嗅覚障害症例1952例において,本邦の基準嗅覚検査で使用されている5種類の基準臭(β-phenyl ethyl alcohol, methyl cyclopentenolone, iso-valeric acid, γ-undecalactone, scatol)に対する嗅覚の差異について検討した.
対象症例における嗅覚障害の原因別例数は,慢性副鼻腔炎が887例,鼻アレルギーが255例,感冒罹患後が326例,頭部外傷後が77例,薬剤性が28例,先天性が39例,原因不明が257例,その他が83例であった.
治療前の基準嗅力検査の結果で1種類のみの嗅素が測定できた例は,検知閾値で82例あり,認知閾値で157例あった.iso-valeric acidのみが測定できた例が検知閾値で40例,認知閾値で101例あり,検知閾値および認知閾値ともに他の嗅素が測定できた例よりも有意に多く認めた(P<0.01).これらの症例の嗅覚障害の原因別頻度には特定の傾向はなかった.
基準嗅力検査で5種類の基準臭に対する嗅覚閾値がすべてスケール•アウトであった症例は,検知閾値がスケール•アウトであった症例が552例で,認知閾値がスケール•アウトであった症例は630例であった.これらの症例において治療後の経過で1種類の嗅素のみ嗅覚閾値が改善した症例は,検知閾値改善例が33例であり,認知閾値改善例が32例であった.iso-valeric acidのみが改善した例は検知闘値で15例,認知閾値で13例であり,検知閾値および認知閾値ともに他の嗅素が改善した例よりも有意に多く認めた(p<0.0l).これらの症例の嗅覚障害の原因別頻度には特定の傾向がなかった.
iso-valeric acidに対する嗅覚は比較的障害されにくく,また治療によって回復しやすい嗅覚であることが示された.嗅覚障害症例におけるこのような嗅素に対する嗅覚の差異は,嗅素に対する嗅細胞のニオイ受容蛋白の数がニオイ分子の種類によって違いがあることなどが関係していることが考えられる.
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