幼児期の重症細菌感染症の原因であるインフルエンザ菌b型 (ヒブ), 肺炎球菌に対するワクチンの普及は, 諸外国において, それらの疾患の著明な減少をもたらした. また, 社会全体の接種率の上昇により, 接種した個人がそれらの病気から守られるだけでなく, 何らかの理由でワクチン接種のできない個人をも守る集団免疫 (Herd Immunity) の効果によって, その疾患のコントロールに成功している. この様な事実に基づいて, 世界保健機関 (WHO) は, この2つのワクチンを世界のすべての子どもたちに接種すべきワクチンとして推奨している.
    この2つのワクチンは, 耳鼻科領域においても重要であり, 特にヒブワクチンによる急性喉頭蓋炎の減少, また, 肺炎球菌ワクチンによる中耳炎, 副鼻腔炎の減少が報告されている. 米国に比べ, ヒブワクチンは約20年, 肺炎球菌ワクチンは約10年遅れて, 日本で, ようやくこれらのワクチン接種が可能となった現在, その接種率向上のための積極的, かつ継続的活動が必要であると考える.
    また, さらなる新しいワクチンとして, 中耳炎, 副鼻腔炎の起因菌として重要な無莢膜型インフルエンザ菌を結合蛋白として使った10価の肺炎球菌ワクチン (日本では未販売), 尖圭コンジローマ, 喉頭乳頭腫などを来すヒトパピローマウイルスの血清型6, 11にも効果がある4価のヒトパピローマウイルスワクチンが接種可能である. これらの新しいワクチンの接種によって, これらの疾患の耳鼻科領域での予防が期待される.
  • 宮崎 総一郎, 北村 拓朗
    2012 年 115 巻 9 号 p. 830-835
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/23
    ジャーナル フリー
    睡眠は, 大脳の進化とともに発達してきた. 睡眠は疲れたから眠るといった消極的な生理機能でなく, 「脳を創り, 育て, より良く活動させる」積極的な機能がある. さらに, 記憶や運動技能を向上させる能動的な生理活動がなされる時間でもある.
    睡眠呼吸障害では, 睡眠中の呼吸努力により覚醒反応が生じ, 睡眠の分断化が起こり, 睡眠が障害される. 小児睡眠呼吸障害では, 睡眠が障害されるために成長ホルモン分泌が障害され, 成長障害が生じる. さらに, 知能低下, 学業成績不良, 夜尿, 注意欠陥, 多動, 攻撃性, などの多くの問題を生じる. 知能低下の説明として, 最近では成長ホルモンに関連してIGF-1の関与が注目されている.
    小児睡眠呼吸障害の原因として多数を占めるのは, アデノイド・口蓋扁桃肥大であるが, 最近ステロイド点鼻を軽症から中等症の睡眠時無呼吸例で鼻閉の改善とアデノイド縮小効果を期待して, 適用する治療法の有効性が多く報告されている.
原著
  • 田畑 貴久, 大淵 豊明, 北村 拓朗, 大久保 淳一, 橋田 光一, 寳地 信介, 若杉 哲郎, 加藤 明子, 鈴木 秀明
    2012 年 115 巻 9 号 p. 836-841
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/23
    ジャーナル フリー
    IgA腎症に対する治療法のひとつとして, 口蓋扁桃摘出術 (扁摘) が挙げられる. 本研究は, 扁摘を施行したIgA腎症患者の術後の腎機能の寛解を推定し得る術前予後因子を明らかにすることを目的とした.
    対象は当科で扁摘を施行したIgA腎症患者40例 (男性21例, 女性19例; 平均年齢25.5歳) を対象とし, IgA 腎症診療指針に準拠して寛解群と非寛解群とに分類した上で, 性別, 年齢, 罹病期間, ステロイドパルス療法の有無, 血圧, 扁桃肥大の程度, 定性尿蛋白, 定量尿蛋白, 尿潜血, 血清総蛋白値, 血清尿酸値, 血清クレアチニン値, 血清IgA値, 抗ストレプトリジンO抗体値, 腎組織障害度, 摘出扁桃の病理組織所見について, 2群間で比較検討を行った.
    手術1年後に寛解と判定された症例は13例, 非寛解群と判定された症例は27例であった. 寛解群において, 非寛解群に比し有意と認められた事項は, (1)発症から扁摘を施行されるまでの罹病期間が短いこと, (2)血圧が低値であること, (3)血清総蛋白値が高値であること, および(4)扁桃肥大の程度が高度であること, の4項目であった. (3)と(4)については, 多重ロジスティック回帰解析でも同様の結果が確認された.
    IgA腎症の治療に際してはその病態を十分理解した上で, 上記のような術前予後因子を念頭におき, 扁摘の有効性を検討することが望ましいと考えられた.
  • 加藤 榮司, 東野 哲也
    2012 年 115 巻 9 号 p. 842-848
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/23
    ジャーナル フリー
    1992年から2010年までの18年間に高等学校剣道部員を対象にして行った聴覚健診成績を集計した. 純音聴力検査で一つ以上の周波数に聴力閾値30dB以上の閾値上昇を認めた聴覚障害例は225名中45名 (19.7%) 69耳であり, 障害程度は2000Hzと4000Hzで大きかった. 聴力型としては, 2000Hz-dip型, 4000Hz-dip型, 2000-4000Hz障害型感音難聴の頻度が高く, 初年度の健診では正常聴力を示した例も含まれていた. また, 聴力閾値25dB以内の小dipについても2000Hzと4000Hzのみに観察され, 剣道難聴の初期聴力像と考えられた. すべての学年で右耳よりも左耳の聴力閾値が有意に高いことがわかった (p<0.01). 18年間にわたる聴覚健診活動の結果, 聴覚障害の発症頻度減少が認められた.
  • 仲野 敦子, 有本 友季子, 松永 達雄, 工藤 典代
    2012 年 115 巻 9 号 p. 849-854
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/23
    ジャーナル フリー
    経過観察中の両側難聴症例のうち, CTで両側蝸牛神経管狭窄を認めた5症例を報告した.
    内耳道狭窄を合併していた症例は1例のみであった. 脳MRIを施行していた2例はいずれも頭蓋内病変も認められていた. 音への反応が不良で言葉の遅れを主訴に受診し, 聴力検査結果からAuditory neuropathy spectrum disorderが疑われた2症例は, 補聴器装用による言語訓練により明瞭度は不良であったが音声言語が獲得されていた. 内耳道狭窄を合併していた1例は, 音声言語の獲得はできていなかった. CTでの蝸牛神経管狭窄は, 蝸牛神経欠損あるいは低形成の所見であると考えられるが, その臨床経過は症例により異なっていた.
  • 間多 祐輔, 植木 雄司, 今野 昭義
    2012 年 115 巻 9 号 p. 855-860
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/23
    ジャーナル フリー
    まれな疾患である特発性耳性髄液漏の2症例を経験した. 第1例は68歳男性で, 側頭骨高分解能CTで右乳突蜂巣後壁に骨欠損を認め, 術中所見では同部位から膿性髄液が流出していた. 第2例は54歳女性で, 側頭骨高分解能CTで左乳突蜂巣後壁に骨欠損を認めた. 術中所見では同部位から膿性髄液の流出を認めた. 1例目, 2例目ともに髄膜炎が治まった後に有茎側頭筋弁 (筋膜筋弁) を用いて欠損部を充填した. 2症例とも内耳奇形, 腫瘍などは認められず, MRI, 術中所見から脳髄膜瘤も否定された. 2症例とも骨欠損部位はS状静脈洞に近接した乳突洞後壁であり, 髄液漏の原因としてGacekら9) の提唱するくも膜顆粒の腫大による骨の浸食によるものと考えられた.
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