日本耳鼻咽喉科学会会報
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103 巻, 11 号
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  • 寺尾 恭一, 戸田 雅克, 村田 清高
    2000 年 103 巻 11 号 p. 1205-1211
    発行日: 2000/11/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    Nonrecurrent inferior laryngeal nerve (NRILN)は手術時偶発的にみつかることがほとんどであり,NRILNの可能性の認識がない場合には手術時損傷の危険性が高まる.自験例7例に対して,その頻度,手術時の注意点,術前,術後の検査の必要性について述べた.
    1998年12月から2000年3月までの1年4ヵ月間に当院で甲状腺,副甲状腺手術を施行した1889例を対象とした.
    1889例中7例(0.37%)の右側NRILNを確認した.左右別では,右側反回神経確認903例中7例(0.78%),左側反回神経確認855例中0例であった.5例は甲
    状腺上,中部レベルにて,2例は甲状腺下部レベルにて迷走神経より分枝していた.全例ともNRILNを術前には予想していなかった.術前症状としては7例中3例に軽度の嚥下障害や咽喉頭異常感を認めた.術後に胸部X線を再検討したところ3例に,鎖骨下動脈起始異常に特徴的とされる線状陰影を認めた.MR angio-graphy (MRA)を3例に施行したところ,全例に右鎖骨下動脈起始異常を認めた.7例全例に術後反回神経麻痺は認められなかった.
    甲状腺,副甲状腺疾患においては,原疾患の診断に用いた検査等よりNRILN
    を術前に予測できる可能性がある.NRILNの頻度が低いこと,digital subtrac-tion angiography (DSA), MRA,食道造影等に要する費用,侵襲度の問題より考えると,手術例全例に対し術前これらの検査を行う必要性はないと考える.NRILNの確認例において,術後に血管奇形の有無を精査すべきかどうかについては,基本的には必要ないであろう.手術にあたっては常にNRILNの可能性を念頭におき,慎重かつ解剖学的思慮に富んだ手術が望ましい.
  • 和田 伊佐雄, 三島 陽人, 飛田 正, 加瀬 康弘, 飯沼 壽孝
    2000 年 103 巻 11 号 p. 1212-1217
    発行日: 2000/11/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    鼻腔異物は,日常外来でしばしば遭遇する疾患である.病態が単純であり診断も用意であるためか臨床像の分析あるいは多数例に基づく臨床統計的な検討についての報告が少ない.
    本研究では,1986年1月から1998年12月までの13年間に埼玉医科大学•耳鼻咽喉科を初診し病歴の記載が明らかで診断が確定した鼻腔異物299症例の臨床像につき検討し臨床統計的研究を行った.
    13年間の鼻腔異物症例は,299症例で同時期の新患患者数は55,312名で,新患患者に占める鼻腔異物の割合は,0.54%であった.
    異物症例の受診時間帯をみると時間外を受診したのは217症例(72.6%)であった.
    性別は,男性172症例(58%),女性127症例(42%)であった.左右別では,右側166症例(57%),左側123症例(42%),両側3症例(1%)であった.
    受診月別にみると月平均25症例で1月は少なく,11,12月に多く認めた.年齢分布では,平均年齢4.0磯で,生後1ヵ月の乳児から81歳までみられたが,6症例を除いては10歳以下の小児であった.
    種類別にみると玩具類が多かった.その中でもソフトエアーガンに使用するプラスチック製の球状弾が46症例(15.3%)と最も多く,次いでビーズが36症例(12.0%)であった.その他で比較的多く認めたものは,ティッシュペーパー,ボタン.プラスチック製の玩具などであった.
  • 竹本 直子
    2000 年 103 巻 11 号 p. 1218-1227
    発行日: 2000/11/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    リンパ濾胞ではB細胞と濾胞樹状細胞(follicular dendritic cell: FDC)がクラスターを形成し,リンパ濾胞における免疫応答の中心的な役割を果たしている.ヒト扁桃の2次リンバ濾胞は5領域に区分され,各領域におけるFDCはB細胞の刺激,増殖から分化といった過程に呼応したかのような機能的,形態的な変化を示すことが指摘されている.しかし,FDC-リンパ球クラスターを領域毎に分離できる方法はない.本研究ではヒト扁桃2次リンパ濾胞からのFDC-リンパ球クラスターの分離法を確立し,リンパ濾胞の領域別にクラスターの細胞構成を比較した.まず,扁桃2次リンパ濾胞からFDC-リンパ球クラスターを分離するために,実体顕微鏡下で胚中心をくり抜いた.次に採取組織を37°Cで20分,30分,40分および50分間の酵素処理を行った.牛血清アルブミンを用いた比重分離法でクラスターを採取し,さらにmicrobead標識抗体を用いた分離法(MPC-1)で精製した.40分間の酵素処理で中型サイズのFDC-リンパ球クラスター(6~15個および16~25個の細胞から成る)が最も多く採取された.さらに,被殻,明調部,暗調部および胚中心の4領域を同定するために,固定扁桃組織の厚切り切片を免疫染色後に各領域から別個にFDC-リンパ球クラスターを分離し,その細胞構成を比較検討した.その結果,クラスターは主にB細胞から成り(全細胞の80%以上),T細胞やnatural killer細胞,マクロファージは少数であった.また,CD4陽性細胞はCD8陽性細胞より多かった.領域毎の比較では,CD45ROやCD4陽性T細胞の含有率に明らかな違いがみられた.固定材料と未固定材料からのクラスター分離に有意な差はなかつた.以上の結果は,本分離法が,FDC-リンパ球クラスターの特徴を解析するのに有効であり,2次リンパ濾胞の被殻,明調部,暗調部ではクラスターの構成細胞比率が異なることを明示した.今後,2次リンパ濾胞における特にT細胞の役割を明確にし,in vitroでの実験に応用できると考えられる.
  • PAS染色をした側頭骨標本での検討
    富澤 秀雄
    2000 年 103 巻 11 号 p. 1227-1237
    発行日: 2000/11/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    糖尿病では老人性難聴に似た聴力像の感音性難聴をきたす.糖尿病性腎症をはじめ種々の糖尿病合併症の発生に糖尿病性細小血管障害が関与をしている.今回ヒト側頭骨標本をPAS染色し糖尿病群(16例27耳)と非糖尿病群(16例23耳)とで蝸牛血管条の毛網血管外径•毛細血管基底膜の平均の厚さ•血管条萎縮率を比較し,これらの値が年齢や糖尿病罹病期間•空腹時血糖値•HbAlc値との間で相関があるかについて検討を加えた.
    非糖尿病群では,毛細血管最小外径と最大外径はともに頂回転が基底回転•中回転よりも大きく,毛細血管基底膜の平均の厚さは各回転間で差を認めなかった.血管条萎縮率は頂回転が基底回転•中回転よりも高率であった.糖尿病群では,
    毛細血管最小外径は各回転間で差を認めず,最大外径に関しては中回転が基底回転よりも大きかった.毛細血管基底膜の平均の厚さは各回転間で差を認めず,血管条萎縮率は頂回転が基底回転•中回転よりも高率であった.これらを糖尿病群と非糖尿病群とで比較すると,最大外径での頂回転のみ糖尿病群の方が細かった.毛細血管基底膜の平均物の厚さは基底回転•頂回転•すべての回転を合計した場合において糖尿病群の方が非糖尿病群より有意に肥厚していた.血管条萎縮率は基底回転で糖尿病群の方が有意に萎縮しており,すべての回転を合計し比較した場合でも糖尿病群でより萎縮が高率であった.
    年齢との相関については非糖尿病群の基底回転で加齢に伴い血管条萎縮率が上昇しており,毛細血管基底膜の平均の厚さも非糖尿病群の基底回転で加齢に伴い肥厚する傾向を認めた.糖尿病群での罹病期間•空腹時血糖値•HbAlc値との相
    については,基底回転での血管条萎縮率と空腹時血糖値およびHbAlc値との間で正の相関を認めた.
    今回得られた結果から血管条の萎縮は血管条毛細血管基底膜の内腔への肥厚がその一因となっており,これが糖尿病における難聴の成因の一つと考えられた.
  • 森脇 計博, 坂田 義治, 加藤 崇, 宇野 敦彦, 長井 美樹, 澤田 俊子
    2000 年 103 巻 11 号 p. 1238-1241
    発行日: 2000/11/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    放線菌症はActinomyces israeliiが原因となることが多く,顔面頸部領域は好発部位の1つである.同症は急性型と慢性型の2型に分類されるが,最近は抗生物質の使用のため,多くは慢性化膿性肉芽性疾患として経験するようになった.今回我々は,細菌学的検査にて確定診断できた急性型と,病理組織学的検査にて確定診断できた慢性型の,頸部放線菌症2症例を経験した.急性型では,症状が短期間で広範囲になることがあり,診断や治療が遅れると死亡する可能性もある.慢性型では,症状はほぼ固定した頸部腫瘤としてみられるが,悪性疾患や結核などと誤診されることもある.両者とも外科的治療と長期間抗生物質の投与が必要である.これら放線菌症2症例の臨床経過と若干の文献的考察を加えて報告する.
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