日本耳鼻咽喉科学会会報
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105 巻, 6 号
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  • 倉富 勇一郎
    2002 年 105 巻 6 号 p. 721-726
    発行日: 2002/06/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    正常扁平上皮の分化を維持する構構の一つとして細胞-細胞間の接着や細胞-細胞外マトリックスの接着を介する制御があるが,頭頸部癌の大多数を占める扁平上皮癌はその制御機構が破綻したものといえる.舌扁平上皮癌のうち,癌細胞同士が接着し胞巣を形成しながら増殖している形態は比較的分化傾向を示すものであるが,細胞同士が分散し浸潤性の増殖を示す形態はより悪性化したものと考えられる.さらに最も悪性度が高い遠隔転移の形成にあたっては,癌細胞が単独または少数でも脈管内で生存できるという形質-anchorage independent growth-を獲得する必要がある.舌扁平上皮癌を用いた免疫組織学的検討から,癌細胞が接着した胞巣状増殖の場合は胞巣の辺縁細胞のみに細胞外マトリックスの一つであるラミニンの発現がみられるが,細胞分散性の強い浸潤能を示す場合は癌細胞一つ一つが自らラミニンを発現しており,その臨床的予後がより不良であることが分かった.加えて,ラミニンには悪性細胞の接着,遊走,遠隔転移を促進する活性部位が存在することが合成ペプチドを用いた基礎的実験より示されている.以上より,頭頸部扁平上皮癌においてラミニンは癌の増殖,浸潤,転移に促進的に作用していると考えられ,ペプチドを用いてラミニン活性を阻害することにより,癌治療へと展開できる可能性があると思われる.
  • 清水 顕, 山根 雅昭, 伊藤 博之, 荒木 進, 吉田 知之, 鈴木 衞
    2002 年 105 巻 6 号 p. 727-731
    発行日: 2002/06/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    唾液腺導管癌(Salivary duct carcinoma, SDC)はまれな疾患であるが,悪性度がきわめて高く,早期診断,集学的治療,厳重な経過観察が必要である.今回,1987年∼1998年の間に唾液腺癌と診断された60症例を1991年WHO分類に基づいて再検討し,SDCと分類しなおした6例について臨床的,免疫組織学的検討を加えた.その結果,全例男性,耳下腺に発生しており,腫瘍の急速な増大により発見された.4例に初診時顔面神経麻痺および頸部リンパ節転移を認めた.治療には化学療法は無効で全例手術療法が施行されていたが,4年以内に4例が原病死しており,本腫瘍の増殖性の高さを伺わせた.免疫組織学的にはS-100蛋白は全例陰性,4例にPCNA,p53が陽性であった.PCNA,p53陽性例はいずれも原病死した症例であり腫瘍の増殖性,予後との関連が示唆された.
  • 山下 拓, 藤井 正人, 石黒 隆一郎, 田代 昌継, 大野 芳裕, 徳丸 裕, 菅家 稔, 今西 順久, 冨田 俊樹, 神崎 仁, 犬由 ...
    2002 年 105 巻 6 号 p. 732-740
    発行日: 2002/06/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    今後の上顎洞癌に対する治療方針決定の参考とすべく,当施設での臓器機能温存を目指した集学的治療の成績を示し,生存率および上顎温存率に影響する因子を統計学的に検討した.
    対象は1981年1月から1998年12月までに当科を受診した上顎洞原発扁平上皮癌新鮮例60例.性別は男性46例,女性14例,年齢分布は36歳から86歳で平均59.8歳であった.1997年AJCCによるT分類はT1:0例,T2:7例,T3:41例,T4:12例で頸部リンパ節転移が7例(11.7%)に認められた.M1症例はみられなかった.このうち他因死例1例を除く59例を統計学的検討の対象とした.単変量解析として背景因子,治療因子別に累積生存率を算出し,Coxの比例ハザードモデルによる多変量解析により,予後因子の独立性およびハザード比を検討した.また累積上顎温存生存率も算出し,多変量解析により上顎温存に影響を与える因子につき検討した.その結果,死因特異的累積5年生存率は56.8%で,T2:68.6%,T3:60.0%,T4:41.7%であった.多変量解析ではT分類(p=0.0240)が独立した予後因子と判定された.上顎温存生存率に影響する因子は,多変量解析でT分類(p=0.0486)とNeoadjuvant chemotherapy (NAC)の有無(p=0.0419)であった.またNAC施行症例48例で検討した結果,NAC非奏効群は奏効群と比較して予後,上顎温存生存率ともに不良で,特にT4症例において統計学的有意差を認めた.
    以上より,今後の治療成績向上のためには,T4症例でNAC非奏効の場合の治療法の再考が必要と考えられた.またNAC施行の上顎温存に対する有用性については,さらなるprospectiveな検討を要すると考えられた.
  • 吉田 信
    2002 年 105 巻 6 号 p. 741-750
    発行日: 2002/06/20
    公開日: 2008/12/15
    ジャーナル フリー
    Saccades occur horizontally, vertically, and obliquely, and in movements including adduction and abduction, up and down, centric and eccentric. Few studies have been on vertical and oblique saccades, and no general consensus has developed on the effect of movement on saccades. We recorded horizontal, vertical, and oblique saccades using a search coil in 9 normal subjects, and quantitatively studied saccades in (1) adduction and abduction, (2) up and down, (3) centric and eccentric, and (4) horizontal, vertical, and oblique.
    Abducting saccades were faster than adducting at an amplitude of 10deg, while centric saccades were faster than eccentric at amplitudes of 20 and 30deg. Both vertical up and centric saccades were faster than others at all amplitudes. The peak velocity of the horizontal component of oblique saccades decreased with the increase in the angle of the stimulus. The peak velocity of vertical component of oblique saccades tended to be faster with the decrease in the angle of the stimulus.
    We thus found significant differences in velocities of saccades in different directions. Velocity is affected by the direction of eye movement, eye position, and target amplitude. In clinical studies on saccadic eye movement, we should pay more attention to the effect of these factors on saccades. In oblique saccades, note that horizontal and vertical components are completely independent, but interacted.
  • 西端 慎一, 斎藤 洋三
    2002 年 105 巻 6 号 p. 751-758
    発行日: 2002/06/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    都心のオフィス街にあるビル診療所を受診するスギ花粉症患者の受診動態を明らかにするため,平成2年から平成11年までの10年間のスギ花粉飛散期間中に,東京都千代田区にある著者の私設診療所においてスギ花粉症患者の受診者数調査を行い,花粉数との関係につき検討を行った.また平成7年に行ったアンケート調査とCAP RAST検査の結果から,対象患者の背景とスギ以外の抗原の陽性率について検討を行った.
    平成7年に受診したスギ花粉症患者の男女比は674名対501名で男性に多く,男性は40歳代,女性は20歳代が最も多かった.患者の勤務地は千代田区,中央区で全体の79.2%を占めるが,同地区に居住しているものは1.9%に過ぎなかった.同時にCAP RAST検査を施行し得た232名のスギ以外の抗原の陽性率はヒノキ64.7%,ハウスダスト138.3%,ヤケヒョウヒダニ35.3%,コナヒョウヒダニ34.4%,イネ科混合19.8%,雑草(キク科)混合10.3%であった.スギ単独の症例は19.0%,スギとヒノキの両方が陽性で他が陰性の症例は23.3%で,約6割の症例にスギ,ヒノキ以外の何らかの抗原による重複感作が疑われた.
    週毎にまとめた花粉数と患者数を比較すると,ほとんどの年で3月の第1週に花粉数の増加に伴って初診患者が最大となり,再診患者は初診患者に遅れて1-2週後にピークが認められた.3月後半からは花粉数が増加しても初診患者の増加はあまり認められない.
    平成2年から平成11年の10年間について,年毎の花粉数と患者数の関係を見ると,一次回帰式y=0.1005x+547.07,R2=0.7562と高い相関を示した.また平成7年から平成11の5年間について,年毎の花粉数の平方根と患者数の関係を見ると,一次回帰式y=11.167x+376.72,R2=0.9941と非常に高い相関を示し,花粉数の予測値からその年の患者数もかなり高い精度で予測できるものと考えられる.
  • 術前画像診断と栄養血管塞栓術について
    吉田 和秀, 前田 一彦, 鈴木 正志, 茂木 五郎
    2002 年 105 巻 6 号 p. 759-762
    発行日: 2002/06/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    頸動脈小体腫瘍の治療は外科的切除が有効であるが,その解剖学的な特徴から,術中の大量出血や血行再建に伴うトラブルも少なくない.安全かつ正確な手術操作のためには,腫瘍と頸動脈の関係を正確に把握し,術中の出を軽減させることが必要となる.今回,3例の自験例を用い,術前のCT,MRIから腫瘍の頸動脈浸潤の有無を判定し手術所見と比較した.さらに,術前に栄養血管塞栓を行いその有効性を検討した.その結果,CT,MRI所見からは手術時における腫瘍と血管の関係を正確に把握することは困難であった.また,血管塞栓施行例では非施行例に比して,出血量が少なく手術時間も短縮していた.これらから,本腫瘍の頸動脈浸潤の程度は,単独の画像検査からの判断は危険で,様々な臨床•検査所見から総合的に判断されるべきと考えられた.さらに,術前の栄養血管塞栓は術中の出血を軽減し,手術をより安全で確実なものにすると考えられた.
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