Nonrecurrent inferior laryngeal nerve (NRILN)は手術時偶発的にみつかることがほとんどであり,NRILNの可能性の認識がない場合には手術時損傷の危険性が高まる.自験例7例に対して,その頻度,手術時の注意点,術前,術後の検査の必要性について述べた.
1998年12月から2000年3月までの1年4ヵ月間に当院で甲状腺,副甲状腺手術を施行した1889例を対象とした.
1889例中7例(0.37%)の右側NRILNを確認した.左右別では,右側反回神経確認903例中7例(0.78%),左側反回神経確認855例中0例であった.5例は甲
状腺上,中部レベルにて,2例は甲状腺下部レベルにて迷走神経より分枝していた.全例ともNRILNを術前には予想していなかった.術前症状としては7例中3例に軽度の嚥下障害や咽喉頭異常感を認めた.術後に胸部X線を再検討したところ3例に,鎖骨下動脈起始異常に特徴的とされる線状陰影を認めた.MR angio-graphy (MRA)を3例に施行したところ,全例に右鎖骨下動脈起始異常を認めた.7例全例に術後反回神経麻痺は認められなかった.
甲状腺,副甲状腺疾患においては,原疾患の診断に用いた検査等よりNRILN
を術前に予測できる可能性がある.NRILNの頻度が低いこと,digital subtrac-tion angiography (DSA), MRA,食道造影等に要する費用,侵襲度の問題より考えると,手術例全例に対し術前これらの検査を行う必要性はないと考える.NRILNの確認例において,術後に血管奇形の有無を精査すべきかどうかについては,基本的には必要ないであろう.手術にあたっては常にNRILNの可能性を念頭におき,慎重かつ解剖学的思慮に富んだ手術が望ましい.
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