日本耳鼻咽喉科学会会報
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72 巻, 10 号
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  • 草刈 潤
    1969 年 72 巻 10 号 p. 1883-1900
    発行日: 1969/10/20
    公開日: 2010/10/22
    ジャーナル フリー
    最近の宇宙医学の発達に伴ない耳石器官は一層注目されている. 眼球反対回旋はJ. Hunterによって1786年始めて発見されて以来, 耳石器官の機能に対する最も信頼できる検査といわれている. 耳石器官の一次ニューロンに関する電気生理学的研究は, 神経線維が硬い骨で覆われているため哺乳類での実験は困難である。従来いくつかの研究が報告されているが, 耳石器官の反応様式を解明するまでには到っていない. 本実験の目的は, ネコの眼球反対回旋を調べ, モルモットの一次ニューロンから活動電位を記録することにより耳石器官の反応様式を明らかにすることにある.
    I ネコの眼球反対回旋 (以下CRと略す) を16mm映画に撮り, フイルム分析機にて分析した. ネコのCRは人間のそれと極めて類似しており約60°の傾斜で最大値 (6~10°) に達する. 傾斜速度は反応に大きな影響を与え, 速い傾斜よりも緩やかな傾斜で反応が著るしい. 一側の耳石器官を破壊後は, 術後数日の検査では術側下位でCRは減少するが, このような変化は3週以内に代償されて消失する.
    II 自発放電は0.5~60/secで放電間隔は不規則である. 大多数はSigletsに放電するが, 時にDoubletsやTripletsを呈することもある. 反応は各ユニットにおいて夫々一定していて, 数度くり返しても同様の反応が得られた. 側方傾斜については観察側下位で増加するものとその反対を示すものユニット数はほぼ同数であった. 傾斜が緩かな程反応は大であった. 持続傾斜並び直流刺激においてAdaptationに関し二種の異なったユニットが得られた. 一つはrapid Adaptationを呈し他方はSlow adaptationを呈した. これらの実験結果を従来報告された形態学的並びに生理学的情報を基にして考察した.
  • 藤田 正圀
    1969 年 72 巻 10 号 p. 1901-1916
    発行日: 1969/10/20
    公開日: 2010/10/22
    ジャーナル フリー
    dihydrostreptomycinにより惹起された蝸牛の機能障害の発現及び進展の連続的観察且つ病理組織学的検索が正円窓永久電極装着家兎の使用により行なわれた.
    実験第1群ではDHSMを100mg/kg/day, 第2群では250mg/kg/day, 第3群では500mg/kg/day投与した.
    得られた結果は次の如くである.
    1) 電気生理学的検索: DHSM投与により蝸牛反応曲線は二つの異なった傾向を示した. 第1群では, 主として最大反応電位の低下であった. 第2・3群では, 電位低下に加えてvisual detection levelの上昇があった.
    2) 病理組織学的検索: 第1群では, 中毒の中期に於ては外有毛細胞が主として障害され, そして末期では外有毛細胞及び支持細胞が障害された. また機能障害と形態学的障害との間には或る程度の平行関係を認めることができた.
    他方, 第2・3群では機能障害と形態学的障害との間には平行関係は認められなかった. そして, 形態学的変化についてはかなりのvariationがあった. これらの中で血管条障害が注目された. 血管条障害の発現に関しては, 大量に投与されたDHSMの血管系に対する影響と考え, この薬物の内耳親和性により直接惹起されたものというよりは, むしろ薬物の全身的副作用の蝸牛局所における表現の一つであると推論した.
  • 石井 雍良
    1969 年 72 巻 10 号 p. 1917-1944
    発行日: 1969/10/20
    公開日: 2010/10/22
    ジャーナル フリー
    (研究目的および方法) 内耳性難聴の病態の一つとして代表的な蝸牛感覚細胞傷害について, その最も初期に現われる変化を形態学的に, おもに位相差顕微鏡を使用して観察し, この種の病態をひき起す病因として周知の音響負荷や聴器毒による感覚細胞病変の成立機転を明らかにすることを目的として本研究を実施した. 実験動物にはモルモットを用い, 負荷音響としては, それぞれ1000, 2000, 4000, 6000, 8000Hzの純音を, また聴器毒としては, dihydrostreptomycin, neomycin, nitrominなどを使用した. 標本の作製, 観察には, 原則としてEngströmらの記載したsurface preparation techniqueを応用したが, えられたsurface specimenのよりよい組織保存をはかるため, 実験方法に埋し, 多少の改良を加えた. surface specimenとして位相差顕微鏡で観察された標本はそのままeponに包薄切して, radial sectionとしての観察もあわせ行なった.
    (結果) 1) 音響を負荷された動物の, ラセン器感覚細胞における最も初期の形態的変化は, 1000Hzおよび2000Hzの純音を負荷した場合, それぞれの純音に対する蝸牛基底膜の最大振巾部位を中心とするある限られた範囲の外有毛細胞第3列目の聴毛に現われる不整な配列の乱れであり, この現象はこれら純音の音圧が100dB負荷時間が5分という比較的軽い負荷条件でも明らかに観察される. しかもこのような条件下での聴毛の変化は可逆的であり, また感覚細胞胞体にはとくに形態的変化は現われない. さらに強い純音の負荷条件では, 聴毛の配列の乱れは第2列, さらには第1列の外有毛細胞にも認められるようになるが, 同時にその胞体にも変性所見が現われてくる. このような胞体に先立って, 音響による聴毛の配列の変化は, その範囲が基底膜の最大振巾部位付近に限局するところからも, おそらく音響によるラセン器のshearing motionによってひき起されたものと推察される.
    2) 聴器毒の投与や過大な音響負荷による蝸牛感覚細胞胞体に現われる傷害過程を観察すると, 感覚細胞の消失にいたるまでの経過にある一定の変性patternが成立し, この所見はラセン器のsurface specimenから, 蓋板の表面に現われる形態的変化として明らかに観察されるだけでなく, この移行patternを第I型から第IV型まで分類することができる. このような所見は, 単独の感覚細胞胞体の変性過程に関する限り, 音響負荷, 聴器毒投与のいずれの場合でも同様の経過をたどり, 病変はまず蓋板下部に初発し, 次いで胞体の他の部分と核におよび, 最後に蓋板が消失するという順序で進行する. このような変性patternを, 蓋板表面から観察すると, 感覚細胞胞体に変性萎縮がはじまると, 周囲の支持組織が膨化してこれを補填してゆき, 蓋板が最後に消失する際には支持組織によって完全に置換されているという, reticular laminaを保つための巧妙な修復機転が支持組織により行なわれているものと解釈される.
  • 佐藤 意生
    1969 年 72 巻 10 号 p. 1945-1974
    発行日: 1969/10/20
    公開日: 2010/10/22
    ジャーナル フリー
    著者は末梢性顔面神経麻痺に対する誘発筋電図検査法として誘導電極に2心同心型針電極を用い, おもにM波のSpike数を観察し, さらに閾値, 潜時, 振巾を測定することによって神経線経の変性の程度を推定しようとした. 正常被検者14才から72才までの10例, 及び末梢性顔面神経麻痺患者12才から73才までの53例について本検査法を施行し, さらに10例については病変部位神経の病理組織学的観察を行い, 次の如き結果をえた.
    1) 正常者ではSpike数は単一刺激につき10個以上, 閾値は40V以下, 潜時は8msec以下, 振巾は0.1mV以上であった.
    2) 誘発筋電図検査成績と病理組織学的所見から末梢性顔面神経麻痺患者に於いては誘発波のSpike数が多い例ほど, 正常な神経線維の数が多く認められた. またspike数は閾値や潜時に較べより詳しく神経の変性の程度を表わしている.
    3) この検査法は発病後少なくとも3日以上経過して施行しなければならない.
    4) 予後判定についてはa) 誘発波に異常を認めない場合は3ヵ月以内に治癒する. b) 誘発波に異常を認める例は治癒するまでに少なくとも3ヵ月を要し, しかも電極針の刺入の深さによって誘発波のえられない深さのある例は完全治癒の望みは薄い. c) 誘発波が全くえなれない例は完全治癒は期待できない.
    著者は末梢性顔面神経麻痺患者で高度の神経変性をきたしていると思われる例の回復過程について次の如く考えた.
    a) 下眼窩神経刺激による誘発波はTrigemino-facial-reflexによるものであり, 神経の再生の状態を最も早期に示すものである. b) 三叉神経は顔面表情運動を行なわない状態での顔面の非対称の消失すなわち静的状態での治癒に関与しているが, 表情運動を行なわしめる能力はもたない. c) 口輪筋では健側の顔面神経も麻痺の回復に関与している.
    N.E.T. 施行例37例から著者の方法を用いた誘発筋電図検査とN.E.T. の成績より予後を比較した結果, 誘発筋電図検査はN.E.T. に比し発病後比較的早期にも, またある程度経過した例にも価値があり, さらに治癒するまでの期間をより詳しく推測できる点でも最もすぐれた検査法である.
  • 清水 天
    1969 年 72 巻 10 号 p. 1975-1981
    発行日: 1969/10/20
    公開日: 2010/10/22
    ジャーナル フリー
    正常並びに唾液管拡張症耳下腺の微細構造を観察した. 唾液管拡張症は, 耳下腺の腫脹をくりかえし, 急性増悪期にはステノン氏管より排膿をみる. 唾影像では, 規則正しい点状陰影を認める. 材料は正常耳下腺組織36例を頸部廊清術の際に切除した. 又唾液管拡張症の15例を切除した. とり出した試料は, 2%オスミウム酸で固定, アルコールで脱水後Epon 812に包埋した. 超薄切片は酢酸ウラニル, 硝酸鉛で染色した. 同時に1μ切片を作製しメチレンブルー, アズールII及びフクシンで染色を行い, あわせ光学顕微鏡的に対比検索した. 唾液管拡張症の際には, 光顕的に小葉内に円柱上皮でおゝわれた大きな拡張腔が存在し, その周囲にリンパ組織の増殖が見られた. これはレントゲンの点状陰影に相当するものと思われる. 電子顕微鏡で観察すると, その周囲の終末部, 介在部及び線条部の腺腔の拡張も見られた. 又細胞間分泌毛細管も著明に拡張しており, microvilliは減少又は消失していた. 又腺腔と細胞間分泌毛細管が癒合し更に大きな腔となるのが認められた. 導管も拡張しており, 耳下腺の腫脹を何回もくり返した症例では, 導管上皮が重層扁平上皮へ化生を起しているのが認められた. 正常耳下腺の分泌顆粒は, 比較的電子密度の低い顆粒だが, 本症の際には, これと異った2種類の分泌顆粒が見られた. 1つは分泌顆粒の中に電子密度の高い小体が1~2ヶ存在するもので, もう1つは非常に電子密度の高い均一な顆粒である. 本症の際には分泌顆粒は減少している. 間質組織には, リソパ球, 白血球, 形質細胞等の浸潤が見られた.
  • 米谷 卓三
    1969 年 72 巻 10 号 p. 1982-1996_2
    発行日: 1969/10/20
    公開日: 2010/10/22
    ジャーナル フリー
    過去20年間に鼻咽喉腔悪性腫瘍41例がわれわれの臨床において診療された. これらの症例は男子26例および女子15例からなり, 平均年令は47.9才, 40才以下のものが13例 (32%) であり, 最年少者は19才男子であった.
    この疾患の初期症状はしばしば耳症状や鼻症状, 脳神経障害および頸部リンパ節腫脹として現われ, 8例のみ原病巣に初期徴侯が発現した. 転移は70.7%に出現し, 頸部リンパ節に最も多く来たした.
    主として照射療法が適用されたが, 数例において外科的に腫瘍の摘出, 頸部廓清術が行なわれ且つ術後照射が併用された.
    5年生存率は22%であった.
    41例は組織学的に23例の扁平上皮癌と18例の悪性リンパ腫に分類された.
    23例の扁平上皮癌は4例の分化扁平上皮癌と19例の未分化扁平上皮癌 (移行上皮癌9例, リンパ上皮腫10例……Régaud型8例とSchmincke型2例) に分けられた. 未分化扁平上皮癌は分化度の低い細胞からなり, 大きな卵形の胞状の核を有し, 内部に1または2個の凹凸のある好酸性の核小体を包含していた. 移行上皮癌とリンパ上皮腫との区別はリンパ球浸潤の有無に頼った.
    18例の悪性リンパ腫の中では, 12例の細網肉腫と1例のリンパ肉腫が組織学的に確診された. 細網肉腫の特徴は明るい胞状の核を有する多形で大形の腫瘍細胞と合胞状の細胞質および腫瘍細胞に密接に付着している繊細な好銀線維の網絡であった. 他方, リンパ肉腫の特徴は微細な顆粒状の核を有する均等な小形の腫瘍細胞と乏しい細胞質および腫瘍細胞との関係を有しない太い好銀線維, 腫瘍細胞の濾胞様集落および腫瘍細胞間に散在する多数の肥胖細胞であった. 残りの5例はその組織学的特性からは厳密に分類出来なかった.
    剖検は8例 (分化扁平上皮癌1例, 移行上皮癌2例, リンパ上皮腫2例および細網肉腫3例) に行なわれた. 剖検例全例に腫瘍の頭蓋内侵襲が認められ, 1例を除けば, 頸部リンパ節, 肝臓その他の臓器にしばしば転移が認められた. 3例においては原発腫瘍は移行上皮癌またはリンパ上皮腫と診断されたが, その転移巣では原発巣の組織学的特徴と比較して組織学的に多少移行像を示した.
  • 川神 英雄
    1969 年 72 巻 10 号 p. 1997-2009
    発行日: 1969/10/20
    公開日: 2010/10/22
    ジャーナル フリー
    この論文は, 上顎洞手術後の創腔ならびに鼻腔の気流の流路を屍体模型標本を使用して肉眼的に観察し, その気流の流出入機序を静圧を測定することによって解明したものである.
    鼻腔気流では, 殆んど正常鼻腔気流と同様であるが, 対孔部に一致して渦流を生ずるのが相異している. その渦流は吸気, 呼気時ともに下鼻道に生ずる.
    鼻腔および再生上顎洞に流れる気流は, 下鼻道の対孔および中鼻道の自然口部に作られた開放窓を通じて流れるのであるが, これは呼吸に際して鼻腔側および上顎洞側に気流による圧差を生ずることによって生ずるもので, そのことは静圧測定により立証することができる. すなわち気流は吸気時に自然口部は0.5mm H2Oの圧差で洞内に流入し, 対孔部は0.2mm H2Oの圧差で流入する. 呼気時に自然口部および対孔部の圧差は0.2mm H2Oの圧差で対孔より流入すると同時に自然口より流出する.
    自然口3×5mm, 対孔7×11mmの屍体模型標本の場合は, 吸気時自然口から洞内に流入し, 呼気時対孔より流入すると同時に自然口より流出する. 自然口, 対孔がこれより小さくなると気流の流路はほとんど同じであるが気流量が減少する.
    極端に自然口が小さくなり1×1mm, 対孔が10×10mmの場合には, 吸気時には対孔より流出し自然口よりの流出入は認められない. 呼気時にも対孔より流入し, 自然口部よりの流出入は認められない.
    逆に自然口部は開存されておって, 対孔が閉塞せる場合には, 吸気時, 呼気時ともに洞内に少量流入するのみで, 大部分は口周辺で回転する流れとなる. 煙の一部は洞内に停滞する.
    自然口6×6mm, 対孔6×6mm開存せる場合には, 吸気時に自然口より流入し, 対孔よりの流出入はない. 呼気時には対孔より流入し, 同時に自然口より流出する.
    以上の如き実験結果から, 手術的に開放された上顎洞と鼻腔との交通の間には呼吸に際して, いろいろな気流の流路が物理的法則に従って生ずることを立証した. 術創の治癒機転として, 如何なる術創の形態, 気流の流路が理想的であるかは速断できないが, 病態生理学的に考察を加えた.
  • 1969 年 72 巻 10 号 p. 2010-2026
    発行日: 1969/10/20
    公開日: 2010/12/22
    ジャーナル フリー
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