日本耳鼻咽喉科学会会報
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122 巻, 8 号
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総説
  • ―「耳鼻咽喉科内視鏡感染制御の手引き」とその使い方―
    松塚 崇
    原稿種別: 総説
    2019 年 122 巻 8 号 p. 1091-1096
    発行日: 2019/08/20
    公開日: 2019/09/05
    ジャーナル フリー

     耳鼻咽喉科は外科的処置や内視鏡などの侵襲的検査を行う一方で感染症を頻繁に扱い, 診療の領域は気管や中耳, 内耳など無菌的な環境から口腔や鼻腔, 皮膚など汚染した環境まであり, さまざまな事象を想定した感染対策を講じる必要がある. 日本耳鼻咽喉科学会では「耳鼻咽喉科内視鏡感染制御の手引き」(当手引き) が刊行された.

     当手引きの要点は以下のとおりである. 内視鏡の洗浄・消毒作業時には, 個人防護具を適切に着用し, 換気に留意する. 洗浄・消毒は原則的に操作部・コネクタ部含めた内視鏡全体に行う. 本過程のなかで自動洗浄器に委ねられる部分はできる限り代用する. 内視鏡使用後直ちに温水または水で洗い流しながら酵素洗浄剤を用いてスポンジで洗浄し, 付着した血液・体液・蛋白を除去する. この過程でアルコールは用いない. 内視鏡表面の水泡を除去し消毒液薬と内視鏡を十分に接触させ, 消毒液薬の添付文書による規定の時間浸して消毒を行う. 日常診療で用いる内視鏡はスポルディングによる器具分類においてセミクリティカル器具に分類され, 消毒水準は高水準消毒が原則となる. 高水準消毒薬は過酢酸, グルタラール, フタラールの3種で, いずれも蒸気に刺激性があり毒性から十分なすすぎが必要など安全管理に配慮が必要である. 当手引きで紹介している二酸化塩素水溶液は, 一般化学薬品に分類されるが強い酸化性があり安全性が高い. 洗浄・消毒後の内視鏡表面は, アルコールによる清拭を行い, すべてを乾燥させる. 消毒後は専用の収納棚またはホルダーで保管する.

     観察用内視鏡の洗浄・消毒において, 当手引きに従うがそれぞれ方法が異なる4施設で有効性を検討した結果, 洗浄・消毒後のすべての検体で細菌が検出されず, 手引きの有効性が確認できた. 当手引きに沿うことで耳鼻咽喉科診療における内視鏡の洗浄・消毒法が安全で適切となる可能性が期待できる.

  • 北原 糺
    原稿種別: 論説
    2019 年 122 巻 8 号 p. 1097-1101
    発行日: 2019/08/20
    公開日: 2019/09/05
    ジャーナル フリー

     一側内耳の前庭障害により生じた前庭系の左右不均衡は, 中枢前庭系の神経可塑性, すなわち前庭代償によって是正される. 前庭代償は, 静的前庭代償と動的前庭代償に分けられる. 静的前庭代償の初期過程では, 前庭神経核間の交連線維や前庭小脳により, 健側前庭神経核ニューロンの自発発火が抑制され, 左右の前庭神経核ニューロンの活動性の不均衡が是正される. さらに後期過程では, 低下していた障害側前庭神経核ニューロンの自発発火が回復する. 動的前庭代償では, 健側の前庭神経核ニューロンからの交連線維を介した入力により, 障害側前庭神経核ニューロンの回転刺激に対する反応性が回復する. 静的代償は速やかに達成されるが, 動的代償が不十分な場合は平衡障害が残存する. 動的前庭代償には健側からの前庭入力が重要であるため, 一側前庭障害患者はめまいの急性期を過ぎれば早期に離床することがすすめられる. 不十分な動的前庭代償による慢性の平衡障害には, 前庭リハビリテーションが有効である.

  • 五島 史行
    原稿種別: 総説
    2019 年 122 巻 8 号 p. 1102-1106
    発行日: 2019/08/20
    公開日: 2019/09/05
    ジャーナル フリー

     心因性めまいは心因が関与するめまいであるが, 大きく分けると純粋に精神疾患によって発症する ① 狭義の心因性めまいと ② 合併する精神疾患が器質的前庭疾患 (メニエール病など) を悪化させている二つの場合がある. 両者をあわせて広義の心因性めまいと呼ぶ. 広義の心因性めまいに含まれ近年バラニー学会で診断基準が作成された持続性知覚性姿勢誘発めまい (PPPD) は従来めまい症とされていた患者の中に一定数含まれている.

     診断では耳鼻咽喉科医は心因の評価には習熟していないので, まずは前庭疾患の有無を評価する. めまい症状を引き起こす可能性がある精神疾患は不安障害とうつ病, 身体表現性障害である. 特に不安とうつの評価は重要である. 質問紙によるスクリーニングが有用でありめまいによる生活障害を評価する DHI (dizziness handicap inventory) が有効である. DHI にて重症とされる46点以上では高率に不安障害やうつを合併していることが知られている. またこのような心因の評価をしなくても PPPD の診断は診断基準に沿って行うことが可能である. 診断のポイントは3カ月以上にわたってほとんど毎日存在するめまい症状であり, 立位姿勢, 頭の動き, 視覚刺激によって増悪するものである. また, 一部の心因性めまいは重心動揺計で特徴的な所見を示すことで診断可能である. 治療の上で最も大切なことは, 正確な診断である. めまいの原因として重大な病気が存在しないことを保証する. 心因性めまいの多くは純粋な心因性ではなく, 軽度の前庭機能障害を合併していることが多い. 原因不明という診断を行うことは予後を不良にさせる. 実際の介入では認知行動療法が中心となる. 具体的にはめまいが治らないという認知に対してめまいのリハビリテーションをすることで症状が改善することを説明する. 薬物治療は補助的なものであり, 患者の治したいという意欲をもり立て, 医師依存の治療関係から患者自らが治療に参加する形にしていくことが重要である.

  • 花井 信広
    原稿種別: 総説
    2019 年 122 巻 8 号 p. 1107-1112
    発行日: 2019/08/20
    公開日: 2019/09/05
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は Stage I/II (T1-2N0) の舌癌を対象に, 舌部分切除単独が標準治療である舌部分切除 + 予防的頸部郭清術に対して全生存期間において非劣性であることをランダム化比較にて検証することである.

     頭頸部癌の領域は, これまで適切な多施設共同臨床試験が行われてこなかったために, 治療法は施設毎に異なり, エビデンスに乏しい治療が汎用されている現状がある. これまで海外においても日本においても, 早期舌癌の頸部リンパ節郭清に関する標準治療は確立しておらず, 各施設や医師の判断により予防的頸部郭清が行われたり行われなかったりしてきた. 2015年に報告された D'Cruz らのインドの第 Ⅲ 相試験は舌部分切除単独に対する予防的頸部郭清の優越性を示したが, 医療環境や術後フォローアップの診断技術が明らかに異なるため, その結果をそのまま日本の日常診療に外挿することはできないと考えられている. 舌部分切除は口腔内のみで行われるため, 舌部分切除術単独が最善であると考える外科医も多く, 予防的頸部郭清省略の意義の検証が必要である.

     本臨床試験の対象は発生率が人口10万人あたり6人未満/年の希少がんのため, 全国規模の実施体制が不可欠であり, JCOG 頭頸部がんグループにおける多施設共同ランダム化比較第 Ⅲ 相試験 (JCOG1601) として2017年11月末より開始している. そして日本医療研究開発機構 (AMED) の公的研究費「革新的がん医療実用化研究事業」(領域6-2) 希少がんの標準的治療法の開発に関する臨床研究「Stage I/II 舌癌に対する予防的頸部郭清省略の意義を検証するための多施設共同臨床試験 (代表者: 花井信広)」を獲得し運営している.

  • 平野 滋, 杉山 庸一郎, 椋代 茂之, 金子 真美
    原稿種別: 総説
    2019 年 122 巻 8 号 p. 1113-1117
    発行日: 2019/08/20
    公開日: 2019/09/05
    ジャーナル フリー

     喉頭・咽頭逆流症 (LPR) は, 慢性的な咽喉頭炎から音声障害を来し得る. 胃酸による逆流性炎症が後部声門の肉芽腫や潰瘍の原因となることは広く知られているが, 近年, LPR では胸焼けや吃逆などの胃食道逆流症 (GERD) 症状は10~20%程度であるのに対し, 音声障害は約70%にまで起こるとされる. 音声障害の病因は, 慢性的な酸暴露による上皮, 粘膜固有層の損傷が主体で, 上皮の肥厚・角化, 潰瘍, 肉芽, 溝の形成, 粘膜固有層の炎症と乾燥などが指摘されている. 動物モデルにおいては, 喉頭に酸やペプシンを暴露すると, 肉芽腫の発生や粘膜上皮内の炎症, 扁平上皮の過形成や潰瘍, 線維化を来すことが確認され, また, LPR 患者の咽喉頭の生検組織において, 声帯上皮, 喉頭前庭, 後部声門の上皮内のペプシンの存在, 細胞間間隙の増大, 粘膜保護作用のある炭酸脱水素酵素やカドヘリンの減少などが報告されてきた. これらの炎症が音声障害を引き起こすと同時に, LPR 患者の発声はしばしば過緊張となり, 筋緊張発声障害を招くことが多い. 最長発声持続時間 (MPT), jitter, shimmer, 雑音成分などの異常を来す.

     歌手は LPR の高リスク群とされている. 歌唱に腹圧のサポートが必須で, 高い腹圧によって胃酸の逆流が生じやすいこと, パフォーマンスの前は常に強いストレスにさらされること, 食事や飲酒に無頓着であることなどが原因で, 嗄声のほか音声疲労や歌唱中の声の途切れ, 痰の引っ掛かりなどを訴えることが多い.

     LPR による音声障害の治療は, 食事様式の適正化, ライフスタイルの改善, 胃酸逆流の抑制で, 胃酸分泌を強力に抑えるプロトンポンプ阻害薬 (PPI) は多くの場合奏効する. これらの治療により, jitter, shimmer, HNR, VHI, GRBAS, RSI, RFS などの改善が多数報告されている. 音声障害患者において, 酸逆流の関与の有無について的確に診断し治療することが重要である.

原著
  • 山本 修子, 南 修司郎, 榎本 千江子, 加藤 秀敏, 松永 達雄, 伊藤 文展, 遠藤 理奈子, 橋本 陽介, 石川 直明, 加我 君孝
    原稿種別: 原著
    2019 年 122 巻 8 号 p. 1118-1126
    発行日: 2019/08/20
    公開日: 2019/09/05
    ジャーナル フリー

     2017年に成人人工内耳適応基準が改定され, 高度難聴例が追加となった. そこでわれわれは当院成人人工内耳例から, 新基準で新たに人工内耳の対象となる症例の臨床像の解明とその装用効果の検討, 特例として適応を検討すべき症例の解明を目的に研究を行った. 当院で人工内耳埋込術を行った18歳以上の症例を対象に, 術前聴力データが従来の基準に該当する「旧基準群」, 新たに追加された基準に該当する「新基準群」, どちらにも該当しない「特例群」に分類した. 各群について, 手術時年齢, 発症時期, 難聴の原因・病態, 術後語音聴取能を調べた. 新基準群は全例が言語獲得後発症で, 原因不明の進行性難聴が大多数を占めた. 術後語音聴取能は新基準群と旧基準群は同等の結果であった. 特例群のうち非術耳の術前語音明瞭度が良好であった2例は常用に至らなかった. 視覚障害合併者は非合併者と比較して語音聴取能が良い傾向にあった. 新基準群の術後聴取能は旧基準群と同等で, 新適応基準により, 言語獲得後発症の進行性難聴患者の病悩期間を短縮できる可能性が示唆された. 特例群の中で Auditory Neuropathy および言語獲得後発症の視覚障害合併例に人工内耳が有用であった. 良聴耳に新基準も満たさない程度の残存聴力がある症例の非良聴耳に人工内耳を行った場合, 従来のリハビリテーションでは限界があると考えられた.

  • 岸野 毅日人, 森 照茂, 寒川 泰, 福村 崇, 高橋 幸稔, 大内 陽平, 三谷 知生, 星川 広史
    原稿種別: 原著
    2019 年 122 巻 8 号 p. 1127-1133
    発行日: 2019/08/20
    公開日: 2019/09/05
    ジャーナル フリー

     頭頸部がんにおいては, 地域差はあるものの今後しばらくは新規症例・外来フォロー症例・終末期症例のすべてが増加すると予測されている. これらの社会情勢の変化に対応し新規症例の迅速な診断と治療を継続して行っていくために終末期症例の適切な転院調整は不可欠となりつつあるが, 終末期の転院調整についての報告は乏しい. 今回われわれは2014年8月~2018年3月に, 当科での積極的治療を終了または適応外と判断し終末期としての対応を行った頭頸部がん症例66例のうち死亡日の判明している62例に対し, BSC(best supportive care) 決定日から転院まで, また死亡までの日数につきデータを抽出し転院調整の現状を検討した. 転院調整の内訳は在宅群が15例 (24%), 施設群が22例 (36%), 転院不能群が25例 (40%)であった. 初診時に治療適応外であった症例を除いた在宅群と施設群35例において, BSC 決定日から転院までの日数は, 在宅群では中央値が14日であったのに対し, 施設群では30日と有意に長かった. 転院不能例において, 施設への転院を希望したものの転院待ちの間に病状が悪化し, 本人の希望がかなえられなかった症例が8例あり, BSC 決定から死亡までの日数の中央値は19日であった. 当科では香川大学医師会と県内の地区医師会を結ぶ講演・技術指導の場を通して地域の医療従事者との交流を行っており, その内容を報告する.

  • 土屋 かほる, 上羽 瑠美, 後藤 多嘉緒, 佐藤 拓, 星 雄二郎, 二藤 隆春, 山岨 達也
    原稿種別: 症例報告
    2019 年 122 巻 8 号 p. 1134-1139
    発行日: 2019/08/20
    公開日: 2019/09/05
    ジャーナル フリー

     胸郭変形症例では, 気管カニューレ留置後の気管内肉芽や気管腕頭動脈瘻の発生率が高い. 気管狭窄を伴い誤嚥防止手術を施行した3症例を報告する. 3症例とも気管狭窄を有しており, 合併症回避のため, 気管狭窄部にカニューレを接触させない管理が重要と考えられた. 人工呼吸器が不要な2症例ではカニューレなしで気管孔を維持し, 人工呼吸管理を要した1症例では気管狭窄部より上方で気管カニューレを固定した. さらに, 気管狭窄部の吸引を避けるよう医療従事者間で情報共有することで, 合併症なく良好に経過した. 胸郭変形症例に気管切開や誤嚥防止術を行う際には, 術後合併症を予測した上で施行することが望ましい.

  • 門園 修, 三枝 英人, 長島 弘明, 岡田 愛弓, 前田 恭世, 貞安 令, 伊藤 裕之
    原稿種別: 症例報告
    2019 年 122 巻 8 号 p. 1140-1149
    発行日: 2019/08/20
    公開日: 2019/09/05
    ジャーナル フリー

     近年, リハビリテーション領域を中心に嚥下障害に対するバルーン訓練が報告されている. しかし, バルーン訓練は本来, 器質的狭窄に対して行う治療であり, 延髄背外側梗塞後に発症した嚥下障害のように機能的に食道入口部の開大が不良である症例に対して過度に施行すれば, 輪状咽頭筋自体を損傷する懸念がある. 今回, 私たちは延髄梗塞後に発症した嚥下障害が長期に遷延していた要因として, 臨床経過と病理学的所見からバルーン訓練による輪状咽頭筋の損傷が強く疑われた3症例を経験した. 3症例とも輪状咽頭筋は延髄梗塞による障害単独では説明できないほど強く瘢痕形成しており, 同部を切除することで嚥下能は改善し, 経口摂取が可能となった.

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